フリーザ、ヒーローになる ~宇宙の帝王がワンパンマン世界に墜ちた結果~   作:&劉

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第二十一話 M1307 木星消滅

 

戦いは単純な出力だけで決まるものではない。視線が一瞬遅れた、重心を戻すのが半歩遅れた、攻撃を見てから判断しようとした――強者同士なら、ほんの少しの差がそのまま致命傷になる。 タツマキは、この一週間でそれを嫌というほど思い知らされていた。

 

Z市上空。サイコスとオロチが融合した巨体から、ビルほど太い触手が何本も伸びる。先端が赤紫に光り、光線が四方からタツマキを射抜こうとした。

 

一発目だけは見た。頬の横を抜ける。二発目からは見ない。背後で空気が押される感触を拾い、身体を数十センチ滑らせる。三発目は死角から来たが、肩に触れる風圧が変わった瞬間にはもう避けていた。

 

「遅い!」

 

振り向くより早く右手を握る。念動力が一点で炸裂し、サイコス・オロチの巨大な顔面が横から押し潰された。

 

「ぐっ……!」

 

巨体が傾く。タツマキは追撃を止めなかった。 以前なら、もっと力任せだった。圧倒的な念力で持ち上げ、捻り、潰す。それだけで大抵の敵は終わったから、細かな技術など必要なかった。 だが、フリーザには一発も当たらなかった。

 

目を閉じたまま、岩が触れる瞬間だけ気を爆発させ、その直後には消す。背後から何百発飛ばしても、風、地面、空気、殺気の揺れだけで位置を読む。何度繰り返しても無駄だった。 腹が立った。だから覚えた。

 

「右から来るぞ!」

 

サイコスの声と同時に、触手が死角から迫った。タツマキは振り返らず身体を沈め、頭上を通過した瞬間に根元を念力で掴む。

 

「今度は私の番!」

 

触手を捻り上げ、その力を巨体全体へ通した。オロチの肉体が空中で大きく回転し、サイコスの顔が歪む。

 

「な……!」

 

「落ちなさい!」

 

腕を振り抜く。サイコス・オロチは地上へ叩きつけられ、Z市が大きく揺れた。道路が沈み、瓦礫が跳ね、巨大なクレーターが広がる。 再生が始まる。だが、それよりタツマキの方が速い。

 

「悪いけど、今の私――前よりちょっと強いのよ」

 

右手を胸の前で握った。 念動力を広げない。中心部だけへ絞り込む。フリーザが気を一点へ集中させる時と同じ発想で、サイコス・オロチの核を内側から圧縮した。

 

鈍い爆発音が鳴り、巨体の中央が内側から弾ける。再生しようとした肉をさらに捻り、骨も触手もまとめて巨大な塊へ変え、そのまま圧縮する。

 

「終わり」

 

最後に拳を握り込んだ。 巨大な肉塊が一気に縮み、爆散した。 しばらくして、タツマキは空中に浮いたまま残骸を見下ろした。額には薄く血が流れ、左腕には裂傷がある。腹部にも痛みは残っていたが、致命傷には程遠い。 思ったより余裕があった。

 

相手が弱かったわけではない。むしろ融合後のサイコス・オロチは、以前想定していたより遥かに強かった。それでも押し切れた理由を考えれば、認めたくない答えが一つしかない。

 

「……あいつのおかげって認めるの、すっごく嫌ね」

 

小さく呟いたものの、口元はわずかに上がっていた。 その時、遥か向こうで黄金の光と赤黒い邪念が激突した。 タツマキは顔を上げる。こちらの戦いが終わっても、最も危険な二つの戦場はまだ終わっていなかった。

 

覚醒したガロウは、繁華街でフリーザに一方的に叩きのめされた頃とは別人だった。筋肉は必要以上に膨らまず、むしろ無駄が削ぎ落とされている。それでも一挙手一投足の重さは以前とは比較にならない。

 

拳がサイタマの顔へ伸びる。サイタマが首を傾けてかわすと、ガロウは止まらず肘を腹へ送り、その腕を下げられた瞬間には関節を取る動きへ切り替えた。 サイタマが軽く腕を振る。 ガロウの身体が吹き飛ぶ。それでも空中で回転して着地し、間を置かず踏み込んだ。

 

「結構強くなったな」

 

サイタマが少し感心したように言った。 ガロウは答えない。赤黒い邪念に覆われた瞳には正気がほとんど残っていなかったが、武術だけは消えていない。むしろ、技そのものは以前より研ぎ澄まされていた。

 

サイタマが軽い拳を放つ。ガロウは両腕で受けた瞬間に力を横へ流し、身体を回転させて背後へ滑り込む。そのまま蹴りを後頭部へ叩き込んだ。 サイタマが数メートル地面を滑る。

 

「お。今の結構うまいな」

 

ガロウは低く唸った。

 

「フリーザ……」

 

「あ、俺じゃないの?」

 

返事代わりに拳が来た。 速度も技術も、もう並のS級で追える領域ではない。それでも勝負の流れは一貫してサイタマ側にあった。ガロウがどれほど技術を重ねても決定打にはならず、サイタマが少し強めに返すだけで大きく吹き飛ばされる。 そして何度倒されても、ガロウは立った。

 

「しぶといな」

 

サイタマは小さく息を吐き、拳を握り直した。

 

「でも、このままなら終わるな」

 

同じ頃、ゴールデンフリーザとスーパージャネンバの戦いはさらに激しさを増していた。 ジャネンバが空間を四角い断片へ分解して消える。フリーザは視線ではなく気配を読む。背後へ現れた瞬間に振り向き、拳同士を正面からぶつけた。 黄金と赤黒い邪念が衝突し、上空の雲が円形に吹き飛ぶ。

 

ジャネンバは赤い結晶のような剣を生成して振り抜く。フリーザは前腕へ気を集中させ、刃を肘で横から叩く。 フリーザの表情が一瞬だけ険しくなり、すぐに笑みへ変わった。

 

「なるほど!」

 

膝を腹へ叩き込み、折れた巨体の顎へ拳を入れる。ジャネンバが宙へ浮いたところを追い、背後へ回って踵を振り下ろした。 地面へ叩き込まれたジャネンバが、今度は周囲の空間そのものを無数の四角へ砕いた。 同じ姿が何十もの場所へ現れる。 分身ではない。空間を折り畳み、存在する位置をずらしている。

 

「面倒ですね」

 

フリーザは右手を広げ、全方向へ無数のデスビームを放った。赤い光線が空を網のように埋め、偽の位置を次々に消していく。 一発が本体の肩を貫いた。 フリーザはその一点へ飛び込んだ。 拳、膝、尻尾、掌底、気弾。再生の隙を与えない連撃が続き、ジャネンバの肉体が何度も歪む。

 

邪念そのものの量は膨大だった。しかし、それを肉体として維持するには力を使い続けなければならない。一方のフリーザは、この一週間で逆の方向へ進化していた。平時は抑え、必要な瞬間にだけ出す。戦闘が長引くほど無駄の差が開く。

 

「弱点が見えましたね――!」

 

最後の掌底が腹へ突き刺さり、黄金の気が内部で爆発した。ジャネンバの身体が大きく吹き飛び、地面を削って止まる。 立ち上がろうとする動きは、明らかに重くなっていた。 フリーザは腕を組む。

 

「そろそろ終わりでしょうか」

 

遠くでは、サイタマもガロウを見ながら同じようなことを考えていた。 その瞬間、世界が変わった。

 

白い光が空から降りてきた。 太陽光とは違う。明るいのに温かくなく、見ているだけで本能の奥を嫌なものに触られる感覚がある。 フリーザが顔を上げる。サイタマも止まり、ガロウとジャネンバまで光の中心を見た。

 

「……何です?」

 

フリーザの笑みが消える。 光の奥に、人のようで人ではない巨大な影が浮かんでいた。顔は判然とせず、宇宙そのものが形を取ったような輪郭だけが見える。 影は二本の手を差し出した。 一つはジャネンバへ。 もう一つはガロウへ。

 

「ビルス様……ではありませんね。シャンパ様でもない」

 

フリーザの目が細くなる。 破壊神の気ではない。もっと遠く、もっと嫌な何かだった。世界の外側からこちらを覗いているような感覚がある。

 

「誰だ、あれ」

 

サイタマの問いに答えられる者はいない。 ジャネンバは差し出された手を見て、迷わず笑った。

 

「ヒャハハ……」

 

手を取った瞬間、光が爆発する。 一方のガロウには、僅かに正気が残っていた。近づく手を見た瞬間、本能が拒絶した。

 

「……触るな」

 

腕を振って払う。 しかし、指先がほんの一瞬触れた。 それだけで十分だった。

 

「ぐああああああああ!」

 

光がガロウの身体へ流れ込み、叫びがZ市の空を震わせる。

 

「まずいですね」

 

「うん」

 

サイタマが珍しく即答した。 光が消えた時、二体の姿は変わっていた。 ジャネンバの赤かった肌がひどくくすみ、もはや紫に。額にXのような交差する線が走る。目から瞳が消え、邪念の密度は先ほどまでとは桁が違う。

 

ガロウの身体には、宇宙のような模様が広がっていた。皮膚の上を銀河と星々が流れ、周囲の空間そのものが拳の近くで歪んでいる。なにがどうなったのか。どう変わったのか。誰にもわからない。 ただ、危険だけは全員が理解した。 二人が同時に動く。

 

「避け――」

 

フリーザが言い終える前に、ガロウの拳とジャネンバの斬撃が交差した。 周囲十数キロが消えた。 ビルも道路も岩盤も、巨大な円形の空白へ変わる。遠くのタツマキは即座にバリアを全開にしたが、それでも数百メートル吹き飛ばされた。ジェノスは地面へ指を食い込ませ、アマイマスクは瓦礫を盾にする。 中心にいたフリーザとサイタマも大きく後退した。 フリーザは口元から流れた血を指で拭い、目を細める。

 

「ほう……」

 

サイタマは頬へ触れた。表情がいつもより険しい。

 

「これ、地球持たないぞ」

 

「私は構いませんが」

 

「俺は構う」

 

珍しく額に汗が浮いていた。 その時、空間に円形のゲートが開いた。黒と青の光が渦を巻き、長身の男が飛び出してくる。S級一位のブラストだった。

 

「誰、このおっさん」

 

「自己紹介は後だ」

 

フリーザがブラストを見る。

 

「お知り合いですか?」

 

「知らん」

 

ブラストは一瞬だけ二人を見て驚いたが、すぐに敵へ視線を戻した。

 

「ここでは戦うな。この出力で続けたら地球が持たない」

 

「それはこちらも――」

 

フリーザが言い終える前に、極悪化したジャネンバが巨大な剣を振り上げた。 赤黒い斬撃が大地へ向かう。地表を割るどころではない。星の中心まで届きかねない威力だった。

 

「まずい!」

 

ブラストが両手を広げる。四人の足元へ巨大なゲートが展開し、フリーザ、サイタマ、ガロウ、ジャネンバをまとめて包んだ。

 

「飛ばす!」

 

「どこに!?」

 

サイタマの問いに答える前に転移が発動した。 世界が一瞬だけ無音になる。 次に見えたのは、暗い宇宙と巨大な縞模様の惑星だった。

 

「これは…どちらですか?」

 

「…宇宙?」

 

サイタマが呟く。 ブラストは少し息を荒くしながら言った。

 

「木星だ。ここなら、地球よりはまだ被害を抑えられる」

 

「この星はどうなっても?」

 

フリーザの問いに、ブラストが一拍だけ黙った。

 

「……できれば守ってくれ」

 

「無理そうだぞ」

 

サイタマが即答した。 ブラストは本当にそう思い、一瞬だけ顔をしかめた。

 

「俺は地球へ戻る。まだやることがある。こっちは頼んだ」

 

「逃げるのですか?」

 

「地球を守るために戻るんだ」

 

「勝手だな」

 

サイタマはそう言ったが、止めなかった。 ゲートが閉じた直後、ジャネンバが笑った。

 

「ヒャハハハハハ!」

 

右手の指が真っすぐに光る軌跡を描く。

まるで空間に切れ目を入れるような―――――

 

「……これは!!」

 

フリーザが目を細めた瞬間、切れ目が裂け、数多の雷光が飛び出した。 サイタマとフリーザは左右へ飛ぶ。避けられた雷光はそのまま木星の表層へ直撃した。 一瞬の静寂。

 

次の瞬間、巨大なガスの層が爆発的に膨張し、雲が何千キロも抉れた。木星の三分の一に届こうかという範囲が大きく崩れ、内部の高圧層まで露出する。 サイタマが口を開けた。

 

「……」

 

フリーザも目を見開いた。

 

「これは、とんでもないですね」

 

その背後から声がした。

 

「よそ見すんな」

 

振り向くには遅い。 宇宙的な姿へ変わったガロウの拳がフリーザの顔へ直撃した。 黄金の身体が何千キロも吹き飛び、木星の大気深くへ突っ込んだ。

 

木星の表層――正確には、厚い大気と高圧の雲を吹き散らした、そのさらに深部。 四人の戦闘によって周囲のガスは消え、超高圧の物質層が地面のように露出していた。先ほどフリーザが叩き込まれた場所には、直径数百キロに及ぶ巨大な窪みができている。 そこへ黄金の光と黄色い影が降りた。 フリーザとサイタマだった。 二人が足をつけるだけで地表がわずかに沈む。

 

「さすがに結構飛ばされたな」

 

サイタマが周囲を見た。 フリーザは答えず、上空のガロウとスーパージャネンバを睨んでいる。 次の瞬間、ガロウが消えた。 真正面から拳が来る。 速い。Z市で戦っていた時とは、もう同じ人物と思えない。 フリーザは右腕を上げて受けた。 轟音とともに足元から地表が円形に砕け、何十キロも沈む。ガロウは止まらず、左右の拳、膝、肘、回し蹴りを繋げる。 流水岩砕拳と旋風鉄斬拳。さらに、既存の技では説明できない動きまで混じっていた。 宇宙的恐怖によって得た異常な模倣能力が、一撃ごとにフリーザの動きを学習し、次へ反映している。

 

「フリーザァ!」

 

右拳をフリーザが首を傾けてかわす。拳圧だけで背後の地表が数十キロ削れた。 左脚は前腕で受ける。足場が崩壊する。 続く掌底を半身で外し、そのまま手首を掴んだ。

 

「調子に――乗らないで――ください!」

 

引き寄せながら膝を腹へ叩き込む。 ガロウの身体がくの字に折れた。 だが、吹き飛ばない。 踏ん張った。 フリーザの目がわずかに開く。

 

「ほう」

 

ガロウは口元から血を流しながら笑った。

 

「それだけか?」

 

フリーザの笑顔が消える。 次の瞬間、姿も消えた。

 

「あなた、本当に――」

 

背後から拳が入る。

 

「人を苛立たせるのが――」

 

前へ吹き飛んだガロウの正面へ、もうフリーザがいる。

 

「お上手ですね!」

 

顔面へ拳。腹へ追撃。胸へ掌底。顎へ蹴り。脇腹へ尻尾。 一発ごとに完全な直撃だった。 繁華街でガロウを一方的に痛めつけた夜を思い出す。ただし、今は違う。あの時は反撃を警戒する必要すらなかった。今は少しだけ本気で受け、かわし、打ち返さなければならない。 その事実が、腹立たしいのと同時に少し楽しかった。

 

「どうしました! 以前より、ずいぶん立派になったではありませんか!」

 

最後に両拳を組み、頭上から振り下ろす。 ガロウが木星の表層へ叩き込まれ、巨大なクレーターがさらに拡大した。 フリーザは上空から見下ろす。

 

「しかし、まだわたくしを倒すには百年ほど早いですね」

 

クレーターの底でガロウが立ち上がった。身体は揺れている。口から血も流れていた。

 

「終わりですか?」

 

フリーザが降下し、追撃の拳を引く。 そこでガロウの構えが変わった。 少し離れた場所にいたサイタマが気づく。

 

「あ」

 

ガロウの身体から、武術家らしい複雑な構えが消えた。 ただ拳を出すためだけの、何でもない姿勢になる。 サイタマと同じだった。

 

「モード――サイタマ」

 

ガロウが拳を出す。

 

「普通のパンチ」

 

フリーザの顔面へ直撃した。 黄金の身体が弾丸のように吹き飛び、木星表面を何度も跳ねる。一度接触するたび何十キロも抉り、数百キロ先でようやく止まった。

 

「……何?」

 

フリーザの顔に明確な驚愕が浮かぶ。 知っている拳だった。月で何度も受けた、サイタマの普通のパンチ。 完全ではない。それでも極めて近い。

 

「まさか……」

 

顔を上げた時には、ガロウがもう目の前にいた。

 

「驚いたか?」

 

拳が連続で来る。 フリーザは両腕を上げる。

 

「連続――マジ殴り!」

 

打撃の雨が降った。 一発目で後退。二発目で腕が弾かれる。三発目が胸へ、四発目が腹へ、五発目が顔へ入る。 六、七、八。 視界が拳で埋まる。

 

「ぐっ……!」

 

フリーザから初めて声が漏れた。 最後にガロウが腰を捻り、最大の右を振り抜く。

 

「マジ殴り!」

 

轟音。 フリーザは完全に吹き飛ばされた。黄金の光が木星の表面を一直線に走り、地平線の向こうへ消える。

 

「あいつ、俺の真似してる」

 

サイタマが少し驚いた声を出した。 ガロウは荒い息を吐き、今度はサイタマへ視線を向ける。

 

「次は、お前だ」

 

「俺?」

 

返事をする前に空間が歪んだ。 スーパージャネンバが高笑いとともに現れる。

 

「ヒャハハハハハ!」

 

身体が無数のキューブへ分かれ、上空で再構築された。赤黒い剣が振り下ろされる。 サイタマは跳んだ。 羅刹爪の斬撃が木星表面を数百キロ裂き、深部まで巨大な断層を作る。

 

「危な」

 

ジャネンバは消え、背後へ現れて二撃目を振った。サイタマは身体を横へずらし、赤黒い刃を紙一重でかわす。数センチ横を通った斬撃だけで木星の大気が帯状に裂け、遠くの高圧層まで深い傷が走った。サイタマは頬へ手をやったが、まだ傷はない。

 

「今のは危なかったな」

 

ジャネンバは答えず、身体を無数の四角へ分解して消えた。次は上空、その次は地表すれすれ、さらに背後へと位置を飛ばし、赤い結晶剣と気弾を交互に叩き込んでくる。サイタマはその全てを避けきっていたが、先ほどまでより明らかに手数が増えていた。

 

「面倒だな、こいつ」

 

サイタマが拳を握り直した、その時だった。遠くの地表で黄金の光が立ち上がる。フリーザだった。手を地面へ押し当て、その反動だけで一気に立ち上がる。口元には一筋の血。胸にも肩にも傷が残っている。だが、それ以上に目についたのは表情だった。

 

親指で血を拭い、その赤をしばらく見つめる。口元だけが、ゆっくり吊り上がった。

 

「……久しぶりですよ」

 

「何が?」

 

サイタマが聞く。フリーザは答えず、ガロウとジャネンバを順に見た。笑っている。だが、その笑顔には楽しさがなかった。頬は引きつり、額には青筋が浮き、目だけがまるで笑っていない。

 

「このわたしをここまでコケにしたお馬鹿さんたちは…」

 

次の瞬間、その笑みが消えた。赤い瞳が鋭く見開かれ、歯を食いしばる。口元だけで笑っていた顔が一瞬で崩れ、額の青筋と剥き出しの怒気が、かつてナメック星でベジータ達を前に激昂した帝王を思わせた。抑えていた怒りが一気に表へ噴き出す。

 

「絶対に許さんぞ虫けらども!! じわじわとなぶり殺しにしてくれる!!!」

 

黄金の気が爆発した。フリーザの身体がさらに膨れ上がる。肩、胸、腕、脚。かつて最終形態で百パーセントへ引き上げた時のように筋肉が盛り上がり、その全てを黄金が覆った。単なるゴールデンではない。今の制御技術の上へ、かつてのフルパワーを無理やり重ねた姿だった。

 

フルパワー・ゴールデンフリーザ。その瞬間、木星の残った大気が押し退けられた。足元の高圧層が数百キロ単位で沈み、黄金の気だけで周囲の雲が消えていく。

 

サイタマの表情からも、わずかに気の抜けた色が消えた。

 

「おい。それ、さっきよりかなり――」

 

言葉の途中で、フリーザが消えた。

 

サイタマの目が動く。一瞬だけ、追えなかった。次に見えた時には、フリーザは元の場所に立っていた。何が起きたのか分からなかったのは、ガロウも同じだった。

 

遅れて轟音が来る。ガロウの身体が突然、数百キロ先まで吹き飛んだ。

 

「――ッ!?」

 

胸の中央が陥没している。何かに殴られた。そう理解できたのは、衝撃音が耳へ届き、自分の身体が木星表面を何度も跳ねた後だった。

 

ガロウの視界に、殴り終えたフリーザの右拳がようやく残像として焼き付く。速い、では足りない。先ほどまでとは、力も速度も段階そのものが違っている。

 

「まず一匹」

 

フリーザの視線がジャネンバへ移る。ジャネンバは本能的に身体を分解した。赤黒い肉体が無数のキューブへほどけ、亜空間へ沈む。これまでフリーザもサイタマも、その移動そのものへ直接追いつくことはできなかった。

 

だが今度は違った。ジャネンバが数百キロ先で再構築を始める。その場所には、すでに黄金の影がいた。

 

「逃げたつもりか?」

 

ジャネンバの目が見開く。亜空間移動の仕組みを破ったわけではない。出口を予測したわけでもない。再構築が始まった瞬間、その距離をただの速度で踏み潰したのだ。

 

フリーザの蹴りが脇腹へ入る。身体がくの字に折れ、ジャネンバが弾丸のように飛ぶ。数百キロを一息に横切り、途中で慌てて空間を捻じ曲げ、ようやく急停止した。

 

その背後から、別の声がした。

 

「俺もいるぞ」

 

ジャネンバが振り向く。サイタマが拳を引いていた。

 

「マジ殴り」

 

フリーザの蹴りで内部まで揺らされ、亜空間移動の起動が一瞬遅れる。ジャネンバは咄嗟に身体をキューブへ分解した。

 

拳が届く直前。大半は逃げた。だが完全には間に合わない。マジ殴りの圧力が再構築途中の身体をかすめ、数十個の赤黒い断片がそのまま消し飛ぶ。遠方へ逃れたジャネンバが肉体を組み直した時、片肩から胸にかけて大きく欠けていた。

 

「またそれか」

 

サイタマが眉を寄せる。

 

「やっぱ面倒だな」

 

ジャネンバの顔が歪んだ。笑みが消え、代わりに赤黒い邪念が膨れ上がる。

 

神から流れ込んだ異質な力。それに、怪人協会の装置へ蓄積されていた大量の邪念が重なる。元から異常だった再生と空間操作へ、単純な攻撃力まで加わっている。

 

ジャネンバが両腕を広げた。赤い結晶剣が何本も生まれ、亜空間へ沈む。次の瞬間、サイタマの周囲へ出口が開き、全方向から刃が飛び出した。

 

「うわ」

 

サイタマが身体を捻る。一つ、二つ、三つ。拳で砕き、首を傾け、しゃがんで避ける。四本目が死角から来た。

 

肩口を斬撃がかすめる。

 

「っ」

 

サイタマが数歩滑った。指で肩へ触れる。赤いものが付いた。血だった。数秒、サイタマは自分の指を見た。

 

「……血、出た」

 

本人が一番驚いていた。夢の中で好き放題に暴れた怪人たちは別として、現実でここまで明確に自分へ傷をつけた相手は、フリーザ以来だった。

 

ジャネンバは止めない。上空へ無数の雷光が生まれる。ライトニングシャワー。煌めく閃光が雨のように降る。サイタマは走った。着弾するたび木星表面が数十キロ単位で消え、衝撃波が高圧層をめくり上げる。

 

一発を腕で弾く。二発を横へ避ける。三発目が背中へ直撃した。

 

「ぐっ」

 

前へ飛ばされたところへ赤い結晶剣が来る。サイタマは腕で受け、刃を砕いたが、その衝撃でさらに地表を滑った。

 

ジャネンバが亜空間から現れ、蹴りを腹へ叩き込む。サイタマの身体が浮いた。明確に効いている。

 

「おお……」

 

地面へ降りたサイタマは腹をさすった。

 

「痛いな、お前」

 

その声には、不満より先に別のものが混じっていた。

 

少しだけ、楽しそうだった。フリーザとの戦い以来、久しぶりにこちらの攻撃を受け止め、こちらにも痛みを返してくる相手がいる。

 

サイタマが腰を落とす。

 

「じゃあ、ちゃんとやるか」

 

そこから攻撃の質が変わった。一歩目が速くなる。

 

拳が重くなる。ジャネンバがキューブ化して逃げれば、再構築先へサイタマが先回りする。間に合わなければ、着地点そのものを拳圧で潰す。

 

最初はかわしていたジャネンバの表情が、次第に険しくなった。右。左。上。亜空間。どこへ逃げても、サイタマの拳が近づいてくる。

 

「ヒャ……!」

 

高笑いが途中で途切れた。サイタマの右拳が、ついに腹へ入る。完全な直撃。ジャネンバの身体が大きく潰れ、木星の地平線まで一直線に吹き飛んだ。

 

「お」

 

サイタマが拳を見る。

 

「当たった」

 

その一方で、クレーターの底からガロウが立ち上がっていた。身体は揺れている。

 

胸には先ほどの一撃の跡が残り、呼吸するたび血がこぼれる。それでも立った。フリーザが振り返る。

 

「思っていたよりずっと強いようだな、ちょっと驚いたぞ…だがオレにはかなわない」

 

ガロウが顔を上げる。

 

「ま、まだ……上があったのかよ」

 

先ほどまで、自分はサイタマの技を模倣してフリーザを押し込んでいた。

 

それでも、まだ奥があった。その事実が恐怖より先に、ガロウの闘争心へ火をつける。

 

「……へっ」

 

にやりと笑い、中指を立てるガロウにフリーザの顔が再び歪んだ。

 

「いちいち癇にさわるヤローだ!!」

 

消える。今度はガロウも完全に見失わなかった。見失わなかっただけだ。防げない。肋骨へ拳。顎へ蹴り。

 

背後へ回られ、肩へ掌底。ガロウの身体が飛ぶたび、フリーザはその進行方向へ先回りする。右へ飛べば右。上へ打ち上げられれば上。地面へ落ちる前には下。

 

逃げる方向そのものを選ばされている。反撃の隙がない。このままでは死ぬ。ガロウの中で、生存本能がそう判断した。

 

ならば。もっとも近くにいる、もっとも強い相手を写す。構えが変わる。

 

「モード――フリーザ」

 

フリーザの動きが一瞬だけ止まった。

 

ガロウの身体を覆っていた宇宙模様の上へ、黄金が走る。肩が膨らむ。腕が太くなる。気の循環まで、目の前のフリーザを模倣して組み替わっていく。

 

ゴールデン。さらにフルパワー。だが、サイタマの拳を写した時とは勝手が違った。今のフリーザは、変身だけでなく、全身の出力配分と瞬間的な気の圧縮まで同時に行っている。ガロウは構造そのものを理解できても、それを百パーセントへ持っていくまでには僅かな時間が必要だった。

 

六割。七割。八割。その間にもフリーザは来る。ガロウが腕を上げる。拳がぶつかる。木星の表面が円形に沈んだ。

 

先ほどなら、その一撃で終わっていた。今は耐える。ガロウは数十キロ後退しながら踏み止まり、フリーザへ蹴りを返した。

 

フリーザが前腕で受ける。初めて、フルパワーになってからのフリーザの身体が僅かに動いた。

 

「……ほう」

 

ガロウは笑う。

 

「追いつくぞ」

 

「…何?」

 

フリーザの尾がガロウの脇腹へ入り、黄金の模倣体が大きく曲がる。

 

「ぐっ……!」

 

それでも消し飛ばされない。コピーした出力が九割へ近づく。ガロウが拳を返し、フリーザも殴り返す。黄金と黄金が木星の上で激突する。

 

見た目だけなら、同格の二人が殴り合っているようにすら見えた。だが中身は違う。ガロウは追いつこうとしている。

 

フリーザは、追いつかれる前にさらに上から叩いている。サイタマが遠くからその光景を見る。

 

「今度はフリーザか」

 

フリーザにも、それが聞こえた。そして何より、自分自身の姿を借り物としてまとったガロウが目の前にいる。

 

フリーザの口元が、ゆっくり吊り上がった。笑っている。だが額には、はっきり青筋が浮いていた。

 

「まだ借り物の力でいい気になるのか……」

 

ガロウの拳を片手で受け止める。指が軋む。

 

「まったく」

 

フリーザの笑みが、さらに深くなる。拳を振り払い、ガロウを吹き飛ばす。

 

「人をイライラさせるのが、うまいやつだ……」

 

一瞬だけ。奇妙なほど静かになった。次の瞬間、フリーザの顔から笑みが消えた。赤い目が鋭く吊り上がり、眉間へ深い皺が刻まれる。先ほどまでの薄い笑いが嘘だったように、怒りだけが剥き出しになる。

 

「もうここまでだ!!!」

 

両腕を頭上へ掲げた。赤黒い光が生まれる。最初は小さい。だが一瞬で山を越え、空を越え、空そのものを埋めるほど膨張する。

 

ガロウが顔を上げる。サイタマもジャネンバも、その光を見る。フリーザは叫んだ。

 

「この星もろとも、きさまらをゴミにしてやるーーーーーっ!!!!」

 

腕を振り下ろす。超巨大なデスボールが落ちた。ガロウとジャネンバが左右へ飛ぶ。ガロウはフルパワーの模倣を完成させるより先に回避へ移り、紙一重で球体の縁から抜けた。ジャネンバは身体を分解して亜空間へ逃げようとするが、球体が巨大すぎる。再構築途中の右腕が光へ触れ、その部分が一瞬で消滅した。

 

「――ッ!」

 

初めて悲鳴に近い声が漏れた。デスボールは止まらない。そのまま木星の中心へ落ちていく。

 

「フリーザァ!」

 

サイタマの声は遅かった。 木星が一度、光る点になった。 次の瞬間、惑星そのものが崩壊した。 宇宙に音はない。 それでも、爆発の光だけで太陽系が一瞬昼になったように見えた。巨大なガス、炎、惑星片があらゆる方向へ飛び、重力場そのものが乱れる。

 

サイタマは爆発の中で身体を丸め、フリーザは気の壁を作って耐える。ガロウとジャネンバはまともに爆発へ飲み込まれた。 長い時間のように感じる数十秒が過ぎ、光が収まる。 そこに木星はなかった。 無数の破片とガスの帯だけが残っている。

 

「ぜぇ……」

 

サイタマが息を吐く。 ゴールデン・フルパワーのフリーザも肩をわずかに上下させていた。怒りは少し抜けている。

 

「……ふう」

 

「はぁ…死ぬかと思ったぞ」

 

「あなたが?」

 

「さすがに星の爆発に巻き込まれたら厳しいだろ」

 

フリーザは周囲を見渡し、満足そうに笑った。

 

「彼らは死にそうですね」

 

「そっち?」

 

遠くの惑星片の上で、ガロウがどうにか立とうとしていた。宇宙的な模様は薄れ、片腕もまともに上がらない。 ジャネンバはさらに酷かった。右腕は消え、左脚も崩れ、身体の半分近くが欠けている。再生しようとしているが、惑星爆発を受けた邪念の維持が追いついていない。 フリーザがそちらへ飛ぼうとする。

 

「では――」

 

「待て」

 

サイタマがガロウを見る。

 

「こいつ、俺がやる」

 

フリーザが止まった。 ガロウは立ち上がろうとしている。

 

「……フリーザ」

 

「俺だ」

 

サイタマが前へ出る。 ガロウがようやく顔を向けた。 サイタマは拳を引いた。

 

「マジ殴り」

 

拳が直撃する。 ガロウの身体が消えたように吹き飛び、何万、何十万キロという距離を一気に飛んでいく。 それでもサイタマは調整していた。 殺さないぎりぎりに。

 

「甘いですね」

 

「殺す必要ないだろ」

 

「そうでしょうか」

 

背後でジャネンバがまだ動いた。 高笑いを再開しようとする。 フリーザが振り返り、掌を向けた。

 

「あなたは、もう十分です」

 

巨大な気功波が放たれた。 欠けたジャネンバの身体が完全に飲み込まれ、抵抗する間もなく邪念ごと消滅する。 一瞬の静寂。 フリーザはガロウが飛んだ方向を見る。

 

「さて、残る虫けらを――」

 

「おい。もういいだろ」

 

「よくありません。このわたしをここまでコケにしたのです。宇宙のチリにしてさしあげます」

 

フリーザが飛ぶ。サイタマも追った。 数秒後、宇宙を漂うガロウへ追いついた。意識はほとんどない。 フリーザは目の前で止まり、人差し指を向けた。 デスビームの光が集まる。

 

「終わりです」

 

その瞬間、ゲートが開いた。

 

「待て!」

 

ブラストが飛び出してくる。

 

「またあなたですか」

 

フリーザの眉が露骨に寄った。 ブラストはガロウを見る。

 

「こいつは操られている。自分の意思だけでこうなったわけじゃない。殺す必要はない」

 

「だから何です?」

 

「一度待て」

 

「わたくしを殴った。それだけで十分な理由ですが」

 

言い合いが続く前に、ガロウの身体が光った。 宇宙模様が消え、黒い銀河のような皮膚が剥がれ落ちる。怪人化した肉体も縮み、白い髪をした人間のガロウへ戻っていく。 そのまま意識を失った。

 

「戻った」

 

サイタマが言う。

 

「神との接続が切れた」

 

ブラストがガロウを支えた。 フリーザはまだ指を向けていた。 数秒、ガロウを見る。 サイタマを見る。 ブラストを見る。 やがて指先の光を消した。

 

「……貸し一つ、ですよ」

 

サイタマの肩から少し力が抜けた。

 

「一応、一件落着か」

 

ブラストは周囲を見た。 そこにあるはずのものがない。

 

「木星は?」

 

サイタマがフリーザを見る。 フリーザは鼻を鳴らした。

 

「邪魔でしたので」

 

「邪魔で壊すな」

 

「結果論です」

 

「絶対わざとだろ」

 

「少々、頭に来ていました」

 

「少々?」

 

「少々です」

 

「星なくなってるぞ」

 

「もうどうでもいいです。あんな星のことなどは」

 

ブラストは言葉を失った。 だが、フリーザの意識はもう木星には向いていなかった。 自分の右手を見ている。 拳を握り、開き、もう一度握る。 木星を破壊した瞬間、怒りに任せてゴールデン・フルパワーへ上げた。その最中に、ごく一瞬だけ別の感覚があった。 筋肉を膨らませて出力を増やすだけではない。 もっと無駄がない。 もっと深い。 黄金のさらに奥へ、一段さらに踏み込んだような黒い感覚。

 

力の大会でジレンを見た。月でサイタマと戦った。タツマキとの修行で瞬発的な制御を磨き、ボロスとの戦いで実戦の出力調整を試し、ジャネンバとの長期戦で持久力を確かめた。 そして今、限界を越える怒りまで経験した。 全部が繋がり始めている。

 

「……」

 

フリーザの口元が上がる。

 

「何?」

 

サイタマが気づいた。 フリーザは答えない。肩が小さく震え、やがて笑い始める。

 

「ほっ……ほっほっほっほっ」

 

「どうした?」

 

「ほーっほっほっほっほっほ!」

 

宇宙には音が伝わらないはずなのに、その場にいる二人には高笑いが聞こえるような気がした。 まだ形にはならない。 まだ変身できるわけでもない。 だが、確かにそこにある。 黄金の先へ続く道が、ようやく見えた。

 

「素晴らしい」

 

「何が?」

 

「いえ。ようやく見えてきました」

 

サイタマは少しだけ笑った。 詳しい意味は分からない。ただ、フリーザがまた強くなるということだけは分かる。 ブラストは気絶したガロウを抱えたまま、存在しなくなった木星の方向を見て頭を抱えた。 犠牲は木星一つ。 あまりにも大きい。

 

それでも、地球は守られた。ジャネンバは消滅し、ガロウは人間へ戻り、サイコス・オロチも敗北した。怪人協会そのものも、すでに壊滅している。 そしてフリーザは、新しい境地の入口へ立った。

 

この日、木星を消し飛ばした怒りが、宇宙の帝王を黄金よりさらに先へ押し出すきっかけになったことを、まだ誰も知らない。

 

「とりあえず帰らない?」

 

サイタマが言った。

 

「そうですね」

 

「お前ら、本当に緊張感ないな」

 

ブラストが呆れる。

 

「腹減ったし」

 

「焼肉にします?」

 

「会社持ち?」

 

フリーザは一瞬だけ考えた。木星を壊したことと会社経費は、たぶん関係がない。

 

「今日は特別に」

 

「よし」

 

「木星を壊した直後に焼肉の話をするな」

 

二人とも聞いていなかった。 フリーザは最後に自分の掌を見る。 一瞬だけ、黄金とは違う黒い何かが走ったように見えた。 すぐに消える。 それで十分だった。 答えは近い。修行を続ければいい。サイタマがいる。次は、もっと強くなった自分でまた戦える。 帝王は、それが楽しみで仕方がなかった。

 

 

第六宇宙。遠い星空の下で、一人のサイヤ人が顔を上げた。続いて、二人。三人。遥か彼方から届く、冷たく重い気配。以前知っていたものより、明らかに強い。

 

「……フリーザ?」

 

その名が口にされた。さらに別の場所。静かな部屋で、長身の男が目を開く。感情の薄い赤い瞳が、何もない空間の向こうを見た。

 

「強いな。前よりも」

 

殺し屋、ヒット。そして。第六宇宙の戦士たちは、地球へ目を向け始めていた。

 

 

 




次回から第六宇宙の戦士編となります。
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