「これでこの物語はお終い。次はどんな御話にしようか」
物語を語り終えると、ノアは椅子の背に体を預けた。色々と質問したいことはあるけど、ぼくだったら性別の勘違いされるなんて絶対に嫌だし、まず謝るべきかもしれない。けど、口に出してないのに謝ると、変に思われてしまう。
「ああ、君。謝る必要は無いよ」
「え……?」
考えが頭の中をぐるぐるして、言葉を発せずに黙り込んでいると、そう言ってノアはぼくの心の中を見透かすように、お面の奥で目を細めた。
「正直言ってね、私は今となっては性別とか気にしていないんだ。他人がどう思っても私は私だし、それに案外、境界に立ってみないと分からない事もあるし」
「境界?」
「そう、境界。国、人の輪、男女、それは内と外を隔てているのかもしれないし、ふたつを分けているのかもしれない。世の中にはそういった無数の線引きがある。そして、私にはその線の上に立ってみるからこそ、それが分ける両方が分かる気がするんだ」
ノアの言うことは難しくて、ぼくには正直よく分からない。大人になったら分かるんだろうか。けど、謝る必要が無いと本人が言っているわけだし、ぼくは気になった事を質問する。
「このお話は本当にあった事なの? ノアの作り話じゃ無くて?」
「本当にあった事だね。といっても、一部誇張していたり、実際とは変わっている所があるけれど。少し待ってね」
そう言ってノアは机の引き出しから、手のひらで収まるくらいの小さな物を取り出すと、ぼくの前に置いた。それは透明で短い棒の形をしていて、お話に出てきた通りの見た目だ。
「このお話の友達って、ノアが手紙を書いてた人?」
「うん、その通りだよ」
ノアは柔らかく頷いた。
「『忘れ去られた人々』について、もっと教えて」
「良いけど……うーん。実は彼らについて然程分かっていることは無いんだよね。まず、彼らの存在が初めて確認されたのは20年くらい前の事で随分と最近なんだ。それから、多くの学者が彼らの研究の為に、冒険者を雇ったりもして調べてるけど、見つかった彼らの遺跡は片手の指で数えられる程で、それ以外の痕跡……帝国が成立するずっと昔の人が残した記録や、彼らが持ち出した物品を含めても多分100も無い」
20年前、ぼくは生まれていないけど、それが大して昔の事じゃないことは分かる。
「じゃあ、今分かっているのはどれくらいの事なの?」
「今回の物語の遺跡の存在もあって、彼らの生活については分かっている事が多いけど、それが彼らの全てでは無いし、それ以外……彼らが姿を消してしまった理由が何かは、完全に分かっていない」
「うーん……世界の果ての先に旅立ったとかは?」
ノアにぼくの意見を言う。海と大地が途切れてしまう世界の果て、誰も行った事が無いというその先に行ったんじゃないだろうか。
「さて、どうだろうね」
ノアのその声色は意味ありげだった。
「さて、では今回は此処でお開き。次の物語にご期待を」