世界観ちょっと解説回です。
「……はい、お疲れ様~。協力ありがとうね~」
「ありがとうございましたっ!!」
「声が大きい~」
すべての検査を終え、照也はようやく自由を取り戻した。
制服を返され、検診衣から着替える。
「ふぅ~。しっかし、毎度のこととはいえ、円姉ぇはちょっっっと大げさすぎるよなぁ」
突然の精密検査。
それを推したのは、ほかならぬ円であった。
それは、照也が緋色の戦士――ダイデンダーとなりソウルイーターを討伐したあと。
「弟くん! お姉ちゃんたちに付いてきて! お願い!」
元の姿に戻った照也にかぶりつく勢いで抱き着いた円が、照也を胸にうずめながら、強引に事を進めたのだ。
あれよあれよと連れ出され、さらに気づけば目隠しされてストレッチャーに寝かされて、まるで重症患者のような扱いで、色々な検査を受けさせられる事態となった。
検査結果は数日後には出るそうだが、治っていた足の骨折も含め特に不調を感じていなかった照也からしてみると、なんともむず痒い時間を過ごすことになったのである。
検査員が全員女性だったのも、それに拍車をかけていた。
(お尻の穴まで見られた……!)
思い出し羞恥に顔を赤らめながら診察室を出たところで。
「お
「! 絵瑠っ!」
揺れるピンクのツインテール。
照也の義妹、絵瑠の笑顔が彼を出迎えた。
※ ※ ※
「えへへ、お義兄ちゃんのお迎えさんだよっ」
「そうか。ありがとう!」
近づいてきた義妹の頭をよしよしと撫でて、照也はそこではたと思い出す。
彼の視線は自分の腕に……右手首に巻いたブレスレットへと向けられ。
自然、撫でていた手を離し、照也は絵瑠に向かって深く頭を下げていた。
「すまない、絵瑠! せっかくもらったネックレス、こんなにしてしまって……!」
謎の敵、ソウルイーターとの交戦。
その際に巻き起こった奇跡は、代償として照也の大切な貰い物を変質させた。
円にもらった鋼の
それらが融合して一つのブレスレットになってしまったのである。
検査の際に腕から取り外せこそしたが、混じり合ったカフェオレのように一体化したそれは、元の二つに分離させること叶わなかった。
「顔を上げて、お義兄ちゃん。大丈夫、気にしなくていいよ」
「いや、お前が特別な宝石だって言ってたのに」
「いーいーの! ワタシがお義兄ちゃんにあげたくてあげたものだから。それに……」
中々顔を上げない照也に絵瑠はそっと手を伸ばし、右手とブレスレットに指を這わせる。
彼女の向ける視線はどこまでも優しく、指先は暖かに。
「あの石がこうなったから、ワタシたちもお義兄ちゃんも助かったんだよ? 感謝しこそすれ、怒ったりなんか絶対にしないよ」
「それは……」
「ありがとう。お義兄ちゃん。また、ワタシのこと守ってくれて」
そっと両手で包み込むように、絵瑠が照也の手を握る。
ようやく顔を上げた照也の目と、宝石のように綺麗な青い瞳の視線が重なった。
「……今度こそワタシが、お義兄ちゃんを守る番になるはずだったんだけどね?」
パチッ。
愛らしいウィンクとともにペロッと出された舌を見て、照也の口元も自然と笑みが浮かび。
「まだまだ、絵瑠を守るのはお義兄ちゃんである俺の役目だ!!」
「声が大きいよ、お義兄ちゃんっ。もぅ、えへへ……」
ほとんど反射のように返した照也の大声を受け止めて、はにかんだ絵瑠のツインテールがさらさらと揺れた。
「見て。あれこそまさに兄妹愛」
「いいですねぇ」
場所を変えても、物が形を変えても。
彼らは変わらず、仲良し兄妹のままだった。
「……で、だ。絵瑠」
「なぁに、お義兄ちゃん?」
「ここ、どこなんだ?」
「あ」
それでも説明は、必要だった。
※ ※ ※
『ここがどういうところかって話は、実際に見た方が早いと思うよ』
そう勿体つけられた照也は、絵瑠と二人で廊下を進む。
(清潔でシンプルな造りの廊下だが、改めて見ると、何かの研究所っぽさがあるな)
彼は最初、自分がどこかの大病院に運ばれたんだと思っていたが、絵瑠の態度を見るにそうではないらしい。
シュインッ。
歩き出してしばらく、濃い擦りガラスで出来た自動ドアを越えて、大きな通りへと入る。
「え?」
その瞬間。
照也の目に信じられない光景が映った。
大型ショッピングモールを思わせる、2階層吹き抜けのそこを行き交うのは。
「はーい、どいてどいてー。重い荷物運んでるよー」
「こらー! 誰だそこで飛び跳ねてる奴! ぶつかったら危ないぞ!」
「呼び出されたのどこだっけ?」
「ウエストエリアの第4会議室!」
「もきゅもきゅもきゅ」
「ぷるるんっ♪」
「諸君、ここでは地球の言葉を話したまえ」
あっちこっちと空を飛ぶ、ホウキに乗ったり道具を手にした、ローブ姿にツバ広帽子を被った女性たち。
そして、同じように空を飛んだり、それらをまったく意に介さずに過ごす、パリッとした制服を着た女性たち。
さらには、飛んだり跳ねたりお話ししている種々折々の謎生物たちという、奇妙奇天烈摩訶不思議な存在たちだった。
「え、え、え?」
「お義兄ちゃん、サプラ~イズッ!」
「サプ、え?」
「あはは! お義兄ちゃん今、すっごく面白い顔してるよ?」
あまりの衝撃に開いた口が塞がらない照也と、それを面白がって笑う絵瑠。
「あの女の人たちは、お義兄ちゃんが過ごしてきた地球とは別の世界……
絵瑠の口から語られる話は、それこそ物語の設定でしか聞かない内容で。
「いや、だって。これは……」
「ファンタジー映画みたいでしょ? でもね、お義兄ちゃん。これは本当の現実です」
「現実……」
なおも信じられない、なんて顔をしている照也に。
「そう! この世界の多くの人が、知らないままでいる事実!」
絵瑠は少しだけ先を行き、振り向きざまに手を差し伸べながら、告げる。
桃色のツインテールを揺らし、青い瞳を輝かせ、熱を帯びた満面の笑顔で、とっておきの秘密を教えるかのように。
「……おとぎ話みたいに不思議な魔法の世界って、本当にあるんだよ、お義兄ちゃんっ!」
その瞬間。
通りを行く誰かが悪戯に放った魔法の花火が、ポポンッと咲いた。
火薬の代わりに、甘くサッパリとした花の香りが広がっていた。
※ ※ ※
「なるほど。ここが、俺の知る常識が通じない場所だってのはよくわかった」
「うん」
大通りを人の流れに乗って歩きつつ、照也は頭の中に次々浮かぶ疑問を厳選しながら絵瑠へと問いかける。
まず第一に聞くべき事。それは。
「絵瑠は……いや、絵瑠も、円姉ぇも魔女……こっち側の人間だったって、ことだよな?」
最も身近な人たちの、その正体についてだった。
「公園で会った円姉ぇは、今そこら辺にいる魔女っぽい人と似たローブを着てたし、絵瑠は……なんか、ほぼ別人みたいな姿になってたよな?」
「うん……」
ほんの数時間前に見た、絵瑠の姿。
(あの時の絵瑠は、煌びやかな白いドレスを身にまとい、髪もいつものツインテールからツーサイドアップに、色に至ってはピンク色からゴールデンな感じになってた。まさしくアニメで見るような、魔法少女そのものって格好だったな)
顔を見るまで同一人物だと思えなかったほどの変身ぶりは、記憶に新しい。
それと、気になることが、もう一つ。
「絵瑠。確かあの時、自分の名前をエルリーゼって」
「お義兄ちゃん」
「うん?」
続けて問いかけようとした照也に先回りして、絵瑠が彼の唇に人差し指を押しつける。
彼女は悪戯っぽい笑みを浮かべて照也を見つめながら、照也を離れ数歩、後ろに下がる。
そこには、メタリックなデザインの、高さ3,4mはある大きな扉が鎮座していた。
「お義兄ちゃんの知りたいこと、色々あると思う。だからそれは、これからみんなで説明するね」
「みんな?」
「うん、みんな!」
シュウォンッ!
瞬間。
大きな扉がすべらかにスライドし、口を開く。
「行こう、お義兄ちゃん!」
再び絵瑠に手を掴まれて、引っ張られるように扉をくぐれば――。
「……えっ!?」
――そこに、照也の想像をさらに越えた出会いが、待っているのだった。
義妹ちゃんは良い子。
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