魔法勇者ダイデンダー ーDDDー   作:夏目八尋

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夜会話回


第22話 Bパート③ ーお互いを知るー

 

 夜。

 大殿家、2階のバルコニー。

 

 風呂上がりのホカホカした体を少し冷ますために出てきた照也は、そこで夜空を見上げる哀と遭遇した。

 

「黒羽?」

「ん? ……ああ、お風呂上がったのね」

「今は円姉ぇと絵瑠が二人で入ってる」

「本当に仲が良いわね。あなたたち」

 

 寝間着姿の照也に対し、哀は歓迎会の時と同じ私服姿。

 フレンチカジュアル風の、デニムジャケットにコットンパンツ。

 彼女のスタイルの良さを際立たせる組み合わせは、改めて照也の目を惹いた。

 

 円、絵瑠に続く……照也の出会った中で3人目となる超級の美少女。

 初めて見た時に感じた印象は、今も変わらず胸に刻まれている。

 

「……どうかした?」

「その私服、すごくセンスがいいなっ!」

「夜よ。声が大きい」

「もごごっ」

 

 指摘され、慌てて口を押さえる照也。

 そんな彼の様子を眺めつつ、哀はバルコニーの手すりにそっと手を添えた。

 

 

「この服は、お姉さまが似合うだろうって教えてくれた組み合わせなの」

「お姉さま……黒羽にとっての大切な人」

「そう。私にとって唯一の身内と呼べる人。幼い私に色んなことを教えてくれた、大切な人」

 

 哀の視線が夜空へと向けられる。

 地上の明かりが強いからか、遠くに見える星々の数はまばらで。

 

 大きく欠けた月が一人、暗い海を泳いでいる。

 

 

「……大殿照也」

「ん? なんだ、黒羽?」

「…………ふぅ」

 

 程よく気を抜いて、けれど、息を吐ききらない。

 そんな、ためらいを感じる一呼吸のあと。

 

「……あなたに、聞きたいことがあったの。話に、付き合ってもらえるかしら?」

 

 哀は、照也を夜の語らいへ誘(いざな)った。

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 月の下のバルコニー。

 二人で並び、隣り合う。

 

「聞きたいこと? 俺に答えられることならなんでもっ……答えるぞ」

「……ふふっ。抑えられるのね、それ」

 

 照也が再び口を押さえれば、哀はくすくすと肩を震わせて笑う。

 一息ついて、互いにクールダウンをしてから、話を続けた。

 

 

「大殿照也。あなた、平和な日常が好きって、普段から言っているわよね。それはやはり、周りの影響があったのかしら?」

「ああ、それは間違いないな。そもそも俺がそれを言い出したのは、枢ばあちゃんの言葉があったからだし」

「樫木支部長の言葉?」

「あれは、俺がまだ小学2年生くらいのとき……」

 

 哀が口にしたのは、単純な質疑だった。

 彼女自身が気になっていたことを、興味のままに問いかける形の応答。

 

「その、いつもやたら声が大きいのはどうして?」

「それは相手にちゃんと声を届けたいってのと、感謝の気持ちをハッキリと伝えたいから、だな」

「感謝?」

「嬉しいことをしてもらったり、助けてもらったりしたとき。自分がそこで感じた幸福をきちんと伝える。それを、伝え損なうのがなんか嫌なんだ」

 

 1ヵ月にも満たない交流の中。

 それでも目に入り、耳に届き、記憶に残ったこと。

 

 哀の中に蓄積されていた疑問を、ひとつずつ解き明かしていく。

 

 

「樫木円とは本当に血は繋がってないの?」

「繋がってない……はず。枢ばあちゃんも父さんも母さんも、円姉ぇの両親もみんなそう言ってるし」

「それでアレなの?」

「それが円姉ぇの円姉ぇたるところなんだ」

 

 近しい人との話や。

 

「クラスの日登(ひのぼり)さんっているでしょう? あの子の話してる言葉がたまにわからなくて……」

「日登さんか。俺にも声をかけてくれるが、俺もたまにわからない言葉があるな」

「布教とか、聖地巡礼とか、だいぶ熱心に信仰してるのでしょうね」

「わからないと言えば吉岡(よしおか)さんだな。短い言葉に物凄く意味が圧縮されていてすごい」

「ぽよとか、てゃとか、独特の言葉遣いの裏で、かなりの気遣いがされているわよね」

 

 クラスメイトとの話。

 

「それで、魂が叫ぶってどういうこと?」

「言葉通りの意味だな。魂がゴーッて言うから、俺もうおおおって感じで」

「それが、ダイデンダーの力の源?」

「俺の魂はそう言ってる」

「………」

 

 照也の力について聞いてみて、結局よくわからなくて頭を抱えたり。

 

 

「それじゃ、次の質問なのだけど……」

「ああ。それは……」

 

 聞いて、答えて。

 その繰り返し。

 

「あ。そういえば俺からも聞きたかったんだが……」

「なに? それは……」

 

 時には聞き手を替えて。

 互いについて少しずつ知っていく。

 

 

「それって……あぁ、さっき話してたのと繋がって?」

「そう! そこと繋がってて……」

 

 少し知ったことで。

 

「あれ? じゃああの時の黒羽って怒ってたんじゃなくて……」

「声を荒げてしまっていたのは謝罪する。けど、無茶をしていいわけじゃない」

「ぐっ、ごめんなさい」

 

 かつての行動に、新しい答えが導き出されていく。

 

 

「なるほど。黒羽は甘党なのか」

「コーヒーはブラックがいいなんて、正気?」

 

 春の夜のバルコニー。

 照也と哀、二人のあいだを、ゆっくりとした時間が流れる。

 

 夜だからと抑え気味でも、驚きや戸惑い、喜怒哀楽を隠さずに向け合って。

 

「いや、それは違うんだ。絵瑠は普通に仲良くしたいだけで」

「兄妹として生きてきたあなたならそうでしょうけど、私から見たらあの方はVIPもVIPなの。普通に話すのも畏れ多くて……」

「逆に遠慮しないで向き合った方が、絵瑠は喜ぶと思うんだがなぁ」

「簡単に言ってくれるわね……」

 

 気がつけば。

 互いのやり取りは前よりも少し、大雑把になっていた。

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 5分、10分……弾む対話は止まることなく続いた。

 

「ふぅん。あなた、別に聖人君主とか博愛主義とか、そういうのじゃないのね?」

「俺にだって好き嫌いくらいはあるし、気に入る気に入らないだってあるさ。それでも、ぶつかったとき、話し合いで済むならその方がマシだなって思ってるだけで」

 

 二人、横並びの語らいは。

 これまであった他人という距離感から、互いを前より心地よい位置へと変えて。

 

 互いの口を、軽くする。

 

 

「そう言う黒羽こそ、クールっぽく見えても、想像以上にお人好しだったな」

「それは……お姉さまの影響、かもしれないわね」

「あ……」

 

 そして。

 

「そう、お姉さま。私の大切な人。お姉さまは――」

 

 話題は、哀の最も大切な人についての語らいへと、移り変わった。

 




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