「はい、これでこの物語はお終い。次はどんな御話にしようか。なんて、次の御話は竜追い人、コルネリウスなんだけどね」
物語を読み終えて、ノアは優しく本を閉じた。次のお話の主人公は、あの竜追い人、コルネリウス。次のお話を聞くために、このお屋敷に来るのが今からでも待ち遠しい。
「ねぇ、お話に出てきた竜達は本当にいるのかな?」
「さて、どうだろうね。ただ、イスタールの民は竜は7匹、或いは7種類だと認識していたのは間違いないし、コルネリウスもそう考えてるみたい」
お面の頬に指を当ててノアは言うと、すこしお面をずらして、お茶に口を付けた。
「じゃあ、白い竜はいるし、他の竜もきっといるね」
「いや……それはどうだろう?」
ぼくの言葉に、ノアはなんと言うか歯切れが悪い。
「どういう事?」
「確かに、帝国で確認されている中で、もっとも有名なのは白い竜だけど、それ以外にも3匹知られている竜がいる。そしてその竜の中には、さっきの物語の竜とはまるで違う特徴の者がいるんだ」
「それって、どんな竜?」
ぼくの質問にノアは立ち上がると、本棚の前に立って本の背表紙に指を滑らせていく。
「あった……」
そして本棚から1冊、赤いふわふわしたカバーで覆われた本を抜き取ると、ぼくの前で広げて見せる。
「この竜だね。帝国での名前は、クリスタロム・テルガス」
「クリスタロム・テルガス……」
ぼくは竜の名前をくり返した。開かれたページにはなんというか抽象的な絵で、とげとげした竜が描かれている。
「詳しい事はコルネリウスの物語に書いてあるから、語るのは触りだけにするけど、この竜は帝国南西にある洞窟に住んでいると言われていた。コルネリウスがその話の正しさを証明したんだけどね」
「それで、違う特徴があるって、どんな竜なの?」
「この竜は全身に結晶を纏っているんだよ。色で言うなら透明な竜というのが正しい」
結晶を纏っている透明の竜、確かに今回の物語の中にはいなかった。
「透明……見えないって事?」
「まさか、複数の結晶を纏えば、光が複雑に乱反射してしまって、見えないなんて事は無いよ。それに、透明なガラスだって、別に見えないなんてことは無いんだから」
「そうなの? ならどんな風に見えるの?」
今度の質問にノアは、お面の位置を直すと言葉を続けた。
「さてね、それを知っているのは、多分コルネリウスただ1人だ。けど、それを語るのは随分と先になるかもしれない」
「えー……なんで?」
ぼくは口を尖らせて抗議をする。ここまで、クリスタロム・テルガスを語っておいて、それじゃあ消化不良だ。
「コルネリウスがこの竜と出会うのは、彼が竜を追い始めて随分と時が経ってからの事、物語には順番があるんだよ」
そう言ってノアは、顔の前で人差し指を立てた。
「けど、最初の話もきっと君は気に入る。『七つの星と七匹の竜』を語る前にも言ったけど、その物語はコルネリウスの最も有名な偉業、白い竜との遭遇なんだから」
白い竜の物語、その言葉だけでぼくの胸が高鳴る。それは絵本にも歌にも、劇にだってなっているコルネリウスの物語の王道だ。
「さて、では今回は此処でお開き。次の物語にご期待を」
ノアの真っ白なお面を、赤い夕陽が照らした。
書き溜めが完全に尽きました。次回、いつになるか分かりませんが、お待ちいただけると幸いです。