フリーザ、ヒーローになる ~宇宙の帝王がワンパンマン世界に墜ちた結果~   作:&劉

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第二話 KとF

 

 

クウラが蘇る少し前。第七宇宙、地球。西の都から少し離れた一角に、新しい高層ビルが建っている。

 

正面には、見慣れた企業ロゴ。FREEZA CORPORATION――第七宇宙支部。もっとも。フリーザ本人は、この支部を作る気など最初からなかった。

 

「怪人もいないのに、何をしろというのです?」

 

数か月前。ビルスの星でそう言った瞬間、破壊神はつばを飛ばしながら叫んだ。

 

「お前!!!第六宇宙のシャンパんところで会社やってるだろ!!!!こっちでもやれ!!!!」

 

「…なぜこちらでも?」

 

「人間レベルを上げろ!!!」

 

「お断りしたいのですが」

 

「…地球壊すぞ」

 

会話はそれで終わった。めちゃくちゃ無視したかったがそうはいかない。相手はあの破壊神である。しかもビルスは、その後も会うたびに同じ話をした。

 

会社を作れ。第七宇宙でも技術を回せ。危険な星を整理しろ。文明間の交易を増やせ。治安も何とかしろ。人間レベルを上げろ。しまいには「シャンパにできてオレにできないみたいで気に入らない」とまで言い出す始末である。理由などほぼない、というか完全に意地であった。結果、非常にしぶしぶながらフリーザ・コーポレーション第七宇宙支部が西の都に設立された。

 

◇

「毎回聞くけど…何で私が支部長代理なのよ」

 

最上階の執務室で、フブキは書類の束を机へ置いた。向かいにはフリーザが座っている。その後ろにはタツマキ。ソファにはサイタマ。

 

壁際にジェノス。窓辺にはアマイマスク。いつもの顔ぶれだった。

 

「適任だからですよ」

 

フリーザが即答する。

 

「あなた、組織運営が得意でしょう?」

 

「フブキ組と宇宙企業の支部じゃ規模が違うわよ」

 

「基本は同じです」

 

「違う」

 

「人を集め、役割を与え、成果を確認し、問題があれば処理する」

 

「雑すぎるでしょ」

 

「ですが、できていますよね?」

 

フブキが黙った。そこだけは否定できない。第七宇宙支部の実務は、想像以上に複雑だった。怪人がいない代わりに、仕事は別の方向へ広がっている。

 

危険惑星の調査。宇宙航路の護衛。海賊対策。異星文明との交易仲介。医療技術の輸出。カプセルコーポレーションとの共同研究。荒廃惑星の復興支援。戦争状態にある文明への停戦仲介。

 

フブキ組だけを率いていた頃とは、金額も規模も桁が違う。それでもフブキは回している。人を配置し。役割を決め。

 

報告の経路を整理し。仕事のできない者には、できる仕事を与える。姉とは違い、フブキは人間を束ねて結果を出すことに慣れていた。フリーザが支部を任せた理由は、そこにある。

 

「利益率も悪くありません」

 

「そこは褒めてるの?」

 

「当然でしょう」

 

「なら最初からそう言いなさいよ」

 

タツマキが窓の外を見ながら鼻を鳴らす。

 

「危険はないからいいじゃない、フブキ」

 

「…お姉ちゃんが前から出社するって言ってた会社って、ここのことだったのね」

 

「隠してはないわ」

 

「言ってもくれなかったけど…」

 

サイタマが机の菓子へ手を伸ばした。

 

「これ食っていい?」

 

「来客用なのでやめて。」

 

フブキが止める。

 

「俺も客じゃない?」

 

「社員でしょ」

 

「じゃあ社員用の菓子は?」

 

「下の休憩室」

 

「遠いな」

 

「エレベーターで一分です」

 

「面倒」

 

ジェノスがすぐ動いた。

 

「先生。俺が取ってきます」

 

「いや、そこまでしなくていい」

 

アマイマスクが静かに息を吐く。

 

「宇宙規模の企業の役員会議とは思えないな」

 

「役員会議ではありませんよ」

 

フリーザが言う。

 

「今日は視察です」

 

「だから余計にひどい」

 

その時、窓の外から大きな衝撃音が響いた。全員の視線が向く。支部ビルの隣には、広大な訓練施設がある。そこでは三人の男が、一人のナメック星人を相手に動いていた。

 

◇

「遅い!」

 

ピッコロの拳が金属バットの頬を掠めた。

 

「チッ!」

 

金属バットは身体を沈め、そのままバットを横へ振る。ピッコロが軽く跳ぶ。

 

足元をバットが通過した瞬間、アトミック侍が踏み込んだ。一閃。刃がピッコロの胴を捉える。そう見えた。

 

だが。

 

「甘い」

 

緑色の腕が伸びる。刀を握る手首へ巻きつき、軌道を外した。

 

「またそれか!」

 

「同じ手に二度も引っかかる方が悪い」

 

その背後。閃光のフラッシュが消える。速度だけなら三人の中で最も高い。ピッコロの死角へ入り、踵を後頭部へ振り下ろす。

 

当たる寸前。ピッコロの頭だけが僅かに傾いた。空振り。フラッシュの瞳が開く。次の瞬間には腹へ拳が入っていた。

 

「ぐっ!」

 

身体が地面を滑る。

 

「目で追うなと言っただろう」

 

ピッコロが構え直す。

 

「お前は速度に自信がありすぎる。自分より速い相手に出会った時、それだけでは何も残らん」

 

フラッシュが歯を食いしばる。嫌でも思い出す。フリーザ。刀へ手を伸ばすより先に奪われた。その後、本気に近い速度を見せられた時には、何をされたのかすら理解できなかった。自分の最大の武器だった速度が、比較の土俵にすら乗らなかった。

 

だからここにいる。アトミック侍も同じだった。剣を抜く前に刀を奪われた。金属バットは、十五キロの宇宙船を一撃で消す光景を見た。

 

三人とも、フリーザの強さを間近で知った。そして第七宇宙支部の実行部隊へ加われば、一つ特典があると聞いた。

 

第七宇宙の戦士たちから、修行を受けられる。孫悟空。ベジータ。ピッコロ。場合によっては他の戦士。強くなる理由として、それで十分だった。

 

「もう一度来い」

 

ピッコロが言う。金属バットが肩を回す。

 

「今度は当てるぜ…!根性だ」

 

「毎回そう言っているな」

 

「うるせえ!」

 

三人が同時に動いた。今度は先ほどより良い。金属バットが正面から圧力をかける。アトミック侍はその陰へ入る。

 

フラッシュは無理に最速で回り込まず、ピッコロの視線と重心を見ながらタイミングをずらす。ピッコロの口元が僅かに上がった。確実に伸びている。

 

最初はこんなことを受ける気などなかった。そもそも、あのフリーザがやっている会社だ。協力する気などさらさらなかったのだが、ある日突然ビルスが修業中のピッコロを訪ねてきた。驚くピッコロの反応を無視してこう言い放つ。

 

「おいピッコロ。昔、孫悟空の息子を鍛えたらしいな。」

 

「…鍛えましたが」

 

「フリーザんとこのやつらいるだろ。あいつらを鍛えろ」

 

「…理由を聞いてもいいですか?」

 

「人間レベル」

 

「…」

 

「…地球壊すぞ」

 

「困ったらそれか!」

 

理不尽だった。だが始めてみると、悪い気はしていない。三人とも癖は強い。プライドも高い。だが、強くなることには真面目だった。教えれば直す。失敗すれば考える。特にフリーザという、どう足掻いても届かない存在を一度見ているせいか、自分の弱点を認めることへの抵抗が少ない。

 

「そこだ!」

 

アトミック侍の斬撃。ピッコロが初めて半歩退いた。刀身が道着の表面を僅かに切る。

 

「お」

 

金属バットが笑う。

 

「入ったじゃねえか!」

 

「調子に乗るな!」

 

アトミック侍も口元だけは笑っている。フラッシュがすぐ次へ入る。ピッコロは三人の攻撃を処理しながら、内心で頷いた。悪くない。

 

この調子なら、数か月後にはかなり変わる。その時。

 

「精が出ますね」

 

上空から声が降ってきた。三人の動きが止まる。ピッコロが顔を上げた。フリーザたちが訓練場へ降りてくる。

 

「視察か」

 

「ええ」

 

フリーザが笑顔で答える。

 

「ずいぶん立派な先生になられたようで」

 

「誰のせいだと思ってる」

 

「ビルス様でしょう?」

 

「お前のせいだ」

 

「結果として皆さん強くなっている。よいことではありませんか」

 

ピッコロが鼻を鳴らす。

 

「お前に言われると腹が立つな」

 

金属バットがバットを肩へ乗せた。

 

「よう、社長」

 

「こんにちは」

 

アトミック侍は刀を鞘へ戻す。

 

「相変わらず妙な会社だな」

 

「お褒めいただきありがとうございます」

 

「褒めてねえ」

 

フラッシュだけは、数秒フリーザを見てから言った。

 

「……久しぶりだな」

 

「ええ」

 

「次は刀を取らせん」

 

フリーザの笑みが少し深くなる。

 

「期待していますよ」

 

その言い方が、一番腹立たしい。だが以前と違い、フラッシュはすぐに噛みつかなかった。

 

今はまだ届かない。それを認めた上で、届くようになる。ピッコロの修行は、そのための一歩だった。タツマキが三人を見回す。

 

「前よりちょっとマシになったじゃない」

 

「上から言うな、チビ」

 

金属バットが返す。

 

「殺すわよ」

 

「やってみろ」

 

「お姉ちゃん」

 

フブキがすぐ止める。

 

「ここ第七宇宙支部だから。壊したら修繕費こっち持ちなのよ」

 

「……」

 

タツマキが止まった。フリーザが感心したように頷く。

 

「見事ですね。あのタツマキさんを一言で止めました」

 

「事実を言っただけよ」

 

サイタマがピッコロへ手を上げる。

 

「久しぶり」

 

「サイタマ。お前も来たのか」

 

「視察だって」

 

「お前が何を見るんだ」

 

 

「俺も分かんない」

 

 

「だろうな」

 

 

ジェノスは訓練場を見回している。

 

「設備はかなり改善されている。重力制御区画も増設されたのか」

 

「…ベジータが勝手に注文した」

 

 

ピッコロが言う。

 

「請求は?」

 

フブキが聞く。

 

「カプセルコーポレーション」

 

「ならいいわ」

 

アマイマスクが少し呆れた顔をした。

 

「ここも随分馴染んでいるな」

 

「会社というのは、現地化が重要です」

 

 

フリーザが答える。その瞬間。三人が同時に動きを止めた。フリーザ。サイタマ。ピッコロ。ほぼ同時だった。フリーザの笑みが消える。

 

サイタマが空を見上げる。ピッコロは眉を寄せた。

 

「何だ、この気……」

 

一拍遅れ。タツマキも顔を上げる。

 

「何か来る」

 

ジェノスのセンサーが警告を出す。

 

「高エネルギー反応。高速接近」

 

アマイマスクも表情を変えた。

 

「怪人か?」

 

「違いますね」

 

フリーザが空を見た。赤い瞳が細くなる。

 

「ですが」

 

一瞬。困惑。

 

「……まさか?」

 

ピッコロの顔が変わった。知っている。正確には、昔感じたことがある気配。フリーザ一族。そして、その中でももう一人。

 

「まさか」

 

空が鳴った。白い光が大気を裂く。

 

大型宇宙船が支部上空へ現れ、推進器を噴かせながら速度を落とす。社員たちが窓から見上げる。警報が鳴る。フブキがすぐ通信端末を取った。

 

「全館、戦闘警戒。ただし避難命令はまだ出さないで。訓練区画周辺を封鎖。一般社員を窓から離して」

 

指示が速い。ジェノスが一瞬だけフブキを見る。確かに有能だった。宇宙船のハッチが開く。四つの影が降りてくる。サウザー。ドーレ。ネイズ。

 

その中央。長身。白い尾。紫の装甲。フリーザより一回り大きな身体。クウラ。ピッコロの目が見開かれる。

 

「クウラ……」

 

死んだはずだ。少なくとも、この時代に生きている存在ではない。フリーザも数秒、兄を見た。

 

「兄さん」

 

珍しく、声に本物の驚きが混じる。

 

「生きていたのですか」

 

クウラは答えない。地面へ降りる。機甲戦隊がその後ろへ並ぶ。視線だけが、フリーザの全身をゆっくりなぞる。スーツ。企業ロゴ。

 

社員たち。サイタマ。タツマキ。ジェノス。アマイマスク。フブキ。ピッコロ。訓練施設。巨大な支部ビル。そして。弟。長い沈黙。

 

「……なるほど」

 

クウラが初めて口を開いた。

 

「腑抜けたという話は、本当だったか」

 

フリーザが瞬きをした。サイタマがクウラを見る。

 

「兄ちゃん?」

 

「そうですね」

 

「似てるな」

 

「そうですか?」

 

「色とか」

 

「そこですか」

 

クウラの眉が僅かに動く。弟は、自分を前にしてサイタマという男と普通に会話している。

 

「久しぶりに会った弟へ、最初にそれですか」

 

フリーザが肩をすくめる。

 

「兄さんも相変わらずですね」

 

「黙れ」

 

クウラの声が低くなる。

 

「栄光の一族が下等生物と群れ、会社などというくだらんものを作り、英雄などと呼ばれている」

 

支部ビルを睨む。

 

「恥を知れ、フリーザ」

 

フリーザの笑顔が消えた。クウラは続ける。

 

「今すぐやめろ」

 

「何を?」

 

「全部だ」

 

短い返答。

 

「会社も、ヒーローごっこも、地球人との馴れ合いもな。宇宙は恐怖で支配するものだ。父もそうした。オレもそうした。貴様も、かつてはそうだったはずだ」

 

「なるほど」

 

フリーザが笑った。口元だけ。目は笑っていない。

 

「兄さん」

 

「何だ」

 

「知っているでしょう?」

 

声だけは柔らかい。

 

「ボクが、くだらないジョークが嫌いだということくらい」

 

空気が変わった。ピッコロが一歩だけ身体をずらす。

 

タツマキも腕を組んだまま、目を細める。サイタマだけは普段と変わらない。

 

「冗談ではない」

 

クウラが答える。

 

「なら、なお悪いですね」

 

クウラはそれ以上言わなかった。身体を覆う気が膨れ上がる。

 

地面が震える。機甲戦隊の三人が後方へ下がった。

 

「クウラ様……!」

 

肉体が変わる。肩から白い装甲が張り出す。頭部が変形し、角が伸びる。口元を覆うマスク。

 

巨大な最終形態。クウラの全身から放たれた圧が、訓練区画を震わせた。アトミック侍が刀へ手を置く。金属バットも構える。

 

フラッシュの重心が下がる。

 

「手を出すな」

 

ピッコロが止めた。

 

「何でだ」

 

「必要ない」

 

金属バットが眉を寄せる。次の瞬間。クウラが消えた。サウザーの目には見えない。ドーレも。ネイズも。自分たちの主が踏み込んだところまでは分かった。その先がない。

 

距離が一瞬で消える。クウラの拳が、フリーザの顔面へ向かう。そして。止まった。

 

「……何?」

 

クウラの目が見開かれる。フリーザは変身していない。ゴールデンでもない。ブラックでもない。いつもの最終形態。その右手。人差し指一本。クウラの拳の中心へ当てていた。

 

それだけ。拳が進まない。腕も。身体も。全力で押している。なのに、一ミリも動かない。

 

「ばかな……」

 

機甲戦隊には、何が起こっているのか分からない。クウラが消えた。次に見えた時には、フリーザの前で止まっている。それだけ。

 

サウザーが息を呑む。

 

「クウラ様の拳を……指一本で?」

 

フリーザが少し困ったように笑った。

 

「兄さん」

 

「……」

 

「ずいぶん遅いですね」

 

クウラの顔が歪む。

 

「貴様……!」

 

「それに」

 

フリーザの人差し指が、ほんの少しだけ前へ動いた。

 

「軽い」

 

押す。力を込めたようには見えなかった。

 

クウラの身体が消えた。轟音。数百メートル先の訓練用防壁が内側から爆発する。一枚。二枚。三枚。クウラはそのまま何層もの防壁を貫通し、最後に巨大な岩盤へ叩きつけられた。大地が揺れる。

 

粉塵が立つ。

 

「クウラ様!」

 

機甲戦隊が叫ぶ。サウザーが飛び出しかける。ジェノスの腕が上がった。タツマキの髪も浮く。アマイマスクが一歩前へ出る。だが。

 

「やめなさい」

 

フリーザの一言で、自分の側だけでなく機甲戦隊まで一瞬止まった。粉塵の奥。クウラが膝をついている。

 

「ぐ……っ」

 

胸部装甲が割れていた。口元から血が流れる。右腕は震えている。たった一度。指で押された。それだけ。なのに、呼吸が乱れている。

 

「何だ……これは」

 

クウラの声が低く震える。怒り。そして。理解できないものへの驚愕。フリーザはゆっくり歩いてくる。

 

「修行ですよ」

 

「……何?」

 

「修行です」

 

フリーザが自分の拳を見る。

 

「兄さんが腑抜けたとおっしゃった、その地球人たちと一緒にね」

 

サイタマが横から言う。

 

「俺?」

 

「主にあなたです」

 

「そっか」

 

クウラがサイタマを見る。黄色い服。禿げ頭。どう見ても宇宙最強クラスの戦士には見えない。それが、さらに腹立たしい。

 

「貴様が……フリーザを?」

 

「修行相手」

 

サイタマは簡潔に答えた。フリーザが続ける。

 

「兄さん。昔のわたしなら、確かにあなたといい勝負をしたかもしれません」

 

赤い目が細くなる。

 

「ですが、今は違う」

 

クウラの拳が握られる。

 

「……弟の分際で」

 

「そういうところも変わりませんね」

 

「黙れ!」

 

気が爆発する。再び踏み込もうとする。だが、身体が止まる。痛み。先ほどの一撃が、想像以上に深い。フリーザは追撃しない。興味そのものが薄れていた。

 

「弱い方には興味がありません」

 

その一言。クウラの瞳が大きく開く。サウザーたちの表情も固まった。宇宙を支配していたクウラへ。弟が。弱い。そう言った。

 

「ですが」

 

フリーザが踵を返す。

 

「兄弟のよしみです。今日は見逃して差し上げますよ」

 

クウラの全身が震えた。怒りで。

 

「待て」

 

フリーザは止まらない。

 

「待て、フリーザ!」

 

ようやく振り返る。

 

「何でしょう?」

 

クウラは立ち上がった。よろめく。それでも背筋を伸ばす。

 

「四か月だ」

 

フリーザが瞬きをする。

 

「はい?」

 

「四か月待っていろ」

 

クウラの目には、さっきまでとは違うものが宿っていた。侮蔑ではない。敗北を理解した者の怒り。それでも折れていない自負。

 

「四か月で追いつく」

 

機甲戦隊がクウラを見る。

 

「クウラ様……」

 

「弟の貴様に、このオレが負けるわけがない」

 

フリーザは数秒、兄を見た。それから。視線を外す。

 

「そうですか」

 

もう興味がないような声。

 

「期待していますよ」

 

クウラのこめかみに血管が浮く。

 

「貴様……!」

 

だが、もう攻撃しない。今の差で再び挑めば、結果は同じ。それを理解できないほど愚かではなかった。

 

「行くぞ」

 

サウザーたちへ言う。

 

「はっ!」

 

宇宙船へ戻る。クウラは最後に一度だけフリーザを見る。

 

「四か月後だ」

 

「はいはい」

 

「忘れるな」

 

「予定表に入れておきます」

 

「……必ず後悔させてやる」

 

 

ハッチが閉じる。宇宙船が上昇する。推進器が光り。やがて空の彼方へ消えた。静寂。誰もすぐには口を開かなかった。最初に声を出したのはピッコロだった。

 

「……化け物め」

 

「失礼ですね」

 

「褒めてるんだがな」

 

「でしたら結構です」

 

 

金属バットが壊れた防壁を見る。

 

「指一本であれかよ」

 

アトミック侍が腕を組む。

 

「昔なら信じなかったな」

 

フラッシュは何も言わない。ただ、今の一瞬を頭の中で何度も再生している。クウラの速度。フリーザの指。

 

自分には、やはり途中が見えなかった。ジェノスがフリーザを見る。

 

「逃がしてよかったのか」

 

「何がです?」

 

 

「明確に敵対している。四か月後に再び来ると言った」

 

 

「そうですね」

 

 

「なら今ここで排除する方が合理的だ」

 

 

「そもそも殺す気はありませんよ」

 

 

ジェノスの目が僅かに動く。

 

「兄だからか」

 

「それもあります」

 

フリーザは空を見る。兄の船はもう見えない。

 

「それに」

 

 

口元が少し上がる。

 

「兄さんなら、四か月後には確かに仕上げてきます」

 

ピッコロが眉を上げる。

 

「信じてるのか?」

 

「兄さんのプライドの高さは、わたくしが一番よく知っていますから」

 

 

昔。自分より優れていると思い込んでいた。何かにつけて兄という立場を示し。弟に負けることだけは、何より嫌っていた。

 

今、その弟へ完全に負けた。しかも最終形態の全力を。通常形態の指一本で止められた。あのクウラが、それを四か月放置できるはずがない。

 

「おそらく」

 

フリーザが笑う。

 

「死ぬほど修行するでしょうね」

 

サイタマが空を見上げる。

 

「じゃあ強くなるの?」

 

「間違いなく」

 

「へえ」

 

少しだけ興味を持った顔。フリーザがすぐ気づく。

 

「サイタマさん」

 

「何?」

 

「兄さんは、わたくしの相手ですよ」

 

 

「まだ何も言ってないけど」

 

 

「顔に書いてあります」

 

 

「そう?」

 

 

「そうです」

 

 

タツマキが呆れたように言う。

 

「兄弟そろって面倒ね」

 

「あなたに言われたくありません」

 

「何ですって?」

 

 

フブキが壊れた訓練用防壁を見て、額へ手を当てる。

 

「ちょっと待って」

 

「何です?」

 

「これ、誰が修理費出すの?」

 

 

全員が止まる。フリーザが破壊された防壁を見る。

 

「兄さんでしょう」

 

「もう帰ったわよ!」

 

「では請求書を送ってください」

 

 

「住所知らない!」

 

 

「宇宙船の航跡から追跡できます」

 

 

ジェノスが真顔で答える。

 

「可能だ」

 

「やらなくていい!」

 

フブキが叫ぶ。アマイマスクが静かに笑った。

 

「第七宇宙支部も、随分この会社らしくなってきたな」

 

 

「どういう意味です?」

 

 

「そのままの意味だ」

 

 

フリーザは肩をすくめる。視線だけが、もう一度空へ向く。四か月。長いようで短い。その間に自分も修行する。サイタマと。タツマキと。必要なら第七宇宙の戦士とも。

 

兄がどこまで登ってくるか。それを待ちながら、自分はさらに先へ行けばいい。

 

「面白くなってきましたね」

 

 

「何が?」

 

サイタマが聞く。フリーザは笑った。

 

「兄弟喧嘩ですよ」

 

「規模でかそうだな」

 

「そうでしょうか?」

 

ピッコロが即座に言った。

 

「絶対でかいがな」

 

タツマキも頷く。

 

「星壊すなら別の場所でやってよ」

 

フブキがさらに強く言う。

 

「会社の近くでは絶対やめて」

 

「善処します」

 

「その返事、一番信用できないんだけど」

 

四か月後。クウラは戻ってくる。弟へ追いつくために。兄としての自尊心を取り戻すために。そしてフリーザは、それを止める気などなかった。強くなった兄と戦える。その可能性を。むしろ、少し楽しみにしていた。

 

 

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