久瀬家の居候 作:セツナは幸せになるべきである
よがっだ……よがっだよぉ……(アニメ最終回を見て)
ってなわけで書けました。
久瀬家リビングにて。
「「「「……」」」」
シイナとコウキ、それから招き入れられたなのはとフェイト。4人はテーブルをぐるりと囲み、互いに向き合って座っていた。
「はい、じゃあ皆さん落ち着いたところで、」
そう前置きをして、シイナがパン、と手を叩く。
一瞬の静寂の後、
「「「「すいませんでした。」」」」
四人は一斉に、そして深々と頭を下げた。
◇◇◇
「あの、あの、本当にお怪我とかありませんか?」
つい30分ほど前には刃を交えていたはずの少女から、オロオロとした様子で心配そうな視線を向けられている。
背筋に走ったこそばゆい感覚に思わず後頭部を掻き、コウキは小さく息を吐いた
「俺は、いい。そっちは。」
「私は、大丈夫です。」
心の底からホッとした。そう言わんばかりに胸を撫で下ろすフェイト。
人が良すぎると言うか、何と言うか。ここに来て初めて見るタイプの人間に、コウキはなんとも言えないやりにくさを覚えた。
そのすぐ横で、シイナは頭を抑えてなのはへと声をかけていた。
「ごめんねぇ、まさかこんなことになるなんて思ってもみなくて……。」
「いえいえ!私も追いかけ回したりしてすいません。」
こちらはお互い戦闘をしていたわけでもなく、比較的あっさりと謝罪を終える。
一息ついたシイナは続いて、騒ぎを大きくした主犯へと勢いよく振り返った。
「ていうかコウキ!あんたヘルメットもかぶらずに何してんの!?セツナまで巻き込んで……そもそも免許ないでしょ?」
「「えぇ!?」」
その言葉になのはとフェイトは揃って声を上げる。2人が見開いた眼はしばらくもしない間にジトっと細められ、コウキにはシイナを含め3人分の視線が突き刺さった。
一度目をそらして逃げようとするが、ついに観念してもう一度頭を下げる。
「……すまない。」
「あぁもう……みんな無事でよかったぁ。」
シイナは盛大にため息を吐き出し、椅子の背もたれに体を預ける。
彼女の身体からは力が抜け、完全に脱力しきっていた。
相当な心労をかけたことに申し訳なく思いつつ、コウキは背もたれ越しに後ろに視線を向けた。
そこにはいつもと同じように、テレビと向き合うようにソファが一台置かれている。
いつもと違う点を挙げるとすれば、そこに今回の事件の一番の被害者であるセツナが、コウキからなるべく距離をとるように座っていることだろうか。
「その……セツナ。」
「むぅ〜〜。」
声をかけられたセツナは如何にも「私、怒ってます!」と言わんばかりに頬を膨らませ、さらに顔を背けた。
椅子から立って側に歩み寄れば、顔のみならず体ごと向きを変えて背中を向けられてしまう。
どうしたものだろうかと思案する。
孤児院の子供が機嫌を損ねたとき、どうやってそれを取り持っていただろうか。
色々と記憶を掘り返すが、結局そこにあったのはたった1つだけ。
コウキは膝をついて姿勢を低くし、頭を下げた。
「すまなかった。」
「うぅ〜〜!」
セツナはクッションを抱きしめ、顔を埋める。
コウキは更に頭を下げる。
「俺が全て悪い。だが、頼む。」
その言葉から10秒か、20秒か。
セツナはようやく、少しだけ視線をコウキへと向けた。
「……怖かった。」
「ああ。」
「とっても、怖かった!」
「……ああ。」
「もうしない?」
その言葉に、しっかりと頷く。
「誓う。」
「……わかった。」
―ヴヴゥン(やれやれ、の意)―
窓の外から一連の話を聞いていたファングのヘッドが、さも呆れたと言わんばかりにふるふると横に振れた。
「フーくんもノリノリだったでしょ。」
―ヴゥン(なぬ?の意)―
◇◇◇
「もう家にあげちゃったし話は聞くよ。とりあえず、何があったの?」
一通り謝罪が済んだところで、シイナはなのはとフェイトに一連の出来事の説明を求めた。
「まずは改めまして。私は国連災害対策本部・危険生物調査機関『EXCEEDS 』所属、高町なのはと申します。」
「同じく、フェイト・テスタロッサ・ハラオウンです。」
EXCEEDS。
その言葉を聞き、コウキの眉がピクリと持ち上がる。
「あぁ、ニュースで見たな。確か総督が八神はやて、だったか。」
ネットのニュース記事やメディアの報道で何度か目にしてきた。
すでに戦果を挙げ始めている、と聞いていたが、まさか魔法少女が所属していたとは誰も思うまい。
「何だ……EXCEEDSと言うのはお前たちのような存在が常なのか?その、魔導師とかいうやつ。」
「私たちは特例みたいなものでして。職員さん達は普通の大人の方ばかりですよ。」
「そうなのか……。」
それを聞き、コウキは当然のように13歳の少女が戦場に出ている事実に冷や汗をかいた。
思っていたよりヤバい組織に目をつけられた気がする、と。
しかし、コウキはまだ知らない。彼女達がEXCEEDSに所属しているというより、むしろEXCEEDSの成り立ち自体に彼女達が深く関わっていることに。
脳内に渦巻く勘違いと背筋を流れる冷や汗は、誰に気が付かれるでもなく消えていった。
「ではでは、これまでの経緯を説明しますね……」
シイナたちに接触を図ろうと海女取島へとやってきたなのはと、色々と心配で彼女についてきたフェイト。
無事島へと上陸した2人だったのだが、突然なのはが島の様子も見ておきたいと言い出したのだそうだ。
持ち前のわがままさと押しの強さ。
フェイトは心配が現実になったことに少しばかり落胆し、しかしいつものことだと半ば諦め、久瀬宅には単身で向かうことにした。
「それは……いいのか?」
「げ、現地調査です。必要なことなんです。」
「ダメです。ホントは。」
しかしその道中、なのはからシイナを見つけたという連絡を受けてそちらに向かうことになり……その途中、ファングで爆走しているコウキたちのことを発見したらしい。
「えっと……その、最初は誘拐か何かかと……。」
「………。」
ヘルメットも被っていない男がとんでもない速度でバイクを運転しており、前に乗せられている少女は明らかに脅えている様子。
更には見たこともない機構で巨大な銃を作り出し、なのは達のいる方へと向けた。
「これ以上はまずいと判断して攻撃しました。」
「ふむ……まるで言い返せないな。」
「コラ。」
シイナから振り下ろされたチョップを甘んじて脳天で受け止める。
魔人の力まで使わなくてもいいんじゃなかろうかとコウキは思った。割と痛い。
「つまりなんだ、あの攻撃は俺(不審者)とセツナを引き離すためでもあった、と。」
「勘違いでしたけど……。」
勘違いも何も、そんな特殊な状況下で判断を迫られることなどそうはないだろう。
自分のしでかした事ではあるが、今思うとずいぶん冷静さを失っていたように感じる。
気にするな、と言おうとしたところで、ソファからこちらの様子を覗き見ているセツナの顔が横目に映った。
「いや……流石に、肝が冷えた。」
何を言わんとしているかは伝わったらしい。フェイトはしゅんとした様子で頭を下げる。
「それは……すいません。セツナちゃんも、怖がらせちゃってごめんね。」
「わ、私は大丈夫です!……助けてくれようとしたんですよね?」
「勘違いだったけど……!」
「いや、俺の判断も早計だった。すまない。」
再びフェイトとコウキの謝罪合戦が始まろうとしたことを察したらしい。まあまあ、とシイナが2人の仲裁に入った。
「私があんな電話したせいってのもあるし……ここは、お互い様ってことで。」
その言葉を聞いたフェイトは、何かを思い出したようにハッとした表情でなのはの方へと振り返る。
「……そうだ、そうだよ。なのは、断られたなら1回出直してもよかったんじゃない?」
「でも、お話だけでもしてみたくって!」
わがままで、押しが強い。なるほど、今しがた話に聞いたとおりだ。
今の反応を見るに、同じようなことがあればもしかしなくても彼女はまたやらかすのだろう。
それが彼女にとっての強みなのかもしれないが、巻き込まれた側はたまったものではないわけで。
「それで助けまで呼ばれてはな……。」
「うぐっ……その、シイナさん、すみませんでした。」
ため息とともに釘を刺せば、さすがに言い逃れはできなかったらしい。彼女も、もう一度頭を下げることになった。
◇◇◇
謝罪も済んだところで、セツナが入れてくれた水を一口飲み、ようやく本題へと入ることになった。
一息つき、息を吸う。そして、
「国連が何しに来た。」
「言い方。」
再び振り下ろされた手刀を、今度は受けずに手で受け止めた。
少し驚いた様子のシイナを一瞥し、つかんだ腕をそっと下ろす。
「高町、ハラオウン。お前たちは信用できるよ。だからと言って、組織そのものを信用できるかと言えば……また別だ。」
「……どうすれば信じていただけますか?」
「もっと上の……大人と、話がしたい。」
じっと、コウキの眼が鋭く細められる。
2人は見定めるようなその視線を前に小さな声で言葉を交わし、そしてどこかへ連絡を取り始めた。
暫くして。
羽根の生えた空飛ぶ宝石……レイジングハートという名のインテリジェンスデバイスなる装置から、モニターが1つ投影される。
そして一人の人物が映し出された。
『はじめまして。EXCEEDS総督、八神はやてです。』
呼ぶとして、直属の上司程度かと思っていた。まさか総督を呼び出すとは。
面食らったコウキは、思わず素直に頭を下げ返す。
「……コウキ、です。」
『あぁそんな、かしこまらんといてください。貴方の言うことは最もですから。ただまぁ……』
それまで柔和な笑みを浮かべていたはやてだったが、すっと目が細められる。
『私もお聞きしたいことがあるので、よろしくお願いいたしますね?』
「……承知した。」
◇◇◇
『1ヶ月前、侵略者の襲撃があったと思います。』
「ああ。」
『その中に、人型の侵略者がいたと思うのですが。』
「魔人か。」
『ご存知なら話が早いです。魔人とは、侵略種の力を得た人間です。現状我々がそこに至る方法として把握しているのは2つ。1つ目は怪我などの傷口から侵略種の血が体内に入った場合。2つ目は魔人になるための薬を注入した場合。』
つまり、魔人に対抗できる存在はそうは生まれない。
「魔人が存在した形跡があるにも関わらず足取りが追えない。つまり、この島に魔人を討伐した魔人、或いはそれに準ずる存在がいると、そう踏んできたわけか。」
『はい。そして我々EXCEEDSは”外国”の人間で構成され、さらに活動の期間が定められてます。なので、活動終了後にまた侵略種の世界になってはその場しのぎの成果にしかならない。ですので、こうして”現地”の方に協力をお願いしているわけです。』
諸々の説明を頭に詰め込み、額を指で叩きながらその頭を回す。
「要約するとだ。お前たちの目的は現地の魔人に強力な侵略種を駆除して食らわせ、強くすること。そしてお前たちの後釜として世界のために戦え、と。」
『言い方が気になりますけど……。我々は人を利用しようなどとは考えておりません。』
「フン……。」
その言葉を聞き、小さく鼻を鳴らすコウキ。
当のシイナはと言えば、2人の言葉の応酬にどう口を挟めばいいのかも分からずにいた。
ぐるぐると渦を巻く頭をどうにか現実へと連れ戻し、次の応酬が始まろうとしていた2人の間に声を滑り込ませる。
「あ、あの。」
『どうされました?』
一度大きく息を吸い、自らの考えを形にしていく。
コウキは何やら随分と警戒している。それが自分たちのためであることも重々に分かっているつもりだ。
しかし、シイナの頭に浮かんだ言葉は、その考えとはまた違っていた。
「魔人の力を持っているのは、私です。世界のため、とか言われてもスケールが大きすぎてよくわかんないですけど。でも……」
脳裏をよぎるのは1ヶ月前のあの事件。
自らの腹を貫いた触手の感覚。
二度と経験などしたくない、大切な物を立て続けに失うかもしれなかった恐怖。
もしあんな思いをしている人たちが、他にもいるのだとしたら。
そんなこと、決まっている。
「……でも、この力で、二度とあんなことが起きないようにできるのなら。協力したいと、思います。」
『それは……願ってもないことですが、本当によろしいんですか?』
承諾したにも関わらず、何故かなんとも言えない神妙な表情をするはやて。
何か間違えてしまったのだろうか。
不安を覚えたシイナの耳に、小さなため息が聴こえてきた。
「シイナ。そういうのは条件なり契約なり、諸々を詰めてから出すべき結論だ。それに……」
コウキの視線が、自身を通り越えてその先へと向けられる。
首を傾げていると、不意に服の裾を掴まれる感覚があった。
振り返ればそこには、そこには不安げな表情でこちらを見上げるセツナの姿。
「しーちゃん……。」
「生活が一変する。お前は良くとも……セツナはどうなる。」
「しーちゃんが危ない目にあったり、離ればなれにならなくちゃいけないなら、わたし、嫌だよ。」
「セツナ……」
そうだ。自分は1人ではない。守るべき家族が、妹がいる。
軽率だったかもしれないと、言葉をつまらせるシイナ。
『お姉さん思いの妹さんですね。』
はやてはその、わがままとも言えそうなセツナの言葉を聞き、むしろ嬉しそうに破顔する。
『なら、そのへんも踏まえて話を詰めましょか。要望があったら今のうちにどうぞ。』
「シイナさん、しっかり考えてくださいね。」
「私たちも、シイナさんが望まない形での協力なんて、嫌ですから。」
「……書面は貰えるんだろうな?」
『抜かり無く。』
◇◇◇
話し合いが終わった頃には、シイナはすっかり疲弊しきっていた。
つい最近魔人としての力を得た、ただの女子高校生であるシイナ。聞き慣れない行政の専門用語の1つとっても、理解するには時間を有する。
それの連続とあってはなおさらだ。
「つ、つかれたぁ……」
「しーちゃんお水。」
「ありがと……」
セツナから渡された水を一気に喉へと流し込む。少し行儀は悪いが、そんなことを気にしている余裕もなかった。
時折話を要約してくれるコウキがいなければ、さらに時間がかかっていただろう。
「ぷはー。」
しかし、有意なものではあったと思う。
想像していた形とは違違ったが、念願の本土へと行くことができる。給与もこれまでとは比べものにならないし、生活面も保障してくれるそうだ。
セツナがついてくると言った時はどうしたものかと思ったが、それも対応してくれるらしい。
これで話し合いは終わりだと、シイナはほっと息を吐き出した。
『さてさて……』
画面越し。はやての視線が、コウキへと向けられる。
『コウキさん、少しよろしいでしょうか。』
「……ああ。」
彼女の口調はそれまでと変わらなかった。
穏やかで、丁寧で、こちらを刺激するような声音でもない。
コウキは黙ったまま、画面越しの彼女の顔を見る。
しっかりと、目が合った。
『今回我々は久瀬さんのお宅に伺うに当たって、ある程度の近辺調査をさせていただきました。』
そこではやては一度言葉を切る。
表情は変わっていない。にも関わらず鋭く射抜くような視線に、まるで腹の底まで探られるような感覚を覚えた。
『けどその何処にも、あなたの存在は見当たらんのですよ。』
戸籍から始まり、その他にも人間を人間として扱うために必要な記録。
――そのどれも、コウキは持っていない。
『そして何より、この海女取島に起きた著しい気温低下現象。』
『私たちのような魔導師とも別系統の力のようですね。魔人の力にしてはやや逸脱しているようにも感じます。そしてハラオウン執務官とも互角以上に渡り合う謎の人物が現れた、と……。』
「……つまり、何が言いたい?」
『ああ、失礼しました。では単刀直入にお聞きします。』
『コウキさん、』
『貴方は、何者ですか?』
ハウンディドゥーム
プレデターの顔面部装甲の内側に隠された4つ2対の複眼。
閉ざされて尚獲物を逃がすこと無く捕捉し続け、その急所を狙い続ける。
彼の前に立つものは、皆等しく被食者であった。