魔法勇者ダイデンダー ーDDDー   作:夏目八尋

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第11話 Aパート② ーようこそ、DDDへ!ー

 

 巨大なスライドドアを抜けた、その先。

 絵瑠に導かれて照也が入ったその部屋は、この施設の中枢のような場所だった。

 

DDD(ディーディーディー)たまな市支部、オペレーションルームへようこそじゃ。よう来たのぅ、照坊(でるぼう)

 

 ファンタジーとSFが同居する、神秘的なデザインのその空間。

 照也たちの来訪を待ち構えるように、部屋の中央に人が集まっていた。

 

 全員、女性。

 

 今しがた声をかけた人物は、その人だかりの中心に立っている、杖をつき、ひときわ豪奢なフード付きのローブをまとう鷲鼻(わしばな)の老婆である。

 照也は、そのいかにも魔女然とした老婆に、とても……とても見覚えがあった。

 

 

「ご苦労じゃったな、絵瑠。そして円ぁっ! しれっと照坊の方へ行こうとするでないっ!」

 

 合流する絵瑠を迎えつつ、逆に照也へと駆け寄ろうとした円の首根っこを掴んで引き戻す姿はまさしく女傑。

 周りに居並ぶ女性陣からも、強い信頼を向けられているその人物へ。

 

 照也が向ける視線は驚きと、困惑。そして……興奮。

 

 

(くるる)ばあちゃん!?!?!?」

「声がでっかい!」

「いやだって! (くるる)ばあちゃんがここにいるってことは、(くるる)ばあちゃんは……!!」

 

 瞳をキラキラと輝かせる照也に、(くるる)と呼ばれた老婆の口角が上がる。

 

「ヒェーッヒェッヒェッヒェッ! そうじゃよ、照坊。絵瑠から話を聞いておるじゃろう。ここはお主の住んでおる地球とは違う世界、魔法界に縁を持つ者たち……魔女が集まる場所。即ち、ワシもまた、その魔女ということじゃ」

「やっぱり! 昔から白雪姫に毒リンゴ食わせてそうな顔だって思ってたんだ!!」

「ヒェーッヒェッヒェッヒェッ! たわけぇ! ワシなら王子の付け入る余地なく確殺じゃ!」

 

 言い切ると同時、杖の石突で床をカツンと打ち鳴らし。

 

 

「整列!」

「「「ディサイド!!」」」

 

 

 鶴の一声。

 号令が飛べば後ろのローブ、制服の女性たちはもちろん、絵瑠と円も指示に従い彼女の背後に整列する。

 その動きは軍隊のように整然と、照也の背筋も自然と正し。

 

 カンカンッ!

 

 再び打ち鳴らされる杖の音は、不思議と周囲の空気も厳かに清めていった。

 

 

「改めて。よくぞ来た、照坊! いいや、大殿照也(だいでんでるや)少年!」

 

 床に突き立てた杖の頭に両の手を重ねた姿勢で真っ直ぐに立ち、老年とは思えないほどにハッキリとした声が照也を呼ぶ。

 

「ワシこそがここ、魔法協会(まほうきょうかい)DDD(ディーディーディー)たまな市支部を預かる支部長にして精緻(せいち)の魔女……樫木枢(かしぎくるる)じゃ!」

 

 名乗りを上げた彼女の後ろで、居並ぶ女性たちが一斉に、自らの右胸に左手のひらを当てた礼を取る。

 

 

「我々DDDたまな市支部は、貴殿と新たに生まれた縁を歓迎する! ようこそ、DDDへ!」

「「「ディサイド!!」」」

 

 

 続く言葉と応える声は。

 

「!!」

 

 照也の胸に、感動という名の熱さを打ち付けた。

 

 

(すごい……!)

 

 それは、好意的な想いが届けられたから……だけではない。

 いかにも男のロマンな秘密結社っぽさに感動したから……でもない。

 

(まさか、(くるる)ばあちゃんがこんな組織を指揮するすごい人だったなんて……!)

 

 大殿照也(だいでんでるや)にとって、樫木枢(かしぎくるる)とは――。

 

「やっぱり、(くるる)ばあちゃんは……すごい!!」

「ヒェーッヒェッヒェッヒェッ!」

 

 ――人生の師匠とも呼ぶべき、敬愛する人物だったからである。

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 照也の両親は、彼が幼い頃からしょっちゅう家を留守にしていた。

 そんな彼の世話を焼いていたのが、自称姉の樫木円を筆頭にした、樫木家だった。

 

 中でも樫木家の邸宅と繋がった店舗“樫木雑貨店”に照也は入り浸り、店の主である枢とは、円に次いで仲良くさせてもらっていたのである。

 照也が彼女から学んだことは多く、もはや、育ての親と言ってもいいほどの存在だった。

 

 

「俺、枢ばあちゃんは気分で店を開けたり閉めたりしてんだって思ってたけど、あれってこっちで仕事するためだったんだな」

「おかげでお姉ちゃんと弟くんの二人で、お店の中で好き勝手遊んでたんだよねぇ」

「勝手、のぅ? 店の商品を分解したり改造したり、碌なことをしておらんじゃったな?」

「えへへぇ」

「褒めとらんわバカ孫め」

 

 照也にまとわりついている円のほっぺを杖でぐいぐい押しながら、枢はため息をつく。

 続けて彼女が目を向けるのは、そのすぐそばで申し訳なさそうにしている絵瑠だった。

 

 

「ほぅれ、心配しておった結果とは違ったじゃろ? 照坊は……お主の兄は一寸も気にしておらんよ」

「う……」

「ん? 絵瑠。何か気にすることがあったのか?」

 

 水を向けられ照也が絵瑠に問いかけると、連れ込むまでの明るかった姿が鳴りを潜めた彼女の口から、おずおずと答えが零れだす。

 

「その……今日までお義兄ちゃんのこと、騙してたから」

「騙す?」

「だって、えっと、魔法のこととか、ワタシの……その、正体とか」

「……ああ!!」

 

 正体、と言われて照也は思い出す。

 衝撃的な展開の連続で、すっかり意識の外にほっぽり出してしまっていた、大切な話。

 

 

「エルリーゼ」

「……うん」

「それが、絵瑠の本当の名前、なのか?」

「……うん」

「……そうか」

 

 沈んだ顔で繰り返し頷く絵瑠の頭を、そっと、照也は優しく撫でた。

 

「ここに来てからなんとなく、そんな気はしてたんだ。絵瑠はきっと、絵瑠じゃないんだってな」

「!」

 

 伝えた言葉に、撫でられている絵瑠の体がビクリと震えた。

 照也の手は、変わらずに彼女の頭を優しく撫で続けている。

 

 

「まぁでも、だから何だって話なんだよな」

「え……?」

「だって絵瑠は、元々俺と血の繋がりがない義妹なんだから」

 

 顔を上げた絵瑠の目線の先に、笑顔の照也がいた。

 

 

「血の繋がりがなくたって、俺と絵瑠は兄妹になれたんだ。だったら、いまさら絵瑠が何者だって言われても、俺にとっては変わらずに、大事な大事な義妹(いもうと)の絵瑠のままだよなって」

「お義兄ちゃん……!」

 

 絵瑠の青い瞳が、ジワリと滲む。

 会話の行く末を見守っていた枢とスタッフたちも、その瞳に優しさが宿る。

 

 それは、未だに照也を後ろから抱きしめている、円にしても同じで。

 

 

「そうだよ! わたしと弟くんに血の繋がりがなくたって、お姉ちゃんと弟くんでいられるように! 絵瑠ちゃんだって、魔法界にある()()()()()()()()エルリーゼ・キラキラ・ジュエルネーヴァだろうと関係ないの!!」

 

 それは円の心からの想いを載せて告げた、慈しみの言葉だったが。

 

「えっ。絵瑠って、お姫様……なのか?」

「あ、う、その……うん」

 

 パイルバンカーのように鋭く撃ち込まれたパワーワードが、すべての空気を粉砕した。

 

 結果。

 

 

「う、お、わぁぁぁぁぁ!! お姫様に対してなんて失礼なことをぉぉぉぉ!!!!」

「あああああああ! 気にしなくていいんだよお義兄ちゃーーーーーーーん!!!!」

 

 ワタワタし始めた義兄妹と。

 

「あれぇ? わたし、何か変なこと言っちゃった?」

 

 そこに巻きこまれても平然としている偽姉(げんきょう)という、カオスな状況が生まれてしまった。

 

 

「我が孫ながら……天然過ぎじゃろ」

 

 呆れて頭を抱える枢のそばで、スタッフたちも深く頷き同意する。

 

「そろそろワシらについて詳しい説明をしたかったんじゃが、もうちっと掛かりそうじゃなぁ」

 

 やれやれとした目を向ける枢の茶色の瞳には。

 

 

「いやいやいや、さすがにお姫様相手には礼節をだな!?」

「やーだーーーー!! お義兄ちゃんはお義兄ちゃんじゃなきゃやだーーー!!」

「そうだよ弟くん! 絵瑠ちゃんは絵瑠ちゃんなんだから、望む通りにしてあげよう!」

「「円(さん)姉ぇは黙ってて!!」」

「ええぇーーー!?!?」

 

 これまでに幾度も見守ってきた日常の景色が、変わらず繰り広げられているのだった。




義妹で姫。偽姉で魔女。転校生で魔法戦士。

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