対決!
放課後。
校舎裏の一角に、照也、哀、円と。
「それじゃ、人払いの結界を張るよ?」
連絡を受けて合流した、絵瑠の姿があった。
「ロイヤルジュエル! ハイドオニキス!」
中学校の制服を着た絵瑠が
直後。
ちょうどこちらへ向かって歩いていた女生徒が、無意識に向きを変え、遠ざかっていった。
「……うんっ! これで大丈夫だよ。お義兄ちゃん」
「ありがとうっ! 絵瑠っ!!」
「えへへっ。もぅ、声が大きいってばぁ」
爆音で感謝を伝え、照也がよしよしわしゃわしゃと、絵瑠の桃色ツインテがふわふわ揺れるくらいに撫でまわす。
いつもなら学校中に轟く彼の声は、光のカーテンに遮られ、見事に消音されていた。
「ご協力感謝します。姫様」
「どういたしまして、哀さん。でも、敬語はいらないよ?」
恭しく礼をする哀に、義兄の可愛がりから逃れた絵瑠は柔らかに微笑み向き合う。
「あと、二人とも大怪我するような真似だけはしないでね?」
その微笑みはすぐさまむんっと真剣な表情へと変わり、哀と照也とを見回した。
「各種計測器の準備出来たよ、哀ちゃん。弟くんっ! 派手にやっちゃっていいからね!」
持ち込んだ
「……状況は整ったようね。大殿照也?」
「だな」
哀と照也は頷き合い、西部劇の決闘のように距離を取って向き合った。
否。
実際にこれは、決闘である。
「黒羽。俺が勝ったら歓迎会に出席する……で、いいんだな?」
「ええ。あなたが私に勝てたなら、歓迎会でもピクニックでも付き合うわ」
哀が提案した、折衷案。
それは照也との、互いの持ちうる力を最大限に使っての、真剣勝負による決着。
「勝っても負けても俺のデータは取れるし、わかりやすく結果も出る。黒羽は賢いな!」
「あら、私に勝つつもりでいるの? 年期の違いって知ってる?」
「言ったな!?」
戦う前から言葉の応酬。
二人のボルテージは際限なく高まっていく。
「……意外、かも。哀さん、あんな風にお義兄ちゃんを煽るなんて」
「うんうん。わたしたちはまだ、哀ちゃんのこと、全然知らないからね」
二人の魔法少女がそれを見守る中、遂にその時は来た。
「それじゃあお互い、構えて!」
「「!」」
円の合図に、照也と哀が身構える。
「行くぞ! ブレイブ・オン!」
「ナーサリー・ライム……起動っ」
デンダーブレスが。
黒鳥の
呼びかけに応えて輝きを放つ!
「
「ブラックスワン。変身シークエンス、完了……!」
そして現れた、緋色の戦士と黒銀の戦士が。
「行くぞ! 黒羽っ!!」
「かかってきなさい……!」
戦いの開始と共に、真っ正面から激突した!
※ ※ ※
「うおおおおっ」
「遅いっ!」
最初の一撃を放ったのは、哀だ。
飛び掛かる照也の間合いへ自らも飛び込むと同時、大鎌の石突部分を槍のように突き出して先手を取る。
「なっ?!」
単純に大振りの一撃が来ると考えていた照也は虚を突かれ、とっさに篭手で受け止めるも。
「はぁぁぁっ!」
「うおおっ!?」
予想を超える力で押され、構えていた両手を浮かせてしまった。
「そこぉっ!」
間髪入れずに撃ち込まれるのは哀の左足。
右足で地を蹴り、持ち上げた左足を真っ直ぐ突き出すヤクザキックが、照也のお腹へブーツの踵をクリーンヒット。
「ごっ」
「まだまだっ!」
突き出した大鎌を引き、手首でくるっと回転させる。
即座に手放し半月を描くように背面で回せば、反対の手で柄を握ると同時に、横から薙ぎ払う刃の追撃!
ガギッ!
照也のまとう緋色の鎧と刃がぶつかり、断ち切れないと悟るや否や、遠心力で振るうまま、照也を遠くへ吹き飛ばす!!
「ぐぁぁっ!!」
「弟くんっ!」
「お義兄ちゃん!!」
まさしく圧倒。
何一つ返せずに地を転がされる照也に、円と絵瑠が驚愕する。
「……恐ろしいほどの防御力ね」
一方。
終始優勢を取った哀は哀で、照也の持つ力のポテンシャルに感心していた。
「私たちと同じ守りの魔法が発動している。けれど、どこか異質な……
冷静に分析しながらも、視線は照也から逸らさない。
「く、うぅぅ……!」
吹き飛ばされた照也もまた、戦う意思を失わない。
立ち上がり、すぐさまファイティングポーズを取ってみせ、動き出す。
「魂に、従う……!」
闘志を燃やせば、それだけ照也の力が増す。
彼の中の未知が、解き放たれる!
「マジカル……ナックル!!」
握った右手が光を放つ!
ボゥッ!
篭手の後部からプラーナを、ジェットのように噴射して。
「だぁぁぁぁ!!」
「っ!」
文字通り、弾丸となって哀へと肉薄!
一瞬で距離を詰めれば勢いのままにこぶしを放つ!
が。
「甘いっ!」
「なっ!?」
直線的な動きに合わせ、哀がぬるりと立ち位置をズラす。
ほんの僅かな足の運びで照也の一撃を回避すれば。
「…………ふんっ!」
「がっ!?!?」
大鎌を支えにして体を浮かせ、照也の無防備な背中へ再び強烈な蹴りを叩きこむ!
ズザザァァァァッ!!
蹴り飛ばされて、自らの勢いも殺せずに、照也が地面を滑っていく。
ヘッドスライディングもかくやの激しい動きは、照也の脳を揺さぶった。
「ぐ、ぉ……」
「そのまま寝ていたいなら寝ていなさい、大殿照也。力があっても、それを扱う技がないのだから、この結果は順当よ」
「……!」
哀の言葉に、揺れていた照也の意識が覚醒する。
(まだだ。まだまだ俺は……戦える! 戦え! 大殿照也!!)
胸の内から湧き上がる衝動に身を任せ、全身を駆け巡る力を奮い、立ち上がる。
まだ、戦える!
「…………どうだ! 黒羽!!」
嬉々として振り返った。
その時には、もう。
「ええ、驚くべき精神力だわ」
哀は次の一手を放ち終えていた。
「切り裂きなさい! ザークリッパー!!」
「ぐおああああああっっ!!」
放たれたいくつもの光輪が、照也の鎧を切り裂いていった。
※ ※ ※
「ああああ、お義兄ちゃんがっ! お義兄ちゃんが!!」
真剣勝負の傍らで、それを見守る絵瑠は気が気じゃない様子で小刻みに震えていた。
「お義兄ちゃん! 無理しないで! 大怪我しそうになったら、ちゃーんとブラックスワンに負けを認めて戦いを止めてー!!」
扱い慣れてない力に振り回され、戦いの巧者である魔法戦士に翻弄される。
二人のあいだにある圧倒的な実力差を理解している彼女は、とにかく義兄の無事を祈っていた。
その一方。
「………」
もう一人の見学者である円は、戦いと同時に、多数の計器へその意識を向けていた。
発生した魔力量、目視できる変化、目に見えない何か。
そのなに一つでも見逃してなるものかと、技術の魔女は己の全力を振り絞る。
「……頑張って、弟くん。お姉ちゃんは、信じてるから!」
それは全くもって根拠のない、自信。
愛する弟に対する、全幅の信頼。
「弟くんなら、未知の可能性でも何でも引きこんで、哀ちゃんに勝てるって信じてるから!」
圧倒的、無茶ぶりであった。
視点は再び、二人の戦場へ。
「ぐぉぉぉ……デンダー、マント!」
「ザークリッパーが反らされたっ!?」
照也が背中のハーフマントをひるがえすと、光輪がひらりと滑り弾かれる。
そうしてようやく光輪の猛攻から身を守った照也だったが、そこに至るまでに幾度も刃の餌食となって、緋色の鎧は随所に傷を負っていた。
「まだ、まだ……!」
だが、折れていない。
まだ、負けていない。
「黒羽ぇ……! 俺は、まだイケるぞ!」
どころかむしろ、彼の中にある未知の力はさらに膨れて、プレッシャーが増している。
「……そう。そこまで耐えられるなら、きっと、
「! ブラックスワン! それは!!」
ゆえに、黒羽哀という戦士は判断した。
「大殿照也。大技、行くわよ……!」
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