こちらは特に遅いかも。見切り発車。
エレボニア帝国帝都ヘイムダルの中心にそびえるバルフレイム宮。その一室で、極秘裏に訪れた人物ユースティア・カイエン、放蕩皇子オリヴァルトと紅茶を飲んでいた。
「いやー、君のメイドさんの淹れるお茶は美味しいね。わざわざ二人呼んだ甲斐があったよ」
「でしょう? ノアの淹れるお茶は絶品ですからね。ノア、おかわりいただけるかい?」
「はい。殿下もいかがですか?」
「もちろんいただくよ。なんせ、当分飲めなくなるからね」
メイドのノアがお茶を淹れに奥に下がると、本題を話し始める。
「さて、遅くなったが、入学おめでとう。君がトールズに来てくれたこと、嬉しく思う」
「ありがとうございます、理事長。随分無理を言ったのに、押し通してくれてありがとうございます。特にオヤジ関連で」
「ははは、あれは大変だったなぁ。父上がいなかったら無理だったよ」
「それは、本当にご迷惑を。後日必ずお礼を言いに参ります」
「なに、神童と名高いユースティア君のためだ。父上も張り切っていたよ。いや、一番張り切っていたのは母上だったかな。そうだ、母上には会ったのかい?」
「いえ。今日はまだ」
「ならばお茶を飲んだらいこうではないか。おそらく、可愛い妹が頬を膨らませて待っているだろうからね」
ちょうどよいタイミングでノアがお茶を持ってくる。それを楽しみつつ、少し急いで飲み終えると、オリヴァルトとユースティアは王妃の私室に向かう。
「母上、我が妹の思い人をお連れしました」
オリヴァルトの言葉に、部屋の中から可愛らしい悲鳴が。それを気にせずオリヴァルトが扉を開くと、部屋の中にはほほえましそうに娘を見つめる王妃プリシラと顔を真っ赤にさせるアルフィンが二人のことを待っていた。
そんな二人に、ユースティアは恭しく頭を下げる。
「お久しぶりです王妃殿下、そして可愛らしい姫様」
「そ、その言い方はやめて下さいと言っているではないですか!」
「あら、あんなにニコニコしていたのに、そんなことを言って。素直じゃないわねアルフィン」
「お母様!」
ユースティアに続きプリシラにもからかわれ、慌てるアルフィン。三人に笑われ、ふくれっ面になる。
「ははは、ごめんなアルフィン。でも可愛らしいのは本当だよ?」
「そういう所を直していただきたいのです!」
「まぁまぁ、今日はせっかく来てくれたのですから。あなたのメイドの美味しいお茶を楽しみましょう?」
王妃にも認められているノアは、恐縮しつつも、先程よりも美味しいお茶を各人に振舞う。その味に、プリシラはもちろん、アルフィンも惚れ惚れとしていた。
「この味もしばらく味わえないと思うと、あなたの入学を止めてしまいたくなりますわ」
「それはご勘弁を。それより、私の入学の件、ご尽力していただき、ありがとうございました」
「私の可愛い息子の珍しいお願いです。張り切らないわけにはいけませんわ」
そういうプリシラは妙に得意げであった。
「それにしてもお兄様が士官学院に行くとは思いませんでしたわ」
カイエン公の次男であるユースティアは、帝都の名門学園に通うと思われていた。しかし、直前となり、トールズ士官学院に入学すると言ったのである。
「随分無理を言ったけど、色々殿下が面白そうなことを企んでいるようだったので。制服もかっこよかったですしね」
ちらりとオリヴァルトの方を見ると、わざとらしく肩をすくめた。
「そういえば、あなたの制服姿をまだ見ていませんでしたね。よければ見せてくれませんか?」
「もちろん。ノア、持ってきているよな?」
「はい。すぐに準備いたしますわ」
ノアと共に着替えに下がるユースティア。数分して戻ってきたユースティアは深紅の制服に着替えていた。
「お似合いですわ! まるで、お兄様のために設えたようです!」
「ありがとうアルフィン」
「本当に似合っていますね。ふふふ、学院に行ったら引く手数多ね」
プリシラがそう言うと、アルフィンがジト目でユースティアのことを睨み付ける。そんなアルフィンに対して両手を挙げる。
「そうなることも魅力的ではあるけど、アルフィン以上の可愛い子がいるとは思えないけど」
「そ、そういうことをいうから信用出来ないのです! 社交界ではいつも誘われているではないですか!」
血筋や家々の関係以上に、容姿が整っているユースティアはオリヴァルトに並ぶほどに貴族の令嬢たちに人気者である。
「彼女たちにも色々ありますから、ダンスくらいはしますけど、それ以上のことはお断りです。彼女たちに愛されるよりも、アルフィンが傍にいてくれる方が何百倍も嬉しいしね」
ユースティアの歯の浮くような言葉に、こんどこそアルフィンは撃沈。今まで以上に顔を赤くさせ、ユースティアから顔を逸らして紅茶を飲むことにした。
「あまり娘をいじめないであげないで下さいな。それより、長く引き留めてしまい、すみませんでしたね。明日入学式なのでしょう? 準備は終わっているのですか?」
ふがいない娘に助け船を出すプリシラ。
「大きなものは既に。あとは細々としたものだけです」
「でしたら、そろそろ解散といたしましょうか」
「心遣いありがとうございます。アルフィン、手紙書くから、お返事楽しみにしてるよ」
「私も楽しみにしています。たまにはこちらにも帰って下さいね」
「落ち着いたら必ず。ではこれにて失礼いたします」
もう一度礼をして部屋から出るユースティアとオリヴァルト。
「いやいや、我が妹は君には形無しだね」
「姫様が三歳の頃からの付き合いですしね。気安く接してくれるのは私も嬉しいですよ」
「君くらいだからね、気安く接することの出来る男性は。全く罪作りな男だ」
軽口を躱す二人だが、片や皇族、片や名門貴族。更には社交界の人気を二分する二人である。二人は通りかかる人全員に注目されていた。
やがて城門近くにたどり着くと、オリヴァルトともお別れである。
「さて、これから君も忙しくなるだろう。だが、それもまた学生の楽しみだ。何が起こるかは分からないが、存分に楽しみたまえ」
「はい。殿下もお体には気をつけて。それと、ミュラーさんにあまり迷惑をかけないように」
「ははっ、それは約束できないな。ではまた」
そうして、ユースティアは用意されていた導力車に乗り、宮殿を後にする。
「おつかれ、ノア。明日からも頼むな」
「いえ、こちらこそ。第一寮ではありませんが、御用がありましたらいつでもお呼び下さい」
「あぁ、頼りにしてるよ」
ヘイムダルの屋敷につき、翌日の用意を終えると、すぐにすぐ眠りについたのであった。
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