フリーザ、ヒーローになる ~宇宙の帝王がワンパンマン世界に墜ちた結果~ 作:&劉
第九話 怪物たち
ヒーロー協会から緊急招集が届いたのは、昼を少し過ぎた頃だった。 フリーザ・コーポレーション本社の一階では、受付の背後に会社ロゴが掲げられ、壁一面の大型モニターへ世界各地の怪人反応が映し出されている。二か月ほど前まで拳銃や日本刀を持った男たちが出入りしていた建物とは、今ではとても思えない。
看板を変え、壁紙を張り替え、登記を済ませ、税金を払い、受付を置く。それだけで昨日まで犯罪組織の根城だった場所が、今日からは企業として扱われる。 人間は、過去より書類を信用する。 フリーザは、その性質をかなり気に入っていた。
「S級ヒーロー緊急招集、ですか」 執務机の端末へ表示された通知を眺め、フリーザは赤い目を細めた。 場所はヒーロー協会本部、時刻は即時、対象はS級全員。肝心の用件だけが書かれていない。
「ずいぶん仰々しいですね」
画面を切り替え、独自の怪人監視網を確認する。
現在、災害レベル竜に相当する明確な反応はない。巨大隕石のような天体異常も、地球近傍では観測されていなかった。 それでも協会は、滅多に揃わないS級を一斉に呼んだ。何かがあるのだろうと考え、フリーザは小さく笑った。もし強い相手なら歓迎だったし、最近は少し退屈している。
深海王は、この星の怪人としてはそれなりだったのだろう。だが月面でサイタマと拳を交えた後の身体には、刺激として足りなかった。 自分には、まだ先がある。 ゴールデンの向こう側にある黒い焔。
月面決戦の最後、拳と拳を真正面からぶつけた瞬間に確かに感じた。今はまだ閉じているが、その向こうに次の自分へ続く扉がある。 ならば必要なのは圧力だ。強者との戦いで追い詰められ、限界を押し広げるほどの負荷を受けること。できることなら、自分を殺しかねないほどの相手がいい。
「まあ、行ってみましょうか」
フリーザは椅子から立ち上がった。
◇
ヒーロー協会本部は、都市の中心に据えられた要塞に近い。 分厚い外壁、監視設備、巨大な通信網、地下施設、対怪人用の防御機構。地球の技術水準から見れば相当に頑丈な建造物なのだろう。 フリーザから見れば、大きな箱だった。 壊そうと思えば簡単に壊れるものを「要塞」と呼ぶことには、少し抵抗がある。 それでも入口を通ると、職員たちは普通に頭を下げた。
「フリーザさん、お疲れ様です」
「どうも」
軽く返して、そのまま廊下を歩く。 人間の慣れというものは恐ろしい。 二か月前なら、白と紫の宇宙人が協会本部へ入ってきただけで警備部門が騒ぎになったかもしれない。 今ではテレビへ出て会社を経営し、S級ヒーローとして登録され、しかも納税までしている。人間社会にとっては、それで十分らしい。指定された待機室へ向かう途中でいくつか見覚えのある気配を感じ、そのまま扉を開けた。
「お」
最初にこちらを見たのはサイタマだった。 椅子へ座り、協会が用意した煎餅を食べている。
「こんにちは」
フリーザが軽く手を上げる。
「遅かったな」
ジェノスが言った。
「会社がありますので」
「俺たちも会社から来たぞ」
「あなた方は先に出たでしょう」
サイタマは煎餅の袋を持ち上げた。
「これうまいぞ」
「あなたは会議へ何をしに来たのです?」
「会議」
「そうは見えませんが」
「まだ始まってないし」
隣にはバングもいた。
「お久しぶりですね」
「そうじゃの」
老人はいつものように穏やかに笑っている。 だが、その目だけはフリーザを細かく観察していた。 以前会った時より、強くなっている。 それは錯覚ではない。
力そのものを派手に撒き散らしているわけではないのに、以前より身体の中へ何かが凝縮されているように感じる。 同じ量の水を、より小さく硬い器へ押し込んだような密度。 若い頃から強さを追い、多くの武人を見てきたバングだからこそ、その変化が気にかかった。
「あんたが最近噂の宇宙人か」
別の声がした。和装に束ねた髪、腰には日本刀。立っているだけで刃を抜いているような鋭さがある男は、S級四位のアトミック侍だった。フリーザも資料で知っていた。
人間の剣士としてはかなり速い。一瞬のうちに対象を細切れにする剣技は、地球人の技術として見れば悪くない。
「フリーザです」
「知ってる」
アトミック侍は隠す気もなく、頭から足まで値踏みした。
「S級五位」
「そうらしいですね」
「そうらしい?」
「順位には、それほど興味がありませんので」
アトミック侍が鼻を鳴らす。
「ずいぶん余裕じゃねえか」
「事実を申し上げただけですよ」
フリーザが笑う。アトミック侍は一歩近づいて右手を出したが、握手かと思わせたところで途中で止めた。
「握手はしねえぞ」
「はい?」
「オレは強者しか認めねえ。いきなり出てきて順位だけが上がってきた奴はまだ認めん。」
その視線がフリーザを越え、サイタマへ向く。
「そっちの禿げもな」
サイタマが煎餅を口へ運ぶ手を止めた。
「俺?」
「A級五位だろ。最近やたら順位を上げてるみてえだが、オレが認めるのはここまで上がってきた奴だけだ」
自分の胸を親指で示す。
「S級上位まで来たら、改めて挨拶してやる」
サイタマは少し考えた。
「別にいいけど」
あまりにも興味がない返事だった。 アトミック侍の勢いが僅かに削がれる。 横で見ていたフリーザが小さく笑った。
「何がおかしい」
即座に反応が飛んでくる。
「いえ。少しだけ悲しくなりまして」
「何?」
「実力差というものが分からないのは、悲しいことですね」
室内の空気が変わった。 ジェノスが僅かに前へ出る。 バングは動かない。 サイタマは二枚目の煎餅を取った。 ぱり、と乾いた音だけが場違いに響いた。
「誰と誰の実力差の話だ」
「もちろん」
フリーザは赤い目を細める。
「わたくしたちと、あなたのですよ」
ジェノスが目を閉じた。ついに言ってしまった、とでも言いたげだった。アトミック侍は一瞬笑った。 人間は怒りが限界へ近づいた時、逆に妙に笑うことがある。
「へえ。面白えじゃねえか」
「そうですか?」
「宇宙人ってのは、口だけでもS級五位になれるらしいな」
「わたくしとしては、事実を申し上げているだけなのですが」
アトミック侍の右手が、腰の刀へ伸びた。 その手が空を掴む。
「……?」
もう一度腰へ触れる。鞘はあるが、妙に軽く、肝心の刀がない。アトミック侍の目が正面へ動くと、フリーザは先ほどと同じ場所に立っている。 その右手に、自分の刀があった。 鞘に納まったまま。
「な……」
声が止まった。いつ奪われたのか分からない。確かにフリーザは目の前に立っていたし、歩いたところも手を伸ばしたところも見ていない。風も音も気配もなかった。それなのに、刀だけが相手の手にある。
「これがあなたの武器ですか」
フリーザは刃を抜こうともせず、鞘ごと興味深そうに眺めた。
「いつ……」
「つい先ほどですよ。少しお借りしました。お気づきになられませんでしたか?」
アトミック侍はようやく理解した。 能力でも瞬間移動でも手品でもない。ただ、自分の認識が追いつかないほど速く接近し、刀を抜き取り、元の位置へ戻った。それだけのことだった。 だからこそ、背中へ冷たい汗が流れた。 技なら対策を考えられる。 特殊能力なら仕組みを読む余地がある。 だが純粋な速度差がここまで大きい場合、どうする。 剣を抜く前に、首を取られる。 フリーザが一歩だけ近づき、刀を両手で差し出した。
「お返しします」
アトミック侍は無言で受け取った。いつもの刀で、重さも同じなのに、今だけ妙に重く感じる。 自分の強さを支えてきた象徴を、一瞬で奪われたからだ。
「大切なものなのでしょう?」
フリーザは柔らかく笑った。
「今度は落とさないようにしてくださいね」
明確な煽りだった。怒りはあるが、それ以上に剣士としての本能が、今は抜くなと命じている。 この距離で斬ろうとすれば、刀が鞘から出る前に何かが起きる。
「まあまあ」
バングが穏やかに割って入った。
「同じS級同士、仲良くせんか」
「わたくしは最初から友好的ですよ」
「どの口が言う」
ジェノスがぼそりと呟く。
「フリーザ、行くぞ」
サイタマが立ち上がった。
「そうですね」
サイタマは余っていた煎餅を二枚、ポケットへ入れる。 ジェノスが見た。
「先生、それは協会の備品では」
「余ってるし」
「後で返すべきです」
「食うから返せない」
「そういう問題ではありません」
三人が部屋を出ていく。 バングも少し遅れて続いた。 残されたアトミック侍は、刀を腰へ戻してから柄を握った。 手のひらが汗ばんでいる。 剣を抜く前に怖いと思った相手など、久しぶりだった。 相手は怪人ではない。 同じS級として登録されている、小柄な宇宙人。
「……面白え」
アトミック侍は小さく言った。 次に剣を交える時までに、見えるようになればいい。 剣士としては、結局そこへ戻るしかない。
◇
会議室へ向かう廊下で、サイタマが言った。
「さっきの人、怒ってたぞ」
「そうですか?」
「煽っただろ」
「事実を言っただけです」
「フリーザ、それ多いな」
「事実というものは、時に残酷なものです。」
ジェノスが口を挟む。
「先生。アトミック侍の斬撃は非常に高速です。S級四位、それだけの実績もある」
「強いの?」
「俺より上位だ」
「じゃあ強いんじゃない?」
フリーザが少し笑った。
「あなた方は順位を気にしすぎですよ」
「協会に所属する以上、一定の指標にはなる」
「では」
フリーザがサイタマを指した。
「A級五位」
ジェノスが黙る。
「あなたは?」
「S級だ」
「では、サイタマさんより強い?」
「違う」
即答だった。
「でしょう?」
「先生は例外だ」
「例外が一人なら、他にもいるかもしれませんよ」
ジェノスは反論できなかった。その時、前方から緑色の髪をした小柄な人影が歩いてきた。体格だけを見れば少女にしか見えないが、歩き方は子供のものではない。世界が自分を中心に回っていると、本気で思っている者の歩き方だった。彼女こそS級二位、戦慄のタツマキである。タツマキも三人へ気づき、最初にフリーザ、次にジェノス、最後にサイタマへ視線を移したところで、その目が止まった。
「何これ。なんでA級の雑魚がいるの?」
サイタマも止まった。
「誰?」
「は?」
「ここS級招集でしょ?」
「ああ。俺はジェノスに呼ばれて」
「帰って。邪魔」
タツマキは手を払うように言った。 サイタマの眉が少し動く。
「なんだ、この小生意気な……」
言いかけて、タツマキをもう一度見る。
「迷子?」
静寂。 ジェノスは目を閉じた。 フリーザの口元が上がる。 タツマキの表情は数秒動かなかった。
「……誰が迷子よ」
「いや、背ちっちゃいし」
「殺すわよ」
「こわ」
ジェノスが小声で説明する。
「先生。彼女は戦慄のタツマキ、S級二位のエスパーです」
「二位?」
「そうよ」
タツマキは腕を組み、サイタマを見下すように見る。 実際の身長では自分の方が下なのに、なぜか視線だけは完全に上からだった。
「だからA級の雑魚がウロウロしてるのが不愉快なの」
フリーザは足を止め、タツマキを観察した。 気の使い方が違う。 肉体の内部から放つというより、精神そのものが周囲の空間へ伸び、外側から世界を掴んでいる。 フリーザ自身も念力は使う。 だが、この少女の出力は大きい。 少なくとも先ほどの剣士より、こちらの方が面白そうだった。
「なるほど」
フリーザが呟く。
「何よ」
「あなたが二位ですか」
「そうだけど?」
フリーザは僅かに笑った。
「この程度で」
ジェノスの顔がほんの少し動く。 サイタマは横で呟いた。
「また始まった」
タツマキの目が細くなる。
「今、何て言った?」
「いえ。お気になさらず」
「この程度って言ったでしょ」
「聞こえていたのなら、聞き返す必要はないでしょう?」
廊下の空気が一気に重くなり、壁が軋み、掲示板の紙が浮き上がる。 タツマキの緑色の髪が、風もないのに持ち上がった。
「あんた、最近調子に乗ってる宇宙人でしょ」
「調子に乗っているつもりはありませんよ」
「S級五位になった程度で偉そうに」
フリーザは一瞬考えてから笑う。
「あなたも順位がお好きですね。先ほど四位の方から同じような話をされました」
「アトミック侍?」
「ええ」
「なら、あいつより下じゃない」
「そうですね」
フリーザは肩をすくめた。 あまりにも気にしていない。 その態度が、タツマキをさらに苛立たせる。
「行こうぜ」
サイタマがその横を普通に通り過ぎた。
「先生、会議室はこちらです」
ジェノスも続く。
「ちょっと!」
二人は止まらない。
「待ちなさい!」
「会議遅れるぞ」 サイタマは振り返らない。 最後にフリーザがタツマキの横を通る。 距離は一メートル。 フリーザは笑顔で軽く会釈した。
「それでは」
そのまま通過した次の瞬間、タツマキの目が見開いた。腹の中心へ重い衝撃が入り、音自体は小さかったが、 だが身体が一瞬前へ折れ、息が止まり、膝が落ちる。
「……っ!?」
何をされた。 見えなかった。 攻撃の気配もなかった。 常時身体を覆っている念動力の防御が反応するより前に、正確な打撃が腹へ届いた。 タツマキは片手を床へつき、激しく咳き込む。 後ろではフリーザが歩き続けている。
「おや」
振り返りもしない。
「手が滑りました」
前を歩くサイタマが言った。
「絶対嘘だろ」
「明確に攻撃していた」
ジェノスも断言する。
「証拠は?」
「俺には見えなかった」
「では何もない、ということで」
「それはおかしい」
タツマキは腹を押さえたまま立ち上がった。 怒りと痛みが混ざり、念力が爆発する。 壁と床へ圧力が走る。 フリーザが足を止めた。 サイタマも振り返る。 ジェノスは即座に戦闘姿勢を取る。 タツマキの身体が宙へ浮かび、緑色の光が強くなる。
「ぶっ殺す!」
フリーザがゆっくり振り返った。 赤い瞳と緑の瞳がぶつかり、一秒、二秒と時間が流れるあいだ、空間そのものが軋んだ。 この二人がここで本気になれば、ヒーロー協会本部が無事で済む可能性は低い。 ジェノスはそう判断した。 サイタマは頭をかいた。
「会議行こうぜ」
その一言で、妙に力が抜けた。 フリーザが先に視線を外す。
「そうですね」
「ちょっと!」
タツマキを残し、三人は再び歩き出した。 曲がり角へ消えていく。 タツマキはその場で腹を押さえた。痛みが残っていること自体が、彼女にはあり得なかった。
自分の防御は、意識して張らなければ存在しないものではない。普通の打撃なら、身体へ届く前に止まる。 なのに今の攻撃は、防御が強くなるより前へ、純粋な速度と威力だけで物理的な拳を入り込ませてきた。
「何なのよ……」
歯を噛みしめ、絶対に許さない、後で必ず潰すと決めた。 一方、先を歩くサイタマはフリーザを見た。
「お前、女の子殴るなよ」
「女性扱いしていたのですか?」
「え?」
「迷子と言っていたでしょう」
「それとこれとは別だろ」
ジェノスが補足する。
「先生。彼女は二十八歳です」
サイタマが止まった。
「え」
「二十八歳です」
サイタマは後ろを見た。 もう姿は見えない。
「マジで?」
「はい」
「俺より年上じゃん」
フリーザが笑う。
「だから申し上げたでしょう。実力も外見も、見ただけでは分からないのですよ」
「お前が言うと何かムカつくな」
「なぜでしょう?」
◇
S級会議の待機室は、巨大な円卓を中心に広く作られていた。すでに、この星の表側に存在する怪物たちがかなり集まっている。豚神は何かを食べ続け、超合金クロビカリは全身の筋肉を光らせながら腕を組んでいる。そこにはタンクトップマスター、ゾンビマン、閃光のフラッシュ、童帝、番犬マン、駆動騎士、金属バット、ぷりぷりプリズナーまで揃っていた。人間という形をしていても、その一人一人が通常の兵器部隊では扱えない存在であり、まさに怪物たちの会議だった。フリーザには、そんな言葉の方がしっくりきた。その中でひときわ異質だったのがキングである。顔には大きな傷があり、険しい表情で座っているだけなのに、周囲の人間が自然と一定の距離を取っている。資料には「地上最強の男」とある。フリーザの足が一瞬止まった。スカウターを付ける必要もなく気配を探ってみると、驚くほど弱く、一般人と大差がなかった。
「?」
フリーザはほんの僅かに首を傾けた。 怪人を何体も倒したとされるS級七位で、肩書きは地上最強。それなのに、この気配である。 隠しているのか。 気を完全に消す技術。 サイタマも普段は異常なほど反応が小さい。 同じ種類の存在なのかもしれない。 興味が湧いた。 フリーザの口元が少し上がる。 キングはそれに気づいた。 心臓が跳ねた。 ドッドッドッドッドッ。 低い鼓動が室内へ響く。 キングエンジン。 金属バットがちらりと見る。
「お」
童帝も顔を上げた。
「キングさん、何か感じましたか?」
キングは表情を動かさなかったが、内心では、何だあの宇宙人、こっちを見ている、怖い、なぜ笑った、と悲鳴を上げていた。 外見だけは、いつもの威厳を保っている。 ドッドッドッドッドッ。 フリーザの耳がその心音を捉えた。 異常に速い。
「なるほど」
小さく呟く。 単なる緊張ではなく、何か特殊な力を発動しているのかもしれないと考え、フリーザの興味はますます増した。 そこへサイタマが普通に歩いていく。
「お、キングじゃん」
キングの目が僅かに見開かれた。
「サイタマ氏」
知り合い。 フリーザの興味がさらに強くなる。 サイタマと知り合いなら、本当に何かある可能性が高い。 サイタマはキングの隣へ座った。
「ゲーム持ってきた?」
「いや、今日は会議なので」
「そっか」
ゲーム。 フリーザには、ますます分からない。 ジェノスはサイタマの近くへ立つ。 フリーザは円卓全体を見回した。 メタルナイト本人はいないが、それは当然だろう。彼はわざわざ自分の身体を危険な場所へ運ぶような人間ではない。 S級一位のブラストもいない。 それ以外は、かなりの人数が揃っている。 これだけ集める理由が何なのか。 やがて協会職員が前へ立った。 顔に緊張がある。
「皆様、お集まりいただきありがとうございます」
「ああ?」
金属バットが苛立たしげに言う。
「早く用件言えよ」
童帝も端末から顔を上げる。
「緊急招集というからには、相応の理由があるんでしょうね」
その頃になって、アトミック侍が遅れて入ってきた。 フリーザを一度だけ見る。 何も言わない。 代わりに腰の刀を確認する。 さらに少し後からタツマキも入室した。 腹にはまだ僅かに痛みが残っている。 フリーザを睨む。 フリーザは笑顔で軽く会釈した。 タツマキのこめかみに青筋が浮く。
「やめとけよ」
サイタマが言った。 どちらへ向けた言葉なのかは分からない。 職員が咳払いする。
「今回、皆様を招集した理由は――予言です」
フリーザの眉が少し上がった。予言という言葉は強者の情報ではなく、期待が僅かに下がる。 職員は大予言者シババワについて説明を始めた。 これまで数々の災害を高い確率で言い当ててきたこと。 そして亡くなる直前、最後に大きな予言を残したこと。 スクリーンへ文字が表示される。
『地球がヤバい』 室内へ微妙な空気が流れた。
「……地球がヤバい?」 金属バットが言う。
「それだけかよ」
「はい」
「具体的には?」
「ありません」
「いつ?」
「半年以内と見られています」
「くだらない」
タツマキが吐き捨てる。 豚神は気にせず何かを食べている。 クロビカリは腕を組んだまま。 キングは内心で帰りたいと思っていた。 フリーザも笑った。
「ずいぶん曖昧ですね」
「しかし、シババワ様の予言は非常に高い確率で的中しており、地球規模の危機が発生する可能性は――」
職員がそこまで言った瞬間、フリーザが顔を上げた。巨大な気配が近づいている。それも一つではない。 宇宙から複数の生命反応が急速に近づいている。 中心に一つ、かなり大きい。 さらに、その近くにいくつか強い反応がある。 そのうちの一つには、なぜかほんの少しだけ引っかかるものがあった。 知っているような。 自分と似ているような。 だが、もっと薄く、軽く、安っぽい何か。 フリーザは一瞬だけ眉を寄せた。
「先生」
ジェノスが警報表示へ気づく。
「ん?」
サイタマが顔を上げる。 フリーザは天井の向こうを見るように目を細めた。
「来ましたね」
「何がじゃ?」
バングが聞いた。 答えるより先に、ヒーロー協会の警報が鳴り響いた。 赤い照明が点滅する。 職員が端末を見て、顔色を変えた。
「上空に巨大物体! 識別不能! 高速で接近しています!」
童帝が即座に自分の端末を接続する。
「サイズは?」
「巨大です!」
「具体的に」
「全長……十五キロ以上!」
部屋の空気が変わった。 サイタマが窓の方向を見る。 フリーザは立ち上がった。 口元がゆっくり上がる。接近しているのは宇宙船で、フリーザ軍のものではない。 設計思想も違う。 だが、明らかに星間航行を前提とした巨大戦艦だ。 そして中には強者がいる。 少なくとも、ここまでの怪人とは比較にならない。
「嬉しそうだな」
サイタマが言った。
「ええ」
フリーザは素直に答えた。
「ようやく、少しは面白そうな方が来たようです」
外が暗くなったが、雲のせいではない。十五キロを超える巨大な宇宙船が都市上空へ入り、その影が地上を覆った。ヒーロー協会本部へ集められたS級たちは、まだその船の中身を知らない。その船は暗黒盗賊団ダークマターのものだった。最奥部では、玉座に座る一つ目の戦士――ボロスがゆっくり目を開き、長い退屈の終わりが近いことを感じていた。そして船の別の場所では、白と紫によく似た姿をした男が青い星を見下ろしている。本人はまだ、自分が最も会いたくない存在が地上で笑っていることを知らない。地上では、フリーザが尾をゆっくり揺らしていた。宇宙には時々、強者同士を引き合わせる悪趣味な偶然があり、ある者はそれを運命と呼ぶ。フリーザはそんな言葉を信じない。強い相手が来た、それだけで十分だった。
「さて」
赤い瞳が細くなる。
「歓迎して差し上げましょうか」
巨大宇宙船の底部に光が集まり、次の瞬間にはA市の空が白く染まった。