嬉しすぎて拙いながらも続きを書いてみました☻
どうか最後まで読んでいただけたら嬉しいです!
動き出す王国。
パーパルディア皇国と対峙しているイルディア王国を取り巻く情勢は最悪なものであった。
半島北部におけるパーパルディア皇国との国境線では、国境線沿いイルディア側に広がる要塞化された山脈“アルテリア要塞線”が敷かれている。
そんな中、
◦イルディア領付近の偵察飛行や軍による国境付近への部隊集結を繰り返すパーパルディア皇国
◦急速に軍備を拡大するロウリア王国
◦クワ・トイネ公国領空における国籍不明機及び大型艦船の出現
◦ムー大陸周辺海域におけるグラ・バルカス帝国を名乗る未知の国家との接触
突如動き出す不穏な世界に、イルディア王国は頭を悩ませていた。
イルディア王国 首都ルーミア:内閣府庁舎>
~ 中央暦1639年 2月1日 ~
内閣府庁舎では早朝から重苦しい空気が立ち込める中、招集された政治家や軍人たちが向かい合って席に着いていた。
首相を筆頭とした政治家たちは頭を抱える者、遠い眼をする者、腹部をさすり水で胃薬を流し込む者たちが顔色を悪くしながら、しかし全員が手元の資料から目を離さずにいた。
王立軍から招集された陸海空軍は三者三様である。
陸軍の高級将校は顎に手を当てては資料の地図を指さし小声で話し合っている。
海軍の高級将校らは目を細め静かに水を口にしており、空軍の高級将校に至っては資料に添付された未確認国籍の大型艦艇……の上の航空機らしき機体を穴が開くほど見つめており、その目は血走っている。
「あぁ……っと、バルベリーニ司令。始めてもよろしいかね?」
「はいマッテオ首相」
「そ、そうか……」
この目を血走らせている空力b……王立空軍総司令エミリオ・バルベリーニの狂気に若干引きながらも咳払いをすると、マッテオ首相は口を開いた。
「これより内閣府緊急安全保障会議を始める。フェラーリ大臣」
「はい。現在我が国は3つの問題に直面しております」
そう言うと外務国際調整大臣ロレンツォ・フェラーリは卓上に広がる地図を見つめた。
「一つ、北部国境線におけるパーパルディア皇国
二つ、急速な軍備拡大を進めるロウリア王国
三つ、グラ・バルカス帝国及び日本国を名乗る未知の国家との接触」
「まず最初にパーパルディア皇国についてです。現在、暫定的国境線上では国境沿いに伸びるアルテリア山脈にて王立軍と皇国軍のにらみ合いが続いております」
フェラーリ外務国際調整大臣の言葉と共に、全員の視線が地図の北部――アルテリア山脈に集まった。
暫定国境線を示す赤い線がアルテリア山脈北部に沿って引かれており、山脈自体は完全にイルディア領である。
その山脈に並ぶ複数の青い駒が王立軍の配置を物語っていた。
要塞線、トーチカ、砲兵陣地、地下司令部、補給網、防空陣地、山岳航空基地。
そう、山岳航空基地。
これはイルディア王立海軍が航空母艦を開発・建造した際にそのノウハウを応用し山脈の山頂や腹部を整地し、短い滑走路で離着陸可能な航空基地を設営したのである。
「王立空軍の報告によれば哨戒機から“皇国のワイバーンによる航空偵察を確認した”との報告が相次いでいるとのこと。皇国軍の動向については陸軍からも報告があるとのことで、カンパーニ司令」
「承知しました」
王立陸軍総司令 シルヴィオ・カンパーニ元帥が立ち上がった。
先ほどまで見つめていた資料を片手に彼は赤い駒を地図上に並べていく。
「現在、公国軍はアルテリア山脈北部地域……未回収領土において複数の部隊を展開させております。観測しているだけでも規模は3個師団、歩兵と地竜リントヴルムを中心とした地上軍部隊がおり後続もいると思われます」
「侵攻準備とみていいのかな?」
マッテオ首相は目を細め、落ち着いた口調でカンパーニ司令に尋ねる。
「陸軍としては即答できません」
「ほう」
「皇国は我々を見くびってはいますが、要塞化された山岳地帯に兵を突撃させるほど愚かだとも思いません。現時点では軍事的圧力をかけるにとどめる可能性が高いとしか。現時点では守備隊に通達し厳戒態勢を敷くにとどめる方が得策かと」
「次にロウリア王国です」
フェラーリの言葉と共に全員が資料をめくる。
「ロウリア王国では近年、急速な軍拡を行っており既にロデニウス大陸はクワ・トイネ公国領及びクイラ王国領を除きロウリア王国支配下となっております。ここ最近ではクワ・トイネへの侵攻準備と思われる動きも確認されており、ロウリア王国による征服が成功すれば……我が国は北方をパーパルディア皇国、南方をロウリア王国に挟まれることになります」
「それ以前に!クワ・トイネは滅べば食料、クイラが滅べば石油の輸入が格段に困難となるでしょうな」
溜息を吐きながら白く長いひげを撫でる経済財政大臣カルロ・モレッティの言葉に全員が、特に軍人たちが深く頷く。
「おっしゃる通りです」
フェラーリは頷く。
「クワ・トイネ公国は我が国において主要な食料供給国のひとつ。主に穀物や肉類の輸入は大半がクワ・トイネ産です。大してクイラ王国は原油並びに石油の最重要供給国です」
「静観は出来んか……」
「首相、今回に関しては経済安全保障問題です。今までの戦争のように厳正中立ではいられないでしょう」
フェラーリの言葉に空気の温度が下がったような錯覚に陥る政治家たち。
しかし軍人たちは軽く頷くばかりであった。
誰も反論できない。
それは紛れもない事実であるのだから。
イルディア王国は決して孤立した外交関係にあるわけではない。
人口4000万人を超える準列強国として相応の工業力と農業生産力を持っている。
しかし、近代国家として発展すればするほど輸入する必要がある物資も増えてくる。
その筆頭が食料と石油だ。
穀物や肉類を始めとする多様な食材を自国で生産しているし備蓄もある。
平時であれば1~3年は持ちこたえる自信もある。
そう、平時であれば。
「ロデニウス大陸への派兵はともかく、パーパルディアと戦争になれば1年と持たないでしょうな」
経済財政大臣カルロが淡々と告げる。
その言葉に全員が口をつぐんだ。
全員が改めて理解したのだ、事の深刻さを。
戦車や艦艇を動かすには燃料がいる。
国民が生きるには食料がいる。
そしてどちらも自国の備蓄と生産量では不足する可能性がある。
――国民が飢える
それは、それだけは許容できない。
それがこの場にいる全員の総意であった。
首都は穏やかだ。
レストランではピザ生地を仕込む料理人が忙しなく厨房を行き交い、路面電車は定刻通りに街を走る。
朝市では多様な食材を手に取る主婦や値段交渉に一歩も譲らぬ店主たちでにぎわっていた。
誰もが日常を送っている。
しかし、その日常を維持するのに必要なものを独力では賄いきれないことを最も理解している者達だ。
「……では、決定ですな」
沈黙を破ったのはマッテオ首相であった。
「外務国際調整省はクワ・トイネ公国政府を通じて日本国と接触し可能であれば友好的に外交関係を確立。王立軍は情報を集めながらロデニウス大陸派兵を想定した海外派遣軍編制案の可決に備えて準備をすすめる。グラ・バルカス帝国に関しては……情報収集を継続する。接触可能であれば、外交関係の構築を試みたい」
マッテオ首相は言葉を切った。
そして海図へ視線を向け、ムー大陸近海を見渡す。
商船から報告された航路、目撃された艦艇、航空機らしき飛翔体の推定進路が書き込まれている。
(グラ・バルカス帝国においては少なくとも技術形態を理解できる。航空機もレシプロ機、ここまで実用的なように見える他国軍機は見たことも無いがな。問題は日本国だ。航空母艦の上には明らかにロケットエンジンを積んだ軍用機……王立空軍においても実用段階に至ったばかりの兵器を主力として運用しているのか……?)
――れい 司令! バルベリーニ司令!」
「!?!?!? な、如何なさいましたかマリーニ国防大臣」
エミリオ・バルベリーニはうたた寝からたたき起こされたように顔を上げ周囲を見渡す。
「先ほどから再三お呼びしておりましたよ?空軍司令殿」
「失礼、少々考え事を……」
「目を血走らせて“少々”ですか?」
会議室のあちこちから小さく笑みが漏れる。
しかし、バルベリーニ自身は笑ってなどいられなかった。
「この日本国の航空機……艦上軍用機ですが、おそらくロケット軍用機でしょう。しかも我が軍の最新鋭機より大きく、似た系統の機体が並んでおります。つまり……」
「つまり?」
「我が王立空軍より実用的かつ発達したロケット戦闘機を主力として数多く運用している可能性があるのです。現在我が軍で研究開発中の回転翼機も同様に映っております」
「つまり、それ相応の軍事力及び生産能力をもつ国家である可能性が高い、か」
バルベリーニの推察の結論を、海軍司令マリーノが答える。
「はい」
バルベリーニが短く頷く。
「もしこの推測が正しければ……我々は既知の文明圏における軍事技術の系譜から大きく外れた国家と接触したこととなりす」
つまり、未知の大国。
誰も声には出さなかったが、全員が同じ結論に至った。
イルディア王国が決して短くない期間で実戦に近い模擬選や実験を繰り返し弱点を潰していき、ようやく実用化に至った航空技術を、まるでそれが主流の異世界から持ち込んだような航空機を運用している国家。
その事実は出席している者たち、とりわけ軍人たちにとってはあまりにも重かった。
この会議を経てイルディア王国政府は日本国およびグラ・バルカス帝国に対し友好的な外交姿勢を維持。
国交の締結と外交交渉を進めると同時にロデニウス大陸情勢への介入を決定した。
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日本国 博多市内 料亭>
~ 中央暦1639年 2月5日 ~
「イルディア王国?」
「はい」
クワ・トイネ公国使節団が日本国へ派遣され、日本の土を踏んだ日の夜。
日本国外交官田中とクワ・トイネ公国外務局職員ヤゴウが雑談をしている中とある国が話題に上がった。
「イルディア王国といいますと、以前お話されていた半島の王国ですか?」
「はい。あなた方日本国が求めるように農産物を輸入して頂いている友好国です。一応世界的には準列強国なんだとか」
「なるほど……」
イルディア王国という国名自体は初耳ではない。
クワ・トイネ公国とかかわる中で何度か耳にしているのだ。
曰く人口は4000万人を超え、この世界において進んだ技術を持つ国である、と。
自衛隊による周辺海域の哨戒でも、イルディア王国と思われる艦艇や航空機の存在は確認されているものの、現時点では外交関係にない。
「はて、どんな国か気になりますね」
「おぉ!でしたら食文化なんてどうです?イルディア料理は奥が深くて……」
日本国とグラ・バルカス帝国。
この2国と同時に出会った王国は、世界の常識が崩れ去る混沌の時代の訪れを実感していた。
★イルディア豆知識★
イルディア人は美食にうるさい