久瀬家の居候   作:セツナは幸せになるべきである

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お気に入り10人超えたので執筆活動続行案件




四話目

ある日の海女取島。朝日が輝く浜辺にて。

 

 

 「うひゃあっ!?!?」

 

 

派手に砂を巻き上げながら、シイナは砂の上をゴロゴロと転がる。

 

5メートルほど突き進み、その勢いが止まる頃には体中は砂まみれ。

 

仰向けになった彼女はぷはぁ、と息を吐き出し、砂の上に手足を投げ出した。

 

それと同時に、オレンジ色に輝いていた髪が元の茶髪へと戻っていく。

 

 

 すっかり力が抜けたシイナの上に、影が一つ落ちた。

 

 

 「すまない。加減を間違えたな。」

 

 

視線を上げた先には青年――コウキの顔が映り込んでいる。

 

その表情はいつもより、少しだけ下がり眉だった。

 

 

 差し伸ばされた手をつかみ、シイナはどうにか立ち上がる。

 

 

 「あたしが頼んだことだし、いいんだけどさぁ……。」

 

 

身体を軽く叩いて砂をはらい、それからポリポリと頭をかく。

 

その姿は少しだけ、不貞腐れているようにも見えた。

 

 

 「強すぎ。」

 

 「場数が違う。」

 

 

既に後ろを向いていたコウキに不満を垂れれば、間髪入れずひと言だけ返される。

 

息一つ乱していない後ろ姿に、シイナは更にムスッと唇を尖らせた。

 

 

 その様子を知ってか知らずか。

 

 

 「戦い方を教えろなんて、どうしたんだ急に。」

 

 

突然、コウキが振り返った。

 

慌てて尖らせていた唇を引っ込める。

 

そして自分のしていたあまりにも子供じみた行為に、彼女は思わず視線をそらした。

 

 

 「まぁ大したことじゃないけど……」

 

 

頬を掻きながらそう含み、少し恥ずかしげに視線を空へと向ける。

 

そこに広がるのは、曇一つない青い空だった。

 

 

 「またあんなのが出てこないとも限らないし、自分たちの身は守れるようになっておきたいなって思って。」

 

 「……俺では不足か?」

 

 「おんぶに抱っこじゃ家主としての示しがつかない。」

 

 

そうか、とコウキはいつもの様に小さく頷く。

 

シイナは少し迷った後、「それに」と言葉を続けた。

 

 

 「ずっとここにいる、ってわけじゃないんでしょ?」

 

 

コウキの目が見開かれる。

 

彼の口から聞かされていたわけではなかったが、なんとなくそんな気はしていた。

 

一抹の寂しさを感じつつ、それでもシイナは笑ってみせる。

 

 

 「そりゃもちろん、ずっと居てくれるなら嬉しいけど。その時は、コウキが何の不安なく行けるようにって思ってさ。」

 

 「……世話をかける。」

 

 「いーの。あたしらのわがままなんだから。」

 

 

立ち止まったコウキの背を軽くたたき、その背を追い越して歩き出す。

 

帰る場所は、決まっていた。

 

 

 

 魔人の襲撃からはや一ヶ月ほど。

 

久瀬宅は魔人と、魔人が引き連れていた侵略種たちによって荒らしに荒らされてしまっていた。

 

門は吹き飛び壁は崩れ、辛うじて雨よけができるかどうかという有様。

 

帰ってきたはいいものの、はてどうしたものかと3人揃って困り果てていたのだが……

 

 

 そこはシイナが積み上げてきた人徳がなせる技か。

 

久瀬家の危機と聞いた島中の大工たちが、謎の島ネットワークにより集結。我こそはと言わんばかりに総出で補修にやってきたのである。

 

高齢化の進む海女取島だが、ソレすなわち手慣れ揃いということでもある。

 

無数の雄叫びと共に、目覚ましい勢いで家は蘇っていった。

 

その期間なんと1週間足らず。まさしく電光石火であった。

 

 

ちなみに、その間の寝泊まりはとある老漁師夫婦が受け持ってくれていたりする。

 

 

最悪キャンプ暮らしも覚悟していただけに、彼らが伸ばしてくれた腕はまさしく天からの救いの糸であった。

 

 

 「みんな助けてくれて、本当に感謝、だね。」

 

 「日頃の行いの現れだろう。」

 

 「そうかな〜。」

 

 

あまりに実直な言葉を聞き、シイナは照れくささを紛らわそうと頬を掻く。

 

 そして何気なく、隣を歩くコウキの横顔に視線を移し――

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……あのさ」

 

 

 

 

 

 

 

――何故、そんなことを聞こうと思ったのか。

理由はよくわからない。

 

 

ただ、その時ふと思い至ったのだ。

 

 

同居を始めて半年。妹と共に命まで救われた。

 

最早家族の一員とすら言える彼にとって、久瀬シイナとは、自分とはどのような存在なのだろうか、と。

 

 

 「コウキから見てさ、あたしってどんな感じ?」

 

 「なんだ?藪から棒に。」

 

 「いいから!」

 

 

両手を広げ、ほらほら、と急かす。

 

しばらく呆気にとられていたコウキだったが、やがてじっと目を細め、真っ直ぐにシイナの姿を見つめ始めた。

 

 あまりにも真っ直ぐなその視線。シイナが少しばかり気恥ずかしさを覚え始めた頃だった。

 

 

 「………!」

 

 

ほんの一瞬、コウキの表情が揺らぐ。

 

そして何かを懐かしむように、その口元には小さな笑みが浮かんでいた。

 

 

 「……どしたの?」

 

 「いや……」

 

 

コウキは腕を組み、目を瞑り、首を傾げ、考え込む。

 

しばらく考え込んだ末、再び彼は口を開いた。

 

 

 「……俺が孤児院で世話になっていた話は、したな?」

 

 「へ?あぁ、うん。」

 

 「そこにいた一人のことを、思い出した。」

 

 

漁師夫婦の家で世話になっている間に、彼はしばしば自分の身の上を話してくれることがあった。

 

どうやら、それに通ずる話らしい。

 

 

 「背丈も、声も、格好も。似ても似つかないはずなんだが……何故だろうな。」

 

 

紡がれる彼の声はとても穏やかで、その瞳は何処か遠くを見つめている。

 

 

 「……どんな人だったの?」

 

 「そうだな……」

 

 

ゆっくりと、まるで思い出を噛み締めるように口を開いた。

 

 

 「運動はからっきしだった。頭は良く、要領もいいはずなんだが……どうにも不器用でな。絶対に刃物は持たせるな、が孤児院の共通認識だった。」

 

 「う、ん?」

 

 「他にも伝説はあるが……」

 

 

まだあるんかい。というツッコミをすんでの所で飲み下すシイナ。

 

もしやとんでもない問題児と重ねて見られているのだろうか。

 

よもや自分でも知らずのうちに、彼に対してとんでもないことをしでかしていたのだろうか。

 

気がつけば、額には一筋の冷や汗が伝っていた。

 

 

思わず視線をそらした彼女の姿を横目に、コウキは笑みを深め、言葉を続ける。

 

 

 「臆病なくせに誰よりも前に立ち、力もないくせに誰かのために体を張る。そして、何に打ちのめされようとも……絶対に立ち上がる。何度でもな。」

 

 

はっと視線を戻した先。コウキは変わらず、穏やかな笑みを浮かべていた。

 

 

 「誰よりも、強い芯を持った人だった。」

 

 「………そっか。」

 

 「……すまない、長話だったな。もう、何年も前の話だ。」

 

 

ふいと視線を切り、歩きだすコウキ。

 

振り返るたった一瞬。その横顔を、シイナは見逃さなかった。

 

まるで、零れそうな何かを堪えるような、淋しげな表情。

 

その顔を隠すように向けられた背中。

 

 

 「コウキ」

 

 

気がつけば、駆け出していた。

 

背中を追い越し、コウキの目の前に立つ。

 

脚は肩幅に広げ、胸に軽く握った拳をあてがう。

少しでも彼を安心させられるように、堂々とした姿で。

 

 

 「まだ心もとないかもしれないけどさ。あたしのことも頼ってよ。ほら、コレでも家主で、お姉ちゃんだから。」

 

 

シイナはニッと笑って、軽く自分の胸を叩く。

 

呆気に取られたように立ち尽くすコウキ。

 

 

 彼は一瞬目を見開き、そして――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……ふ、ははっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――可笑しそうに噴き出した。

 

 

同居半年にして初めて見る反応。何なら声を出して笑った姿も見たことがなかったというのに。

 

今度はシイナが目を丸くする番だった。

 

 

 「え、なに?」

 

 「……いや。何でもない。」

 

 「んなわけないでしょ!?」

 

 「ほら行くぞ。セツナを待たせるな。」

 

 「ちょっとぉ!!」

 

 

コウキはシイナの声を躱すかのように、足早に歩き始める。

 

彼はきっと、口にすることはない。

 

シイナと、そして彼女と全く同じように立つ一人の少女。二人の姿が、ハッキリと重なって見えていたことを。

 

 

 

 

 

 

 少し歩けば、すっかり元通りになった家の門が見えてくる。

 

 

 「しーちゃん、おにーちゃん、おかえり!」

 

 

菜園の手入れをしていたセツナが門の陰から顔を出した。

いつもと変わらない、可愛らしい笑みで二人を迎え入れる。

 

 

 「ただいま。」

 

 「ただいま!」

 

 

賑やかな声に反応したのか、玄関の傍らに置かれた白い車体がわずかに揺れた。

 

 

―ヴヴヴゥゥン―

 

 

 「フーくんも『おかえり』だって。」

 

 「ほえ〜、何言ってるかわかるの?」

 

 「えへへ。友達だもんね。」

 

 

―ヴゥン―

 

 

 「随分懐いたな。ファング。」

 

 

コウキが車体を軽く叩くと、ヘッドライトが満足気と言わんばかりにゆっくりと点滅する。

 

まるで本物のイヌのようだ。シイナはそう思った。

 

 

玄関を潜り、リビングへ。

 

 

 「なんかしーちゃん……砂まみれ?」

 

 「コウキにやられた。」

 

 「……すまない。」

 

 

手を洗い、セツナとコウキは朝食の準備、シイナは砂をかぶった服を着替えに洗面所へ向かう。

 

やがて3人はテーブルを囲み、手を合わせる。

 

 

 「「「いただきます」」」

 

 

白飯、焼き魚、味噌汁、漬物。

 

なんてことのない普通の朝食。

 

 

シイナがセツナに今朝の出来事を話し、セツナはすっかり距離の縮まった2人を見てニコニコと笑う。

 

コウキは集中する視線に、やや気まずそうにしながら味噌汁をすする。

 

 

 当たり前な朝食の風景。

 

その傍ら、飾り棚に置かれた写真立てが見える。

 

以前そこには、シイナとセツナのツーショットが一つ、飾られていただけだった。

 

しかし今は、ソレに隣り合うようにもう一つの写真立てが置かれている。

 

 

満面の笑みを浮かべ、手でピースサインを作るシイナとセツナ。

 

そしてそのすぐ横側で、やや困惑気味ながらも手にはしっかりピースサインを作っているコウキ。

 

 

家主の姉と拾い子の妹、それから居候の男。

 

誰も血は繋がっていない。

 

人間と呼べるかも怪しい存在。

 

もしかすれば、歪な関係なのかもしれない。

 

 

だが、それで良い。

 

今目の前にいる人たちが、笑っていてくれるなら。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

昼下がりのリビングにて。

 

 

 「ふむ……」

 

 

コウキはソファに腰掛け、膝の上に置いたパソコンの画面を食い入るように凝視していた。

 

キーボードを叩き、画面をスクロール。またキーボードを叩き……。

 

 

 「何してるの?」

 

 

気がつけば、リビングのテーブルで宿題を進めていたはずのセツナが、すぐ隣りから画面をのぞき込もうとしていた。

 

 

 「一ヶ月前の件がどうなったのか、と思ってな。」

 

 

一ヶ月前といえば、あの魔人の件に他ならないだろう。

 

あまり良い記憶とは言えず、しかしこの先忘れることもできないであろう出来事。

 

セツナは神妙な表情でコウキの顔を見上げる。

 

 

 「どうだったの?」

 

 

視線の先で、コウキの眉間には少しばかりシワが寄っていた。

 

 

 「ただの侵略種災害として片付けられたようだ。魔人の方は薬物中毒者。俺がやってしまったことに関してもほぼ言及はない……。」

 

 

セツナが見やすいようゆっくりと今まで見ていたニュース記事をスクロールしていく。重要な部分を指で示しつつ、ある程度内容を要約。

 

 

 「島一つを巻き込んだにも関わらずこれだけの情報しか出ていない。……となれば何かしらの意図があって伏せられている、と見るのが自然だろう。この手の話は嫌になるな……。」

 

 「そうなんだ?」

 

 

どうにか頷いてみせるセツナだが、実のところ半分程度も理解できていなかったりする。

 

コウキもそれを見越して、あえて詳しく説明はしない。

 

11歳のいたいけな少女が大人の世界というやつに触れる必要はないのである。

 

 

 しかし理解できないと言うのは恐ろしいことで、事の渦中に自分自身がいるとなれば尚更のことだった。

 

セツナは不安げな視線をコウキへと向ける。

 

それに気がついたコウキは眉間のシワを指で伸ばし、ため息とも言えない小さな息を吐いた。

 

 

 「そうだな……悪いようにはなっていない。気にするな。」

 

 

セツナの頭をくしゃりとなでつけ、パソコンを閉じる。

 

 

 「えへへ……」

 

 

不器用な大きな掌は、しかしとても温かかった。

 

 

 それから暫くして。

 

セツナの宿題も終わり、2人は小皿に出した菓子をつまみながらお茶をすすっていた。

 

 

 「んー……?」

 

 

不意に、セツナが首を傾げる。

 

 

 「どうした。」

 

 「なんかしーちゃん、遅くない?」

 

 

コウキが時計を見ると、シイナが出かけてから1時間が経とうとしている。

 

 

 「ちょっと買い忘れ、って言ってたよね。」

 

 「……確かに遅いな。」

 

 

「ちょっと」の程度にもよるが、買い物で1時間は「ちょっと」の範疇には収まらないだろう。

 

 

 「………。」

 

 

シイナの銃の腕と魔人の力。

 

今の彼女なら、よほどのことがなければ問題ないはずだ。

 

ないはず、なのだが……

 

冷たい何かが、胸の内を撫でた。

 

 

 「セツナ」

 

 

シイナを迎えに行くか、と続けようとしたその時、リビングに置かれている電話が鳴り響いた。

 

 

不穏な沈黙が二人の間に流れる。

 

 

一瞬後にコウキが席を立ち、受話器を手にとって耳に当てる。

 

 

 「もしも――」

 

 

その最後の言葉を言うよりも早く、受話器の向こうから悲鳴が聞こえた。

 

 

 『あ!コウキ!?たぁすけてぇー!!??』

 

 

次の瞬間、受話器は宙を舞う。

 

それが床に激突するよりも早く、状況が分かっていないセツナを抱えて玄関へと駆け出した。

 

 

 「なになになにッ!?どうしたの!?」

 

 「シイナからだ。詳細はわからなかったが……」

 

 

突然のことに慌てるセツナ。

しかし構っていられないとばかりに手早く靴を履かせ、玄関を開け放つ。

 

 

 「たすけて、と言っていた。」

 

 「!」

 

 

門の目の前には、独りでにエンジンを吹かしているファングの姿があった。

 

サドルに飛び乗り、セツナは後ろに跨がらせる。

 

 

 「捕まってろ。」

 

 「うん!………う、ん?」

 

 

元気よく返事をしたはずのセツナは、しかしとあることに気が付き顔を引きつらせた。

 

 

 「ねえ、おにーちゃん?」

 

 「どうした。」

 

 「……ヘルメットは?」

 

 

一縷の望みをかけて見上げた先には、同じくヘルメットなど被っていないコウキの後ろ姿が見えるだけだった。

 

 

 「………」

 

 

一瞬の沈黙の後、彼は言った。

 

 

 「……緊急事態だ。」

 

 

そもそも戸籍がないがゆえ、彼がバイクの免許すら持っていないのはここだけの話である。





PWS02/ZWEI CLAWLER(プレデターウェポンズナンバー02/ツヴァイクロウラー)

部類は多目的可変銃剣。

おにーちゃんの主力武器。

ショットガン形態の『SHOT MODE』サーベル形態の『SLASH MODE』を使い分けることで中、近距離での戦闘能力を大幅に向上させる。

ベルトのバックルを押し込むことで、システムが装着者の細胞をリプログラミングして生成する。

刃や銃弾も同じくリプログラミングされた細胞により構築されており、刃こぼれは即座に修復され、弾切れに陥ることはない。

ベルトを巻いておけば変身しなくても使える便利ツール。
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