フリーザ、ヒーローになる ~宇宙の帝王がワンパンマン世界に墜ちた結果~ 作:&劉
黄緑色の気が、大地を押し潰すように広がっていた。伝説の超サイヤ人へ変貌したブロリーは、先ほどまでとは比較にならないほど巨大になった身体をわずかに前へ傾け、十メートルほど先に立つフリーザだけを見据えている。
フルパワーゴールデンのフリーザも、さすがに軽口を挟まなかった。変身前ですらサイタマのマジ殴りに耐え、自分の攻撃を受けながら成長を続けた相手が、さらに別の領域へ踏み込んだのである。
「フリーザ……」
ブロリーの口元がゆっくりと吊り上がった。白く濁った瞳には理性らしいものがほとんど残っていないのに、誰を最初に狙うのかだけは妙にはっきりしている。
「まずお前から、血祭りにあげてやる」
フリーザは身構えた。肩の動き、重心、気の流れから初動を読もうとした、その瞬間だった。
ブロリーの姿が視界から消え、フリーザの知覚が動きを捉えるより早く、巨大な拳が顔面へ突き刺さった。これまでならどれほど速い相手でも、動き出す直前の癖や気配から軌道を予測できたはずなのに、今のブロリーにはその過程自体が抜け落ちたように感じられる。
「ぐああああっ!!」
フリーザの身体が横向きに吹き飛んだ。顔を殴られたという認識が追いつくより先に景色が線となって流れ、数キロ先の岩山を突き破って反対側へ飛び出す。
それでもブロリーは止まらなかった。吹き飛ぶフリーザを追い越すほどの速度で前方へ回り込み、振り向きざまに片手を伸ばす。
「フフフ……!」
飛ばされてきたフリーザの顔面を、ブロリーは投げられた球でも受け取るように掴んだ。そのまま地面すれすれまで高度を落とすと、速度を一切緩めずに荒野を突っ切る。
「ぐっ……!」
フリーザの背中が大地へ叩きつけられ、そのまま岩盤の上を何百メートルも引きずられていく。途中に巨大な岩があってもブロリーは避けず、フリーザの身体を先頭にして真正面から粉砕した。
「この……!」
フリーザが両腕を持ち上げようとした瞬間、ブロリーは掴んでいた身体を勢いよく放り投げた。宙へ投げ出されたフリーザへ即座に追いつき、腹部へ拳を叩き込んで軌道を強引に地上へ向ける。
「がっ――!」
フリーザは地面へ向かって落下したが、衝突する寸前にはブロリーが再び背後へ回っていた。容赦なく背中を蹴り飛ばされ、荒野を横切った身体が廃墟となった建造物へ突っ込んでいく。
壁を一枚、二枚、三枚と貫通し、内部に残っていた柱までまとめてへし折った。ブロリーはその後を追って建物へ突入し、瓦礫へ埋もれていたフリーザを片腕で引きずり出す。
「ハハハハハハハ!!」
ブロリーはフリーザを真横へ投げ飛ばした。別の建造物へ激突した身体が壁面に巨大な穴を開け、周囲へ破片を雨のように撒き散らす。
その穴をブロリー自身が突き破って侵入。倒れかけたフリーザの胸へ鉄槌を叩き込むと、床が一瞬で陥没し、続く連打によって建物そのものが内側から崩壊していく。
「ぐおっ……!」
フリーザは防御へ腕を回したが、追いつかない。これまで積み重ねてきた読みも、精密な気の制御も、そもそも相手の動作を認識できなければ意味を持たなかった。
ブロリーは崩落する建物から先に飛び出し、フリーザが瓦礫から這い出るのを待つことなく再び中心へ突っ込んだ。瓦礫ごとフリーザの首を掴み、片腕だけで身体を持ち上げる。
「化け物が……!」
「俺が化け物?」
ブロリーは一瞬だけ動きを止めた。次いで口元を歪めると、周囲を包む黄緑色の気を一段大きく燃え上がらせる。
「違う」
白い瞳が細められた。
「俺は悪魔だ」
次の拳がフリーザの腹部へ突き刺さった。声を上げる間すらなくフリーザは吹き飛ばされ、再び大地を何度も跳ねていく。
◇
「止まりなさい!」
上空から緑色の光が降り注いだ。戦場へ追いついたタツマキが両腕を広げ、周囲数キロに散らばっていた岩盤を一斉に持ち上げる。
何百という岩塊がブロリーへ殺到した。それだけではなく、大気そのものが捻じ曲がり、巨大な竜巻が岩石と砂を巻き込みながら伝説の超サイヤ人を中心に形成される。
「まだよ!」
タツマキの瞳がさらに強く光った。念動力を一点へ集中させ、ブロリーの周囲だけ重力そのものを通常の五百倍近くまで押し上げる。
大地が耐えきれず沈み込んだ。ブロリーの足元を中心に巨大な窪地が生まれ、その周囲へ放射状の亀裂が走っていく。
「おい!」
ようやく身体を動かせるようになったサイタマが、その光景を見て声を張った。
「この辺り全部ぶっ壊すつもりか!」
「そんなことでこいつが止まるなら安いもんでしょ!」
タツマキも叫び返した。額にはすでに汗が浮かび、念動力を限界近くまで引き上げている。
岩石、竜巻、超重力が同時にブロリーへ襲いかかった。通常の相手なら立っていることさえ不可能な環境だったが、その中心にいる男だけは何の影響も受けていないように見える。
やがてブロリーは身体を動かさず、首だけをゆっくりタツマキの方へ向けた。白い瞳で彼女を捉えると、口元に残虐な笑みを浮かべる。
「フフ……お前たち、先に死にたいのか?」
「……っ!」
ブロリーが走り出した。通常の五百倍まで高められた重力場の中を、まるで何も存在していないかのように突進してくる。
踏み込むたびに地面が砕けるだけで、速度は一切落ちなかった。念動力で押しつけられているはずの身体には、動きの鈍りすら見えない。
「こっち来んな!」
サイタマが正面へ飛び込んだ。ブロリーがタツマキへ到達する前に身体を割り込ませ、真正面から拳を振り抜く。
しかしブロリーは片腕しか使わなかった。サイタマの拳を前腕で受けると、そのまま腕を横へ振り払う。
「うおっ!?」
サイタマの身体が弾かれた。まるで邪魔な物を払い除けただけのような動作だったにもかかわらず、数百メートル先まで吹き飛ばされる。
「なによ、こいつ……!」
タツマキは歯を食いしばった。鼻から一筋の血が流れ始めるほど念動力を高め、今度はブロリーの身体全体を空間ごと押さえ込もうとする。
「止まりなさいよ!」
周囲の岩盤がさらに沈んだ。地面へかかる圧力だけで大地が階段状に崩れていくが、それでもブロリーは止まらない。
歩幅は変わらず、肩も下がらず、身体が重くなった様子さえなかった。自分が鼻血を流すほど力を注ぎ込んでいるにもかかわらず、相手の動きに微塵の障害すら見えないことが、タツマキの背筋を冷たくする。
「嘘でしょ……」
「どけ、馬鹿野郎!!」
怒声が上空から響いた。直後、ブロリーの周囲で無数の爆発が起こり、青白い気弾が雨のように降り注いで巨体を爆炎の中へ呑み込む。
タツマキは声を聞いた瞬間に何が起きるのかを理解した。念動力を解除すると同時に後方へ飛び退き、急速に膨れ上がる巨大なエネルギー反応から距離を取る。
上空には超サイヤ人ブルーとなったベジータがいた。両手から大量の気弾を撃ち込みながら、さらに右掌へ一際巨大な青白い光球を作り出している。
「ちょっ…!」
タツマキの顔が引きつった。あの一発に込められた出力が、先ほどまでの連射とは桁違いだと一目で分かる。
「それ、この辺り一帯消し飛ぶわよ!」
「これであいつが消し飛ぶなら安いものだ!」
ベジータは巨大な気弾をさらに圧縮した。掌の上で光球が脈打ち、そのたびに周囲の大気が押し退けられていく。
「てやあああああっ!!」
巨大な気弾が放たれた。次の瞬間には世界が白一色に染まり、凄まじい爆発がブロリーを中心とした大地を円形に抉り取る。
岩山も森林もまとめて爆炎へ呑み込まれ、衝撃波が数十キロ先まで走った。タツマキは障壁を張り、サイタマも大地へ足を食い込ませて爆風に耐える。
やがて轟音が遠ざかり、煙がゆっくりと薄くなった。爆心地の姿が見え始めたところで、サイタマの表情が引きつる。
「……嘘だろ」
そこにはブロリーが立っていた。腕を組み、傷一つ負わず、むしろ面白そうにこちらを見ながら笑っている。
「フフフ……」
ベジータの額から汗が流れた。全力ではないとはいえ、相当量の気を込めた攻撃を完全な無傷で受けられた経験は、そう多くない。
「また虫けらが一匹、死にに来たか」
「調子に乗るなああああっ!!」
ベジータが雄叫びを上げた。青いオーラがさらに濃くなり、通常の超サイヤ人ブルーを超えた力が身体から噴き上がる。
覚醒ブルーへ移行した瞬間、膨れ上がった気が周囲へ拡散するより早くベジータ自身の姿が消えた。次に現れた時には、すでにブロリーの眼前まで間合いを詰めている。
「はあっ!」
回し蹴りがブロリーの顔面を狙った。だがブロリーは頭をほんの数ミリだけ後方へ傾け、その紙一重の動作だけで蹴りをかわす。
「何っ!」
ベジータは回し蹴りをそのままフェイントへ変えた。回転の勢いを利用して拳を繰り出し、ブロリーの顎へ叩き込もうとする。
拳が届くより早く、ベジータの身体が止まった。次の瞬間になってようやく、自分の頭部をブロリーの巨大な掌が鷲掴みにしていることへ気づく。
「……!」
いつ手を伸ばされたのか、まったく見えなかった。ベジータの顔に一瞬だけ、隠しようのない恐怖が浮かぶ。
「クズが」
ブロリーは低く吐き捨てた。
「死ねっ!」
空いている拳が腹部へ突き刺さった。
「がああああああっ!!」
覚醒ブルーの身体がくの字に折れ曲がった。途方もない衝撃が腹から背中へ突き抜け、次の瞬間にはベジータが砲弾のように吹き飛ばされている。
数キロ先まで飛ばされる寸前、身体が不意に空中で停止した。全身を緑色の光が包み、タツマキの念動力によってどうにか受け止められている。
「余計なお世話だ……!」
「んなこと言ってる場合じゃないでしょ!!」
タツマキは怒鳴り返した。ベジータは腹を押さえながらどうにか姿勢を立て直したが、口元には明らかに血が滲んでいる。
◇
「調子に乗るのも、いい加減にしなさい!!」
冷たい怒声が響いた。ブロリーが振り向くと、その正面へ傷だらけのフリーザが戻ってきていた。
黄金の身体には先ほど受けた攻撃の痕が残り、口元からも血が流れている。それでも赤い瞳に恐怖はなく、代わりにあるのは明確な苛立ちだった。
「変身した程度で、随分と好き放題してくださいましたね」
フリーザの身体を包む黄金の光が静かに消えていった。次の瞬間、代わりに深い漆黒が身体を覆い始める。
胸、肩、腕、顔の各部が黒と銀の色彩へ塗り替えられていく。黄金の時とはまったく異なる静かな圧力が周囲へ広がり、その密度だけで足元の地面に細かな亀裂が走る。
ブラックフリーザ。孫悟空とベジータを同時に打ち倒した、フリーザが長い修行の果てに辿り着いた現在の最高形態だった。
「いくらあなたが伝説の超サイヤ人だったとしても、今のわたくしが恐れるほどではありません」
フリーザはゆっくり顔を上げた。赤い瞳がブロリーを真正面から捉え、そこに迷いはない。
ブロリーの笑いが止まった。白い瞳がわずかに細められ、今までとは違う意味で相手を見る。
「お前、俺を舐めているな?」
「ようやく気づきましたか?」
二人の姿が同時に消えた。衝突音だけが遅れて響き、空中で拳と拳がぶつかった瞬間、球状の衝撃波が周囲へ広がる。
数キロ離れていたタツマキですら、咄嗟に障壁を張らなければ吹き飛ばされかねない圧力だった。地表では岩が剥がれ、大気そのものが二人を中心に大きく歪む。
「何なのよ、こいつら……!」
先に流れを掴んだのはブラックフリーザだった。ブロリーの拳を紙一重で外すと脇腹へ拳を叩き込み、そのまま背後へ回って首筋へ蹴りを入れる。
「ぐっ!」
ブロリーが振り向くより早く、フリーザの膝が腹部へ突き刺さった。さらに顎へ掌底を突き上げ、巨体を上空へ浮かせる。
「はあああっ!」
フリーザが追いつき、胸、腹、顔面へ連続して拳を叩き込んだ。現在の速度ではフリーザの方が明確に上であり、戦闘技術に至っては比較にならない。
「オオオオオッ!!」
ブロリーが怒りに任せて拳を振るった。フリーザは頬すれすれでそれをかわし、空振りした腕を掴んで身体ごと地上へ投げ落とす。
「単純ですねえ!」
ブロリーが大地へ激突し、巨大なクレーターが生まれた。ところが次の瞬間には、その中心から何事もなかったように立ち上がる。
傷は確かに増えていた。攻撃は効いているにもかかわらず、倒れる気配がまるでない。
「……本当に頑丈ですね」
フリーザの表情に僅かな苛立ちが混じった。攻撃の命中数では明らかに自分が勝っているのに、その差が戦況へほとんど反映されていない。
「ハハハハハハハ!!」
ブロリーは再び飛び込んできた。今度の拳は、先ほどより速かった。
フリーザはそれでもかわした。続く攻撃も避けたが、さらに次の拳は頬を僅かに掠める。
「……!」
ブラックへ変身してから初めて、ブロリーの攻撃がフリーザへ触れた。ブロリーは戦いながら、また成長している。
次の拳をフリーザは腕で受け止めた。衝撃で身体が数メートル後退し、その表情から軽さが完全に消える。
「ほう……!」
二人は再び真正面から激突した。ブラックフリーザの拳がブロリーの顔面へ入り、その直後にはブロリーの拳がフリーザの肩を捉える。
拳、肘、膝、蹴りが至近距離で休みなく交差した。最初はブラックフリーザの攻撃ばかりが当たっていたはずなのに、時間が経つほどブロリーの反応は追いつき、ついには近距離での攻防そのものが互角へ近づいていく。
「まだ……まだ先があるのですか……!」
フリーザの目が見開かれた。すでに途方もない出力だったはずのブロリーの気が、その上限をさらに押し広げるように膨張し始めたからだ。
「気が……」
ブロリーが笑った。
「高まる……」
身体の周囲から光が漏れ始めた。
「あふれる……!」
それは単なるオーラではなかった。余剰となった膨大な気が、身体の外へ無数の光弾として漏れ出している。
最初は数発だった。だが十発、百発と瞬く間に数を増やし、すぐに数えること自体が無意味になるほど戦場を埋め尽くしていく。
「うおおおおおおおおおおおおおっ!!」
ブロリーが絶叫した。全身から無数の黄緑色のエネルギー弾が放射状に飛び散り、空も地上も区別なく覆い尽くす。
ブラスターメテオが荒野を蹂躙した。光弾が触れた場所から次々と爆発し、地表は一瞬ごとに形を失っていく。
「何よ、この数!!」
タツマキが両腕を前へ突き出した。自分だけでなくベジータや周囲の負傷者まで包み込む巨大な念動力障壁を形成する。
最初の一発が障壁へ衝突し、大きく表面を揺らした。続いて二発、三発と命中し、すぐに何十、何百という光弾が連続して叩きつけられる。
「くっ……!」
タツマキが歯を食いしばった。障壁の表面へ亀裂が走り、鼻から流れる血も止まらない。
「嘘……!」
次の瞬間、黄緑色の光弾が障壁を貫通した。
「きゃああああっ!!」
タツマキの身体へ直撃し、緑色の光が大きく弾けた。少女の身体は遥か後方へ吹き飛ばされ、地面を何度も転がった末に意識を失う。
「タツマキ!」
サイタマが叫んだが、自分にも大量の光弾が迫っていた。両腕を交差させて防御した直後、連続する爆発に身体ごと呑み込まれる。
フリーザもベジータも同様だった。空も地面も視界のすべてが黄緑色へ染まり、戦場全体が光と爆発の嵐に包まれていく。
◇
爆発がどれほど続いたのか、誰にも分からなかった。数秒しか経っていなかったのかもしれないが、巻き込まれた者たちには遥かに長く感じられた。
やがて轟音が途切れた。戦場だった場所には巨大なクレーターが無数に並び、森も岩山もほとんど原形を残していない。
その中心で、ブロリーだけが立っていた。自分が作り出した惨状を眺めながら、満足そうに高笑いを響かせる。
「ハハハハハハハハハ!!」
やがて三つの場所で瓦礫が動いた。最初に立ち上がったのはフリーザで、ブラックの姿こそ維持しているものの、身体には明確な傷が増え、呼吸も先ほどより荒くなっている。
次にベジータが瓦礫を押しのけた。身体を包む気はすでに青ではなく、破壊神の力を思わせる荒々しい紫へ変わっている。
我儘の極意。全身へ刻まれた傷をものともせず、ベジータは紫色の気をさらに膨らませながらブロリーを睨みつけた。
最後にサイタマが瓦礫を押しのけて立ち上がった。スーツは何か所も破れ、頭からも僅かに血が流れているが、目だけはこれまでにないほど真剣だった。
「驚いた……お前、本当に強いな……」
サイタマはブロリーを正面から見た。先ほどまでの驚きや戦いへの興味だけではなく、明確な警戒が声にも表れている。
ブロリーは三人を順番に見回した。自分の攻撃を受けてもなお立っていることが腹立たしいのか嬉しいのか、自分でも分からないような笑みを浮かべる。
「残るは貴様ら三人か」
黄緑色の気が再び燃え上がった。
「だが、その程度のパワーでこの俺を倒せると思っているのか?」
「あたしも忘れんな!!」
横から声が飛んだ。次の瞬間には金色の影が駆け抜け、超サイヤ人2となったカリフラの回し蹴りがブロリーの頬へ直撃する。
「だああああっ!!」
カリフラはそのまま拳、肘、膝を途切れなく繋げた。満身創痍であることを感じさせない勢いで、ひたすらブロリーへ攻撃を叩き込んでいく。
「カリフラ!」
サイタマが声を張った。
「もう寝てろ!」
「うるせえ! ケールをあんな目に遭わせたんだぞ!」
カリフラは止まらなかった。顔面へ拳を叩き込み、腹へ蹴りを入れ、何度も攻撃を続ける。
しかしブロリーの身体は微動だにしなかった。顔へ拳が当たっても、腹部へ蹴りが入っても、気にする様子すらない。
「……貴様」
ブロリーがカリフラを見下ろした。
「惑星サダラのサイヤ人だな?」
「だったら何だ!」
カリフラは荒い息を吐きながらも拳を止めなかった。ブロリーは彼女の攻撃を受けたまま、ゆっくり空へ視線を向ける。
「そうか。あの空の向こうから来たのか」
「あ?」
「わざわざご苦労なことだ」
カリフラの拳が止まった。意味が分からず、息を荒くしながらブロリーの視線の先を見る。
「何のことだよ」
ブロリーは静かに笑った。
「いつか、故郷へ帰れるといいなあ」
「……何?」
右手を持ち上げると、掌の上に一つのエネルギー弾が生まれた。大きさそのものはさほどでもないが、内側には異常な密度で気が圧縮されている。
カリフラの顔から血の気が引いた。ブロリーが何をしようとしているのか、意味を理解するより先に本能が警告を発する。
「まさか……」
ブロリーの口元が裂けるように吊り上がった。
「ハハハハハハハ!!」
腕が振り上げられた。エネルギー弾は空へ向けて超高速で放たれ、一瞬で雲を貫き、大気圏を抜けて星空の彼方へ消えていく。
「おい……」
サイタマが空を見上げた。ベジータもフリーザも同じ方向へ顔を向け、何を狙ったのかをほとんど同時に理解する。
「貴様……」
ベジータの声が低くなった。カリフラだけは、理解したくないというように小さく首を振る。
「嘘だろ……」
時間だけが流れていった。十秒、二十秒と経っても誰も口を開かず、ブロリーだけが空を見上げながら笑みを保っている。
そして、およそ一分が経過した時だった。遥か遠い空の一点に星のような光が生まれ、それが突然、視界でも分かるほど巨大に膨れ上がる。
次の瞬間、空の彼方で大爆発が起こった。距離など想像もつかないほど遠いにもかかわらず、何か巨大なものが破壊されたことだけは誰の目にも分かった。
「ハハ……ハハハハハハハハハハハハハ!!」
ブロリーの高笑いが荒野へ響いた。カリフラは完全に動きを止め、握っていた拳もゆっくり下へ落ちていく。
「……あ、悪魔だ……」
顔は真っ青だった。自分が恐れていた答えを、空に残る爆発の光が肯定している。
サイタマの表情からも、それまで残っていた戦いへの興味が消えていった。強い、面白い、驚いたという感情はもうなく、目の前の相手を止めなければならないという意志だけが残る。
ベジータも同じだった。我儘の極意の紫色の気をさらに膨らませ、隠すことなく殺意を向ける。
フリーザも笑っていなかった。ブラックの姿のまま静かに一歩前へ出ると、冷え切った赤い瞳でブロリーを見据える。
「なるほど…これはもう、生かしておくわけにはいきませんね」
ブロリーは三人を順番に見回し、再び楽しそうに笑った。対するサイタマ、ブラックフリーザ、我儘の極意となったベジータも、それぞれ無言で構えを取る。
今度は強さを競うための戦いではなかった。目の前の悪魔を、この場所で確実に止めるための戦いへ変わっていた。
「来い!!ここがお前たちの死に場所だ!!」
ブロリーが両腕を広げ、惑星を揺らすほどの咆哮を放った。三人も同時に気を高め、荒れ果てた大地の中央で、最後の激突へ向けて一斉に踏み込もうとしていた。