フリーザ、ヒーローになる ~宇宙の帝王がワンパンマン世界に墜ちた結果~   作:&劉

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第二十七話 Black Frieza

 

戦いの形そのものは、まだ大きく変わっていなかった。 繁華街を覆う結界の中で、黄金と紫の二つの影が何度も交差する。フリーザは距離を取り、デスビームと気功波、超能力で持ち上げた瓦礫や車両まで使ってヒットの進路を削る。対するヒットは深追いをせず、最短距離だけ動き、必要な瞬間だけ時を飛ばして一撃を入れると、すぐに安全な間合いへ戻った。 派手に見えるのはフリーザの方だった。しかし、消耗しているのも明らかにフリーザの方だった。 赤い光線が道路を抉る。ヒットの姿が一瞬だけ揺らぎ、次に気配が戻った時にはフリーザの左側へ立っていた。

 

「そこですか」

 

フリーザは首を傾けて拳を紙一重でかわし、そのまま尻尾を薙ぎ払った。ヒットが半歩下がって避けたところへ、今度は掌を突きつける。

 

「ほっ!」

 

至近距離で気弾が炸裂し、炎と煙が二人を包んだ。 だが、フリーザの顔から笑みが消えないうちに、背後へ新しい気配が生まれる。

 

「甘い」

 

ヒットの拳が胸へ入った。

 

「ぐっ……!」

 

黄金の身体が大きく揺れる。振り返りざまにデスビームを撃つが、その時にはヒットはもういない。 その攻防を、結界の外に集まった人々は巨大スクリーン越しに見つめていた。

 

少し前まで、サイタマがケフラを倒した瞬間の歓声で街全体が震えていた。ところが今は、声が徐々に小さくなっている。戦いを詳しく知らない者にも、同じ事実だけは見えていた。 フリーザが押されている。

 

「……大丈夫なのか?」

 

「さっきから、ほとんど当てられてなくない?」

 

誰かが不安そうに呟いた。

 

子供は両手を胸の前で握り、無免ライダーは包帯の残る腕を組んで画面を睨んでいる。バングも口を閉じたまま二人の動きを追い、キングの胸では、いつもより大きなキングエンジンが鳴っていた。 ただし、結界の内側にいる者たちは少し違った見方をしていた。

 

タツマキ、ジェノス、アマイマスクは、フリーザが確実に消耗していることを理解している。ヒットは異常に強く、能力まで厄介だ。それでも三人とも、今すぐ敗北を心配してはいなかった。 理由は単純だった。 あの男が、まだ笑っている。

 

「……何かあるな」

 

最初に口にしたのはアマイマスクだった。

 

「同意する」

 

ジェノスの視界では、フリーザの気と肉体疲労が継続して低下している。にもかかわらず、表情や攻撃選択には焦りがない。 タツマキは腕を組んだ。

 

「当然でしょ。あの性格最悪の宇宙人が、本当に負けそうなのにニヤついてるわけないじゃない」

 

「評価がひどいな」

 

少し離れた場所へ座り込んでいたサイタマが言った。

 

「でも、まあ。何か隠してるんだろうな」

 

アマイマスクが横目を向ける。

 

「強がっている可能性は?」

 

「フリーザが?」

 

サイタマは少し考え、首を振った。

 

「ないな。あいつ、負けそうならたぶん普通に怒ってこの星壊すと思うし」

 

「…それはそれで最悪ね」

 

タツマキの言葉が終わるのと、フリーザの拳がほんの僅かに遅れるのはほぼ同時だった。 コンマ一秒どころではない。サイタマですら意識をほんの少しでも逸らしていれば見逃す程度の、ごく小さな遅れだった。遅れとも言えない遅れであるが、 暗殺者の 右手が僅かに動いた。 何も飛んでいない。気弾も、目に見える衝撃波もない。 それなのに、フリーザの胸が突然内側から殴られたようにへこんだ。

 

「がっ……!」

 

初めて明確によろめく。 上空でヴァドスが目を細めた。

 

「出ましたね」

 

「何がだ?」

 

「ヒットさん本来の、殺しの一撃です」

 

シャンパの顔色が変わる。

 

「あれか!」

 

ヒットは本来、試合をする戦士ではない。命を奪うことを仕事にしてきた暗殺者だ。

 

今の攻撃は、外側を壊すためのものではなかった。人体の内部へ直接衝撃を通し、急所だけを破壊する。防具も壁も関係なく、対象の中身だけを壊すための一撃である。 殺害が禁じられていた力の大会では、完全な形では使えなかった技だった。 今は、その制限がない。 ヒットの指がもう一度動いた。 フリーザの腹部へ、目に見えない衝撃が突き刺さる。

 

「ぐあっ!」

 

次は胸、その次は肋骨。肩、首、腹部へと、不可視の打撃が連続して走った。

 

「ぐっ……! ぬっ……!」

 

フリーザの表情が苦痛に歪み、道路を何メートルも滑る。 ヒットはそこで距離を詰めた。

 

フリーザの拳を首を傾けてかわし、左から来た蹴りを腕で受ける。軸をずらして力を逃がした直後、時を飛ばして側面へ回り込み、拳を肋骨へ打ち込んだ。

 

フリーザは回転しながら尻尾を振る。ヒットがしゃがんだ頭上を尻尾が通り、その勢いのまま放った回し蹴りも掌で受け流された。 次の拳が腹へ入る。 フリーザは大きく吹き飛んだ。 空中で姿勢を戻し、両手を前へ突き出す。

 

「なら!」

 

極太の気功波がヒットを呑み込もうとする。 ヒットは真正面から消えた。 右にも左にもいない。 フリーザが上を見た。

 

「――!」

真上から踵が落ちてくる。

 

両腕を交差して受けた瞬間、黄金の身体が地面へ叩き落とされた。道路が円形に陥没し、周囲の瓦礫が一斉に跳ね上がる。 ヒットが追う。 その時、瓦礫の中でフリーザの掌が握られた。 周囲が揺れる。 右側では倒壊しかけていた高層ビルが根元から持ち上がり、左側では地中から巨大な岩盤が引き抜かれた。

 

「潰れなさい!」

 

二つの巨大質量がヒットを挟み込む。 轟音とともに衝突し、中心が完全に埋まった。

 

「やった?」

 

タツマキが思わず口にする。

 

「いや」

 

サイタマは即答した。 次の瞬間、フリーザの背後へヒットが現れた。

 

「甘い」

 

蹴りが顔面へ伸びる。 しかし、足は何もない場所を通り抜けた。 ヒットの目が僅かに開く。 残像だった。

 

「こちらですよ」

 

背後から伸びた尻尾がヒットの足首へ巻き付く。

 

「捕まえました」

 

「……!」

フリーザが身体ごと回転した。

 

一回、二回。すぐに速度が上がり、ヒットの身体が巨大な円を描く。ビルも道路も空も一続きの残像になったところで、フリーザは高笑いとともに腕を振り下ろした。

 

「キエエエエエエッ!」

 

ヒットが地面へ叩きつけられる。 巨大なクレーターが生まれた。 フリーザは上空で止まり、両手の指をすべて下へ向ける。

 

「キエエエエエエエエエッ!!!」

 

無数のデスビームが雨のように降り注いだ。

 

一発、二発という数ではない。赤い光が地面を埋め尽くし、爆発が連鎖してクレーターそのものを何十メートルも沈めていく。 シャンパのバリア全体が大きく震えた。

 

「ちょっと! 地球壊す気!?」

 

タツマキは飛散する瓦礫を念力で押さえながら怒鳴った。

 

「そこまではしませんよ!」

 

フリーザは攻撃を止めない。

 

「信用ねえなあ」

 

「計算上、地球破壊には至らない」

 

ジェノスが冷静に言う。

 

「そういう問題じゃない!」

 

爆煙が巨大な雲になったところで、ようやくフリーザは指を下ろした。 ヒットの気は消えていない。

 

「まだ生きていますか。素晴らしい」

 

フリーザの全身を覆う黄金の気が、今度は薄い膜ではなく鎧のように凝縮していく。 サイタマが顔を上げた。

 

「なんか、突っ込む気だな」

 

フリーザは身体を前へ倒した。

 

「ヒット!!今すぐ黙らせてやるぞ!」

 

地面を蹴る。 黄金の彗星となった身体が一直線にヒットへ向かう。 ノヴァストライク。 煙を引き裂き、地面を左右へ吹き飛ばしながら加速する。 クレーターの底でヒットが立ち上がった。コートは破れ、身体にも傷がある。それでも目だけは冷静だった。 フリーザまで百メートル。五十。十。 そこでヒットが両手を構えた。 世界が、止まった。

 

「……!」

 

ノヴァストライクの姿勢のまま、フリーザの身体が完全に停止する。黄金のオーラまで凍りついたように固定され、前へ一ミリも進まない。

 

「これは……!」

 

フリーザの周囲へ薄紫色の空間が何重にも重なっていく。 ヒットは低く告げた。

 

「時間の牢獄」

 

時とばしを何度も積み重ね、対象と通常の時間との間にずれを作り続ける。相手だけを現在から切り離し、別の時間へ閉じ込めるような技だった。 力の大会でジレンを止めた、ヒットの切り札。 ただし当時とは違う。 ヒットは牢獄を維持したまま、自分のコートへ手をかけた。 ゆっくり脱ぎ、地面へ落とす。 そして、拳を構えた。

 

「おい、待て!」

 

上空でシャンパが目を見開く。

 

「何でヒットが動けるんだ!?」

 

「修業の成果でしょう」

 

ヴァドスは感心したように答えた。

 

「力の大会でジレンさんに破られたことが、相当悔しかったのでしょうね」

 

「そんな顔してなかったぞ?」

 

「あの方が顔に出すと思われます?」

 

「……出ねえな」

 

ヒットは一歩ずつフリーザへ近づく。

 

以前なら牢獄を維持するだけで精一杯だった。今は違う。動きは制限されているものの、相手の前まで歩き、拳を作るだけの余裕がある。 フリーザの指が僅かに震えた。

 

「あがくか」

 

ヒットが見下ろす。 フリーザは歯を食いしばり、黄金の気をさらに強めた。時間の牢獄が微かに軋む。

 

「無駄だ」

 

ヒットはもう一歩近づく。

 

「今のお前に残っている気では、ここから動けない。力を使えば、消耗を早めるだけだ」

 

その言葉通りだった。

 

ゴールデン形態を維持するための光が目に見えて薄くなる。膨張していた筋肉がゆっくり戻り、最後には黄金そのものが消えた。 白と紫の通常の最終形態へ戻る。

 

「終わった!」

 

シャンパが叫ぶ。 結界の外でも、人々の声が止まった。

 

「フリーザ……」

 

「負けるのか?」

 

「嘘だろ……」

 

ヒットが拳を引いた。 誰が見てもとどめだった。 ただし、例外が五人いる。 サイタマ。タツマキ。ジェノス。アマイマスク。 そしてフリーザ本人。 白い顔の口元が、ほんの僅かに上がった。 タツマキがそれを見つける。

 

「ほら」

 

「やはり」

 

アマイマスクも目を細める。

 

「何かある」

 

ジェノスの視界に未知のエネルギー反応が走った。 サイタマがゆっくり立ち上がる。

 

「来るな」

 

ヒットの拳が動く。 その瞬間、フリーザの足元に黒い火が灯った。 小さな炎が一本。 続いて二本、十本。黒い炎はフリーザの脚から腰へ、胸へ、腕へと巻き付きながら立ち上がる。燃えているのに熱くない。むしろ周囲の光を吸い込むような、冷たく重い気だった。 ヒットの拳が止まる。

 

「……何だ、これは」

 

フリーザは答えない。 身体の奥で、長い間育て続けてきたものが完全に目を覚ますのを感じていた。 最初は蝋燭ほどの火だった。

 

サイタマと月で戦い、限界まで気を削った夜に見つけた。ボロスとの戦いで少し大きくなり、タツマキとの修行で制御の精度を上げ、ジャネンバとガロウを相手にした実戦でさらに深く沈んだ。木星で限界を超えた怒りの時には、もう手の届く場所まで来ていた。 そして今、ヒットが最後の条件を揃えてくれた。

 

フリーザは自分から体力を削り、気を減らし、ゴールデンを解除するところまで追い込まれた。しかも、逃げることのできない時間の牢獄の中で、それでもなお力を求め続けた。 今まで使っていた力が燃料になり、その奥にあった別の力が表へ浮かび上がる。 ヒットの脳裏に選抜戦で見た光景がよぎった。 超サイヤ人ブルーの孫悟空が界王拳を重ねて力を跳ね上げた瞬間。

 

「孫悟空の、ブルー界王拳……」

 

黒い炎がさらに膨らむ。 時間の牢獄が大きく軋んだ。

 

「いや」

 

ヒットはとどめの拳を出した。

 

「まずい…!」

 

拳が届く直前。 時間の牢獄が砕けた。 音はしない。 ただ、紫色の重なりが消えた。

 

「!」

 

次にヒットが感じたのは腹部の衝撃だった。 何が起きたのか分からないまま身体が真上へ飛び、シャンパの結界の天井へ一直線に叩きつけられる。 巨大な紫の膜が大きくへこんだ。

 

「ヒット!?」

 

 

地上では粉塵と黒い炎が渦巻いている。

 

ヒットは天井から離れ、空中で姿勢を戻した。着地した瞬間だけ膝が折れる。それでも立ち上がり、粉塵の中央へ目を向けた。 声が聞こえた。

 

「この姿を手に入れるのは、なかなか苦労しましたよ」

 

一歩。 黒い影が煙の中から近づいてくる。

 

「しかも、まだ時間制限までついております」

 

さらに一歩。 粉塵が晴れる。 白でもない。黄金でもない。

 

磨き上げた黒い金属のような肉体が、闇の光沢を放っている。胸や腕、顔には紫色が鋭いアクセントとして残り、黒い炎が全身へ絡みついていた。 フリーザは自分の掌を一度見つめた。

 

「ですが――」

 

赤い目がヒットへ戻る。

 

「あなたを倒す程度なら、十分でしょう」

 

黒い炎が爆発した。 帝王は、ついに黄金の壁を越えたのだ。

 

誰も、すぐには言葉を出せなかった。 色が変わっただけではない。 ゴールデンフリーザの気が巨大な炎だとするなら、今のブラックフリーザは底の見えない穴に近い。派手に燃え上がってはいないのに、そこに立っているだけで周囲の空気が沈み、感覚そのものが引き込まれていく。 ヒットは呼吸を一度整えた。 相手が変わったなら、確認する。 それだけだ。 右手を僅かに動かす。 殺しの一撃。 人体の内部へ直接衝撃を送る不可視の攻撃が、フリーザの胸を狙う。 何も起きない。

 

「……?」

 

ヒットは続けて三発撃った。 胸、腹、頭部。 黒い気が表面で僅かに揺れただけだった。 フリーザは動かない。

 

「どうしました?」

 

「…効かないの、か?」

 

ヒットが低く言う。 フリーザは胸を軽く払った。

 

「それが攻撃だったのですか?」

 

「は?」

 

上空のシャンパが間の抜けた声を出した。 ヴァドスも僅かに目を開く。

 

「まあ」

 

ヒットは即座に時を飛ばした。 〇・一秒。 世界から自分だけをずらす。 本来なら、この時間の中で相手は完全に止まって見える。 フリーザは止まらなかった。 赤い目が、ゆっくりこちらを向く。

 

「!」

 

ヒットが拳を出すより先に、ブラックフリーザの身体が僅かに横へずれた。 拳が空を切る。 時とばしが終わり、現実へ戻った瞬間、ヒットの顔に初めてはっきりとした驚愕が出た。

 

「見えていますよ」

 

「馬鹿な……。時を飛ばした状態の俺を――」

 

「ええ」

 

フリーザが一歩出る。 姿が消えた。

 

「今度はこちらの番です!」

 

声が耳元へ届いた時には、拳が腹へ深くめり込んでいた。

 

「――ッ!」

 

息が全部抜ける。 フリーザは拳を抜かない。

 

「キエエエエエエエエエエッ!!!」

 

そのままヒットの身体を押し上げ、一直線に上昇する。 地上が急速に遠ざかり、シャンパの結界の天井が迫った。 拳を腹へ入れたまま、ヒットを結界へ叩きつける。 轟音。 紫の膜が大きくへこみ、細い亀裂が一本走った。 シャンパの顔が固まる。

 

「……おい」

 

もう一度見る。 間違いなく亀裂だ。

 

「おい! これ、俺の破壊神の力で作ってんだぞ!」

 

「広域封鎖用に張られた結界ですからね。局所へ想定以上の衝撃を受ければ、亀裂くらいは入るのでは?」

 

ヴァドスが平然と答える。

 

「その言い方で安心できるか!」

 

シャンパは一瞬固まり、意味を理解したところで顔色を変えた。

 

「……待て。それ、かなりヤバくね?」

 

「かなり」

 

「こうしちゃいられねえ!」

 

シャンパはヴァドスの杖を掴んだ。

 

「貸せ!」

 

「シャンパ様。乱暴に扱わないでください」

 

「いいから!」

 

杖の先へ顔を近づけ、どこか遠い第七宇宙へ向けて怒鳴る。

 

「おい! 聞け、兄弟ィィィ!!!」

 

「ビルス様を呼ばれるのですか?」

 

「当たり前だ! アイツんとこのフリーザ、なんかおかしいぞ!!」

 

地上では、ヒットが結界から落下していた。

 

身体を立て直そうとするが、腹へ受けた一撃のせいで力が入らない。地面へ落ちて一度大きく弾み、砂埃を上げながら転がった。 片手を地面へつき、立とうとする。

 

「ぐ……」

 

フリーザはもう目の前へ降りていた。

 

「まだ終わりではありませんよ」

 

ヒットが顔を上げる。 反射的に拳を出し、同時に時とばしを発動した。 フリーザが消える。 拳は空を切った。

 

「遅いですよ」

 

横から蹴りが来る。 ヒットは両腕を交差して受けた。

 

「もう一撃!」

 

黒い脚が防御ごとヒットを空へ打ち上げる。 蹴られた部分がそのまま急所になったかのような威力にヒットは戦慄と衝撃を覚えた。そのまま、再び結界の天井へ粉塵を巻き上げながら衝突。 轟音、という言葉では足りないくらいに今度の音はさらに大きかった。 紫の膜全体へ蜘蛛の巣のような亀裂が走る。

 

「やめろ! 壊れる!」

 

「あなたが張ったのでしょう!」

 

「壊していいとは言ってねえ!」

 

サイタマが地上から見上げる。

 

「すげえな」

 

「すげえで済ませるの?」

 

タツマキは額を押さえた。

 

「結界の構造強度が急速に低下している」

 

ジェノスが解析する。 アマイマスクが聞く。

 

「つまり?」

 

「次はもたない」

 

ヒットが天井から落ちる。 今度は身体を制御できなかった。 地面へ直撃し、一度だけ跳ねたあと仰向けに止まる。 気が急速に小さくなった。

 

 

「ヒット!」

 

シャンパが叫ぶ。 返事はない。 完全に意識を失っていた。 その瞬間、上空の結界から細い破砕音が響いた。 一つだった亀裂が百へ、千へ増え、紫色の膜全体へ広がっていく。 そして、大きなガラスが割れるような音とともに、シャンパの結界が崩壊した。 紫色の光の粒が空へ散る。 結界の外で待っていた人々が、一瞬だけ静かになった。 戦場の中央ではヒットが倒れている。 その前に、ブラックフリーザが立っていた。 傷はある。疲労もある。 それでも、勝者が誰かは誰の目にも明らかだった。 サイタマが拳を軽く上げた。

 

「勝ったな」

 

次の瞬間、地球が爆発したような歓声が上がった。

 

「うおおおおおおおおおお!!!」

 

「フリーザ!」

 

「勝った!」

 

「社長ー!」

 

「フリーザ・コーポレーション!」

 

最初に動いたのはタツマキだった。 フリーザの横へ飛んでくる。

 

「何です?」

 

「お疲れ」

 

念力がフリーザの身体を少し浮かせた。

 

「……?」

 

そこへジェノスが入り、アマイマスクが反対側へ回る。サイタマも歩いてきた。 フリーザの顔に嫌な予感が浮かぶ。

 

「何をなさるおつもりで――」

 

「せーの」

 

サイタマが言った。 四人で持ち上げる。

 

「わっしょい!」

 

フリーザの身体が宙へ飛んだ。

 

「ちょっと!」

 

落ちる。 また持ち上げられる。

 

「わっしょい!」

 

「おやめなさい!」

 

「いいじゃない」

 

タツマキが笑っている。

 

「社長の完全勝利だ」

 

ジェノスは妙に真面目だった。

 

「映像的にも悪くない」

 

アマイマスクまで乗っている。

 

「あなた方、わたしをなんだと思っているのです!」

 

「今日くらいいいだろ」

 

サイタマがまた持ち上げる。

 

「わっしょい!」

 

大型スクリーンには、いつの間にか『FREEZA CORP VICTORY』の文字が表示されていた。 童帝が首を傾げる。

 

「誰が作ったの?」

 

近くのメタルナイト無人機から機械音声が返る。

 

『自動生成』

 

「ノリいいじゃねえか」

 

金属バットが笑う。 アトミック侍も口元を上げた。

 

「社長、楽しそうじゃねえか」

 

「楽しくありません!」

 

空へ放り上げられながら、フリーザが怒鳴る。 ただし、口元は少しだけ上がっていた。 ブラックの色はすでに消えている。 新形態を保てた時間はまだ短い。完全に扱えるとは、とても言えなかった。 それでも手に入れた。 黄金の先にある、黒い力を。

 

サイタマとの月面修行。ジレンから盗んだ制御の発想。ボロス、ジャネンバ、ガロウとの実戦。そしてヒットとの消耗戦。 全部が一本につながった。 フリーザは胴上げされながら空を見上げる。 頭に浮かんだのは、二人のサイヤ人だった。 孫悟空。 ベジータ。 何度も自分を倒し、何度も計画を狂わせた忌々しい存在。 今の自分にはブラックがある。 フリーザの口元が大きく上がった。

 

「ほっほっほ……」

 

下からサイタマが見上げる。

 

「なんか悪いこと考えてない?」

 

フリーザは空中で一回転しながら答えた。

 

「何のことでしょう?」

 

「絶対考えてる」

 

タツマキも即答する。 フリーザは答えなかった。 ただ、心の中ではもう次の相手を決めている。 これで、あのサイヤ人の猿どもを叩きのめせる。

 

「ほーっほっほっほっほ!」

 

「やっぱ悪いこと考えてるな」

 

「失礼ですね!」

 

新形態の獲得。 ヒット撃破。 長く続いた修行の一つの到達点。 宇宙の帝王は、ついに黄金の壁を越えた。 そして次にその力を向ける相手は、もう心の中で決まっている。 孫悟空とベジータ。 フリーザの復讐は、まだ終わっていなかった。

 

 

 




次回、最終回…たぶん、きっと。
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