フリーザ、ヒーローになる ~宇宙の帝王がワンパンマン世界に墜ちた結果~   作:&劉

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第二十五話 合体戦士

 

繁華街の中央で、黄金の気がもう一段膨れ上がった。 フリーザの肩が持ち上がり、腕と胸の筋肉がゆっくりと厚みを増す。木星を消し飛ばした時ほど感情に任せた変化ではない。それでも、ゴールデン形態の出力を肉体の限界近くまで引き上げた姿は、周囲のアスファルトを立っているだけで砕き、シャンパの張った巨大なバリアを低く震わせた。

 

「ほっほっほ……。ではヒットさん、少々真面目に参りましょうか」

 

ヒットは返事をしなかった。左腕を前へ置き、右拳を身体の中心へ引きつけたまま、重心だけをわずかに落としている。攻撃に偏った構えでも、防御に特化した構えでもない。時とばしを含め、必要な動作を最短で出すために作り直した、フリーザ専用の型だった。 先に踏み込んだのはフリーザだった。

 

路面が爆ぜ、一瞬で間合いが消える。右拳がヒットの顔面へ伸び、接触する直前だけ腕へ集中していた気が跳ね上がった。 しかし、当たらない。

 

ヒットの輪郭がわずかに揺らぎ、そこから先の時間が抜け落ちる。次に存在を感じた時には右側へ移動しており、短い拳がフリーザの脇腹へめり込んでいた。

 

「ぐっ……!」

 

黄金の身体が少し折れる。 それでもフリーザは笑った。

 

「また右ですか?」

 

尻尾を薙ぎ払う。 すでにヒットはいない。

 

今度は左肩へ衝撃が入り、身体が半歩ずれた。その一撃だけでヒットは追撃せず、再び距離を取って同じ構えへ戻る。 フリーザの笑みがわずかに深くなった。

 

攻撃したら離れる。必要以上に殴らない。時とばしの直後も、常に最短距離で安全な位置へ戻る。前の戦いで見せた癖は残っているが、こちらがそれを読み始めたことまで計算して位置を変えていた。

 

「本当に面倒な方ですね」

 

フリーザが人差し指を向ける。

 

十数本のデスビームが一斉に走った。ヒットは首を傾け、上体をずらし、片脚だけを引いて三本をかわす。残りが逃げ道を塞いだ瞬間だけ時を飛ばし、赤い光の網をまとめて抜けた。 出現先はフリーザの懐だった。 拳が来る。 フリーザは初めて、自分から後ろへ退いた。

 

「おっと」

 

ヒットの拳が空を切る。

 

そこからフリーザは近づかなかった。指先からデスビームを連射し、続けて掌から幅の広い気功波を放つ。点と面を組み合わせ、時とばしの終了地点を限定するように攻撃範囲を少しずつ狭めていく。

 

「どうしました? 近接戦がお得意なのは、先ほど十分理解しましたので」

 

フリーザがさらに距離を取る。

 

「わざわざ、あなたの得意な間合いへ入る理由もありません」

 

ヒットは無言のまま走った。

 

右へ、左へ。身体の動きは最小限で、巨大な気功波だけを時とばしで抜ける。だが、着地するはずの道路が突然盛り上がった。 フリーザの超能力だった。

 

崩れたビルの瓦礫、自動車、街灯、鉄骨、看板が一斉に宙へ浮き、ヒットを包囲するように飛来する。ヒットは時を飛ばして瓦礫の隙間を抜けた。 その出現地点へ、一本のデスビームが置かれていた。

 

「……」

 

ヒットは上体を僅かにずらす。 完全には避けきれなかった。 赤い光が頬をかすめ、紫色の皮膚へ細い傷を刻む。

 

「ほう」

 

フリーザの目が楽しそうに細くなる。

 

「ようやく一発、入りましたね」

 

ヒットは傷へ触れなかった。 踏み込むと同時に消える。

 

フリーザは即座に上空へ飛び、直前まで頭があった場所を拳が通過した。時とばしから現れたヒットへ気弾を落とすが、掌で軌道を逸らされ、爆発した煙が二人を隠す。 その煙そのものをヒットは利用した。 気配が途切れる。 次の瞬間、拳がフリーザの顔面へ直撃した。

 

「ぬっ!」

 

黄金の身体が空中を滑る。 フリーザは姿勢を立て直しながら笑った。

 

 

「煙幕まで利用されますか。殺し屋というのも、なかなか器用な商売ですね」

 

ヒットは答えない。 フリーザは百メートル、二百メートルと距離を広げた。

 

「ならば、こちらは近づけさせなければよいだけでしょう!」

 

両手から巨大な気功波が走る。 ヒットが時を飛ばして抜けた先へ、今度は無数のデスビームが雨のように降る。 撃つ。避ける。近づく。殴る。離れる。 フリーザとヒットの攻防は、派手さとは裏腹に少しずつ削る戦いへ変わっていった。 ヒットは一発でよかった。 確実な場所へ、必要な威力だけを置く。防がれれば追わず、時とばしを使って安全圏へ戻る。

 

フリーザも以前のように全弾を外してはいない。ヒットの肩へ気弾が入り、脇腹をデスビームがかすめる。傷は浅い。それでも最初のような完全な一方通行ではなくなっていた。

 

「本当に厄介ですね」

 

フリーザが笑いながら呟いた。

 

◇

上空では、シャンパが完全に観戦客の顔になっていた。

 

「うほほほ! 見ろよ、ヒット! 無駄がねえ! やっぱカッコいいだろ!」

 

「随分と楽しそうですね、シャンパ様」

 

「当たり前だ! 俺んとこの最強戦士が戦ってんだからな!」

 

ヴァドスは微笑みながら、杖の先に映る二人の戦闘を見つめていた。

 

「確かに、非常に洗練されています。それに以前より、力の使い方が変わりましたね」

 

「そうか?」

 

「ええ。ヒットさんは普段の出力をかなり落としています。時とばしも必要な瞬間だけ使い、攻撃時だけ力を集中させているようです」

 

「前からそうじゃねえのか?」

 

「ここまで徹底してはいませんでした」

 

ヴァドスの目が細くなる。

 

「力の大会でジレンさんと戦った経験も影響しているのでしょう。あの方は膨大な力を持ちながら、必要のない瞬間には驚くほど静かでしたから」

 

シャンパが地上へ目を戻す。 確かに、ヒットはほとんど動かない。動く時だけ速い。攻撃する時だけ強い。

 

対するフリーザも、以前なら常に巨大な気を放出し続けていたはずだ。しかし今は違う。ゴールデン・フルパワーという高い上限を維持しながら、拳や防御へ使う出力そのものは一瞬ごとに切り替えている。 ただし、ヒットより消費が大きい理由があった。

 

フリーザは近接だけでなく、広範囲のデスビーム、気功波、超能力による瓦礫操作まで同時に行い、戦場そのものを使ってヒットの移動先を削っている。相手を捕まえるために、常に何かを仕掛け続けなければならない。

 

「フリーザさんの判断も正しいのです。近づかなければ時とばしからの打撃を受けにくい。しかし、その距離を維持するために消費している力は、ヒットさんより多い」

 

「じゃあ、このままだと?」

 

「長引けば、先にフリーザさんの方が不利になるでしょうね」

 

「マジか?」

 

「そして、そのことはお二人とも理解していると思いますよ」

 

シャンパが再び地上を見た。 フリーザはまだ笑っている。 ヒットは無表情のまま。 互いに長期戦の損得を分かっていて、それでも今は自分の方法を崩していない。

 

「ですから――」

 

ヴァドスが杖を少し持ち上げた。

 

「フリーザさんが次に何を変えるのか、そこが見ものですね」

 

◇

その少し離れた場所では、別の戦いがもっと騒がしかった。 超サイヤ人2となったキャベ、カリフラ、ケールに対して、サイタマ、タツマキ、ジェノス、アマイマスクが入り乱れている。 人数だけを見れば四対三。 しかし、純粋な戦闘出力では第六宇宙側が明らかに上だった。

 

「行くぞ!」

 

カリフラの拳がタツマキへ飛ぶ。

 

緑色のバリアが受け止めた瞬間、大きく歪んだ。横からケールの気功波が迫り、タツマキは正面から受けずに身体を滑らせてかわす。 その隙へキャベが上空から蹴り込む。 ジェノスが両腕で受けた。

 

「ぐっ!」

 

サイボーグの身体が地面へ叩きつけられ、アスファルトが陥没する。

 

アマイマスクがキャベの横へ入り、首へ手刀を走らせた。キャベは身体を引いてかわし、そのまま膝を返す。 腹へ直撃した。

 

「ぐっ……!」

アマイマスクが吹き飛ぶ。 三人とも速く、強い。

 

それ以上に厄介なのは、互いの動きを見て役割を変えられることだった。カリフラが正面から押せば、ケールが死角を塞ぐ。キャベは全体を見ながら、二人の攻撃が途切れる場所だけを埋めていく。 対するフリーザ・コーポレーション側は、普通に考えれば連携に向いていない。

 

サイタマは基本的に好きに動く。タツマキも人の指示など聞かない。アマイマスクも自分の判断を優先し、ジェノスだけが全員の動きを観察して調整している。 それなのに、押し切れない。

 

「何なんだよ、さっきから!」

 

カリフラの拳がタツマキへ伸びる。 当たりそうな距離で、タツマキは頭一つ分だけ動いた。 拳が空を切る。

 

「当たりそうで当たらねえ!」

 

「毎日、もっと速いの相手にしてるのよ」

 

背後へ回ったタツマキが念力を叩き込み、カリフラを空中へ弾く。

 

「チッ!」

 

出力ではカリフラが上でも、タツマキは必要な瞬間だけバリアと念力を強くし、それ以外は動いてかわす。フリーザとの訓練で嫌というほど叩き込まれたやり方だった。 一方、ジェノスはケールの拳を受けて装甲へ亀裂を入れられながら、そのまま左腕を腹へ向けた。

 

「焼却!」

 

至近距離の光がケールを押し戻す。 致命傷には遠い。 それでも、無視すれば攻撃の流れが止まる程度には痛い。 そして何より、ジェノスは捕まらない。

 

攻撃した直後にビルの陰へ消え、推進器で位置を変える。生体の気がほとんどないため、サイヤ人側は視線を外すと一瞬で場所を見失った。

 

「なんだよ、あの機械!」

 

「気が分かりません……!」

 

ケールが周囲を探す。 その背後で短い噴射音がした。

 

「そこか!」

 

キャベが振り向く。 もう遅い。 ジェノスの拳が背中へ入り、キャベが前へ吹き飛ぶ。ジェノスは追わず、即座に別の建物の陰へ消えた。 正面ではアマイマスクがさらに嫌な戦い方をしている。 力比べをしない。

 

カリフラの拳をかわしながら腕を浅く切り、ケールの蹴りを避けた瞬間だけ脇腹へ指を走らせる。キャベの攻撃は受けず、一歩下がって肩をかすめさせ、その返しで頬へ細い傷を残した。 一つ一つは小さい。 だが、出血と苛立ちは積み重なる。

 

「こいつ……!」

 

腕に流れた血を見てカリフラが睨む。 アマイマスクは少し笑った。

 

「どうした? 僕が一番弱そうに見えたか?」

 

総合出力だけなら、実際この中では低い。 だからこそ、正面から強さを競わない。 危険なものは受けず、削れる場所だけ削る。相手が苛立って大振りになった瞬間を待つ。 気に入らない宇宙人から学んだ戦い方を、自分なりに使っていた。 それでもサイヤ人側が優勢であることは変わらない。 タツマキは当たらない。 ジェノスは捕まらない。 アマイマスクは嫌な場所だけを切る。 そしてサイタマは、近づくこと自体が危険だった。

 

「おーい」

 

キャベが声の方を向いた。 すでにサイタマが目の前にいる。

 

「!」

 

拳が来る。 キャベは全力で横へ飛んだ。 拳そのものは外れた。 しかし風圧だけで背後の道路が一直線に抉れ、何十メートルも先まで瓦礫が吹き飛ぶ。 キャベの背中を冷たい汗が流れた。 一発もらえば危険。 三人とも、それだけは完全に理解している。 だから距離を取ろうとする。 カリフラが上昇した瞬間、タツマキが手を振った。

 

「逃がすと思う?」

 

周囲の大気がねじれ、乱気流がカリフラの姿勢を崩す。

 

「うおっ!」

 

そこへ高層ビルの一部が根元から引き抜かれ、巨大な槍のように飛来した。

 

「こんなの!」

 

カリフラが拳で粉砕する。 砕けた瓦礫の向こうから、サイタマが顔を出した。

 

「ども」

 

「なっ――!」

 

拳を腕で受ける。 カリフラが大きく吹き飛ぶ。 ケールがサイタマを追って気弾を放つ。その瞬間、白い閃光が視界を埋めた。 ジェノスの閃光弾。 キャベとケールが反射的に目を閉じる。 別方向から焼却砲が飛んだ。

 

「ぐっ!」

 

キャベの肩へ直撃する。 目を開けた時にはジェノスはいない。

 

小型誘導弾、閃光、焼却砲、瓦礫の影からの急襲。倒すほどの威力はなくても、連携の中心へ正確に割り込んでくる。

 

「面倒くせえ!」

 

ついにカリフラが叫んだ。 サイタマが首を傾げる。

 

「こっちも三人いるから結構めんどいぞ」

 

「それ褒めてねえだろ!」

 

「褒めてない」

 

「ムカつく!」

 

上空では黄金と紫の閃光がまた激突した。 二つの戦場で、違う形の削り合いが続いていた。

 

◇

乱戦の中で、ジェノスは一人だけ標的を決めていた。 キャベ。 三人の中で最も冷静で、全体を見ている。 カリフラとケールは感情で動くことがあっても、キャベが間に入れば連携が崩れない。 先に落とすべきは彼だ。 ジェノスの視界に、路面の一角が表示される。 すでに仕込みは終わっていた。

 

 

キャベもまた、ジェノスを最も厄介な相手の一人だと判断していた。 サイタマは別格すぎる。正面から相手にして勝てる保証がない以上、カリフラとケールで牽制しながら距離を取るしかない。 タツマキも危険だが、超能力を使う瞬間は読みやすくなってきた。 アマイマスクは傷を積み重ねてくるものの、純粋な速度と出力なら押し切れる。 問題はジェノスだった。

 

気で追えず、攻撃した瞬間に姿を消す。こちらの連携が整いかけた時だけ割り込み、倒せない程度の攻撃で流れを壊していく。

 

「まず、あなたからです」

 

キャベが狙いを定めた。 ビルの陰からジェノスが飛び出す。

 

「焼却!」

 

巨大な光を右へ飛んでかわし、その勢いのまま距離を詰める。 ジェノスの拳を腕で止め、膝を腹へ叩き込んだ。

 

「ぐっ!」

 

サイボーグが建物の壁を突き破る。 キャベは追った。

 

「逃がしません!」

 

瓦礫の中央でジェノスが立ち上がる。片腕の装甲は欠けているが、まだ戦闘機能に問題はない。 キャベが正面へ着地した。 足元に、妙な感触があった。

 

「……?」

 

右足が動かない。 続いて左足も固定される。

 

「何だ!?」

 

瓦礫の下から透明な粘性物質が広がり、靴だけでなく足首まで覆っていた。 ジェノスの目が赤く光る。

 

「超強力な瞬間接着剤だ」

 

「接着剤!?」

 

「以前にも一度使ったことがあったが、さらに改良した。

メタルナイトの工業用資材を会社の技術部門がクセーノ博士の助言を受け、更に戦闘用に調整したものだ」

 

「し、資材!?そんなものを戦闘で使うのですか!?」

 

「素早い忍者を瞬殺できるように用意したものだが…効果覿面だな」

 

キャベが絶句した。 スーパーサイヤ人2の力なら、もちろん破れないものではない。

 

「なら!」

 

黄金の気を一気に高める。 足元の接着剤が熱で焼け、周囲の瓦礫ごと吹き飛び始める。 そのために、ほんの一瞬だけ両脚が止まった。 全身へ力を入れ、重心が地面へ固定される。 ジェノスが待っていたのは、接着剤で完全に拘束することではなかった。

 

「今です!先生!!!」

 

「何?」

 

キャベが顔を上げる。 横から声がした。

 

「よっ」

 

「――!」

 

サイタマがもう立っている。 閃光弾も、小型気弾も、焼却砲も、ジェノス自身の攻撃も、すべてはこの一瞬を作るためのものだった。 キャベの移動を止める。 ほんの一瞬でいい。 サイタマにとっては、それで十分すぎる。

 

「悪い」

 

拳が引かれる。

 

「一億、結構欲しいんだ」

 

キャベは反射的に両腕を交差した。

 

「普通のパンチ」

 

拳が腕へ触れた瞬間、足元の接着剤も道路も瓦礫もまとめて吹き飛んだ。

 

キャベの身体が一直線に飛び、ビルを一棟、二棟、三棟と突き抜ける。最後はシャンパのバリア内側の地面へ激突し、巨大なクレーターを作った。

 

「キャベ!」

 

「キャベさん!」

 

カリフラとケールが同時に叫んだ。 煙が晴れる。 クレーターの底で、キャベは仰向けに倒れていた。 超サイヤ人2は解除されている。 意識もない。 サイタマが拳を下ろし、指を一本折った。

 

「一億ゲット!!!!!!!!あと二人!!!!!!」

 

ジェノスが隣へ着地する。

 

「先生、計画通りです」

 

「接着剤、便利だな」

 

「先生が確実に攻撃できる瞬間を作るための罠です」

 

「俺、普通に行っても殴れたと思うけど」

 

「……確実性が増しました」

 

「そっか」

 

ジェノスの返事が一瞬遅れた。 上空ではシャンパが頭を抱えている。

 

「キャベー! 何やってんだ!」

 

「あら。なかなか面白い戦い方でしたね」

 

「接着剤だぞ!?」

 

「勝てばよいのでは?」

 

「お前、さっきからどっちの味方なんだ!」

 

ヴァドスは笑うだけだった。

 

◇

カリフラはゆっくりサイタマへ向き直った。 先ほどまでの笑いは消えている。 ケールも隣へ降りる。

 

「姉さん……」

 

「ああ」

 

一度、クレーターの底にいるキャベを見る。 殺されてはいない。 それだけは分かる。 だが、完全に戦闘不能にされた。

 

「こいつら、思ってたよりずっとめんどくせえ」

 

「今更?」

 

タツマキが空中で腕を組む。

 

アマイマスクにも浅い傷はあるが、まだ立っている。ジェノスも装甲を損傷しながら砲口をこちらへ向けている。 そしてサイタマは、何もなかったような顔で立っていた。 カリフラが舌打ちする。

 

「だったら、こっちも切り札だ」

 

耳へ手を伸ばした。 タツマキが眉を寄せる。

 

「何?」

 

カリフラの耳にある小さな飾り。 ケールも同じものを着けている。 出発前、万が一に備えて界王神から渡されていたポタラだった。

 

「ケール!」

 

「はい!」

 

二人は片方ずつ外し、それぞれ逆の耳へ装着する。 サイタマが首を傾げた。

 

「何してんの?」

 

ジェノスのスカウターが激しく警告を鳴らす。

 

「二人のエネルギー反応が――」

 

言い終える前に、カリフラとケールの身体が引き寄せられた。

 

「うおっ!」

 

「姉さん!」

 

金色と緑色の光が爆発し、二つの巨大な気が渦を巻きながら一つへ重なる。 単純に足しただけではない。 二人の力が互いを押し上げ、別の性質へ変わっていく。 タツマキが目を見開いた。

 

「何よ、これ……!」

 

アマイマスクは腕で顔を庇い、ジェノスは推進器を逆噴射して地面へ脚を固定した。

 

「二つの戦闘エネルギーが融合している!」

 

「あ、合体か」

 

サイタマだけが妙に納得した声を出した。 光が収束する。 一人の戦士が現れた。 カリフラの荒々しさとケールの力強さを同時に宿した顔。引き締まった身体と、全身を走る青白い電撃。 超サイヤ人2のケフラ。

 

「よーし!」

 

ケフラが両拳を握る。

 

「これでさっきまでと一緒にすんなよ!」

 

気を解放しただけで地面が沈み、近くのビルの窓がまとめて割れた。シャンパのバリアが大きく波打つ。 ジェノスのスカウターは数値を出す前に白く飛んだ。

 

「測定不能」

 

タツマキの顔が初めて明確に強張る。

 

「……ちょっと、これは」

 

「先ほどまでとはまるで違うな」

 

アマイマスクが一歩下がった。 上空でシャンパが笑う。

 

「来た! ケフラ!」

 

「ポタラによる融合は、単純な加算ではありませんからね」

 

ヴァドスも少し目を細めた。 ケフラがサイタマを指差す。

 

「どうだ! かなり違うだろ!」

 

「へえ」

 

「へえじゃねえ!」

 

「かなり強くなったな」

 

「だろ!」

 

ケフラが歯を見せて笑う。

 

「今度はアンタが吹っ飛ぶ番だ!」

 

◇

ヒットとフリーザは戦いを止めていなかった。 それでも、ケフラの気は無視できる規模ではない。 フリーザはデスビームを放ちながら、一瞬だけ横目を向けた。

 

「ほう」

 

その隙をヒットは見逃さない。 拳が肩へ入る。

 

「余所見をするな」

 

「失礼。少々、面白いことになったようですので」

 

ヒットもケフラの気を感じているはずだが、表情は変わらない。 上空からシャンパの声が飛ぶ。

 

「これならいけるぞ! ケフラ、そのハゲぶっ飛ばせ!」

 

サイタマが上を見る。

 

「ハゲって俺?」

 

「他に誰がいる!」

 

「フリーザも毛ないぞ」

 

少し離れた場所で戦いながら、フリーザが声を張った。

 

「巻き込まないでください!」

 

「お前は元々ハゲだろ!」

 

「元々とは何です!」

 

その瞬間、ヒットの拳が腹へ入った。

 

「ぐっ!」

 

「余所見してるからだ!」

 

シャンパが笑う。 ケフラまで大声で笑った。

 

「面白え奴らだな!」

 

タツマキは額を押さえる。

 

「何なの、この戦場……」

しかし、笑っていられたのはそこまでだった。 ケフラが再び構える。

 

「さーて。本気で行くぜ!」

 

「もう十分本気っぽいけど」

 

タツマキが言う。

 

「まだだ」

 

サイタマがケフラを見る。

 

「まだ?」

 

「もういっちょ上がある!」

 

ケフラの気がさらに膨れ上がった。 黄金のオーラが激しく揺れ、青白い電撃が空を走る。 ジェノスの目が見開かれる。

 

「さらに上昇している……?」

 

「また!?」

 

タツマキも思わず声を上げた。

 

「まだ変身するのか」

 

アマイマスクが拳を握る。

 

「はああああああああああっ!」

 

ケフラの叫びとともに地面が震え、シャンパのバリアが軋む。 金色の髪がさらに伸び始めた。 肩を越え、背中を流れ、腰近くまで達する。眉が消え、顔つきがさらに鋭く変わる。 膨大な気が一度内側へ圧縮され、次の瞬間に爆発した。 超サイヤ人3。 ケフラが完成した。 その瞬間、サイタマと、戦闘中のフリーザとヒットを除いた全員が息を止めた。 タツマキの額を冷たい汗が流れる。 ジェノスの警告表示はすべて赤へ変わり、アマイマスクも無意識に拳へ力を入れた。 シャンパすら一瞬目を丸くした。

 

「おい……あいつ、ここまで行けるようになったのか?」

 

「まあ」

 

ヴァドスが少し感心したように微笑む。

 

「随分と成長されましたね。力の大会以降、お二人ともかなり修行されたようです」

 

ケフラは長い金髪を揺らし、拳を前へ突き出した。

 

「ここからが本番だぜ!!!」

 

サイタマは少しだけ目を細めた。 相手の圧力がさっきまでとは明らかに違う。 それでも、恐怖はない。 むしろ、少しだけ興味が湧いた。

 

「そう」

 

拳を握る。 そして一億円を思い出した。

 

「じゃ、俺ももうちょいちゃんとやるか」

 

ケフラが嬉しそうに笑う。 二人が互いを見据える。 その少し離れた場所では、ヒットとフリーザの攻防がさらに速度を上げていた。 片方は、相手の時間を奪いながら最小の消費で削る殺し屋。 もう片方は、削られながら癖を読み、戦場そのものを使って攻略の糸口を増やす帝王。 そして、圧倒的な力を一つへ束ねた合体戦士と、それを正面から受ける趣味のヒーロー。 二つの戦場は、どちらもようやく本当の意味で本番を迎えようとしていた。

 

 

 

 

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