フリーザ、ヒーローになる ~宇宙の帝王がワンパンマン世界に墜ちた結果~   作:&劉

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第十七話 恐怖の征服

 

翌日、ヒーロー協会本部の会議室には、朝から妙な緊張が満ちていた。 理由は分かりやすい。円卓を囲んでいるのが、フリーザ、タツマキ、ジェノス、アマイマスク、アトミック侍、閃光のフラッシュ、超合金クロビカリ、ぷりぷりプリズナー、童帝をはじめとするS級の実力者たちだったからだ。普通の企業なら重役会議、国家なら首脳会談と呼べる顔ぶれだが、ここにいる者の何人かは、単独で都市の地形を変えかねない。会議室という言葉の方が場違いに思えるほどだった。

 

円卓には他にもシッチとセキンガル、ヒーロー協会幹部が複数座り、その隣にはヒーローではない男が一人いる。協会の有力スポンサー、ナリンキだった。今回怪人協会に攫われた少年、ワガンマの父親でもある。

 

「わが息子が怪人に連れ去られたんだぞ!!」

 

セキンガルが立ち上がり、淡々と告げた。

 

「まず、これだけはお約束します。息子さんは必ずお助けします。

現在、アジトの詳細な位置を特定に急いでいます。辛いお気持ちはお察ししますがもうしばし…」

 

フリーザはスカウターを着けながら椅子へ深く腰掛け、脚を組んだまま話を聞いていた。昨夜の時点ですでに地下へ意識を伸ばし、雑多な生命反応の奥にいくつもの強い気配を感じ取っている。

 

その中でも明らかに大きなものが一つ。おそらくオロチ。そして、そのさらに奥に、普通の生命反応とは違う、濁った何かがある。昨日の最後に感じた歪な邪念と同じものだった。今は薄く沈んでいるが、消えてはいない。

ナリンキがしぶしぶ座りなおすのを見たセキンガルは改めてヒーローたちに向き直った。

 

「今回の目的は二つだ。」

 

シッチが画面を切り替えた。少年の顔写真が大きく表示される。

 

「怪人協会の殲滅。そして、人質となっているワガンマ君の救出だ」

 

「当然、息子の救出を最優先にしてもらう」

 

ナリンキがすぐに口を挟んだ。声には焦りだけでなく、自分の言葉が通ることへの確信も混じっている。

 

「そもそもまだ突入せんとは何事だ!!猶予を設けられたのなんだの言っているがそんなものは悠長すぎる!!なんのために高い金をつぎこんだと思っているんだ!!」

 

「一つ、よろしいですか?」

 

フリーザが片手を上げた。

 

ナリンキが口を止め、セキンガルがわずかに眉を寄せる。

 

 

「何だ?」

 

「今回の突入作戦ですが、条件があります」

 

「条件?」

 

「ええ」

 

フリーザは円卓をゆっくり見回したあと、自分の胸へ指を向けた。次にタツマキ、ジェノス、そしてアマイマスクへ視線を移す。

 

「地下への本格突入は、フリーザ・コーポレーションの人員だけで行わせていただきたい」

 

会議室が静まり返った。 椅子がわずかに軋む音だけが聞こえる。アトミック侍は目を細め、フラッシュは表情を変えないままフリーザを見た。クロビカリは太い腕を組み直し、童帝は端末へ触れていた指を止める。

 

セキンガルが問い返した。

 

「理由を聞こう」

 

「単純ですよ。

一つ、わが社はすでに敵のアジトの位置を特定している。

二つ、他の方々では、今回の任務には実力が足りません」

 

「と、特定できたのか!!?

 

「……何?」

 

驚いた声を出したセキンガル、低い声を出したのはフラッシュ。 フリーザは気にした様子もなく続ける。

 

「ええ、とっくに。地下は狭く、構造も複雑です。深部には強力な怪人が複数に加えて得体のしれない気が潜んでおりきわめて危険です。人質を助けに行く作戦で、味方の救出作業まで増やすのはごめん被りたい。」

 

穏やかな口調だったが、内容には遠慮がなかった。

そのまま、S級ヒーローたちの方を振り返り嫌らしい笑みのまま。

こう言い放った。

 

「雑魚に用はありません」

 

空気が一段硬くなる。 アトミック侍の口元がわずかに歪んだ。以前なら自分も同じように反発していただろう。しかし、刀を抜くどころか触れる前に奪われた経験がある。あの時の屈辱を思い出せば、今ここで不用意に口を挟む気にはなれなかった。 フラッシュは違う。彼はまだ、フリーザの速度を真正面から知らない。

 

「随分と大きく出たな」

 

「事実を申し上げただけです」

 

「そうね。雑魚、多いし」

 

「突入チームは少数精鋭。雑魚は雑魚だけ相手にしてほしい…わかるかな」

 

横からタツマキとアマイマスクが当然のように同意した。 何人かの視線が一斉にそちらへ向く。タツマキは腕を組んだまま眉を上げた。

 

「何よ。地下に入って足手まといになるくらいなら、地上で避難誘導でもしてた方が役に立つでしょ」

 

アマイマスクも遠くを見ながらけだるそうに言う。

 

「すぐくたばってくれるなら問題ないんだけどね」

 

フラッシュから鋭い殺気が漏れた。

 

「何? やる?」

 

タツマキもすぐに睨み返す。

 

「ちょっと待て!」

 

今度はナリンキが机を叩いた。

 

「今は私の息子が危険なんだぞ。何を勝手な条件を付けている! ヒーロー協会は私の出資でどれだけ――」

 

 

「ああ、それですか」

 

フリーザが軽く遮った。

 

「出資を止めたければ、止めればよろしい」

 

「……何?」

 

「お好きにどうぞ」

 

ナリンキの顔が固まる。

 

「お前は、協会の運営がどうなるか分かっているのか?」

 

「ヒーロー協会の運営ですか? 知りません」

 

フリーザは肩をすくめた。

 

「わたくしが経営しているのはフリーザ・コーポレーションですから。こちらは怪人討伐、民間警備、技術開発、不動産、宇宙関連事業、広告と、非常に順調です。最近は世間の評判も悪くありません」

 

笑みを浮かべたまま、指を一つずつ折っていく。

 

「ムカデ長老の討伐。宇宙船事件への対応。怪人の同時殲滅。弊社所属ヒーローの活動実績。結果を積み上げているうちに、どちらへ依頼する方が早いか、世間も少しずつ理解し始めているようですよ」

 

セキンガルは反論しなかった。 できなかった、と言った方が正しい。フリーザ・コーポレーションの実績は、協会内部でも無視できない規模になっていた。サイタマは急速に順位を上げ、ジェノスも成果を出している。タツマキまで入社し、一般人にとてつもない人気を誇るアマイマスクが広告塔を務めている。何より、ヒーロー協会のヒーローよりも到着が圧倒的に早いので被害が出ずらい。どちらが人々の支持を得るのか…いうまでもないことであった。

 

「ですから、献金を止めたければどうぞ。少なくとも、わたくしたちは困りません」

 

ナリンキは顔を赤くしたが、言い返せなかった。金が通じないだけではない。目の前の相手は、その気になれば金とはまったく別の意味で協会そのものを揺るがせる。 フリーザはそんな彼を数秒見たあと、少しだけ声を和らげた。

 

「もっとも、人質についてはご安心ください」

 

「何?」

 

「すでに一人、向かわせています」

 

会議室の何人かが黙った。 ジェノスとタツマキはすぐに察した。アマイマスクもわずかに眉を動かす。サイタマがこの場にいない理由は、それしかない。

 

童帝が端末を操作しながら尋ねる。

 

「…誰を送ったの?」

 

フリーザはスカウターに触れた。大型モニターの映像が切り替わり、少し揺れるカメラ映像が映し出される。 Z市の廃墟。地下への入口。そして、緊張感のない男の声。 サイタマだった。

 

『ここ?』

 

「そこです」

 

『狭いな』

 

「必要なら壊しても構いませんよ」

 

『建物代は?』

 

「かかりません。遠慮なくどうぞ」

 

『そっか』

 

会議室の何人かが何とも言えない顔をした。 画面の端から見張りの怪人が飛び出す。

 

『何者だ!』

 

『あ』

 

サイタマが振り返った次の瞬間、映像が少し揺れた。怪人は消えた。 二体目が逃げようとしたが、サイタマが軽く手を伸ばしただけで壁へめり込み、血の塊となった。

 

『じゃ、行ってくる』

 

サイタマが地下へ入ると、映像が一気に暗くなった。

 

「頼みます」

 

『終わったら飯な』

 

「構いませんよ」

 

『焼肉どう?』

 

「無事に人質を連れて戻れば」

 

『よし』

 

通信が切れた。 静まり返った会議室を、フリーザが見回す。

 

「これで人質救出の先行要員は確保しました。異論は?」

 

誰もすぐには答えなかった。 サイタマの実力を十分知らない者にとって、今の映像は怪人を二体処理しただけに見える。それでも、位置を特定したこと。あのフリーザが、あの男へ向けている信頼だけは異常なほど明確だった。

 

そして、フリーザ自身の力なら、この場の多くがすでに知っている。 宇宙船を一撃で破壊し、ボロスを圧倒し、ムカデ長老をまともに戦わせることすらなく消した。そんな男が、自分ではなくサイタマを先行させた。

 

意味を考えれば、軽く扱える話ではなかった。 クロビカリは腕を組んだまま黙っていた。自分の肉体には絶対の自信がある。しかし、宇宙船事件でフリーザが気を解放した時、筋肉という尺度が意味を失う感覚を味わっている。 ただ一人、フラッシュだけは納得していなかった。

 

「俺は――」

 

「雑魚は黙ってなさい」

 

タツマキが先に切った。 室内の空気が凍る。 フラッシュの顔は動かなかったが、殺気だけが鋭くなる。普通の人間なら、それだけで身体が竦んだだろう。

 

「何? 文句ある?」

 

「放っておきなさい、タツマキさん」

 

立ち上がり、タツマキ、ジェノス、アマイマスクの順に視線を向ける。

 

「タツマキさん、ジェノスさん、アマイマスクさん。あなた方は先に行きなさい。入口は別々に設定したものをスカウターで送信してあります。地下で適宜合流してください」

 

「了解した」

 

「分かったわ」

 

「…わかった」

 

ジェノスとタツマキは即座に動いた。 アマイマスクだけがフリーザを一度見た。不本意な契約関係は今も変わっていない。それでも作戦そのものには合理性がある。

 

三人が会議室を出ようとした時、フラッシュが立ち上がった。

 

「待て」

タツマキは振り返りもしない。

 

「何?」

 

「誰がお前たちだけで行かせると言った」

 

「あんたは来なくていい」

 

フラッシュの殺気が弾けた。 次の瞬間、姿が消える。 タツマキの前へ回り込もうとした――はずだった。 その肩へ、白い手が置かれた。

 

フラッシュの身体が止まる。 右肩に手を置いたフリーザが、いつの間にか隣へ立っていた。移動した瞬間は見えなかった。

 

「お待ちなさい」

 

フラッシュが目だけを動かす。

 

「離せ」

 

「いけません」

 

「邪魔をするな」

 

「伝わらないようですね。猿でもわかるように言いましょうか?」

 

フリーザは穏やかな笑顔を崩さない。 アトミック侍が椅子へ座ったまま口を開いた。

 

「フラッシュ。やめとけ」

 

「何?」

 

アトミック侍は腰の刀へ軽く手を置いた。

 

「そのままの意味だ」

 

それ以上は説明しなかった。 以前、自分も同じことをした。フリーザを強者と認めず、刀へ手を伸ばした。そして気づいた時には、自分の刀が相手の手にあった。 あの感覚を経験しているからこそ、止める。 しかし、フラッシュは知らない。 フリーザが肩から手を離す。

 

「弱い方に出番はありません」

 

フラッシュの目が変わった。 閃光脚。 蹴りがフリーザの頭部へ走る。 空を切った。

 

「!」

 

フラッシュの視線が左右へ走る。上を見る。

 

「どちらを見ているのです?」

 

背後から声がした。 振り返ると、フリーザは一メートルほど後ろで腕を組み、楽しそうに立っている。 フラッシュは即座に距離を取った。壁へ跳び、足が触れた瞬間にさらに加速する。 その背中に何かが当たった。 人だった。 振り返る。

 

「これはこれは。お久しぶりで…」

 

フリーザがいる。 フラッシュはもう一度消えた。 天井、柱、壁、机の脇。狭い会議室の中を超高速で飛び回り、何十もの残像を作る。童帝の追跡カメラが一瞬でエラーを吐いた。

 

「速い……」

 

クロビカリも目を細める。 それでもフリーザは、毎回そこにいた。 フラッシュが足を着く瞬間には背後に立っている。

 

「こんにちは」

 

次の位置にもいる。

 

 

「またお会いしましたね」

 

さらに次。

 

「悪くない速度です」

 

フラッシュが会議室中央へ着地した時、呼吸はほんの少しだけ変わっていた。 背後にいるフリーザの呼吸は変わらない。

 

そこで初めて、フラッシュは理解し始めた。 偶然ではない。先読みでもない。 純粋な速度で、自分の先へ回られている。

 

「あなたはスピードに自信がおありのようですが…」

 

フリーザの笑みが少しだけ嫌な形になる。

 

「ちょっとスピード上げたらもうついてこられないようですね」

 

フラッシュは歯を食いしばり、刀へ手を伸ばした。 何もない。 腰を見る。 鞘ごと消えていた。

 

「……?」

 

顔を上げる。 数メートル先で、フリーザが刀を手にして眺めていた。刃を抜きもしない。ただ、珍しい玩具を観察するように鞘へ指を滑らせている。

 

「ふむ」

 

フラッシュの背筋が冷えた。 いつ奪われた。 肩を掴まれた時か。背後へ回られた時か。それとも、もっと後か。 分からない。

 

「この星では、このタイプ武器が流行っているのですか?」

 

フリーザがアトミック侍を見る。 アトミック侍は目を閉じた。

 

「だから、やめとけって言ったんだ」

 

フラッシュは何も言えなかった。 フリーザが刀を軽く投げる。反射的に受け取ると、柄を握った手がわずかに震えた。

 

「お返しします」

 

速度はフラッシュにとって、単なる得意分野ではない。自分が他者より上に立つ最大の根拠の一つだった。 そこを完全に上回られた。

 

「ご自慢のスピードも、残念ながら全く通用しないという事が分かりましたね」

 

フリーザの口元が上がった。 次の瞬間、空気が変わった。 変身はしていない。攻撃もしていない。 ただ、気の一部を解放しただけだった。

 

最初に音が遠くなったように感じた。次に圧力が来る。重力が増したわけではないのに、全身を上から押さえつけられるような感覚が広がり、床と壁が低く軋んだ。

 

童帝の端末が赤い警告を一瞬表示し、そのまま画面を落とす。 クロビカリが無意識に脚へ力を入れ、全身の筋肉を緊張させた。ぷりぷりプリズナーの表情が引きつり、セキンガルとシッチは椅子から動けない。ナリンキの顔からは完全に血の気が引いていた。

 

出口近くまで進んでいたアマイマスクも足を止める。 地下駐車場で初めてフリーザの気を浴びた時のことを思い出していた。あの時でさえ車が滑り、ガラスが割れた。

 

今はそれ以上だ。 そして、それでも本気ではないことを彼は知っている。 タツマキも背中へ汗が滲むのを感じた。一週間、毎日のようにフリーザと修行したからこそ分かる。

 

今出している力は全体のほんの一部だ。 理解できるようになった分だけ、以前より怖かった。 会議室の中央で、フラッシュだけがフリーザと向き合っている。

 

—————————死

 

脳裏によぎる鮮烈でいて明確な予感。本能が動くなと命じていた。 いや、予感ではなく、ほとんど確信だった。 フリーザの赤い目がフラッシュを見る。

 

「これで、理解できましたか?」

 

フラッシュは答えなかった。 ただ、滝のように流れた汗が刀を抜かせなかった。 それで十分だった。 フリーザが気を収めると、空気は一瞬で元へ戻った。何人かが同時に大きく息を吸い、ナリンキは力が抜けたように椅子へ座り込む。 童帝は端末を再起動し、小さく呟いた。

 

「……計測不能」

 

フリーザは何事もなかったようにタツマキへ視線を戻した。

 

「早く行きなさい」

 

「分かったわよ」

 

今度のタツマキは反論しなかった。

 

「行くぞ」

 

ジェノスが促し、アマイマスクも黙って続く。三人はそのまま会議室を出ていった。 フラッシュは追わない。 フリーザは窓へ向かいながら、最後に残った面々を振り返った。

 

「それでは皆様は、地上でゆっくりミルクでも飲んでいてください」

 

アトミック侍の口元が少し動いた。 フラッシュの眉も跳ねたが、今度は何も言わない。

 

 

「彼氏たちを頼む」

 

「…善処します」

 

ぷりぷりプリズナーだけが妙な方向から応援した。フリーザは一応答えた後、窓を開ける。 その背中へ、セキンガルが声をかけた。

 

「フリーザ」

 

「何でしょう」

 

「人質を頼む」

 

フリーザは一瞬だけ振り返り、軽く頭を下げた。

 

「お任せください」

 

「頼む」

 

窓の外へ浮いたフリーザへ、今度はシッチが問いかける。

 

「本当に、お前たちだけで行くつもりか?」

 

フリーザは笑った。

 

「もちろんです。」

 

そう言い残し、一瞬で姿を消した。

 

会議室には、しばらく誰も口を開かない時間が残った。 フラッシュは腰の刀へ何度も触れた。 今はそこにある。 だが、奪われた感覚が一切ない。まるで最初から自分が持っていなかったかのようだった。

 

「……」

アトミック侍が横目で見る。

 

「分かったか」

 

「何がだ」

 

「俺がやめとけって言った理由だ」

 

フラッシュは答えない。 アトミック侍も、それ以上は言わなかった。同じ種類の屈辱を味わったからこそ、今は少しだけ分かる。 クロビカリは自分の腕を見た。ようやく筋肉の震えが止まり始めている。

 

「S級五位、か」

 

小さく呟く。

 

「順位って、意味あるのか?」

 

童帝は再起動した端末を見ながら答えた。

 

「…少なくともフリーザに関しては、通常の評価軸が使えなさそうだね」

 

ナリンキは黙っていた。 さっきまで献金を盾にしていたことが、急に馬鹿らしく思えてくる。金で脅せる相手ではなかった。 シッチが椅子の背へ身体を預ける。

 

「……恐怖で征服された気分だな」

 

「協会本部でそれを言わないでください」

 

セキンガルは苦笑したが、否定はできなかった。 フリーザは誰とも本格的に戦っていない。誰も殺していない。ただ条件を提示し、反対した相手へ速度を見せ、最後に気を一度解放した。

 

それだけで会議を自分の望む形へ変えた。 恐怖によって相手を従わせることを征服と呼ぶのなら、確かに帝王らしいやり方だった。

 

一方、Z市地下。

 

『右って言ったよな』

 

『はい』

 

『行き止まりなんだけど』

 

通信越しにサイタマの平坦な声が響く。 空を飛びながら位置情報を確認したフリーザは、わずかに目を細めた。

 

『壁を壊してください』

 

『最初からそう言えよ』

 

直後、映像の中で壁が消えた。 奥にいた怪人十体ほどが一斉に振り返る。

 

「あ」 サイタマがそう言った次の瞬間には、怪人たちは全員いなくなっていた。

 

『通れた』

 

『結構です。そのまま奥へ進んでください』

 

別の入口ではタツマキが地下へ降り、ジェノスが推進器を噴かしながら続く。アマイマスクも別ルートから内部へ侵入していた。

 

上空からZ市を見下ろすフリーザは、地下へ意識を伸ばす。 サイタマの異常なほど静かな気配。タツマキ、ジェノス、アマイマスク。そして無数の怪人。 その奥にはオロチ。 さらに深い場所に、あの濁った邪念がある。 昨夜より、少しだけ強くなっている。

 

「さて」

 

フリーザは笑った。

 

「何が出てくるのでしょうね」

 

怪人協会最深部では、封印された装置が低く脈打っていた。 どくん、と一度。 周囲の空間がほんの一瞬だけ、四角い輪郭を描くように歪む。 ギョロギョロはそれを見つめ、低い声を漏らした。

 

「来た」

 

怪人王オロチが暗闇の中で目を開く。

 

「フリーザだな。」

 

地上では白い影が地下へ向かって降下を始めていた。 昨日まで、ヒーロー協会の中にはまだ、宇宙船を一撃で破壊した話を誇張だと思う者もいた。ムカデ長老を瞬殺したのは相性が良かったのではないか、ボロスを圧倒したのも何か条件があったのではないか。そう考える余地を残していた者もいる。

 

今日、その余地はほとんど消えた。 S級五位という数字は、協会が便宜上付けただけの記号にすぎない。 少なくとも、あの帝王を測る物差しとしては役に立たない。

 

フリーザ本人は、そんな評価には興味がなかった。 今考えているのは、地下の奥で昨日から感じている妙な気配のことだけだった。 もし強いのであれば、少しくらいは楽しめるかもしれない。

 

「ほっほっほっ」

 

小さな笑い声を残し、白い影はZ市の地下へ消えていった。

 

 

 

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