フリーザ、ヒーローになる ~宇宙の帝王がワンパンマン世界に墜ちた結果~   作:&劉

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幕間 星を渡る敗者

 

宇宙には昼も夜もない。 恒星の光が届かない場所では、ただ果ての見えない闇が広がっている。その中を、ひときわ巨大な宇宙船が音もなく進んでいた。 暗黒盗賊団ダークマターの宇宙船。

 

数多の惑星を渡り、数え切れない文明を踏み潰してきた船である。船内の通路には異形の戦闘員が行き交い、外から見れば、それだけで一つの国家に近い規模を持っていた。 その最深部。広大な謁見の間には、二人の男しかいない。 一人は玉座に座る隻眼の戦士、ボロス。 もう一人は、その正面に立つ白と紫の宇宙人だった。

 

細身の身体、長い尾、頭部から伸びた角。事情を知らぬ者が見れば、ある人物と見間違えても不思議ではない。 フロストは柔らかな笑みを浮かべたまま、玉座の主を見上げていた。

 

「本当に、その星にいるのか」

 

ボロスが尋ねる。 声音に期待はなかった。疑っているわけでもない。ただ、確認しているだけだった。

 

「ええ。少なくとも、あなたが長年探しているような強大な戦士が存在する可能性は、かなり高いでしょう」

 

「可能性、か」

 

「予言というものは、えてして曖昧ですからね。場所も時期も、聞き手に都合よく解釈できる余地を残す。絶対だと言い切る方が、むしろ信用できません」

 

フロストは肩をすくめた。 ボロスの一つ目が僅かに細くなる。

 

長い年月、自分とまともに戦える相手を探して宇宙を巡ってきた男である。かつて占い師から、遥か遠い星に自分と互角に戦える存在がいると告げられ、それ以来その星を目指している。 そして、その航路の途中で拾われたのがフロストだった。 もっとも、「拾われた」という表現を本人が聞けば、まず訂正を求めるだろう。

 

フロスト自身の説明によれば、事故によって小型宇宙船が航行不能となり、偶然近くを通りかかったダークマターと利害が一致したため、一時的に同行することになった――ということになっている。 実態はもっと簡単だった。

 

燃料は尽きかけ、救難信号に応じる船もなく、このままなら広い宇宙の片隅で干からびるところを、ボロスの船に回収された。 少なくともフロストにとって、そこに訂正するほど立派な事情はない。

 

「お前は、その星を知っているのか?」

 

「いえ。直接訪れたことはありません」

 

フロストは素直に首を振った。

 

「ですが、この宇宙そのものについてなら、あなた方より多少は事情を知っています」

 

それは嘘ではない。 力の大会。

 

八つの宇宙から選ばれた戦士たちが、宇宙の存亡を賭けて戦った舞台。あの大会に出たことで、フロストは自分の生きる第六宇宙とは別に、よく似た歴史と種族を持つ第七宇宙が存在することを知った。 そして、その第七宇宙で出会った。 できれば二度と顔を見たくない男にも。

 

「それより、あなたほどの実力者なら、その予言の戦士とやらにも期待できるのではありませんか?」

 

フロストは会話の向きを変えた。 ボロスの力量はすでに見ている。

 

この船に回収された初日、ほんの僅かに解放された力だけで十分だった。自分が正面から敵に回すべき相手ではないと判断するには、あれで足りた。 力の大会へ参加した戦士たちと比べても、間違いなく上位に位置する。 だからこそ利用価値がある。

 

自分一人で見知らぬ宇宙を漂流するより、この男の船に乗っていた方が遥かに安全だ。予言の星へ到着した後も、状況次第ではボロスを盾として使える。 フロストにとって、同行とはそういう意味だった。

 

「期待などしていない」

 

ボロスが玉座から立ち上がった。 ただそれだけの動作で、空気が僅かに変わる。

 

 

 

「俺は確かめに行くだけだ。予言された戦士が、本当に俺と戦うに値するのか。それだけだ」 身体から漏れた力はほんの一瞬だった。 それでもフロストの表情が僅かに固まる。 強い。 理屈をつける必要もないほど、単純に強い。

 

そして厄介なことに、この男には権力にも金にも興味がなかった。銀河を支配したいわけでも、惑星を奪いたいわけでもない。 欲しいのは戦いだけ。 自分を全力で戦わせてくれる相手。 それだけのために何十年も宇宙を巡っている。 フロストには、少し理解しがたい種類の生き物だった。 少なくとも自分なら、その力があればもっと効率よく利益へ変える。

 

「到着まで、あとどの程度です?」

 

「間もなくだ」

 

「そうですか」

 

フロストはそれ以上尋ねず、巨大な窓の向こうへ目を向けた。 闇の中に青い星が浮かんでいる。 最初は点にしか見えなかったものが、航行を続けるにつれて輪郭を持ち始めていた。 海を思わせる青と、雲の白。 特別な星には見えない。 だが、ボロスが何十年も求め続けた答えが、あそこにあるらしい。 フロストはその星を眺めながら、自分が到着後にどう動くかを考えた。 まず情報を集める。 ボロスが予言の相手と戦うなら、距離を取って観察する。 双方が消耗すれば理想的だ。

 

ボロスが勝てば、これまで通り船へ乗って次の機会を待てばいい。相手が勝った場合も、その人物が話の通じる存在なら取り入る余地はある。 どちらに転んでも、自分が最後まで生き残ればよい。 そう考えていた時だった。 フロストの顔から笑みが消えた。

 

「……!」

 

「どうした」

 

ボロスが振り返る。

 

「いえ……」

 

フロストは目を細め、青い星へ意識を集中させた。 この距離からでは、本来なら細かな気など感じ取れるはずがない。 だから錯覚かもしれない。

 

宇宙船の機関が発するエネルギーを、自分の記憶が勝手に別のものへ結びつけただけかもしれない。 それでも。 ほんの一瞬だけ、確かに感じた。 知っている気配を。

 

冷たく、底意地が悪く、それでいて自分より遥かに巨大な力を当たり前のように隠している、あの気を。 力の大会の光景が蘇る。 協力するふりをして近づいてきた男。 自分の企みを理解しながら利用し、最後には笑顔のまま切り捨てた男。 姿も種族も似ている。 だからこそ、フロストにとって最も比較されたくない存在。 フリーザ。

 

「まさか……」

 

「何だ?」

 

ボロスの声で我に返る。 フロストはすぐに表情を戻した。 長年使ってきた、穏やかで人当たりのよい笑顔だった。

 

「何でもありません。少し、到着後のことを考えていただけですよ」

 

「そうか」

 

ボロスは興味を失ったように前を向く。 それ以上追及してこない。 フロストは内心で息を吐いた。 ここは第六宇宙だ。 フリーザは第七宇宙の存在である。 力の大会のような特殊な事態でもない限り、二つの宇宙を自由に行き来できるはずがない。 いるわけがない。 あの星に。 あの男が。 そう自分へ言い聞かせる。 しかし、一度感じてしまったものを無かったことにはできなかった。 青い星が少しずつ大きくなる。 比例するように、背中へ冷たい汗が浮かんでいく。 フロストは誰にも見えない位置で、長い尾の先を強く握り込んだ。 もし本当にいるのなら。 もし、あの男がこちらに気づいたのなら。 ボロスを利用して様子を見る、などという余裕のある話ではないかもしれない。 最悪の場合、自分はまた――。 そこまで考えて、フロストは思考を切った。 弱気は判断を鈍らせる。 ボロスは強い。 少なくとも、あのフリーザであっても無視できる相手ではないはずだ。 ならば予定通り利用すればいい。 そうだ。 自分には、この男がいる。

 

「フロスト」

 

不意に呼ばれ、身体が僅かに跳ねた。

 

「はい?」

 

「震えているぞ」

 

「……」

 

視線を落とす。 尾の先が、本当に僅かに震えていた。 フロストは数秒黙った後、また笑った。

 

「武者震いですよ」

 

「そうか」

 

ボロスはそれだけ言った。 信じたのか、どうでもいいのかは分からない。 おそらく後者だった。 フロストは窓へ向き直る。 青い星は、もうはっきり見えている。

 

「……フリーザ」

 

今度は、ボロスに聞こえないほど小さな声だった。 ダークマターの巨大宇宙船は速度を落とさない。

 

予言の戦士を求める勝者と、その勝者を利用しようとする敗者を乗せたまま、やがて地球の重力圏へ入っていく。 二人ともまだ知らない。 その星には、ボロスが探し続けた相手がいる。 そしてフロストが最も会いたくなかった相手も、いる。 宇宙船は静かに進み続けた。 青い星へ。 それぞれの思惑が、最悪の形で交わる場所へ。

 

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