秘密結社とか、好き。
“
正式名称、
すなわち、日常を守る賢者の会。
それは、長きに渡り魔女たちによって運営される、影の治安維持団体である。
地球と魔法界が
魔女たちは、地球の歴史の表に裏に深く、密やかに関わり、繋がり、交じり合ってきた。
時に森の薬師や知恵者として、町のお役立ちする雑貨屋として。
時にアイドル、時に探偵、巫女さん、メイド、お菓子屋、OL、ガソリンスタンドのお姉さん。
有名どころで語るなら、苦難の人生に救いや逆転のチャンスをもたらす
日常の至るところからそっと、人々にとってより良い日々であれるよう、守り続ける。
魔女たちはいつしかその活動を組織化し、より幅広く、より適切に実行し始める。
それこそが、DDDの始まり。
平和な日常を裏でこっそりと見守る、優しき魔女たちの物語の幕開けだった。
※ ※ ※
「……つまりっ! DDDは地球の平和のために存在する、シークレットでスペシャルな秘密特別組織ってことなんだよ、弟くん!」
「おおよそそれでいいけど雑な上にだいーぶ言葉が被ってるよ? 円さん」
絵瑠とのお姫様扱い談義も落ち着いて。
改めて、DDDという組織についての解説を受けた照也。
「要するに、DDDってのはすっごい秘密結社ってことだな!」
「完っ璧な理解だよ、弟くんっ!」
「だから合ってるけど! お義兄ちゃんも円さんも大雑把が過ぎるよっ!」
「ヒェーッヒェッヒェッヒェッ! 構わんさ。最初の理解なんてそんなもんじゃろ」
「
隙あらばわちゃわちゃし始めようとする三人に、枢が慣れた様子で割って入る。
場の主導権をあっさり奪うと、彼女は杖を突きつつ口を開いた。
「DDDは地球に生きる人々を愛する魔女たちの組織。平和な日常を守るための組織じゃ。魔女たちは誰しもが……人間が、地球人が好きでの。特に、彼の者たちと紡ぐ日常を心から愛しておる。それゆえ、日常を守りたいと誰もが願い、力を尽くすのじゃ」
そう語る枢の声は慈愛に満ちていて、周囲のスタッフたちもまた、静かに頷き同意する。
そんな魔女たちから照也へと向けられる視線には、今日まで平和を守り続けた、自負と誇りが込められていた。
「……じゃがな、照坊」
雰囲気が変わる。
ゆっくりとした足取りで照也の前に立った枢は、杖の頭をそっと彼の胸へと押し当てる。
そして見上げる茶色の瞳に、深い知性をのぞかせて。
「その日常を守るためには、一人一人の力は小さすぎる。であればどうせねばならぬか……ワシの言いたいこと、お主にわかるか?」
問いかける。
押し当てた杖の先は、照也の心を問いただしているようで。
それを照也は強く自覚しながら、だからこそ、一切の迷いなく口を開いた。
「平和な日常は、みんなが支え合い、守ることで成立する。だろ?」
「!」
それは照也の座右の銘。
誰あろう、目の前の樫木枢本人が、いつかの彼に授けた言葉。
「ここは、枢ばあちゃんが教えてくれたこの言葉を体現する場所。ここは、DDDは……そのために存在する組織だってワケだな!」
「ヒェーヒェッヒェッヒェッ! 上出来じゃ、照坊!」
思わずといった様子で手が出た枢に頭をわしゃわしゃ撫でられながら。
(そっか、ここなら……ここでなら、俺も……!)
照也の胸に、強い期待が湧いてくる。
(今の俺には力がある、円姉ぇや絵瑠、黒羽と並び立てる、ダイデンダーの力が! だったら……!)
湧き上がる気持ちの赴くままに、再び照也が口を開こうとした……その時だ。
シュウォンッ!
「あら、組織説明は終わってしまいましたの?」
「………」
スライドドアが開き、新たに二人の少女がオペレーションルームへとやってくる。
「おっ、黒羽ーーっ!!」
「……聞こえているわ。大殿照也」
片や、学園の制服を着た黒羽哀。
「あら、ワタクシにはご挨拶ありませんの? 照也さん?」
「えっ!?」
片や、DDDの制服を着た……これまた照也の知った顔。
「まさか……天常先輩!?」
「おーっほっほっほ! いかにもですわ!」
凛と立ち、腰と口元に手を当て高らかに笑う、金髪縦ロールのお嬢様。
「ワタクシこそが
彼女こそ、生徒会室を私物化する円に常日頃から苦言を呈する、意外と常識人な円の無二の親友……天常樺奈羅その人であった。
※ ※ ※
「ってことで、持ってきましたわよ。支部長」
現れた樺奈羅は、ツカツカと照也たちの元へと歩み寄ると、手に持っていた資料を枢に渡す。
「照也さんの簡易的な検査結果と、新型のソウルイーターの資料ですわ」
「!」
知人の登場に驚く暇もなく、照也の意識は渡された資料へと向く。
どちらも聞き捨てならない情報だった。
「何かわかったんですか、天常先輩?」
「あら、ワタクシがここにいること自体には、なんの疑問も思わないのですわね?」
「いやそれもすっげぇ気になりますけど!」
「おーっほっほっほ! 自分事優先で結構ですわよ! ……正直に言いますが、貴方の変身については“さっぱりわからなかった”というのが答えでしてよ」
照也と樺奈羅がやり取りする間に、資料を受け取った枢は、左右から覗きこむ円と絵瑠と一緒に、その中身を確かめる。
「ふぅむ……
「じゃあタイプ的には
「そもそもお義兄ちゃんの
専門的な言葉も飛び交う会話に、ちらと横目でそれを見た照也は参加を諦め、改めて樺奈羅へと向き合う。
「天常先輩も、魔女なんですか?」
「違いますわよ」
照也の問いかけに、樺奈羅は腕を組み、豊満な胸をその上に載せながら首を左右に振った。
「ワタクシに魔法の才はありませんでしたわ。ですが、円さんとのご縁でここを知り、そこから天常家とのパイプ役を兼ねつつ、個人的な協力者として活動しておりますの」
「へぇー」
天常家は、日ノ本のインフラに深く関わる大財閥。
多くの優秀な人材を教育・輩出する佐々家、古くから多数の神事に関わる建岩家と並んで御三家と呼ばれる超がつくほどのお金持ちの家である。
「この基地の建設に関しても、いっちょ噛みしておりますわ! おーっほっほっほ!」
その“いっちょ噛み”が最低でも数十億の金を動かしていることを、照也は知っている。
たまな市が、たまな学園高校が、彼女の手によって様々に盛り立てられていることは、この町に住む人なら常識レベルで周知されていた。
若き女傑。
照也にとって、円と並び尊敬する人物だった。
「だからこそ、最近の悩みの種ですのよ。アレは……」
樺奈羅の顔に、嫌悪が滲む。
それを察して、ここまで沈黙を保っていた黒髪の少女――黒羽哀は頷くと、静かに……忌々し気にその名を口にする。
「……ソウルイーター。人々から
「ワタクシたちの日常を根っこからぶち壊そうとする、日常の破壊者、天敵ですわ」
ソウルイーター。
日常の破壊者。
その名を聞いた時、照也の胸は強くざわめく。
(あいつから力を奪われた時、心の底から立ち上がる気力さえ奪われていくのが……怖かった)
心が削られ、摩耗して。
体はそこにあるのに中身がごっそりなくなってしまったかのような無気力感。
(あんなのはもう二度と経験したくないし……他の誰にも味わわせたくない)
ソウルイーターが暴れれば暴れるほどに、あれを体験する人が増えていくというのなら。
(俺が……この手で守りたい!)
照也の右手は、自然と握りこぶしを作っていた。
その腕に巻いたブレスレットの宝石の奥、照也の意志に応えるように、光が微かに揺らめいた。
――その、直後。
ビーッ! ビーッ! ビーッ!
オペレーションルームを、赤い光と警報の音が切り裂いた。
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