久瀬家の居候 作:セツナは幸せになるべきである
漫画版の存在を最近知った。
作者はにわかである。
ええいアニメの情報だけで突っ走ってやらぁああ!!
夜海トワ。
彼女は昼間に出会った青年の姿を思い出し、口元に小さな笑みを浮かべた。
「良い人だったな」
自らを居候だと名乗った彼。
出会いこそなんとも気まずいものだったが、共にした食事は楽しいものだった。
礼だの謝罪だのと、出会って間もない自分に対して妙に律儀な変わった人だとは思う。もちろん、それに嫌な気など感じていない。いい出会いだった。
トワの足取りが無意識のうちに弾む。
縁があれば。そう彼は言っていた。また、何処かで会うことができるだろうか。
(名前は……あれ?)
……と、そこまで考えて、トワはふと立ち止まった。
どれだけ記憶を辿っても、あの青年の名前が出てこない。
名前を忘れてしまったというわけではなく……
「聞き忘れてた……。」
それ以前の話である。というか、自分も名乗っていなかった。
バイクは妙に個性的な見た目をしていて覚えているが、ナンバーまでは見ていない。
唯一わかるのは、彼の家主がシイナという名前であることだけ。
あまりにも情けない失敗に、隠れ家の廊下の真ん中で愕然とするしかなかった。
「……」
「トワさん、戻っていたんですか……トワさん?」
「シオリ……」
相沢シオリ。
トワの仲間の一人であり、この隠れ家に集う同士の中で一番年長の女性。
突き当たりから姿を見せた彼女は、トワの顔を、そこに浮かぶ表情を見て首を傾げた。
「なんだかお顔がシワシワですけど……」
「……なんでもない。」
さすがにこんなことを話すのは気が引けるし、何よりも恥ずかしい。
過ぎたことだ。仕方がないだろう。
トワは小さくため息をつき、早々に気持ちを切り替えることにした。
これから、一仕事まっているのだ。
「皆、揃ってる?」
「はい。やる気満々ですよ」
そう言うシオリの瞳にも、爛と闘志のようなものが燃えているのが見えた。
「じゃあ、行こう」
魔人狩り。
彼女たちは自らをそう称する。
魔人を、そして人を魔人へと変える魔人化薬を憎む者たちの集い。
トワは、そのリーダーでもあった。
正直なところ、皆を巻き込むことには抵抗がある。いつかは、自分一人ですべてを終わらせようと思う。
だが、今は皆の思いに甘んじるとしよう。
「仕事の時間だよ」
夜の闇の中、魔人狩りは動き出す。
◇◇◇
「ここか」
髪を後ろで一つに束ね、口元には鬼のような牙を模したマスクを装着。
黒いジャケットを羽織り、そして背には愛刀を背負う。
魔人狩りの装束に身を包んだトワは、海に面した五番区画へと足を運んでいた。
コンテナや倉庫が立ち並ぶ中、目当ての建物を見つけて足を止める。
一件、何の変哲もない倉庫。しかし降りきったシャッターに触れ、確信した。
「侵略種用の装甲板……うん、間違いない」
郊外ならともかく、町中でこんなものを建材として使うことなどまずない。壁の内側にも、同じものが仕込まれていることだろう。
馬鹿にはならない金がかかることもあり、手が出せるとすれば相応に資本力を持った存在に限られる。
そしてこの時世だ。そういう存在には、総じて隠したい秘密があるもの。
そう例えば……魔人化薬とか。
背中の刀に手を伸ばす。
確かに装甲板で作られたシャッターは頑丈だが、それを破るだけの力は持っている。そして、この先に待ち構えているであろう敵を打ち倒す力も。
柄を掴み、それと同時に鞘が展開。その内から刃を抜き放とうと力を込めた……。
「……ッ」
……その時である。
――ゥゥヴヴヴヴンッ――
「ッ?!」
視界の端にちらつく一条の光。それと同時に耳を叩くエンジン音。
何者かが、こちらに向かってきている。
「くっ……」
その何者かが敵であったにせよ、そうではないにせよ、姿を見られていいことはない。
トワは迫ってくるライトから逃れるようにして、倉庫の影へと身を潜めた。
◇◇◇
程なくして姿を現したのは、一台のバイクだった。
それは徐々に速度を落としていき、倉庫の目の前で完全に停止する。
(……あれって)
見覚えがある。というか、つい昼間に見たばかりだ。
あの刺々しいフォルムに、これでもかというほど真っ白なボディ。
ナンバーこそ覚えてはいないが、一度見ればそうそう見間違えることはないだろう。
降り立ったドライバーの性別は男。カッターシャツにネクタイを締め、青いウィンドブレーカーのジャケットを羽織る。そして下は黒いパンツと黒い革靴。何処かの制服だろうか?
そしてヘルメットを脱いだその顔は、やはり昼間に出会ったあの青年であった。
なぜ、なぜ彼がここに?
頭の中を疑念が渦巻く。
もしやこの倉庫の、今回のターゲットの関係者だったのだろうか?
とすれば、自身の正体に気がついて取り入ろうとしていた?
そんなトワの様子などいざ知らず。青年はシャッターの眼前に立ち、おもむろに左手を耳に添えた。
「局長、着いたぞ」
『――』
「……あぁ、間違いない。この匂いだ。」
誰かと通話をしているらしい。さすがに通信先からの音声は聞こえないが、言葉にはあまりいい感情は乗っていないように聞こえる。
少なくとも、今回のターゲットとは友好的な関係でないらしい。
自分の目がそこまで腐っていなかったことに、一旦胸をなでおろす。
しかしそうなれば一つ、新しい問題が頭に浮かんだ。
いったい彼は、何処の何者なのだろうか。
『―――』
「……良いのか?」
『―――』
「分かった。さっさと終わらせる」
何やら話がついたらしく、青年は耳から手を離す。
同時に、バイクのコンテナが独りでに開いた。その中から、彼に向かって何かが飛び出す。
(なんだ……あれ?)
その正体は一本のベルトだった。
彼は手慣れた様子でそれを掴み、勢いよく腰へと巻き付ける。
見たこともない装置。よくある子供用の玩具に見えなくもないが、それにしてはあまりに重厚。リアリティがある、とでも言おうか。
続いて彼は、左手首のストラップから垂れ下がるメモリカードらしき物を掴み、引き千切る。
そしてそれを、勢いよくバックルへと挿し込んだ。
ベルトから発せられる、ノイズがかった唸るような不気味な声。
爆発。
彼がバックルを押し込むと同時に爆ぜた、超高温の衝撃波。トワは体に叩きつけるその威力に、思わず眼前で腕を交差させた。
次いで爆ぜたのは、凍えるほどの冷気。
自らも氷の能力を扱うトワですら、その極寒の暴風に体をすくませる他ない。
「……ッ!?」
腕をどけた先に見えたのは、ひしゃげて大穴の開いたシャッター。
そして、
漂う冷たい霧に包まれた、白銀の狼のような異形であった。
状況から見て、あの異形の正体は青年以外に考えられない。
魔人、なのだろうか。アレは。
トワはこれまでに幾多の魔人を見てきた。だからこそ、アレをそれらと同じと言っていいのか分からない。
あまりにも、異質。
情報の濁流で思考が止まる。
『……行くぞ。』
その間に、異形は動き出していた。シャッターに開いた大穴を悠然と踏み越えて倉庫の中へ姿を消す。
――直後、無数の銃声が鳴り響いた。
考える。果たして踏み込むべきか、それとも否か。
敵か味方かも分からない謎の存在。
それに、通信相手を局長とも呼んでいた。組織だって動いているならば、さらに警戒の度合いは引き上げられる。
……ここは一度、事が収まるのを待つべきではないのだろうか。
仲間の安全を預かる身でもある。リスクは避けるべきだろう。
『また、縁があればな。』
――ふと、昼間の光景が頭をよぎった。
「……ッ!」
なんとも不合理な行動だ。そんなことは理解している。
それでもトワは青年の後を追い、倉庫へと足を踏み入れた。
◇◇◇
けたたましい無数の銃声。それと共に銃弾の嵐が押し寄せてくる。
何処の生鮮食品の倉庫に、マシンガンを持ったボディガードがいるというのか。
しかしまあ、臆することもない。そのまま銃弾の中に突っ込んでいく。
「どうなってんだ!」
「なんで効かねぇ!?」
「うるせえ!打ち続けろ!」
迫り来る弾丸は、ことごとく白銀の装甲に阻まれる。
甲高い音を立て、火花を立て、そのどれ一つとして一筋の傷すら残すことは叶わなかった。
「なんなんだテメェ!」
『国連災害対策本部・危険生物調査機関『EXCEEDS 』嘱託駆除隊員、久瀬コウキ。』
「国連ン!?」
『人的侵略種災害の発生に加担した疑いでこれより強制捜索を開始する。武装解除して手を挙げろ。』
視線を走らせながら、移動中に聞かされた通り言葉を並べてみる。
しかし帰ってきたのは再びの銃弾の嵐。
まるで聞き入れられる様子は見られなかった。
『――局長、どうする。』
『公務執行妨害につき、速やかな無力化を。』
『了。』
ルークの指示を受け、バックルに手をかける
右の手の内に形成されていく刃。腕を振り払えば、極低温の衝撃波が周囲へと放たれた。
地を這うように伸びた氷が、その場にいたボディガード達を飲み込んでいく。
「この野郎……!」
しかしその中で一人、体を覆い尽くさんとする氷を弾き飛ばした男がいた。
鼻を利かせなくとも漂ってくる、あの白塗りのバンが垂れ流していた醜悪な匂い。
『お前、魔人だな。』
男は緑色の薬剤が詰まった注射器を取り出す。
おそらくはあれが魔人化薬、もしくは魔人を強化する類の薬剤なのだろう。
刃を肩に担ぎ、バイザー越しにその姿を見据える。
『わからないな……人であることの何が不満だ。なぜ自ら化物に堕ちる。』
「力に金……お前だってたんまりもらってんだろォがよ。」
男はなんの躊躇もなく、その注射器を首へと突き刺した。
『阿呆が……』
中の薬剤を体へと流し入れた途端、男の体は黒く濁り膨れ上がる。
手にした力に酔いしれているのだろうか。男は声を上げて笑った。
「魔人化薬の調達も、餌用人間の確保も楽じゃねえんだ……国連にだってまだいるだろォ?薬で魔人になった奴がよ。」
まとわりつくようなその声、馬鹿にしたようなその言葉。
……コウキの眉がピクリと跳ねた。
『……お前が、語るなよ。』
脳裏をよぎるのは、シイナとセツナの姿。
考えすぎだ。眼の前の男が二人のことを知るわけもない。
……だが、あっていいはずがないのだ。あの二人がこの男と、そして自分自身と同列にまとめられるなど。
担いでいた刃を地面に突き立てる。巻き上がった瓦礫と煙との間から、蒼い炎が揺らめいた。
「あァ?」
『知る必要は、ない。』
グリップから手を離し、その手でバックルのトリガーを叩く。
倉庫に響く、刃を打ち付け合うようなけたたましい音。
それは警告であり、そして敵への宣告。
「なんだそりゃ?オモチャかァ?」
明らかに慢心し、油断しきっている魔人。
コウキは、踏み込みと共にバックルを叩き込んだ。
エネルギーが右の脚へと収束。左脚は地面を蹴り砕き、一瞬にして男の懐へと潜り込む。
「な――」
抵抗する猶予すら与えない。回転とともに放った踵が、男の鳩尾を抉る。
「うごお……ッ!?!?」
魔人の体は、その脚に纏わりつく氷によって吹き飛ぶことすら許されなかった。
体の大半が凍りつき、鳩尾には大穴が空いている。
人間ならばすでに事切れていそうなところだが、そこは魔人というべきか。痛みに悶絶こそしているがいまだ健在。
『抑えはしたが…やはり頑丈だな。』
力に酔いしれていたその目には、今や恐怖の色が張り付いている。
『死にはしない。お前が従順なら、な?』
既にルークが調査員を送り込む準備をしている。
周りで凍りついているボディガードもまた、じきに檻の中へと入ることになるだろう。
魔人についての調査と捜索は遅れていると言わざるを得ない。故、関係者すべてが貴重な情報源である。
殺しは無し。それが今回のミッションの成功条件だった。
「なんなんだ……テメェ……!」
『言わなかったか?EXCEEDSの嘱託駆除員だ。』
まだ何か言葉を発しようとした口を掴み、氷漬けにする。生憎と、事情聴取は仕事に含まれていない。そのあたりはプロに任せるとしよう。
『コウキ駆除隊員、その、先の発言は脅迫とも取られかねませんので……』
『分かった。気をつけておく。それで、この後はどうすればいい?』
『ご帰宅いただいて構いません。あとは我々が。』
『報告書がいるだろう。』
『私の方で片付けておきます。』
『いい、こっちに回してくれ。家にいると時間が余るんだ……。』
久瀬家においてただ一人、定職につくわけでもなく学校に通っているわけでもないコウキ。
家事をすると言っても限りはある。ハンターとしての活動もできなくはないが、やりすぎれば地元の人間の仕事を取り上げることにもなりかねない。
こういう書類仕事というのは、時間をつぶすにはちょうど良かった。
『あぁ……。わかりました。必要な資料も含めて送ります。お疲れさまでした。』
『助かる。それじゃあ、また。』
何か察してくれたらしい。ルークはそれ以上何も言うことなく通信を切った。
先ほどまでの喧騒が嘘のように、倉庫の中はすっかり静まり返っている。
氷漬けにしたボディガード達が視界にちらつくが、特に意識は飛んでいることだろう。
さながら、世界が凍りついてしまったかのような有様だ。
『さて……。』
振り返ったコウキの視線が、一本の柱へと向けられる。
正確には、その背後に感じていた一つの気配へと。
『誰だ。』
ここにたどり着いたときから感じ続けていた視線。
戦闘のさなかに割ってはいる様子もなく、特に敵意も感じない。
それでも、正体が分からないというのは、それだけで警戒する理由には事足りた。
『いいかげん出てこい。』
少し、気配が揺らぐ。
「……分かった。但し、通信と記録の妨害はさせてもらう。」
『ああ、構わないが……。』
帰ってきたのは、存外に素直な言葉だった。
それに、声が想像していたよりも随分と可愛らしい。
わざわざ隠れて様子を伺っているのだ。状態を明かしたくはないだろうに、提示された条件も随分緩い。
やや釈然としないながらも了承すれば、白い霧が視界を覆った。これが妨害というやつなのだろうか。
霧の奥から一つ、人影が姿を現す。
『……!』
驚嘆の呼吸が、思わず漏れた。
マスクで顔を隠し、背中には刀。雰囲気も何処か物々しい。
しかしつい先ほど、昼間に出会ったばかりなのだ。見間違えるわけもない。
「お昼ぶり……かな。」
そこにいたのは紛れもなく、昼食を共にしたあの少女だった。
FREEZING ERASE
九話目にしてようやく登場。通常のライダーキック。
今回は捕縛目的であったため、威力はちょっと強めのキック程度。
おにーちゃんは力加減が上手い(尚二話目)。