フリーザ、ヒーローになる ~宇宙の帝王がワンパンマン世界に墜ちた結果~   作:&劉

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特別編 100億パワーの戦士達
第一話 新ナメック星の危機


 

 

 クウラとの決着から、三か月が経っていた。あの戦いでフリーザは兄を宇宙の彼方へ吹き飛ばし、その後は何事もなかったように会社経営と修行へ戻っている。地球もまた、宇宙規模の兄弟喧嘩が行われたことなど忘れたように、いつもの時間を取り戻していた。

 

 少なくとも、その日の朝までは。

 

 第七宇宙、地球。雲より高い場所に浮かぶ神殿で、ピッコロはデンデの話を黙って聞いていた。

 

「間違いないのか?」

 

「はい」

 

 デンデの表情は険しい。

 

「新ナメック星から連絡がありました。星の周囲を、巨大な機械のようなものが覆い始めているそうです」

 

「機械?」

 

「僕にも詳しくは分かりません。ただ、普通の宇宙船や基地ではないようです。星そのものへ根を張るみたいに広がっている、と」

 

 ピッコロの眉間へ皺が寄った。

 

 新ナメック星。

 

 かつてフリーザによって故郷の星を失ったナメック星人たちが、新しく移り住んだ場所だ。ピッコロ自身に直接の故郷という感覚は薄くとも、自分と同じ種族が暮らす星であることに変わりはない。

 

「被害は?」

 

「すでに何人かが連れ去られています」

 

「何だと?」

 

「機械からロボットのようなものが出てきて、村を襲ったそうです。殺されたという報告はまだありません。でも、抵抗した何人かのナメック星人が、そのままどこかへ運ばれたと……」

 

 ピッコロの表情から迷いが消えた。

 

「悟空とベジータには言ったのか?」

 

「探しました。でも、二人とも今は地球にいません」

 

「またビルスのところか」

 

「はい」

 

 デンデが少し困ったように頷いた。

 

「最近、前より頻繁に行くようになった気がします」

 

 ピッコロはすぐに理由を察した。

 

「フリーザに負けてからか」

 

「たぶん……」

 

 ブラックフリーザ。

 

 その姿へ到達したフリーザは、身勝手の極意を使う悟空と我儘の極意を使うベジータを相手にしてなお勝利した。

 

 当然、二人がそれで納得するはずもない。特にベジータに至っては、フリーザに再び上を行かれたという事実だけで修行量が目に見えて増えているらしい。

 

「ブルマに連絡しろ。あいつならウイスと直接話せる」

 

「もうお願いしました」

 

「返事は?」

 

「ないそうです」

 

 ピッコロは額を押さえた。

 

「こんな時に限って……」

 

「でも、ウイスさんがすぐ通信に出ないことは珍しくないみたいです」

 

「知ってる」

 

 悟空やベジータがビルスの星へ行っている最中、地球側から連絡がつかないことは以前にもあった。ウイス自身が何かしている場合もあれば、単に杖を確認していないこともある。

 

 待っていれば、いずれ連絡はつく。

 

 だが、新ナメック星では今この瞬間にも同胞が連れ去られている。

 

「待っていられん。俺だけでも行く」

 

「ピッコロさん」

 

「悟空たちには連絡を続けてくれ。俺はブルマのところへ行く」

 

「分かりました」

 

 ピッコロは神殿の端まで歩くと、そこから一気に空へ飛び出した。白いマントが風を受けて大きくなびき、数秒後には神殿から遠く離れていた。

 

 

 カプセルコーポレーションへ到着した時にも、ブルマはまだウイスへ連絡を試みていた。

 

「出ない!」

 

 研究室の大型画面を睨みながら、ブルマが苛立たしげに端末を机へ置く。

 

「もう一回だ」

 

「これで六回目よ!」

 

「七回目をやれ」

 

「あんたねえ」

 

「人が攫われてるんだ」

 

 それを言われると、ブルマも強くは反論できない。ぶつぶつ文句を言いながら、再びウイスへの通信を開く。

 

 応答なし。

 

「ダメ」

 

「…仕方ない、か」

 

 ピッコロはすぐに頭を切り替えた。

 

「宇宙船はどうした。前に使っていた奴があるだろ」

 

「今は無理」

 

「何?」

 

「改修中なのよ」

 

 ブルマは研究室の奥に表示された設計図を指差した。

 

「第六宇宙との航行データとか、フリーザのところから持ってきた異星技術とか、メタルナイトの技術とか、いろいろ追加してる最中。エンジンまで外してるから、今日すぐ飛ばすなんてできないわ」

 

「他には?」

 

「一応、すぐ出せる宇宙船ならあるけど……」

 

「それでいい。手配してくれ」

 

「いや、でもあれは――」

 

「ブルマ」

 

 ピッコロが被せた。

 

「とにかく手配してくれ。設備なんて最低限でいい。新ナメック星へ着ければそれでいい」

 

「だから最後まで聞きなさいって」

 

「時間がない」

 

「もう!」

 

 ブルマが端末を机へ叩くように置いた。

 

「分かったわよ!」

 

 ピッコロはようやく少しだけ肩の力を抜いた。

 

「助かる」

 

「その代わり、後から文句言わないでよ」

 

「何の話だ?」

 

「もう遅いわ」

 

 ブルマは明らかに何かを隠している顔をしていた。

 

 ピッコロがそれを追及しようとした、その時だった。

 

 研究室の外から、複数の足音が聞こえてきた。

 

 自動扉が開く。

 

 最初に入ってきたのは、小柄な白い身体だった。

 

「……で」

 

 ピッコロの顔が一気に険しくなる。

 

「貴様が来たというわけか、フリーザ」

 

 フリーザは、いかにも楽しそうに笑っていた。

 

「あなたが呼んだのでしょう?」

 

 その後ろから、サイタマが入ってくる。

 

「よ」

 

 さらにジェノス。

 

「状況については移動中に概要を確認した」

 

 タツマキは宙へ浮いたまま、面倒そうな顔をしている。

 

「新ナメック星って、どのくらい遠いの?」

 

 最後にメタルナイトの無人機が入ってきた。

 

『航路データは取得済みだ』

 

 ピッコロは無言で一行を見た。

 

 それから。

 

 ゆっくりブルマを見る。

 

 ブルマも見る。

 

「何よ」

 

「……」

 

「あんたがよく聞かないからでしょ」

 

「俺は宇宙船を手配してくれと言った」

 

「だからしたじゃない」

 

「これは宇宙船じゃない」

 

「移動手段込みよ」

 

「人まで付いてきてるぞ」

 

「サービスよ」

 

「要らん」

 

「今さらキャンセル不可」

 

 ブルマはこちらを睨みながら言った。

 

 こうなった時のブルマには何を言っても無駄だ。何か言おうものなら機嫌が悪くなり面倒くささが10倍になる。それを長年の経験で知っているピッコロは、額へ手を当てながら追及を諦めた。

 

「それで」

 

 ピッコロが改めてフリーザを見る。

 

「何でお前が来る」

 

「何で、と言われましても」

 

 フリーザは両手を背中で組んだ。

 

「救援要請があったのでしょう?」

 

「俺がブルマに頼んだだけだ」

 

「そしてブルマさんから、我が社へ話が来た」

 

「勝手に回したのか」

 

「一社で抱えるより、外注した方が早い仕事もあるのよ」

 

 ブルマは悪びれもしない。

 

「そもそもフリーザ・コーポレーションには、宇宙救難用の船もあるし」

 

『航行速度も、現在使用可能なカプセルコーポレーション製船舶より上だ』

 

 メタルナイトが補足する。

 

「ということです」

 

 フリーザが笑う。

 

「今回はフリーザ・コーポレーションにおけるヒーロー活動の一環として、お引き受けしましょう」

 

「ヒーロー活動」

 

 ピッコロの顔が露骨に引きつった。

 

「何か?」

 

「お前の口からその言葉が出ると、まだ違和感がある」

 

「時代に取り残されていますね、ピッコロさん」

 

「誰のせいだと思ってる」

 

 サイタマが何となく頷いた。

 

「まあ、俺も最初は変だと思った」

 

「サイタマさん?」

 

「今もたまに思う」

 

「あとでお話があります」

 

「何でだよ」

 

 ピッコロは二人を無視して、本題へ戻した。

 

「待て。問題はそこじゃない」

 

 フリーザを見る目が一段険しくなる。

 

「新ナメック星だぞ」

 

「存じています」

 

「ナメック星人がいる」

 

「もちろん存じています」

 

「なら分かるだろう」

 

 ピッコロは低い声で言った。

 

「お前が昔、ナメック星で何をしたか…忘れたとは言わせんぞ」

 

 研究室の空気が少し変わった。サイタマはフリーザの過去について、大まかなところまでは聞いている。

 

 ジェノスもタツマキも、フリーザが宇宙規模の犯罪者だったこと。惑星を侵略していたこと。邪魔なら星ごと消していたこと。だいたいのことについては聞いている。

 

 ナメック星ではドラゴンボールを求めて村々を襲い、多くのナメック星人を殺したことも。少なくとも、笑って話すような過去ではない。だが、フリーザは笑ったままだった。

 

「もちろん覚えていますよ」

 

「なら――」

 

「過去は過去でしょう?」

 

 ピッコロのこめかみに血管が浮いた。

 

 サイタマが焦って横を見る。

 

「おい」

 

「何でしょう?」

 

「そこはもうちょい言い方あるだろ」

 

 ジェノスも珍しく同意した。

 

「少なくとも謝罪の意思を示す方が合理的だと思われる」

 

 タツマキに至っては、完全に呆れた顔をしている。

 

「普通、反省してるふりくらいするでしょ」

 

「ふりでいいんですか?」

 

「そこに引っかかるな!」

 

 ピッコロが怒鳴ったが、フリーザはまったく動じない。

 

「皆さん、少々感情的ですね」

 

「お前が言うな」

 

 サイタマが即座に返した。

 

 フリーザは一度咳払いする。

 

「ですが、考えてもみてください」

 

「何をだ」

 

「過去に起きたことを、いつまでも引きずる」

 

 ピッコロの顔がますます険しくなる。

 

「憎しみを忘れず」

 

 フリーザは穏やかな口調のまま続ける。

 

「次の世代へ渡し」

 

 そして、にっこり笑った。

 

「さらなる争いを生む」

 

「……」

 

「ナメック星人とは」

 

 赤い目が細くなる。

 

「そんな愚かな種族ではないでしょう?」

 

 沈黙。同時に、ピッコロの拳が震えた。サイタマがあまりのひどさに顔をしかめる。

 

「むちゃくちゃだな、お前…」

 

「何がです?」

 

「自分が原因なのに、相手が許さなかったら相手が悪いみたいに言ったぞ」

 

「見事な責任転嫁だ」

 

 ジェノスまで冷静に断じる。

 

 タツマキは腕を組みながら嫌そうに言った。

 

「ほんっと性格悪いわね」

 

「ナメック星人の方々は非常に穏やかですよ、タツマキさん」

 

「あんたのことよ!」

 

 メタルナイトの無人機だけは、特に反応しなかった。

 

『過去の倫理的評価について議論している時間はない』

 

「お前まで」

 

 ピッコロが睨む。

 

『事実だけを述べるぞ。新ナメック星では現在も被害が拡大している可能性が高い』

 

 正論だった。

 

 それだけに腹が立つ。

 

 ピッコロは一度大きく息を吐き、怒りを押し込めた。背に腹は代えられない。悟空とベジータはいない。相手の戦力も不明。ナメック星人がすでに攫われている以上、戦力は多い方がいい。

 

 そして何より、ここにいる連中は腹が立つほど強い。

 

「……分かった」

 

 ピッコロが吐き捨てるように言った。

 

「連れていく」

 

「ありがとうございます」

 

「ただし」

 

 ピッコロがフリーザを指差す。

 

「向こうで変な真似をしたら、俺が許さんからな」

 

「分かっていますよ」

 

 即答、そして笑顔。

 

 サイタマがフリーザを見る。

 

 ジェノスも見る。

 

 タツマキも見る。

 

 誰一人、フリーザを信用していない。

 

「何です?」

 

「いや」

 

 サイタマが言う。

 

「絶対なんかやる顔だなって」

 

「失礼ですね」

 

「師匠に同意します」

 

「私も」

 

「なぜ皆さん、わたくしへの信用がこんなにも低いのでしょう」

 

「自分で考えろ」

 

 ピッコロの答えは早かった。

 

 

 それから一時間も経たないうちに、フリーザ・コーポレーション所有の宇宙船がカプセルコーポレーションの発着場へ降りてきた。戦闘用というより救難・輸送任務を想定した船でありながら、フリーザ軍時代の技術を基礎に何度も改修され、地球製の航行機関やメタルナイトの自動制御システムまで追加されている。

 

 ピッコロは乗り込む前に一度だけ空を見上げた。ウイスからの連絡はまだなく、悟空とベジータがいつ戻るかも分からない。

 

 ならば、自分たちで行くしかない。

 

「ピッコロ」

 

 ブルマが声をかける。

 

「何だ」

 

「何か分かったらすぐ連絡して」

 

「ああ」

 

「それと」

 

 少しだけ声を落とす。

 

「気をつけなさいよ」

 

 ピッコロは短く頷いた。

 

「お前も悟空たちへの連絡を続けてくれ」

 

「分かってる」

 

 乗降口の向こうでは、サイタマが船内を見回していた。

 

「これ飯ある?」

 

「ありますよ」

 

 フリーザが答える。

 

「どれくらい?」

 

「あなた基準で用意させています」

 

「ならいいや」

 

 ジェノスはすでに座席へ座り、船のシステムへ自分の端末を接続している。

 

「新ナメック星周辺の通信記録を確認する。敵性機械の情報が得られる可能性がある」

 

『俺も解析する』

 

 メタルナイトの無人機が隣へ移動した。

 

「私、何すればいいの?」

 

 タツマキが不満そうに腕を組む。

 

「到着するまでお休みください」

 

「子供扱いすんな」

 

「では船を壊さないでください」

 

「今壊してやろうかしら」

 

「それは困りますね」

 

 いつも通り。

 

 あまりにも。

 

 いつも通りだった。

 

 だからこそ、ピッコロは嫌な予感がした。

 

 新ナメック星を覆う巨大な機械。

 

 住民を連れ去るロボット。

 

 目的不明、敵の正体も分からない。

 

 それだけなら、これまでにも似たような事件はあった。

 

 だが。何か引っかかる。

 

 ピッコロは船内へ入り、最後に乗降口の外を見た。

 

「出せ」

 

「了解しました」

 

 フリーザが指示を出すと、乗降口が閉じた。

 

 巨大宇宙船のエンジンが起動する。低い振動が発着場を揺らし、船体がゆっくりと浮き上がった後、一気に青空へ向かって加速した。

 

 数十秒後には大気圏を突破し、青い地球が後方へ小さくなっていく。

 

 目的地は新ナメック星。

 

 そこではすでに誰も知らない機械が、星そのものをゆっくりと飲み込み始めていた。

 

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