フリーザ、ヒーローになる ~宇宙の帝王がワンパンマン世界に墜ちた結果~   作:&劉

43 / 59
第五話 大地を埋め尽くす軍勢・メタルクウラ軍団

 

 ゴールデンメタルクウラを前にして、サイタマはフリーザの片足を掴んでいた。投げられる側のフリーザも抵抗するどころか、フルパワーゴールデンの気を全身へ巡らせ、真正面に立つ兄だけを見据えている。

 

「本当に全力でいいんだな?」

 

「もちろんです。遠慮などすると査定に関わりますよ」

 

「……じゃあ、行くぞ」

 

 サイタマはフリーザの足首を握ったまま腰を大きく捻り、その身体を一気に振り回した。たった一度の動作だけで周囲の空気が引き裂かれ、足元の大地にはサイタマを中心として円形の亀裂が走る。

 

「おらっ!」

 

 手が離れた瞬間、フリーザは砲弾などとは比較にならない速度で撃ち出された。規格外の筋力から生まれた初速へフリーザ自身の加速まで重なり、その身体は黄金の一本線となって新ナメック星の空を貫いていく。

 

「何をする気だ?」

 

 ゴールデンメタルクウラが初めて明確に身構えた。その正面では、飛ばされているフリーザが両拳を突き出し、全身を覆っていた黄金の気を巨大な球状のオーラへ変えている。

 

「キィエエエエエエエエ!!」

 

 ノヴァストライク。全身を膨大な気で包み、渾身の力で突進し、その肉体そのものを巨大な砲弾として相手へ叩き込む技だった。

 

 ただし、今回はフリーザ自身の力だけではない。サイタマという規格外の推進力によって射出されたうえに本人の加速まで加わり、通常ならあり得ない速度と威力を備えたノヴァストライクへ変貌している。

 

 その光景を見たピッコロの脳裏には、かつて力の大会で目にした場面が一瞬だけ蘇った。絶対的な強さを誇るジレンへ最後まで食らいつき、悟空と共に自分の身体ごと突っ込んで場外へ押し出した、あの時のフリーザによく似ている。

 

 自分一人の力で届かないなら、使えるものを使って届けばいい。本人なら決して素直には認めないだろうが、フリーザは以前にもそれで圧倒的な相手を倒している。

 

「くだらん!」

 

 ゴールデンメタルクウラも回避は選ばなかった。両腕を真正面へ突き出し、黄金の球体となって迫る弟を力ずくで受け止める。

 

 激突した瞬間、新ナメック星の大気が爆発したような轟音が響いた。衝撃波が地面を駆け抜け、ゴールデンメタルクウラの両足は大地へ沈み込み、そのまま何十メートルも後方へ押し込まれていく。

 

「ぐっ……!」

 

「まだですよ、兄さん!」

 

 クウラの足が二本の深い溝を刻んでも、フリーザは押し込む力を緩めなかった。サイタマから与えられた初速が失われると、今度は自分自身の全出力をノヴァストライクへ注ぎ込み、兄の身体を正面から削るように前進を続ける。

 

「この程度で、オレを――」

 

 言葉の途中で、不快な金属音が混じった。ゴールデンメタルクウラの胸部に一本の亀裂が走り、それが肩、腕、頬へと急速に広がっていく。

 

「馬鹿な……!」

 

 クウラは即座に自己修復を開始した。砕けかけた装甲の隙間から銀色の物質が滲み出し、走った亀裂を埋めようと蠢き始める。

 

 フリーザは、その変化をゼロ距離から見逃さなかった。再生速度そのものは驚異的だが、損傷した瞬間と修復完了の間には、ほんの僅かな空白が存在している。

 

「やはり再生には、少しだけ時間が必要なようですね」

 

「何だと?」

 

「でしたら、その時間すら差し上げなければいい!」

 

 フリーザはノヴァストライクを解除すると、片手でクウラの胸部を掴んで強引にその場へ固定した。空いたもう一方の掌を腹部へ押し当て、その中心へ禍々しい紫色の気を急速に凝縮していく。

 

「フリーザ、貴様――!」

 

「この距離なら、避けようがないでしょう?」

 

 巨大な球体を作る必要などなかった。二人の身体の隙間に生まれた小さな光球には、それでも周囲の空間を震わせるほどのエネルギーが圧縮されている。

 

「待て!」

 

「デスボール!」

 

 ゼロ距離で紫色の光が炸裂し、二人の姿を一瞬で呑み込んだ。次いで爆発が大地へ伝わり、新ナメック星の一角そのものが巨大な閃光に覆われる。

 

◇

 

 衝撃波が周囲へ襲いかかった瞬間、タツマキはナメック星人たちを包み込む念動力の障壁を展開した。ピッコロとジェノスも反射的に身構え、飛来する岩石や金属片をそれぞれ気弾と焼却砲で撃ち落としていく。

 

「フリーザの奴、無茶苦茶しやがる!」

 

 爆発の中心では、ゴールデンメタルクウラの身体が内側から崩壊していた。修復する端から金色の装甲が砕け、内部の機械構造まで溶解し、再生速度そのものが破壊へ追いつけなくなっていく。

 

「フリーザァァァァァ!!」

 

 クウラの絶叫が爆音へ掻き消された。直後にはさらに大きな爆発が起こり、周囲へ広がっていたビッグゲテスターの機械構造までまとめて吹き飛ばされる。

 

「やったか!?」

 

「それ言うと、大体やってないぞ」

 

「縁起でもないことを言うな!」

 

 ピッコロが爆炎の中心へ目を凝らす横で、サイタマは妙に冷静だった。少なくともこれまでの経験上、ああいう相手は「終わった」と思った直後に何かしてくることが多い。

 

 少し遅れて、紫色の爆炎から黄金の人影が姿を現した。出てきたのはフリーザで、ゼロ距離から自分の技を炸裂させた代償として全身に細かな傷を負い、身体の各所から薄く煙を上げている。

 

「まったく。兄さんは本当に手間をかけさせますね」

 

「倒したのか?」

 

「そのはずですが……」

 

 サイタマへ答えながら、フリーザの視線が地上の一点へ向いた。そこにはクウラだったものの小さな残骸が転がり、砕けた金属片の一つだけが脈打つように僅かに動いている。

 

「しぶといですね。ですが、もう十分でしょう」

 

 フリーザが人差し指を向けると、赤い光が一直線に走った。デスビームを受けた最後の残骸は完全に蒸発し、今度こそ視界からクウラの痕跡が消える。

 

「……終わった?」

 

 タツマキは障壁を解除しながら、まだ警戒を解かず周囲を見回した。先ほどの戦いを見た後では、破片一つ残っていない程度で安心する気にはなれない。

 

「対象のエネルギー反応は消失している。少なくとも、先ほどの個体は完全に破壊された」

 

 ジェノスの報告を聞き、ピッコロもようやく肩から少し力を抜いた。フルパワーゴールデンのフリーザすら一度は圧倒した相手を消滅させた以上、目の前の脅威だけなら確実に排除できている。

 

「ったく、化け物が二人もいると、見てるだけで疲れるぜ」

 

「二人じゃねえぞ」

 

 サイタマが自分を指差した。

 

「お前は今それを言うな」

 

 ピッコロの即答に、タツマキも小さく息を吐いた。しかし、メタルナイトの無人機だけは勝利を告げず、周囲へ増殖した機械構造を解析し続けている。

 

◇

 

「驚いたぞ」

 

 突然、少し離れた崖の上から声が響いた。その場にいた全員がほとんど同時に振り向き、先ほど完全に消滅させたはずの男と同じ声を聞いて表情を変える。

 

「まさか……」

 

 フリーザもゆっくりと崖を見上げた。そこには黄金ではなく通常の銀色へ戻っているものの、姿も声も見間違えようのない男が立っている。

 

 メタルクウラだった。

 

「お前……今、消し飛ばしたんじゃなかったのか?」

 

「そのはずですよ」

 

 ピッコロの顔が引きつる一方で、フリーザもさすがに苦笑した。隣ではサイタマの額にも、珍しく小さな汗が浮かんでいる。

 

「もう一人いたのか」

 

「どうやら、そのようですね」

 

 崖の上のメタルクウラは両腕を組み、弟を見下ろしながら愉快そうに笑った。つい先ほど一体を失ったばかりとは思えないほど、その態度には余裕がある。

 

「本当に驚いたぞ。先ほどの個体は特別製だ。地球で貴様と戦った時のオレの記憶を基に設計してある」

 

「わたくしと戦った時の?」

 

「そうだ。四か月前のお前が見せたフルパワーを、確実に上回るよう出力を設定していた」

 

 フリーザの眉が僅かに動いた。つまり、先ほどの黄金の個体は偶然強かったのではなく、自分を殺すためだけに調整された専用機だったということになる。

 

「それが、先ほどのゴールデンメタルクウラですか」

 

「だが、そいつがお前に負けた。つまり貴様は、あの時よりさらに強くなっているということだ」

 

「当然でしょう。三か月もありましたからね」

 

「相変わらずか」

 

「何がです?」

 

「止まることを知らん」

 

「兄さんにだけは言われたくありませんね」

 

 クウラは声を上げて笑った。だが、その余裕は一切崩れない。

 

「だが、言ったはずだぞ、フリーザ。オレは貴様を完全に超えたとな」

 

「先ほど倒されたところでしょう?」

 

「一体、な」

 

 その言葉と同時に、クウラの背後で何かが動いた。サイタマが目を細める中、一人のメタルクウラの後ろから、もう一つ同じ銀色の人影が歩み出る。

 

 さらに二体、三体と続いた。隣の崖からも、機械施設の上からも、地面から突き出した金属構造の陰からも、まったく同じ顔が次々と現れる。

 

「おい……」

 

 ピッコロの顔から血の気が引いた。十体を越えても増殖は止まらず、二十、五十と数を増やし、やがて視界の端から端まで銀色の身体が並んでいく。

 

 

 

「……これ、何体いるんだ?」

 

 サイタマが珍しく真顔で呟いた。先ほどのゴールデン個体ほどではないとしても、普通のメタルクウラ一体でさえ簡単な相手ではないことは、拳を交えた本人がよく分かっている。

 

「数える意味があるとは思えませんね」

 

 フリーザの声からも、先ほどまでの余裕が薄れていた。数十ならともかく、今見えているだけでも百を越え、その向こうからさらに増援が出てきている。

 

「これ全部、さっきの奴くらい強いの?」

 

「黄金の個体と同じとは限りません。ですが、弱いと考える理由もありませんね」

 

「それは……ちょっと厳しいな」

 

 サイタマがそう言った瞬間、崖の上のメタルクウラが片手を上げた。周囲に並ぶ全個体の赤い瞳が、まったく同時に光る。

 

「試してみるか?」

 

 次の瞬間、十数体のメタルクウラが一斉に消えた。

 

「来るぞ!」

 

 ピッコロが叫んだ時には、すでに戦闘が始まっていた。

 

 最初の一体がジェノスの懐へ潜り込み、腹部へ拳を叩き込んだ。ジェノスは両腕で防御したものの、そのまま数十メートル吹き飛ばされ、地面を削りながらどうにか停止する。

 

「ぐっ……!」

 

 立ち直るより先に二体目が上空から急降下した。ジェノスは噴射で横へ逃れながら焼却砲を撃ち返し、その個体を炎へ包み込む。

 

「一体撃破――」

 

 言葉が途中で止まった。炎の中から銀色の腕が伸び、ジェノスの手首を掴んだからだ。

 

「何……!」

 

 焼け落ちたはずの胸部が、すでに塞がり始めていた。さらに背後から三体目が現れ、ジェノスの背中へ蹴りを叩き込む。

 

「ジェノス!」

 

 ピッコロが気弾を撃ち込んで三体を引き離した。だが、その瞬間には別の四体がピッコロ自身を囲んでいる。

 

「チッ!」

 

 一体目の拳を受け流し、二体目の蹴りを身体を沈めてかわす。三体目の胸へ掌底を叩き込みながら、四体目へ尻尾を巻きつけて地面へ投げた。

 

 それでも間に合わなかった。投げたはずの個体が空中で姿勢を直し、ピッコロの腕を逆に掴む。

 

「こいつら……連携まで!」

 

 横から飛んできた拳が頬を掠めた。ピッコロは頭を振られながらも膝を入れ、強引に距離を作る。

 

「離れろ!」

 

 タツマキの念動力が周囲を覆った。ピッコロたちへ殺到していた十数体のメタルクウラが一斉に空中で静止する。

 

「まとめて潰れてなさい!」

 

 タツマキが拳を握ると、十数体の身体が同時に軋んだ。銀色の装甲が変形し、関節から異音が響く。

 

 ところが、そのまま潰れなかった。

 

「……何?」

 

 空中で拘束されていた個体たちが強引にパワーをあげた。別々の方向へ全力で加速し、タツマキの念動力へ同時に逆らい始める。

 

「この程度で……!」

 

 さらに力を込めようとした瞬間、遠方にいた別のメタルクウラたちが両手をタツマキへ向けた。十数本のエネルギー弾が、まったく同じタイミングで放たれる。

 

「ちょっと!」

 

 タツマキは拘束を維持したまま障壁を展開した。エネルギー弾が連続して激突し、緑色の壁が激しく揺れる。

 

 その一瞬の出力低下を、拘束されていたメタルクウラたちは見逃さなかった。十数体が同時に念動力を振り切り、四方八方へ散開する。

 

「学習した……?」

 

 タツマキの顔が僅かに険しくなった。最初に拘束した時には力任せに抵抗していたはずの個体が、今度は遠距離からの援護と同時に脱出を選んでいる。

 

『戦闘情報が共有されている』

 

 メタルナイトの無人機から冷静な声が響いた。

 

『一体が経験した対処法を、他の個体も利用している可能性が高い』

 

「最悪じゃない!」

 

 タツマキが叫んだ直後、サイタマの前にも五体のメタルクウラが同時に現れた。本人は一番近い個体へ普通のパンチを放ち、その胸部を大きく陥没させる。

 

「おら」

 

 一体が遥か彼方へ吹き飛んだ。だが残りの四体は倒された仲間を見ることすらせず、左右と上下へ分かれてサイタマへ襲いかかる。

 

「おっと」

 

 右からの拳を避け、左の一体を裏拳で吹き飛ばす。頭上から来た個体へ拳を振ろうとしたところで、最後の一体がサイタマを無視してナメック星人たちの方へ向きを変えた。

 

「そっちはダメだろ」

 

 サイタマは追った。ナメック星人へ迫った個体を一撃で地面へ叩き落とすが、その間に先ほど吹き飛ばしたメタルクウラたちが修復を終えて戻ってくる。

 

「……これ、倒しても減らないな」

 

 サイタマの顔から少しずつ軽さが消えた。一体を殴り飛ばすこと自体は難しくないが、完全に破壊する前に次が来るうえ、守るべきナメック星人がいる以上、好き勝手に広範囲を吹き飛ばすわけにもいかない。

 

 さらに厄介なのは、メタルクウラたちもそれを理解し始めたことだった。サイタマを真正面から倒そうとせず、何体かが囮になり、その隙に別の個体がナメック星人や負傷者へ向かう。

 

「そこまで考えるのかよ」

 

 サイタマが一体の頭を掴み、地面へ叩きつけた。直後に背後から三体が同時に組みつき、腕、肩、腰へ食らいついてくる。

 

「うわ、邪魔」

 

 振り払えば飛んでいく。だが、その間にまた別のメタルクウラが現れる。

 

 戦場の各所で同じことが起きていた。一行が一体を倒すたびに二体、三体が穴を埋め、破壊し切れなかった個体は後方へ下がって修復を終えてから再び戻ってくる。

 

「冗談でしょ……」

 

 タツマキは周囲を見回した。先ほどまでは銀色の軍勢を囲まれていると感じていたが、今はむしろ戦場そのものがメタルクウラになったように思える。

 

 フリーザも動いていた。フルパワーゴールデンの速度なら通常型のメタルクウラを一対一で圧倒できるが、三体、五体と同時に相手をすれば話は変わる。

 

「邪魔ですよ!」

 

 一体の顔面を蹴り砕き、振り返りざまに別の個体の胸部をデスビームで貫く。ところが背後から二体が同時に腕を掴み、さらに上空から一体が踵落としを振り下ろしてくる。

 

「チッ!」

 

 フリーザは強引に両腕を振りほどき、攻撃をかわした。直後には別の個体が腹部へ拳を伸ばし、初めてフリーザ自身が大きく後方へ退く。

 

「兄さんの顔がこれほど並んでいると、さすがのわたくしも気分が悪くなりますね!」

 

「安心しろ。すぐに見慣れる」

 

 周囲のメタルクウラたちが同時に答えた。

 

「それは絶対に嫌ですね!」

 

 フリーザのデスビームが複数の額を貫いた。しかし倒れた個体の向こうから、また新しいメタルクウラが現れる。

 

 敵の総数は減っていなかった。

 

 むしろ、増えていた。

 

 ビッグゲテスターの各所から、新たな個体が今も製造され続けている。

 

◇

 

『解析終了』

 

 混戦の中で、メタルナイトの声が戦場へ響いた。フリーザは三体のメタルクウラを蹴り飛ばし、ほんの一瞬だけ無人機へ顔を向ける。

 

「ようやくですか!」

 

『奴らは本体ではない』

 

「でしょうね! さすがに兄さん本人がここまで増えていたら、わたくしも色々と考え直しますよ!」

 

 会話している間にも、フリーザの背後からメタルクウラが迫った。サイタマが横から拳を入れて吹き飛ばし、代わりに別の二体を引き受ける。

 

『ビッグゲテスター内部に、本体のコアが存在する』

 

「場所は?」

 

『現在地から地下方向へ約千八百キロ。正確には、この星へ接続しているビッグゲテスター中枢部だ』

 

 ピッコロも戦いながら、その言葉へ意識を向けた。三体のメタルクウラを相手にしながらでは、顔を向ける余裕すらない。

 

「それを壊せば、こいつらは止まるのか!」

 

『少なくとも、再生と量産を継続する機能は停止する可能性が高い』

 

「可能性ですか?」

 

『百パーセントと言えるだけの情報はない』

 

「珍しく慎重ですね」

 

『科学者は不確定な数値を断言しない』

 

「では、位置を送ってください!」

 

『すでに送信済みだ』

 

 フリーザの携帯端末へ立体地図が表示された。新ナメック星の地下深くへ伸びる機械構造のさらに奥、巨大な空間の中央で一つの赤い点が点滅している。

 

 フリーザは数秒で位置を記憶したが、すぐには飛び立てなかった。現在の戦場を一度見回しただけで、自分が抜けた後に何が起きるか容易に想像できたからだ。

 

 ピッコロの道着はすでに何か所も裂け、左腕にはメタルクウラの拳を受けた痕が残っている。ジェノスも片方の装甲を大きく損傷し、タツマキの額には薄く汗が浮かび始めていた。

 

 サイタマだけなら倒される心配は薄い。だが彼一人では、これほど大量の敵からナメック星人も仲間も同時に守り切れない。

 

 しかも、敵はその弱点をもう理解している。

 

 一体がサイタマへ向かえば、別の三体が避難中のナメック星人を狙う。サイタマがそちらへ動けば、今度はピッコロやジェノスへ戦力を集中させる。

 

「これ全部相手してたら、コアまで行く時間なくないか?」

 

 サイタマが飛んできた一体を殴り返しながら言った。直後には反対側から来た二体へ向き直り、まとめて地面へ叩き落とす。

 

「そこですね」

 

 フリーザは苦々しげに答えた。自分だけなら軍勢を突破してコアへ向かえるが、その間に地上が崩壊すれば意味がない。

 

「わたくしだけ抜けることはできますが、戻ってきた時に皆さんが死んでいては後味が悪いですからね」

 

「後味で済ませるな!」

 

 タツマキが怒鳴った直後、三体のメタルクウラが同時に障壁へ拳を叩き込んだ。緑色の防壁が激しく歪み、彼女は舌打ちしながら全員をまとめて押し返す。

 

「それに、本当にそろそろきついんだけど!」

 

 その時、背後に着陸していたフリーザ・コーポレーションの宇宙船から機械音が響いた。乗降口が開き、一機のメタルナイト無人機が地上へ降り立つ。

 

「何だ?」

 

 ピッコロが横目で振り返った直後、さらにもう一機が現れた。続いて三機、四機と出てきたが、それでも終わる様子がない。

 

 宇宙船内部から標準的な人型だけでなく、大型機、中型機、飛行型、砲撃特化型まで次々と姿を現した。十機、二十機と数を増やし、やがて数十機規模の無人機群が戦場へ展開していく。

 

「……何機積んできたのよ」

 

『数える必要はない』

 

「いや、あるだろ。絶対に船の積載量がおかしいぞ」

 

『内部格納方式を改良した』

 

「何をどう改良したらそうなるんだ?」

 

『企業秘密だ』

 

「聞いた俺が馬鹿だった」

 

 ピッコロが呆れる間にも、宇宙船後部のハッチまで開いて追加の機体が展開した。崖の上のメタルクウラはその光景を見て鼻で笑う。

 

「くだらん」

 

 対するメタルナイトの軍勢は、空と地上へ規則正しく散開しながら砲口を展開した。一斉にロックオン音が響き、銀色の軍勢へ何十もの照準が重なる。

 

『量産されているのは、お前だけではないぞ』

 

「雑魚が何匹いようと同じだ」

 

『なら、確かめてみろ』

 

 次の瞬間、大量のメタルクウラが崖から一斉に飛び出した。同時にメタルナイトの無人機群も空へ上がり、ミサイル、レーザー、エネルギー砲をまとめて撃ち放つ。

 

 二つの機械軍団が、新ナメック星の空で真正面から激突した。爆発の光が無数に生まれ、一瞬だけ夜空の星が見えなくなる。

 

◇

 

 最初の数秒だけは、増援が戦況を変えたように見えた。複数の無人機が一体のメタルクウラへ砲撃を集中させ、吹き飛ばしたところへ別部隊が追撃し、修復する時間そのものを与えない。

 

「いけるじゃない!」

 

 タツマキがそう口にした直後だった。炎の中から一体のメタルクウラが飛び出し、最前列の無人機を拳一発で貫く。

 

 隣の二機が照準を合わせるより早く、銀色の姿がその間を通過した。二台の頭部がほぼ同時に砕け、そのまま三機目が蹴りで真っ二つにされる。

 

『前衛三機消失。第二列、射撃開始』

 

 レーザーが集中した。メタルクウラの身体へ何本もの光線が命中し、装甲の一部を溶かす。

 

 だが、倒れない。

 

 その背後からさらに二体が現れた。

 

 一体が盾となって砲撃を受け、もう一体が無人機群へ突っ込む。破損した盾役は後退し、戦列の後ろで再生を始める。

 

「こいつら……!」

 

 ピッコロが歯を食いしばった。

 

「軍隊みたいに動き始めやがった!」

 

『訂正する』

 

 メタルナイトの声にも、先ほどまでより僅かに硬さがあった。

 

『軍隊ではない。単一の演算系に接続された群体に近い』

 

「どう違う!」

 

『一体が学習したことを、全個体がほぼ同時に利用できる』

 

「最悪じゃねえか!」

 

 その言葉を証明するように、戦況が急速に傾いた。先ほどまで無人機の集中砲火へ真正面から突っ込んでいたメタルクウラたちが、今度は射線を避け、複数方向から砲撃機へ接近し始める。

 

 飛行型が迎撃しようと高度を変えた。だが、その進路まで先読みされたように別のメタルクウラが現れ、一撃で翼をもぎ取る。

 

『七号機損失。十一号機損失。十四号機との通信消失』

 

 報告が立て続けに響いた。ほんの数十秒前には空を埋めていたメタルナイトの無人機に、目に見えて穴が開き始める。

 

「おい、ちょっと待て!」

 

 ピッコロの眼前へ一体が現れた。拳を受け止めた瞬間、腕へ尋常ではない衝撃が走る。

 

「ぐっ……!」

 

 そこへ二体目の蹴りが脇腹へ入った。

 

「があっ!」

 

 ピッコロが吹き飛ばされた。体勢を立て直す前に三体目が背後へ回ったが、その胸をジェノスの焼却砲が撃ち抜く。

 

「ピッコロ!」

 

「俺はいい! 前見ろ!」

 

 ジェノスが反応した時には遅かった。焼却砲を受けた個体とは別のメタルクウラが眼前に立ち、砲口となっている右腕を両手で掴んでいる。

 

「……!」

 

 捻られた。

 

 装甲が悲鳴を上げた。

 

「ぐっ!」

 

 ジェノスは逆の手で顔面へ掌底を打ち込んだ。わずかに相手が仰け反った隙へブースターを全開にし、どうにか腕を引き抜く。

 

「右腕関節、損傷率三十八パーセント……!」

 

 直後、先ほど焼却砲で貫いた個体が戻ってきた。胸部はすでに半分以上塞がっている。

 

「修復が速くなっている……?」

 

『その可能性が高い』

 

「再生まで学習するのか!」

 

『正確には、損傷パターンに応じた修復工程が最適化されている』

 

「同じことだ!」

 

 ジェノスが叫んだ瞬間、空中のメタルナイト大型機が一体のメタルクウラを砲撃で押し返した。続けて四機が集中射撃を行い、胸部と頭部をほぼ同時に吹き飛ばす。

 

『一体破壊』

 

 その報告が終わる前に、大型機の背後へ三体のメタルクウラが現れた。一体が両腕を掴み、残る二体が左右から胴体へ拳を叩き込む。

 

『機体――』

 

 通信が途切れた。大型機は中央から引き裂かれ、爆発しながら地上へ落下する。

 

「……一体倒す間に何機やられてんのよ」

 

 タツマキの頬を汗が伝った。念動力で七体を地面へ押しつけながら、別方向から飛んできた気弾を障壁で受け止める。

 

 そこへさらに五体が来た。タツマキは片手だけで障壁を維持し、もう一方へ念動力を集中させる。

 

「いい加減に……!」

 

 地面へ押しつけていた七体をまとめて上空へ持ち上げ、そのまま互いに衝突させた。銀色の身体が激突し、何体かの装甲へ亀裂が走る。

 

「潰れなさい!」

 

 さらに圧力を上げる。だが完全に圧壊するより早く、背後からエネルギー弾が障壁へ集中した。

 

「くっ!」

 

 タツマキの意識が一瞬だけそちらへ割かれた。その瞬間、拘束していたメタルクウラたちが一斉に抜け出す。

 

「また……!」

 

 一体の拳が障壁へ直撃した。

 

 二体目。

 

 三体目。

 

 連続する衝撃に、緑色の壁が大きく歪む。

 

「この程度で……!」

 

 タツマキが出力を上げると、鼻の奥に熱い感覚が走った。指で拭う余裕などないまま、細い血が上唇まで流れ落ちる。

 

「タツマキ!」

 

「こっちはいい!」

 

 サイタマが振り向いた隙を、メタルクウラたちは見逃さなかった。四体が同時に飛びかかり、そのうち二体はサイタマへ、残る二体は背後で避難しているナメック星人へ進路を変える。

 

「ああもう!」

 

 サイタマはまず一体を殴り飛ばし、もう一体の足を掴んで地面へ叩きつけた。すぐに反転してナメック星人へ迫った二体を追うが、そこへさらに三体が進路を塞ぐ。

 

「邪魔だって!」

 

 普通のパンチで正面の一体を吹き飛ばした。だが左右の二体がサイタマ自身を倒そうとせず、腕へしがみついて進行を遅らせる。

 

「何だよ、こいつら!」

 

 力を入れて振りほどけば、二体は簡単に吹き飛んだ。しかし、そのわずかな時間で避難場所へ向かった個体が距離を詰めてしまう。

 

「させん!」

 

 ピッコロが間へ入った。ナメック星人へ手を伸ばしたメタルクウラの腕を掴み、全身の力を込めて止める。

 

「ぐ……おおおっ!」

 

 力負けしていた。ピッコロの両足が地面を削り、一歩ずつ後ろへ押されていく。

 

「ピッコロ!」

 

「来るな! そっちを止めろ!」

 

 別方向から五体がナメック星人を狙っていた。サイタマは舌打ちしそうな顔でそちらへ走り、まとめて拳圧で吹き飛ばす。

 

 その間にピッコロの前のメタルクウラが、もう片方の拳を振り上げた。腹部へまともに入る寸前、ジェノスの蹴りが横から頭部へ炸裂する。

 

「ぐっ……!」

 

「助かった!」

 

「まだです!」

 

 ジェノスが警告した。周囲にはすでに、さらに十体近いメタルクウラが集まっている。

 

 ピッコロは一瞬だけ言葉を失った。

 

 倒しても来る。

 

 吹き飛ばしても戻る。

 

 傷つければ治る。

 

 そのうえ、戦えば戦うほどこちらの戦い方を覚えていく。

 

「これじゃ……」

 

 ピッコロの額から汗が落ちた。

 

「本当に、きりがねえ……!」

 

 上空でもメタルナイト軍の損耗が止まらなかった。数の上ではまだ多数の無人機が残っているが、メタルクウラ一体を足止めするために何機もの戦力が必要であり、その交換比はあまりにも悪い。

 

『残存前衛戦力、六十四パーセント』

 

 メタルナイトの声が響いた。数秒後には別の爆発が上空で起こる。

 

『六十一パーセント』

 

「減るの早くない?」

 

 サイタマが思わず上空を見た。さらに二機の無人機が炎を吹きながら落下していく。

 

『五十八パーセント』

 

「早いな」

 

『計算上、このままでは戦線を維持できない』

 

 その言葉に、一瞬だけ全員の空気が固まった。常に冷静なメタルナイトが、はっきりと維持不能を口にしたからだった。

 

 フリーザもそれを聞いていた。五体のメタルクウラを相手にしながら、視線だけで周囲の状態を確認する。

 

 タツマキはすでに鼻血を流している。ジェノスは右腕を損傷し、ピッコロの呼吸も明らかに荒くなっていた。

 

 サイタマだけはまだ十分に戦える。だが、メタルクウラたちは彼を倒そうとするのではなく、守る対象を分散して動きを拘束する方法を覚え始めている。

 

 そして何より、銀色の軍勢はまだ増えていた。遠くの機械施設から、新しいメタルクウラが次々と地上へ送り出されている。

 

「……なるほど」

 

 フリーザの笑みが消えた。ここで敵を何百体壊したところで、根本を断たなければ終わらない。

 

「ピッコロさん」

 

「何だ!」

 

「持ちますか?」

 

「見りゃ分かるだろ!」

 

 ピッコロは飛んできた拳を両腕で受け止めた。衝撃で歯を食いしばりながら、それでも相手の顔へ蹴りを返す。

 

「持たせるしかねえんだよ!」

 

 一体を蹴り飛ばした直後、二体目がピッコロの背中へ拳を叩き込んだ。

 

「ぐあっ!」

 

 ピッコロの身体が前へ飛んだ。地面へ落ちる寸前で片手をつき、回転してどうにか起き上がる。

 

「フリーザ!」

 

「何です?」

 

「コアは任せた!」

 

 ピッコロはまた迫ってきたメタルクウラの腕を受け止めた。その横から飛んできた蹴りを身体を捻ってかわし、三体目へ気弾を撃ち込む。

 

「俺たちが死ぬ前に、早く決めてこい!」

 

 フリーザはすぐには答えなかった。周囲ではサイタマが何体ものメタルクウラを殴り飛ばしながら、ナメック星人へ近づく敵を必死に潰している。

 

 ジェノスは損傷した右腕を庇いながら左腕の焼却砲を撃ち続けている。タツマキも鼻血を拭う暇すらなく障壁と念動力を同時に維持し、上空ではメタルナイトの無人機がまた一機爆発した。

 

 援軍まで投入した。

 

 それでも押されている。

 

 メタルクウラの軍勢は減っていない。

 

「……まったく」

 

 フリーザは小さく息を吐いた。赤い瞳が、数え切れないほど並んだ兄の顔を順番に見回す。

 

「あなたに言われては、仕方ありませんね」

 

 その瞬間、フリーザを包んでいた黄金の気が消えた。肉体が一度、普段の白と紫へ戻る。

 

 しかし、それはほんの一瞬だけだった。次に現れたのは、黄金とはまるで違う静かな圧力だった。

 

 黒い炎がフリーザの身体から立ち昇る。白かった部分へ磨き上げられた金属のような黒が広がり、紫と黒が混ざり合った肉体から、それまでとは比較にならないほど重く濃密な気が放たれる。

 

 ブラックフリーザ。

 

「……!」

 

 ピッコロの目が大きく開いた。周囲のメタルクウラたちも、突然現れた未知の出力へ一斉に顔を向ける。

 

「何だ、その姿は」

 

 最も近くにいたメタルクウラが問いかけた。フリーザは黒い炎をまとったまま、兄と同じ顔をした軍勢へ冷たい笑みを向ける。

 

「知る必要はありませんよ」

 

 次の瞬間、フリーザが消えた。近くにいたメタルクウラが反応して腕を伸ばした時には、すでにそこには誰もいない。

 

「止めろ!」

 

 十体以上が一斉に追った。だが、黒い軌跡はその包囲が完成するより先に地平線の向こうへ伸びている。

 

「速っ」

 

 サイタマが珍しく少し驚いた声を出した。その直後には、目前まで迫ったメタルクウラの拳を横へかわし、反撃で相手を吹き飛ばす。

 

「行きやがったか」

 

 ピッコロはフリーザが消えた方向を一度だけ確認した。その瞬間にも左右から二体が迫っており、休んでいる暇などない。

 

「ならば、我々の任務も明確だ」

 

 ジェノスが損傷した腕を強制固定し、残った焼却砲を再展開した。出力低下の警告表示が視界に並んでいるが、無視して構える。

 

「フリーザが戻るまで、こいつらを食い止めるだけでしょ」

 

 タツマキも両手を上げ、周囲へさらに強い念動力を広げた。鼻血はまだ止まっておらず、呼吸も少しずつ荒くなっている。

 

『全機、戦闘を継続する。コア破壊まで敵性個体をここから通すな』

 

 メタルナイトの軍勢が一斉に砲口を構えた。だが号令を受けた直後にも一機がメタルクウラの拳で貫かれ、爆発しながら地上へ落ちていく。

 

 銀色の軍勢が空を埋め尽くして迫ってきた。その向こうでは新たな個体が今も増産され、倒された仲間の穴を埋めるように無言で前進している。

 

「……ったく」

 

 ピッコロは口元の血を親指で拭った。目の前には一体ではなく、十体以上のメタルクウラが自分たちへ向けて同時に構えている。

 

「本当に、戻ってくるまで持つんだろうな」

 

「分からない」

 

 ジェノスが即答した。

 

「そこは嘘でも持つって言え!」

 

「了解した」

 

 ジェノスは一瞬だけ間を置いた。

 

「持たせる」

 

「それでいい!」

 

 ピッコロが吠えた瞬間、メタルクウラの軍勢が一斉に襲いかかってきた。サイタマも拳を握り、タツマキは歯を食いしばり、残存するメタルナイトの無人機群も残った火器をすべて展開する。

 

 もはや勝つための戦いではなかった。フリーザがコアへ到達するまで、一秒でも長く生き残り、一体でも多くここへ縫い止めるための戦いになっていた。

 

◇

 

 その頃、新ナメック星の地下深くでは、惑星へ食い込んだビッグゲテスターの巨大な中枢施設が絶え間なく脈動していた。無数の金属管と機械装置が複雑に絡み合い、その中心にある広大な空間では、一際大きな赤い光が心臓のような周期で明滅している。

 

 地上ではメタルクウラとメタルナイトの軍勢が激突し、サイタマたちも数え切れない敵を相手に消耗を重ねている。援軍を投入してなお戦線は押され、フリーザが戻るまで持ちこたえられる保証はどこにもなかった。

 

 その死線を背にして、黒い炎をまとった一つの影が地下構造を猛烈な速度で突き進んでいた。フリーザの端末に表示されたコアまでの距離は、驚異的な速度で縮まり続けている。

 

 かつてナメック星を滅ぼした男が、今度は新ナメック星を救うため、敵の心臓へ向かっている。もっとも本人にとっては、救済などという殊勝な行為ではなく、何度壊しても湧いてくる兄を根元から黙らせるための仕事に過ぎなかった。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。