フリーザ、ヒーローになる ~宇宙の帝王がワンパンマン世界に墜ちた結果~   作:&劉

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第六話 最凶の一族

 

 ゴールデンフリーザとゴールデンクウラ。二つの黄金が正面からぶつかり合ってから、戦いの様相はそれまでとは明らかに変わっていた。

 

 最大出力だけを比べれば、ほとんど互角だった。クウラの拳はフリーザを吹き飛ばせるし、フリーザの蹴りもまた、クウラの巨体を空の彼方まで押し返せる。速度についても同じで、直線で競えば一方が明確に置き去りにされるほどの差はない。

 

 だからこそ、クウラには理解できなかった。最大出力で劣っているわけでも、速度で置いていかれているわけでもない。それなのに、戦いが続けば続くほど、自分の側だけが少しずつ追い込まれている。

 

◇

 

 フリーザは一気呵成には攻めなかった。距離がある間は指先から細いデスビームを散らし、クウラが正面から突っ込んでくれば、その軌道だけを少し変えるように気弾を置く。誘導し、避けさせ、それでも深追いはしない。

 

 クウラが接近した時だけ、フリーザは近距離戦へ応じた。拳を受け流し、肘を返し、尾で足を払い、再び距離が開けば何事もなかったように遠距離攻撃へ戻っていく。

 

「チッ……!」

 

 クウラの気弾がフリーザの頬を掠めた。フリーザは首をほんの数センチ傾けただけで回避し、そのまま反撃のデスビームをクウラの右肩へ放った。

 

「どうした、フリーザ! さっきまでの勢いがないぞ!」

 

 クウラが一気に距離を詰める。右拳、左拳、肘、膝と連撃を繋ぐが、フリーザは大きく後退せず、一つ一つを最小限の動きで処理していく。

 

 受ける時は受け、外せるものは外す。必要な瞬間だけ黄金の気が接触部分へ集中し、拳を受ける時は腕、蹴りを止める時は脚、体勢を戻す時だけ体幹へ力が集まっていた。

 

 だが、クウラはまだそこまで細かな変化には気づいていなかった。弟が妙に消極的な戦い方をしている、そう見えているだけだった。

 

「なるほど。スタミナ切れでも狙っているのか?」

 

 フリーザは答えない。指先に赤い光を灯し、デスビームを撃つだけだった。

 

「図星らしいな。どうせ貴様も、この黄金の力を初めて手に入れた時はいい気になったのだろう?」

 

 フリーザの目が僅かに細くなる。

 

「何のことでしょう」

 

「惚けるな。これほどの力を得れば、誰でも最初はそうなる。全身から力を垂れ流し、ただ最大出力を維持していれば勝てると思う。そして――燃費を忘れる」

 

 少し離れた場所で戦いを見ていた悟空が、思わず苦笑した。

 

 知っている。あまりにもよく知っている。復活したフリーザが初めてゴールデン形態を披露した時、その致命的な欠点を真正面から指摘したのは悟空自身だった。

 

 クウラはフリーザの沈黙を肯定と受け取ったらしく、さらに笑みを深くした。

 

「図星だな! 安心しろ。オレは貴様とは違う!」

 

 黄金の気が一気に膨れ上がり、クウラの姿が空から消えた。直後、荒野の各所から連続して爆発が起こり、高速移動するクウラがフリーザの周囲を飛び回りながら無数の気弾を撃ち込んでいく。

 

「オレは一日中だって、この姿でいられるぞ!!」

 

 右から気弾、左からさらに数発、上空へ移動した直後には一斉射撃が降り注ぐ。クウラ本人の姿さえ、黄金の線としてしか認識できないほどの速度だった。

 

「バケモンだな、おい……!」

 

 金属バットが顔を庇いながら呟く。アトミック侍も目を細め、フラッシュは一瞬でも見逃すまいと必死に視線を動かしていた。

 

 その中心で、フリーザはかわし続けていた。気弾が顔を狙えば首を傾け、腹へ飛べば腰を少しずらす。避けるのに十センチ必要なら十一センチだけ動き、それ以上の動作は一切しない。

 

「そうですか。一日中とは、それは大変結構ですね」

 

「余裕ぶるな!」

 

 クウラが一気に上昇し、右手へ巨大な気を集めた。あっという間に膨張したエネルギー球を、そのままフリーザ目掛けて叩きつける。

 

 フリーザが初めてその場で止まった。

 

「もらった!」

 

 巨大な光球が直撃する。少なくとも、クウラにはそう見えた。

 

 次の瞬間、フリーザの右腕だけから桁外れの気が一瞬だけ噴き上がった。拳を振るい、光球の側面を殴る。ただそれだけで、クウラが放った巨大な気弾はほぼ直角に軌道を変え、遥か宇宙へ飛び去っていった。

 

「……何?」

 

 遠方で大爆発が起きる頃には、フリーザの右腕を覆っていた強大な気はすでに消えていた。何事もなかったように右手を軽く振り、赤い目で兄を見る。

 

「どうしました、兄さん?」

 

 クウラの眉が動いた。その直後、二人の姿が同時に消えた。

 

◇

 

 空中で拳と拳が衝突する。クウラが押し込み、フリーザが力の流れを外す。続く肘を受け、尾をかわし、膝を防いだ直後、フリーザの拳がクウラの頬へめり込んだ。

 

「ぐっ!」

 

 クウラは身体を捻りながら蹴りを返す。フリーザは前腕で受け止めたが、その瞬間だけ腕へ気が集中し、クウラの蹴りが離れた時にはすでに力は引いていた。

 

「チッ!」

 

 クウラがさらに速度を上げる。右拳をフリーザが首だけ動かしてかわし、続く左拳だけは頬を捉えた。だがフリーザは殴られた瞬間、すでにクウラの腹へ拳を返している。

 

「がっ!」

 

 クウラが後退したところへ顎への追撃が入り、身体が上空へ跳ね上げられる。フリーザは追いかけず、その場で指先を向けた。

 

「ほっ!!」

 

 赤い一閃をクウラは身体を捻ってかわしたものの、右脇腹を僅かに焼かれた。

 

「貴様……!」

 

 クウラが怒りのまま急降下し、頭突きを真正面から叩き込む。フリーザも逃げずに額で受け、衝撃波によって二人の身体が左右へ離れた。

 

「何なんだ……」

 

 クウラの呼吸が僅かに荒くなっている。最大速度はほとんど同じで、最大出力も五分に近い。しかも通常のゴールデンで受けた損傷は、明らかにフリーザの方が大きい。

 

 フルパワーへ移行する前に、クウラは何度も拳を入れ、血まで流させた。同程度の力へ並んだ今なら、自分の方が有利でなければおかしい。

 

「なぜだ……」

 

 考えている間にも、フリーザの拳が顔へ入った。クウラが反撃を放つが外され、次は尾による一撃を腹へ受ける。距離を取った瞬間にはデスビームが飛び、完全には避けきれず肩を貫かれた。

 

「何だ……この差は……!」

 

 決定的な力の差などない。それはクウラ自身が誰より理解していた。

 

 なのに目の前には、到底跳び越えられないほど深い実力の谷が広がっているように感じられた。

 

◇

 

「精度だな」

 

 悟空が言った。

 

「やっぱりそう見えるか」

 

 ピッコロが横目で悟空を見ると、悟空は戦場から目を離さず頷いた。

 

「あいつすげえぞ。ジレンがオラたちにやってたことを、そのまんまクウラにやってっぞ」

 

「ジレンって、前に言ってた奴?」

 

 タツマキが眉を寄せる。

 

「力の大会で、当時のフリーザより明確に強かった奴だ」

 

 ピッコロが答えると、悟空が拳を作りながら続けた。

 

「ジレンってさ、ずっと全力を出してる感じじゃなかったんだ。必要な時だけ出す。殴る瞬間だけ拳、受ける瞬間だけそこ、移動する瞬間だけ足って感じでな」

 

 その説明を聞いた瞬間、タツマキの顔が変わった。

 

「刹那の黄金……」

 

「フリーザ、やっぱそういう修業してたみてえだな」

 

 悟空は楽しそうに笑う。

 

「フルパワーになっても、ずっと全開で力を出してるわけじゃねえんだ。必要なところだけ一瞬フルパワーにして、終わったらすぐ戻してる」

 

 ピッコロが戦場を見つめる。

 

「だから、同じ最大出力でも消耗が違う」

 

「それだけじゃねえぞ。」

 

 悟空は指を一本立てた。

 

「クウラは百の力を出せる。でも実際に攻撃が当たる瞬間、本当に全力をそこへ持ってこれてるかはわかんねえ。フリーザは当たる瞬間に、きっちりと一番でっけえ力を持ってきてる」

 

 ピッコロの目が細くなった。

 

 どれほど難しいことか、気を扱えるからこそ理解できる。気を一点へ集中することも、必要な部位へ力を集めることも原理としては分かる。

 

 だが、あれほどの速度で動きながら、一撃ごとに出力を切り替える。

 

「あの速度で……あの精度か」

 

 驚愕すると同時に、ピッコロの中には別の考えも生まれていた。完全に同じことは無理でも、自分の戦いへ応用できる部分はあるかもしれない。

 

 タツマキも腕を組みながら、二人の黄金を見比べていた。

 

「修行の質の差ね」

 

「何?」

 

 アマイマスクが見る。

 

「クウラは四か月で、あそこまで強くなった。でもフリーザがこの数か月やってたのは、ただ出力を上げる修行じゃない」

 

 タツマキ自身が、それに付き合わされてきた。

 

 見切る。避ける。守る。瞬間的に出力を切り替え、攻撃へ必要以上の力を使わない。地味で、細かく、そして本人に言わせれば何度も死にかけた訓練だった。

 

「その差が、そのまま出てる」

 

 アマイマスクも小さく頷く。

 

「パワーとスピードだけで勝敗が決まるものではない。それは、この数か月で嫌というほど見せられた」

 

「今さら?」

 

「君ほど長く付き合ってはいない」

 

「その言い方、ムカつく」

 

「事実だ」

 

「喧嘩なら後でやれ」

 

 ピッコロが止めた直後、戦場の中心からそれまで以上に大きな衝撃音が響いた。

 

◇

 

 フリーザの右拳が、クウラの腹へ深く入った。

 

「ぐっ……!」

 

 巨体が前へ折れたところへ、左拳が顎を捉える。クウラはすぐに反撃しようとしたが、フリーザはその時にはすでに次の位置へ移っていた。

 

「こちらですよ」

 

「!」

 

 右から蹴り。

 

 クウラが腕で防ぐ。

 

 だが防御した瞬間だけ衝撃が一点へ集中し、腕の骨が軋んだ。

 

「ぐっ!」

 

 クウラが後退したところへ尾が足を払い、姿勢が崩れた一瞬を逃さず胸へ拳が突き刺さった。

 

「がはっ!」

 

 ゴールデンクウラの巨体が初めて大きく吹き飛び、地面を何度も跳ねながら岩山へ激突する。山そのものが半ばから崩れ、大量の瓦礫がクウラを覆い隠した。

 

 しばらくして、瓦礫の中から黄金の腕が現れた。クウラは荒い息を吐きながら立ち上がり、遠くで平然としている弟を睨みつける。

 

「いやあ」

 

「……何だ」

 

 フリーザは口元へ手を添え、いかにも楽しそうに尋ねた。

 

「この四か月、いかがお過ごしでしたか?」

 

「……何?」

 

「ご機嫌よく、お散歩でもされていたのですか?」

 

 数秒の沈黙の後、タツマキが心底嫌そうな顔をした。

 

「うわ……」

 

「…性格が悪い」

 

 アマイマスクまで同じような表情になる。

 

「何か?」

 

 フリーザが遠くから聞き返したため、タツマキはさらに顔をしかめる。

 

「地獄耳ね」

 

 悟空も苦笑していた。

 

「昔っからああいう奴だかんなー」

 

 クウラの全身が怒りで震え始める。

 

「四か月……オレが何をしてきたと思っている……!」

 

「さあ?」

 

「貴様に追いつくために、眠らず、食わず、身体が壊れれば治し、何度でも限界を越えてきた!」

 

「それはそれは!すごーーく大変でしたね、兄さん?」

 

「貴様ァァァァ!!」

 

 クウラが天高く飛び上がった。

 

 片手を掲げる。

 

 そこへ黄金とは異なる、赤黒い巨大な光が生まれた。最初は数メートルだった光球が瞬く間に膨張し、百メートル、五百メートルを超え、やがて空そのものを覆うような巨大さへ成長していく。

 

「おい、またデケェの作りやがったぞ……」

 

 金属バットが上空を睨む。

 

「洒落になってねえな」

 

 アトミック侍の顔からも笑みが消えた。

 

 フラッシュは眉を寄せ、タツマキの髪が念動力で浮き上がる。アマイマスクも空を見上げ、ピッコロは即座に気を高めた。

 

「悟空」

 

「ああ」

 

 悟空も笑ってはいない。

 

 ただし、フリーザだけは違った。

 

「フリーザァァァ!!」

 

 巨大なスーパーノヴァが、地上にいる全員を赤黒く照らす。

 

「オレは貴様のように甘くはない!! 貴様も、そこにいる地球人どもも、一人残らず根絶やしにしてくれる!!」

 

「ちょっと、本気で地球ごと巻き込む気?」

 

 タツマキが舌打ちし、ピッコロと悟空が動こうとする。

 

「大丈夫ですよ」

 

 フリーザの声で、二人が止まった。

 

 フリーザは巨大な光球を見上げながら、満面の笑みを浮かべている。

 

「昔から困ったら大きいものを投げたくなるんですよね、兄さんは?」

 

 クウラの顔が怒りで歪む。

 

「黙れ!! この星ごと消えてなくなれェェェェ!!」

 

 右腕が振り下ろされ、巨大なスーパーノヴァが地球へ落ち始めた。

 

◇

 

 空が消えたと錯覚するほど巨大な光球が降下し、その熱だけで荒野の地面が赤く焼け始めた。タツマキがバリアを展開し、ピッコロも前へ出ようとした直前、黄金の影が一人だけ上昇する。

 

 フリーザだった。

 

 両腕を頭上へ掲げ、スーパーノヴァを真正面から受け止める。接触した瞬間に荒野全体が沈み込み、巨大な圧力によってフリーザの高度が十メートル、二十メートルと下がっていった。

 

「どうした! 押し潰されろ!」

 

 クウラがさらに気を込める。

 

 だが三十メートルほど押し下げられたところで、フリーザの足元へ黄金の気が集中し、落下が完全に止まった。

 

「なかなかの威力ですね」

 

「何?」

 

 フリーザは赤黒い光に照らされながらも、相変わらず笑っていた。

 

「ですが兄さん、これ……見覚えはありませんか?」

 

「……何?」

 

 その言葉を聞いた瞬間、地上の悟空が何かに気づいた。

 

「あ」

 

「どうした」

 

 ピッコロが見る。

 

 悟空はフリーザ、巨大なスーパーノヴァ、そしてクウラを順番に見比べると、心底げんなりした顔をした。

 

「おめえ……このためだけに、わざわざオラを呼んだんか?」

 

「ほっほっほ」

 

「…ほんっっっと嫌な奴だな、おめえ…」

 

「お褒めいただきありがとうございます」

 

「褒めてねえっての」

 

 クウラの身体が硬直した。

 

「……孫悟空」

 

 遥か昔の記憶が蘇る。

 

 地球。

 

 スーパーサイヤ人。

 

 自分が放ったスーパーノヴァ。

 

 その下で、両手を前へ構えた孫悟空。

 

 かめはめ波。

 

 そして押し返された、自分の最大の攻撃。

 

 太陽へ消えていった自分。

 

「まさか……」

 

 クウラの顔から血の気が引いた。

 

 フリーザはそれを見逃さない。

 

「思い出しました?」

 

「貴様……!」

 

 フリーザの腕が少しずつ上がり始めた。それに伴い、スーパーノヴァそのものが落下を止め、逆方向へ押し戻されていく。

 

「な……!」

 

 数センチ。

 

 さらに。

 

 確実に。

 

 弟が兄の最大技を押し返している。

 

「兄さん。あなたは進化したつもりかもしれませんが、結局、底の部分は何も変わっていません」

 

「黙れ……!」

 

 クウラが両腕を震わせる。

 

「いつものポーカーフェイスはどうしました? あなたの心の悲鳴が、こちらまで聞こえてきますよ」

 

「黙れと言っている!」

 

「気づいているのでしょう?」

 

 フリーザの黄金がさらに濃くなる。

 

「今のあなたでは、わたしには勝てない」

 

「違う!」

 

「でも認めたくない」

 

「黙れ!」

 

「――弟なんかに、負けるもんか」

 

 フリーザは、心底楽しそうに笑った。

 

「ってね」

 

「黙れェェェェェェェ!!」

 

 クウラの気が爆発した。

 

 残っていた全てを、スーパーノヴァへ注ぎ込む。黄金も、気も、怒りも、兄としてのプライドも、文字通り全てだった。

 

「オレはクウラだ! 貴様の兄だ! 弟の貴様に負けるわけがない!!」

 

 スーパーノヴァが再び数メートルずつ下降する。

 

 フリーザの腕も押し下げられた。

 

 そこで。

 

 フリーザは笑うのをやめた。

 

 ほんの一瞬だけ、冷たい無表情へ戻る。

 

「そうですか」

 

 次の瞬間、全身を覆っていた黄金の気が完全に一点へ集中した。

 

「では、もう一度――負けてください」

 

「何――」

 

 押す。

 

 それだけだった。

 

 だが、スーパーノヴァが弾かれた。

 

「なっ!?」

 

 クウラの目が見開かれる。

 

 先ほどまで確かに拮抗していたはずの巨大光球が、信じられない速度で自分へ戻ってくる。

 

「ばかな!」

 

 クウラが後退する。

 

 だが巨大すぎる。

 

 逃げ切れない。

 

「待て!」

 

 両手を突き出し、自分自身が作ったスーパーノヴァを今度は受け止める側へ回る。

 

「ぐ……止まれ!」

 

 止まらない。

 

「止まれェェェ!!」

 

 フリーザは遠く離れた空で、両腕を広げながらいつもの笑みを浮かべていた。

 

「兄さん」

 

「フリーザァ!」

 

「おそらくですが」

 

 口元が大きく吊り上がる。

 

「前も、こんな顔で死んでいったんでしょうね」

 

「貴様ァァァ!!」

 

 次の瞬間。

 

 クウラの身体は、自ら生み出したスーパーノヴァに完全に飲み込まれた。そのまま巨大な光球ごと地球の空を離れ、宇宙の彼方へ猛烈な速度で消えていった。

 

◇

 

 数秒間、何も起きなかった。

 

 やがて夜空の遥か彼方で、一つの光点が生まれた。白、赤、黄金が入り混じった光は一瞬で膨張し、地球からでもはっきり見えるほど巨大な爆発として宇宙に花開いた。

 

 その光を見届けたフリーザの口から、高らかな笑い声が漏れる。

 

「ほーーーーーーーーーほっほっほっほっほっほっ!」

 

 周囲にいた全員が黙った。

 

「いやあ、最高でしたね」

 

「……何が?」

 

 タツマキが嫌そうに聞く。

 

「兄さんの顔ですよ!いつも澄ました顔をしているあの兄さんが、自分の技を押し返され、目を見開き、絶望しながら消えていく…」

 

 フリーザは肩まで震わせて笑っていた。

 

「ほーーーーーーーーーーほっほっほっほっ!」

 

 タツマキが完全な無表情になる。

 

「ねえ」

 

「何でしょう?」

 

「なんでこんな奴が英雄扱いされてんの?」

 

「失礼ですね」

 

 アマイマスクも額へ手を当てる。

 

「今さらだが、世間には見せない方がいい顔をしている」

 

「どの顔です?」

 

「今のだ」

 

 ピッコロも呆れていた。

 

「一応聞くが…兄だろう?」

 

「それがどうかしましたか?」

 

「いや……もういい」

 

 金属バットが首を傾げる。

 

「…仲悪かったのか?」

 

「普通です。ただし情とかそういうのはありませんがね」

 

「絶対普通じゃねえ」

 

 アトミック侍も苦笑していた。

 

「血の繋がった兄貴を吹っ飛ばして、あんな楽しそうに笑う奴は初めて見たぞ」

 

 フラッシュは何も言わなかった。この会社に関わってから理解できないものが増えたが、その大半は目の前の社長に原因がある気がしていた。

 

 悟空が空を見上げた後、改めてフリーザを見る。

 

「フリーザ。おめえ、あれ押し返すところクウラに見せるためだけにオラを呼んだんだろ?」

 

「ええ」

 

「…」

 

「これはプライドの勝負です。兄さんのプライドを徹底的にへし折ることがわたしの勝利条件でした」

 

「…」

 

「プライドの高い兄が、自分を倒した相手の目の前で同じやられ方で負けていく。しかもその相手は憎たらしい弟」

 

 フリーザが満面の笑みを浮かべる。

 

「完璧な勝利です」

 

「……」

 

 悟空は数秒黙り、やがて顔をしかめた。

 

「かーっ…ほんっっと、やだおめぇ…」

 

「ほっほっほ!」

 

 フリーザは満足そうに宇宙を見上げた。

 

 兄は強かった。

 

 予想以上に。

 

 通常のゴールデンなら、明確に上回られた。フルパワーゴールデンまで引き出され、サイタマでもヒットでもガロウでもない、自分と同じ血を持つ者がそこまで登ってきた。

 

 その一点だけなら。

 

「悪くありませんでしたよ、兄さん」

 

 誰にも聞こえないほど小さな声で、フリーザはほんの少しだけ本音を漏らした。

 

◇

 

 光も音もない宇宙空間で、先ほどの爆発によって生まれた残光だけがゆっくり消えていく。

 

 その中心には、クウラだったものが漂っていた。

 

 黄金の輝きは完全に失われている。両腕はほとんど形を残さず、脚も原型を留めていない。胴体は大きく欠損し、顔も半分以上が失われていた。

 

 もはや生物としての形を維持できているとは言い難い。

 

 意識が残っているのかどうかさえ分からなかった。このままなら数分、あるいはそれより短い時間で、クウラは再び死ぬ。

 

 そのはずだった。

 

 宇宙の暗闇から、小さな何かが接近してきた。

 

 あまりにも小さく、普通なら視認することすら難しい黒い金属片だった。だが単なる破片ではない。

 

 機械。

 

 極小のマイクロチップ。

 

 それは宇宙を漂うクウラの焼け焦げた肉体へ吸い寄せられるように近づき、そのまま静かに貼りついた。

 

 数秒間、何も起こらなかった。

 

 やがてチップの中央に、小さな赤い光が灯る。

 

 ピッ、と微かな機械音が鳴った。

 

 それを合図に、クウラの残骸を覆うように極細の金属線が一本、また一本と伸び始める。

 

 死へ向かっていた身体へ。

 

 機械が。

 

 ゆっくりと。

 

 食い込み始めていた。

 

 

 

 

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