フリーザ、ヒーローになる ~宇宙の帝王がワンパンマン世界に墜ちた結果~   作:&劉

32 / 32
第二話 KとF

 

 

クウラが蘇る少し前。第七宇宙、地球。西の都から少し離れた一角に、新しい高層ビルが建っている。

 

正面には、見慣れた企業ロゴ。FREEZA CORPORATION――第七宇宙支部。もっとも。フリーザ本人は、この支部を作る気など最初からなかった。

 

「怪人もいないのに、何をしろというのです?」

 

数か月前。ビルスの星でそう言った瞬間、破壊神はつばを飛ばしながら叫んだ。

 

「お前!!!第六宇宙のシャンパんところで会社やってるだろ!!!!こっちでもやれ!!!!」

 

「…なぜこちらでも?」

 

「人間レベルを上げろ!!!」

 

「お断りしたいのですが」

 

「…地球壊すぞ」

 

会話はそれで終わった。めちゃくちゃ無視したかったがそうはいかない。相手はあの破壊神である。しかもビルスは、その後も会うたびに同じ話をした。

 

会社を作れ。第七宇宙でも技術を回せ。危険な星を整理しろ。文明間の交易を増やせ。治安も何とかしろ。人間レベルを上げろ。しまいには「シャンパにできてオレにできないみたいで気に入らない」とまで言い出す始末である。理由などほぼない、というか完全に意地であった。結果、非常にしぶしぶながらフリーザ・コーポレーション第七宇宙支部が西の都に設立された。

 

「毎回聞くけど…何で私が支部長代理なのよ」

 

最上階の執務室で、フブキは書類の束を机へ置いた。向かいにはフリーザが座っている。その後ろにはタツマキ。ソファにはサイタマ。

 

壁際にジェノス。窓辺にはアマイマスク。いつもの顔ぶれだった。

 

「適任だからですよ」

 

フリーザが即答する。

 

「あなた、組織運営が得意でしょう?」

 

「フブキ組と宇宙企業の支部じゃ規模が違うわよ」

 

「基本は同じです」

 

「違う」

 

「人を集め、役割を与え、成果を確認し、問題があれば処理する」

 

「雑すぎるでしょ」

 

「ですが、できていますよね?」

 

フブキが黙った。そこだけは否定できない。第七宇宙支部の実務は、想像以上に複雑だった。怪人がいない代わりに、仕事は別の方向へ広がっている。

 

危険惑星の調査。宇宙航路の護衛。海賊対策。異星文明との交易仲介。医療技術の輸出。カプセルコーポレーションとの共同研究。荒廃惑星の復興支援。戦争状態にある文明への停戦仲介。

 

フブキ組だけを率いていた頃とは、金額も規模も桁が違う。それでもフブキは回している。人を配置し。役割を決め。

 

報告の経路を整理し。仕事のできない者には、できる仕事を与える。姉とは違い、フブキは人間を束ねて結果を出すことに慣れていた。フリーザが支部を任せた理由は、そこにある。

 

「利益率も悪くありません」

 

「そこは褒めてるの?」

 

「当然でしょう」

 

「なら最初からそう言いなさいよ」

 

タツマキが窓の外を見ながら鼻を鳴らす。

 

「危険はないからいいじゃない、フブキ」

 

「…お姉ちゃんが前から出社するって言ってた会社って、ここのことだったのね」

 

「隠してはないわ」

 

「言ってもくれなかったけど…」

 

サイタマが机の菓子へ手を伸ばした。

 

「これ食っていい?」

 

「来客用なのでやめて。」

 

フブキが止める。

 

「俺も客じゃない?」

 

「社員でしょ」

 

「じゃあ社員用の菓子は?」

 

「下の休憩室」

 

「遠いな」

 

「エレベーターで一分です」

 

「面倒」

 

ジェノスがすぐ動いた。

 

「先生。俺が取ってきます」

 

「いや、そこまでしなくていい」

 

アマイマスクが静かに息を吐く。

 

「宇宙規模の企業の役員会議とは思えないな」

 

「役員会議ではありませんよ」

 

フリーザが言う。

 

「今日は視察です」

 

「だから余計にひどい」

 

その時、窓の外から大きな衝撃音が響いた。全員の視線が向く。支部ビルの隣には、広大な訓練施設がある。そこでは三人の男が、一人のナメック星人を相手に動いていた。

 

「遅い!」

 

ピッコロの拳が金属バットの頬を掠めた。

 

「チッ!」

 

金属バットは身体を沈め、そのままバットを横へ振る。ピッコロが軽く跳ぶ。

 

足元をバットが通過した瞬間、アトミック侍が踏み込んだ。一閃。刃がピッコロの胴を捉える。そう見えた。

 

だが。

 

「甘い」

 

緑色の腕が伸びる。刀を握る手首へ巻きつき、軌道を外した。

 

「またそれか!」

 

「同じ手に二度も引っかかる方が悪い」

 

その背後。閃光のフラッシュが消える。速度だけなら三人の中で最も高い。ピッコロの死角へ入り、踵を後頭部へ振り下ろす。

 

当たる寸前。ピッコロの頭だけが僅かに傾いた。空振り。フラッシュの瞳が開く。次の瞬間には腹へ拳が入っていた。

 

「ぐっ!」

 

身体が地面を滑る。

 

「目で追うなと言っただろう」

 

ピッコロが構え直す。

 

「お前は速度に自信がありすぎる。自分より速い相手に出会った時、それだけでは何も残らん」

 

フラッシュが歯を食いしばる。嫌でも思い出す。フリーザ。刀へ手を伸ばすより先に奪われた。その後、本気に近い速度を見せられた時には、何をされたのかすら理解できなかった。自分の最大の武器だった速度が、比較の土俵にすら乗らなかった。

 

だからここにいる。アトミック侍も同じだった。剣を抜く前に刀を奪われた。金属バットは、十五キロの宇宙船を一撃で消す光景を見た。

 

三人とも、フリーザの強さを間近で知った。そして第七宇宙支部の実行部隊へ加われば、一つ特典があると聞いた。

 

第七宇宙の戦士たちから、修行を受けられる。孫悟空。ベジータ。ピッコロ。場合によっては他の戦士。強くなる理由として、それで十分だった。

 

「もう一度来い」

 

ピッコロが言う。金属バットが肩を回す。

 

「今度は当てるぜ…!根性だ」

 

「毎回そう言っているな」

 

「うるせえ!」

 

三人が同時に動いた。今度は先ほどより良い。金属バットが正面から圧力をかける。アトミック侍はその陰へ入る。

 

フラッシュは無理に最速で回り込まず、ピッコロの視線と重心を見ながらタイミングをずらす。ピッコロの口元が僅かに上がった。確実に伸びている。

 

最初はこんなことを受ける気などなかった。そもそも、あのフリーザがやっている会社だ。協力する気などさらさらなかったのだが、ある日突然ビルスが修業中のピッコロを訪ねてきた。驚くピッコロの反応を無視してこう言い放つ。

 

「おいピッコロ。昔、孫悟空の息子を鍛えたらしいな。」

 

「…鍛えましたが」

 

「フリーザんとこのやつらいるだろ。あいつらを鍛えろ」

 

「…理由を聞いてもいいですか?」

 

「人間レベル」

 

「…」

 

「…地球壊すぞ」

 

「困ったらそれか!」

 

理不尽だった。だが始めてみると、悪い気はしていない。三人とも癖は強い。プライドも高い。だが、強くなることには真面目だった。教えれば直す。失敗すれば考える。特にフリーザという、どう足掻いても届かない存在を一度見ているせいか、自分の弱点を認めることへの抵抗が少ない。

 

「そこだ!」

 

アトミック侍の斬撃。ピッコロが初めて半歩退いた。刀身が道着の表面を僅かに切る。

 

「お」

 

金属バットが笑う。

 

「入ったじゃねえか!」

 

「調子に乗るな!」

 

アトミック侍も口元だけは笑っている。フラッシュがすぐ次へ入る。ピッコロは三人の攻撃を処理しながら、内心で頷いた。悪くない。

 

この調子なら、数か月後にはかなり変わる。その時。

 

「精が出ますね」

 

上空から声が降ってきた。三人の動きが止まる。ピッコロが顔を上げた。フリーザたちが訓練場へ降りてくる。

 

「視察か」

 

「ええ」

 

フリーザが笑顔で答える。

 

「ずいぶん立派な先生になられたようで」

 

「誰のせいだと思ってる」

 

「ビルス様でしょう?」

 

「お前のせいだ」

 

「結果として皆さん強くなっている。よいことではありませんか」

 

ピッコロが鼻を鳴らす。

 

「お前に言われると腹が立つな」

 

金属バットがバットを肩へ乗せた。

 

「よう、社長」

 

「こんにちは」

 

アトミック侍は刀を鞘へ戻す。

 

「相変わらず妙な会社だな」

 

「お褒めいただきありがとうございます」

 

「褒めてねえ」

 

フラッシュだけは、数秒フリーザを見てから言った。

 

「……久しぶりだな」

 

「ええ」

 

「次は刀を取らせん」

 

フリーザの笑みが少し深くなる。

 

「期待していますよ」

 

その言い方が、一番腹立たしい。だが以前と違い、フラッシュはすぐに噛みつかなかった。

 

今はまだ届かない。それを認めた上で、届くようになる。ピッコロの修行は、そのための一歩だった。タツマキが三人を見回す。

 

「前よりちょっとマシになったじゃない」

 

「上から言うな、チビ」

 

金属バットが返す。

 

「殺すわよ」

 

「やってみろ」

 

「お姉ちゃん」

 

フブキがすぐ止める。

 

「ここ第七宇宙支部だから。壊したら修繕費こっち持ちなのよ」

 

「……」

 

タツマキが止まった。フリーザが感心したように頷く。

 

「見事ですね。あのタツマキさんを一言で止めました」

 

「事実を言っただけよ」

 

サイタマがピッコロへ手を上げる。

 

「久しぶり」

 

「サイタマ。お前も来たのか」

 

「視察だって」

 

「お前が何を見るんだ」

 

 

「俺も分かんない」

 

 

「だろうな」

 

 

ジェノスは訓練場を見回している。

 

「設備はかなり改善されている。重力制御区画も増設されたのか」

 

「…ベジータが勝手に注文した」

 

 

ピッコロが言う。

 

「請求は?」

 

フブキが聞く。

 

「カプセルコーポレーション」

 

「ならいいわ」

 

アマイマスクが少し呆れた顔をした。

 

「ここも随分馴染んでいるな」

 

「会社というのは、現地化が重要です」

 

 

フリーザが答える。その瞬間。三人が同時に動きを止めた。フリーザ。サイタマ。ピッコロ。ほぼ同時だった。フリーザの笑みが消える。

 

サイタマが空を見上げる。ピッコロは眉を寄せた。

 

「何だ、この気……」

 

一拍遅れ。タツマキも顔を上げる。

 

「何か来る」

 

ジェノスのセンサーが警告を出す。

 

「高エネルギー反応。高速接近」

 

アマイマスクも表情を変えた。

 

「怪人か?」

 

「違いますね」

 

フリーザが空を見た。赤い瞳が細くなる。

 

「ですが」

 

一瞬。困惑。

 

「……まさか?」

 

ピッコロの顔が変わった。知っている。正確には、昔感じたことがある気配。フリーザ一族。そして、その中でももう一人。

 

「まさか」

 

空が鳴った。白い光が大気を裂く。

 

大型宇宙船が支部上空へ現れ、推進器を噴かせながら速度を落とす。社員たちが窓から見上げる。警報が鳴る。フブキがすぐ通信端末を取った。

 

「全館、戦闘警戒。ただし避難命令はまだ出さないで。訓練区画周辺を封鎖。一般社員を窓から離して」

 

指示が速い。ジェノスが一瞬だけフブキを見る。確かに有能だった。宇宙船のハッチが開く。四つの影が降りてくる。サウザー。ドーレ。ネイズ。

 

その中央。長身。白い尾。紫の装甲。フリーザより一回り大きな身体。クウラ。ピッコロの目が見開かれる。

 

「クウラ……」

 

死んだはずだ。少なくとも、この時代に生きている存在ではない。フリーザも数秒、兄を見た。

 

「兄さん」

 

珍しく、声に本物の驚きが混じる。

 

「生きていたのですか」

 

クウラは答えない。地面へ降りる。機甲戦隊がその後ろへ並ぶ。視線だけが、フリーザの全身をゆっくりなぞる。スーツ。企業ロゴ。

 

社員たち。サイタマ。タツマキ。ジェノス。アマイマスク。フブキ。ピッコロ。訓練施設。巨大な支部ビル。そして。弟。長い沈黙。

 

「……なるほど」

 

クウラが初めて口を開いた。

 

「腑抜けたという話は、本当だったか」

 

フリーザが瞬きをした。サイタマがクウラを見る。

 

「兄ちゃん?」

 

「そうですね」

 

「似てるな」

 

「そうですか?」

 

「色とか」

 

「そこですか」

 

クウラの眉が僅かに動く。弟は、自分を前にしてサイタマという男と普通に会話している。

 

「久しぶりに会った弟へ、最初にそれですか」

 

フリーザが肩をすくめる。

 

「兄さんも相変わらずですね」

 

「黙れ」

 

クウラの声が低くなる。

 

「栄光の一族が下等生物と群れ、会社などというくだらんものを作り、英雄などと呼ばれている」

 

支部ビルを睨む。

 

「恥を知れ、フリーザ」

 

フリーザの笑顔が消えた。クウラは続ける。

 

「今すぐやめろ」

 

「何を?」

 

「全部だ」

 

短い返答。

 

「会社も、ヒーローごっこも、地球人との馴れ合いもな。宇宙は恐怖で支配するものだ。父もそうした。オレもそうした。貴様も、かつてはそうだったはずだ」

 

「なるほど」

 

フリーザが笑った。口元だけ。目は笑っていない。

 

「兄さん」

 

「何だ」

 

「知っているでしょう?」

 

声だけは柔らかい。

 

「ボクが、くだらないジョークが嫌いだということくらい」

 

空気が変わった。ピッコロが一歩だけ身体をずらす。

 

タツマキも腕を組んだまま、目を細める。サイタマだけは普段と変わらない。

 

「冗談ではない」

 

クウラが答える。

 

「なら、なお悪いですね」

 

クウラはそれ以上言わなかった。身体を覆う気が膨れ上がる。

 

地面が震える。機甲戦隊の三人が後方へ下がった。

 

「クウラ様……!」

 

肉体が変わる。肩から白い装甲が張り出す。頭部が変形し、角が伸びる。口元を覆うマスク。

 

巨大な最終形態。クウラの全身から放たれた圧が、訓練区画を震わせた。アトミック侍が刀へ手を置く。金属バットも構える。

 

フラッシュの重心が下がる。

 

「手を出すな」

 

ピッコロが止めた。

 

「何でだ」

 

「必要ない」

 

金属バットが眉を寄せる。次の瞬間。クウラが消えた。サウザーの目には見えない。ドーレも。ネイズも。自分たちの主が踏み込んだところまでは分かった。その先がない。

 

距離が一瞬で消える。クウラの拳が、フリーザの顔面へ向かう。そして。止まった。

 

「……何?」

 

クウラの目が見開かれる。フリーザは変身していない。ゴールデンでもない。ブラックでもない。いつもの最終形態。その右手。人差し指一本。クウラの拳の中心へ当てていた。

 

それだけ。拳が進まない。腕も。身体も。全力で押している。なのに、一ミリも動かない。

 

「ばかな……」

 

機甲戦隊には、何が起こっているのか分からない。クウラが消えた。次に見えた時には、フリーザの前で止まっている。それだけ。

 

サウザーが息を呑む。

 

「クウラ様の拳を……指一本で?」

 

フリーザが少し困ったように笑った。

 

「兄さん」

 

「……」

 

「ずいぶん遅いですね」

 

クウラの顔が歪む。

 

「貴様……!」

 

「それに」

 

フリーザの人差し指が、ほんの少しだけ前へ動いた。

 

「軽い」

 

押す。力を込めたようには見えなかった。

 

クウラの身体が消えた。轟音。数百メートル先の訓練用防壁が内側から爆発する。一枚。二枚。三枚。クウラはそのまま何層もの防壁を貫通し、最後に巨大な岩盤へ叩きつけられた。大地が揺れる。

 

粉塵が立つ。

 

「クウラ様!」

 

機甲戦隊が叫ぶ。サウザーが飛び出しかける。ジェノスの腕が上がった。タツマキの髪も浮く。アマイマスクが一歩前へ出る。だが。

 

「やめなさい」

 

フリーザの一言で、自分の側だけでなく機甲戦隊まで一瞬止まった。粉塵の奥。クウラが膝をついている。

 

「ぐ……っ」

 

胸部装甲が割れていた。口元から血が流れる。右腕は震えている。たった一度。指で押された。それだけ。なのに、呼吸が乱れている。

 

「何だ……これは」

 

クウラの声が低く震える。怒り。そして。理解できないものへの驚愕。フリーザはゆっくり歩いてくる。

 

「修行ですよ」

 

「……何?」

 

「修行です」

 

フリーザが自分の拳を見る。

 

「兄さんが腑抜けたとおっしゃった、その地球人たちと一緒にね」

 

サイタマが横から言う。

 

「俺?」

 

「主にあなたです」

 

「そっか」

 

クウラがサイタマを見る。黄色い服。禿げ頭。どう見ても宇宙最強クラスの戦士には見えない。それが、さらに腹立たしい。

 

「貴様が……フリーザを?」

 

「修行相手」

 

サイタマは簡潔に答えた。フリーザが続ける。

 

「兄さん。昔のわたしなら、確かにあなたといい勝負をしたかもしれません」

 

赤い目が細くなる。

 

「ですが、今は違う」

 

クウラの拳が握られる。

 

「……弟の分際で」

 

「そういうところも変わりませんね」

 

「黙れ!」

 

気が爆発する。再び踏み込もうとする。だが、身体が止まる。痛み。先ほどの一撃が、想像以上に深い。フリーザは追撃しない。興味そのものが薄れていた。

 

「弱い方には興味がありません」

 

その一言。クウラの瞳が大きく開く。サウザーたちの表情も固まった。宇宙を支配していたクウラへ。弟が。弱い。そう言った。

 

「ですが」

 

フリーザが踵を返す。

 

「兄弟のよしみです。今日は見逃して差し上げますよ」

 

クウラの全身が震えた。怒りで。

 

「待て」

 

フリーザは止まらない。

 

「待て、フリーザ!」

 

ようやく振り返る。

 

「何でしょう?」

 

クウラは立ち上がった。よろめく。それでも背筋を伸ばす。

 

「四か月だ」

 

フリーザが瞬きをする。

 

「はい?」

 

「四か月待っていろ」

 

クウラの目には、さっきまでとは違うものが宿っていた。侮蔑ではない。敗北を理解した者の怒り。それでも折れていない自負。

 

「四か月で追いつく」

 

機甲戦隊がクウラを見る。

 

「クウラ様……」

 

「弟の貴様に、このオレが負けるわけがない」

 

フリーザは数秒、兄を見た。それから。視線を外す。

 

「そうですか」

 

もう興味がないような声。

 

「期待していますよ」

 

クウラのこめかみに血管が浮く。

 

「貴様……!」

 

だが、もう攻撃しない。今の差で再び挑めば、結果は同じ。それを理解できないほど愚かではなかった。

 

「行くぞ」

 

サウザーたちへ言う。

 

「はっ!」

 

宇宙船へ戻る。クウラは最後に一度だけフリーザを見る。

 

「四か月後だ」

 

「はいはい」

 

「忘れるな」

 

「予定表に入れておきます」

 

「……必ず後悔させてやる」

 

 

ハッチが閉じる。宇宙船が上昇する。推進器が光り。やがて空の彼方へ消えた。静寂。誰もすぐには口を開かなかった。最初に声を出したのはピッコロだった。

 

「……化け物め」

 

「失礼ですね」

 

「褒めてるんだがな」

 

「でしたら結構です」

 

 

金属バットが壊れた防壁を見る。

 

「指一本であれかよ」

 

アトミック侍が腕を組む。

 

「昔なら信じなかったな」

 

フラッシュは何も言わない。ただ、今の一瞬を頭の中で何度も再生している。クウラの速度。フリーザの指。

 

自分には、やはり途中が見えなかった。ジェノスがフリーザを見る。

 

「逃がしてよかったのか」

 

「何がです?」

 

 

「明確に敵対している。四か月後に再び来ると言った」

 

 

「そうですね」

 

 

「なら今ここで排除する方が合理的だ」

 

 

「そもそも殺す気はありませんよ」

 

 

ジェノスの目が僅かに動く。

 

「兄だからか」

 

「それもあります」

 

フリーザは空を見る。兄の船はもう見えない。

 

「それに」

 

 

口元が少し上がる。

 

「兄さんなら、四か月後には確かに仕上げてきます」

 

ピッコロが眉を上げる。

 

「信じてるのか?」

 

「兄さんのプライドの高さは、わたくしが一番よく知っていますから」

 

 

昔。自分より優れていると思い込んでいた。何かにつけて兄という立場を示し。弟に負けることだけは、何より嫌っていた。

 

今、その弟へ完全に負けた。しかも最終形態の全力を。通常形態の指一本で止められた。あのクウラが、それを四か月放置できるはずがない。

 

「おそらく」

 

フリーザが笑う。

 

「死ぬほど修行するでしょうね」

 

サイタマが空を見上げる。

 

「じゃあ強くなるの?」

 

「間違いなく」

 

「へえ」

 

少しだけ興味を持った顔。フリーザがすぐ気づく。

 

「サイタマさん」

 

「何?」

 

「兄さんは、わたくしの相手ですよ」

 

 

「まだ何も言ってないけど」

 

 

「顔に書いてあります」

 

 

「そう?」

 

 

「そうです」

 

 

タツマキが呆れたように言う。

 

「兄弟そろって面倒ね」

 

「あなたに言われたくありません」

 

「何ですって?」

 

 

フブキが壊れた訓練用防壁を見て、額へ手を当てる。

 

「ちょっと待って」

 

「何です?」

 

「これ、誰が修理費出すの?」

 

 

全員が止まる。フリーザが破壊された防壁を見る。

 

「兄さんでしょう」

 

「もう帰ったわよ!」

 

「では請求書を送ってください」

 

 

「住所知らない!」

 

 

「宇宙船の航跡から追跡できます」

 

 

ジェノスが真顔で答える。

 

「可能だ」

 

「やらなくていい!」

 

フブキが叫ぶ。アマイマスクが静かに笑った。

 

「第七宇宙支部も、随分この会社らしくなってきたな」

 

 

「どういう意味です?」

 

 

「そのままの意味だ」

 

 

フリーザは肩をすくめる。視線だけが、もう一度空へ向く。四か月。長いようで短い。その間に自分も修行する。サイタマと。タツマキと。必要なら第七宇宙の戦士とも。

 

兄がどこまで登ってくるか。それを待ちながら、自分はさらに先へ行けばいい。

 

「面白くなってきましたね」

 

 

「何が?」

 

サイタマが聞く。フリーザは笑った。

 

「兄弟喧嘩ですよ」

 

「規模でかそうだな」

 

「そうでしょうか?」

 

ピッコロが即座に言った。

 

「絶対でかいがな」

 

タツマキも頷く。

 

「星壊すなら別の場所でやってよ」

 

フブキがさらに強く言う。

 

「会社の近くでは絶対やめて」

 

「善処します」

 

「その返事、一番信用できないんだけど」

 

四か月後。クウラは戻ってくる。弟へ追いつくために。兄としての自尊心を取り戻すために。そしてフリーザは、それを止める気などなかった。強くなった兄と戦える。その可能性を。むしろ、少し楽しみにしていた。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

ハグキ転生(作者:増えるヤバイ奴)(原作:ワンパンマン)

ワンパンマンに登場する怪人、ハグキになっちゃった転生者が生き抜こうと頑張る話。▼ONE版、村田版ともに最新話までのネタバレを含みます。▼原作既読推奨です。▼【挿絵表示】▼↑主人公ハグキの人間擬態形態『タベル』のイメージです。


総合評価:4811/評価:8.64/連載:20話/更新日時:2026年08月31日(月) 19:05 小説情報

なんかしらんけど原作壊れてたので、ヴィランデクにして王にします。(作者:ジールライ)(原作:僕のヒーローアカデミア)

TS転生してヴィラン『ジョーカー』が、見守っていたら何故か原作が壊れたので、デクを拾って『ヴィランデク』を作ろうと思います。▼ジョーカーの立ち絵が完成しました▼【挿絵表示】▼R18▼https://syosetu.org/?mode=write_novel_submit_view&nid=425831


総合評価:1956/評価:7.44/連載:6話/更新日時:2026年09月10日(木) 08:39 小説情報

転生したのに念能力が使えない男(作者:ゴリラ廻戦)(原作:HUNTER×HUNTER)

ざけんなや オーラが無いんじゃ ドブカスが▼


総合評価:4993/評価:6.36/連載:10話/更新日時:2026年09月04日(金) 12:00 小説情報

デミウルゴスに憑依した一般読者(作者:目ん玉)(原作:オーバーロード)

オバロの不幸はだいたいデミウルゴスのせい。▼じゃあ何とかしたら、どうなるんだろうか?▼てことで、書いてみました。▼二次創作は初です。お手柔らかにお願いします。▼AI使用状況▼・本文不使用▼・校正不使用▼・調査不使用▼設定確認はなろう原文やwikiなどを参照しています。


総合評価:8790/評価:8.31/短編:30話/更新日時:2026年09月11日(金) 17:00 小説情報

おれを誰だと思ってる?ヒグマさんだぞ(作者:親分)(原作:ONE PIECE)

ヒグマさんに転生したお話。▼※再投稿となっております。


総合評価:5930/評価:7.63/完結:6話/更新日時:2026年08月12日(水) 23:20 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>