ユースティアがくそやろうにみえますが、彼は紳士です。
まぁ、書いている本人が爆発して欲しいと思っていますが。
ユースティアがリィン達の元に到着すると、すでに領邦軍が来ており、クレアも無事に到着していた。心配が要らないことが分かったので、ユースティアは笑みを浮かべながら領邦軍の前に出た。
「ユ、ユースティア卿!?」
「おや、あなた方も犯人の逮捕にいらしたのですか? でしたらそこにいる男達が犯人です。リィン達……我々が突き止めましたが、此度の事件、アルバレア領で起きたこと。仕事を押しつけるようで心苦しいですが、後の処理をお願いいたします」
「か、畏まりました」
慇懃無礼なユースティアの物言いに、苦い顔をしながら男達の元へと向かう。そんな隊長に、小声で声を掛ける。
「あぁ、此度の件、報告書の提出を求めます。余計なことかもしれませんが、正確な報告を。仕事を増やしてしまった手前言いにくいですが、お疲れだとしても、最後の見直しをお忘れなきよう」
「っ! ……承知しております。お心遣い感謝いたします」
やがて
領邦軍が去ると、ユースティアはクレアに声を掛ける。
「クレア大尉。リィン達を助けて下さり、ありがとうございました」
「いえ。こちらこそ此度の一件への協力、感謝いたします。この後、少し調書を取りたいので、お時間をいただけますでしょうか?」
「もちろんです。みんなももう少しで終わりだから頑張れよ」
ユースティアの珍しい雰囲気に押されていたリィン達はハッと気を取り直す。
「あ、あぁ。クレア大尉、よろしくお願いします」
「はい。ではケルディックに戻りましょうか」
クスクスと微笑むクレアとともにケルディックに戻る一同。そして、短い調書を取り終えると、リィン達はレポートを書くために部屋へと戻っていた。ユースティアはクレアと共に大市へと移動し、大市で買ったジュースを持ってテラスに席を取った。
「改めて、リィン達を助けてくれてありがとうございました」
「いえ、お気になさらないで下さい、と言っても、お礼の言い合いになってしまいますね。ここまでにしておきましょうか」
「はは、そうですね。じゃあ、乾杯でもしましょうか。ジュースで格好がつきませんけど」
ユースティアが持ったカップに、クレアが微笑みながらカップを合わせる。
「ふふ、執務中でなければここの地ビールも良いですが、今は駄目ですね」
「では今度時間があるときに是非。ゆっくり話したいですし。今度の休みも帝都に行く予定なので、仕事が終わった後ですが、お時間ありますか?」
「恐らく。予定を開けておきますね。エスコート、期待していますよ?」
クレアも随分乗り気のようで、イタズラっぽく言う。ユースティアもいつもより嬉しそうな笑みを浮かべた。
「では、美味しいところを予約しておきましょう。楽しみにしていて下さい」
二人はもう一度コップを打ち鳴らして、向かい合ってクスクスと笑うのであった。
波瀾万丈な最初の実習も終わり、既に5月も半ばを過ぎた。授業なども慣れ始めた頃、Ⅶ組にはある問題が生じていた。
「全く、まだマキアスは意地を張っているのか」
「マキアスの気持ちも分かるがな。確かに、このままでいいとも思えぬな」
教室から出て行った二人のことをラウラやフィーと話していた。
「マキアスも意地っ張り」
フィーも教室のイヤな雰囲気に辟易しているようだった。
「まぁ、これは当人同士でしか解決出来ないであろう。我らはそれをフォローするくらいだろう」
ラウラの言うとおり、周りの者達にはどうすることも出来ないのが真相であった。
「まぁ、今回は私はあまり役に立てないから、マキアスに対してのフォローは皆に任せるよ」
ユースティアの言葉に、ラウラは少し気まずそうな顔を浮かべた。
「その、今まで聞いてこなかったが、そなたがマキアスと仲が良くないのは何か理由があるのか?」
ラウラの問いに、ユースティアは困ったように顔を顰めた。
「うーん……私としては言ってもいいんだけど、マキアスが言っていないから説明は出来ないかな。一つ言うなら、マキアスのあの態度の原因が私達にある、ということだろうか」
ユースティアの話す姿は少し物憂げであった。ラウラとフィーはそれ以上聞くことは出来なかった。
「そんな顔をしないでくれ。二人はこれから部活だろう? あぁ、フィーにはついて行っていいか? エーデルさんに用があるんだ」
「ん、構わない」
「じゃあラウラもまた」
ラウラと別れ、ユースティアはフィーと共に中庭に向かった。
「エーデル部長、こんにちは」
中庭の向かいにある園芸部の花壇で手入れをしている麦わら帽子の女子生徒に声を掛ける。ユースティアの声に気が付いた女子生徒――エーデルは、笑顔を浮かべて立ち上がった。
「あら、こんにちはユースティア君。それにフィーちゃんも」
「ん、こんにちは」
短く挨拶するフィーの様子に、嬉しそうに微笑むエーデル。フィーもこの母親のような包容力を持つ部長にはよく懐いていた。
「頼まれていたハーブ、用意しておきましたよ。それと、ハーブティーも一緒にどうぞ」
エーデルは肩割に置いてあったバッグをユースティアに渡す。ユースティアはそれを受け取ると、持っていた箱を取り出してそれをエーデルに渡す。
「昨日焼いたものです。エーデルさんが好きなベリータルトとトマトパイです。良かったら寮の皆さんと食べて下さい」
「あらあら。ユースティア君のお菓子は美味しいから、太っちゃうわ。寮の皆も困っているのよ?」
エーデルのからかうような言葉に、ユースティアは首を横に振る。
「何を言いますか。エーデルさんはいつもお綺麗ですよ」
「あらあらあらあらっ! ふふふっ、嬉しいことを言ってくれる後輩君には、お野菜もあげちゃうわ」
褒められて嬉しくなったエーデルは、収穫していた野菜を渡したバッグにぽいぽい入れだした。
そんな二人のことを、フィーはいつもよりもジト目で見つめていた。
「ユースティア、何か用事があるって言ってたけど、時間は大丈夫なの?」
フィーに言われて、ユースティアはおっ、と声を上げる。
「ありがとなフィー。鉄道に乗り遅れる所だった」
「あら、どこかに出掛けるのですか?」
「えぇ。明日は休みですから、ちょっと帝都に。ではこれで失礼します」
エーデルとフィーに別れを告げて、ユースティアは第三学生寮に戻る。そこではノアが待っていた。
「お帰りなさいませ。お着替えの用意は出来ております」
「ありがとう。すぐに着替えてくるよ」
ユースティアは制服から、私服に着替えて玄関に戻る。
「それじゃ行こうか。あぁ、それと」
「? 何でございましょう」
扉に手を掛けたまま振り向いてくるユースティアにノアは首を傾げた。
「その服、よく似合っている。綺麗だよ」
「…………そろそろ時間も迫っています。少し急ぎましょう」
いつもより急ぎ足で寮を出たノアの耳は真っ赤になっていた。
とはいえ、ユースティアが鉄道で採るのは個室。当然、従者のノアも同席するので、二人っきりとなる。
「まったくもう……ユースティア様はあまり女性にあのようなことを言わないで下さい」
「ははは、すまんね。でも、ノアに言ったことは本当だよ。ノアは美人だからね。黒い服はよく似合う」
「~~~~~~っ!? むぅ……」
いつも冷静沈着なノアには珍しく、拗ねたような表情を見せる。これも、個室というユースティアしかいないからこそ見せる表情だった。
ユースティアはそんな自分の前でしか見せない従者の表情を見られて、嬉しそうな笑みを浮かべていた。
トリスタとヘイムダルとの距離は近いため、あっという間に到着する。
「それでは私は先に行っておりますので、明日の十時にお城で」
「あぁ。ノアも今夜はゆっくり過ごしてくれ」
「はい。ありがとうございます」
ノアと別れたユースティアは、帝都で行きつけのバーに向かう。《LUNA》というバーは、隠れ家的なお店で、常連客があまり他の人に紹介したがらないため、知る人ぞ知る名店となっている。
「おや、ユースティア君。久しぶりだね」
「お久しぶりですマスター。今士官……っと、色々ありまして。取り敢えずあと一人来ますので、それまで話に付き合って下さい」
「また女性ですか? まぁお話相手、務めさせていただきますよ。それで、最近はどうなのですか? 先月は劇場に行ったと小耳に挟みましたけど」
先月とは、アルフィンとのデートの時のことである。
「あのときは姫様とお忍びだったから、ここには流石に。姫様が大人になったとき、こっそり連れてきますよ」
「それはそれは。五年後が楽しみですね。今のうちに上物のワインを探しておかなければ」
マスターもアルフィンの名前を聞いても動じることはない。それどころか、ユースティアと同じように、クスクスと笑っていた。
その後もマスターの近況などを聞いていると、店の扉のベルが鳴った。扉の方に目をやると、クレアが入ってきた。
「お待たせしました」
「いえ、私も今来たところですから。それにしても、素敵ですよクレアさん」
クレアの服装は軍服ではなく、ドレスアップしていた。薄いブルーのドレスは《氷の乙女》という名に相応しく非常に良く似合っていた。
「ふふふ、ありがとうございます。ユースティアさんもよくお似合いですよ。流石ですね」
クレアもユースティアの服装を絶賛する。ドレス姿のクレアと並ぶと、映画のワンシーンのようだった。二人ともカクテルを頼むと、マスター自らシェイカーを振る。
「素敵な夜に、乾杯しましょうか」
「えぇ、素敵な男性との夜に」
青と白のカクテルを受け取ると、二人は静かにカクテルグラスを鳴らした。カクテルを一口口にすると、その美味しさに目を見開く。
「驚きました。とても美味しいです。私も常連になってしまいそうです」
「いつでもいらして下さい。最高のものをご用意してお待ちしておりますよ」
マスターのウインクに、クレアは微笑みで返す。
「そう言えば、ミリアムちゃんやレクターさんは元気ですか?」
「えぇ。いつも元気です。ミリアムちゃんは元気すぎて困ってしまうくらいです。アランドールさんは……まぁ、いつも通りでしょうか」
同僚の飄々とした笑顔を思い出して、クレアは苦笑する。
「それなら良かった。っと、すみません。今はクレアさんのお話をするときでしたか。クレアさんも最近お忙しいと思いますけど、何か面白いこととかありましたか?」
「そうですね……先日任務でオルディスに行ったのですが、そこでオーレリア将軍とお会いして、一席ご一緒しまして、その時にユースティアさんの小さな頃のお話をお聞きしました。とっても楽しかったですよ」
「それは……師匠め。それはそれで、オルディスに行ったのなら、新作のスイーツは食べましたか?」
この話題は分が悪いと思ったユースティアは話題を変える。
「えぇ。将軍に勧められたので食べましたよ。とても美味しかったです」
クレアの回答を聞いてユースティアは嬉しそうに微笑む。それを見て、クレアはあることに気が付く。
「もしかして、あれはユースティアさんの新作なのですか?」
「えぇ。先月実習の後に送ったものです。クレアさんをモチーフにして作ったんですよ。ミントを使ったすっきりとしたスイーツです。それを紅ササンに食べてもらえて良かった」
「さ、流石に照れてしまいますね」
自分をモチーフにしたと聞いて、戸惑うように顔を朱に染める。
「今回は私の勝ちですね」
「もぅ……大人をからかわないで下さい。でも、あれは本当にとても美味しかったです。あれほどのものを作られてしまったら、女としての立場がありません」
「ではまた今度一緒に料理をしましょう。さっきのデザートのレシピも教えますよ。クレアさんは基本に忠実ですから、教えているととても楽しいんです」
「喜んで。ふふっ、また楽しみにすることが増えてしまいました」
そう言って笑うクレアは本当に魅力的で、クレアの姿をこっそり見ていた他の常連客が見惚れてしまっていた。
話している内に時間は過ぎており、酒の量も進んでいた。
「うん、やっぱりクレアさんは魅力的だ。このまま別れるのは非常に惜しいです」
ユースティアはクレアの腰に手を回してぐいと引き寄せる。
「きゃっ」
「部屋は取ってあります。一緒に来てくれますか?」
ユースティアの言葉に、耳をそばだてていた他の女性客がくらとりしていた。クレアもそこまではいかなくとも、今までで一番というくらい顔を赤くしていた。
「は、はい。ユースティアさんがお望みであれば」
クレアの了承の言葉に、回していた腕とは逆の手でクレアの手をとり、そこにキスをする。
「では参りましょうか。マスター、代金はここにおいておきます。お釣りは……また、美味しいカクテルお願いしますということで」
マスターは苦笑しながら代金を受け取った。ユースティアの歯の浮くような行動で、店内の空気が今のようになるのは、いつものことなのである。
少し強引にクレアに腕を掴ませると、予約していたホテルにエスコートした。因みにアルフィンと訪れたホテルとは別のホテルである。高級ホテルであることには変わりないのだが。
フロントに名前を告げると、従業員は慌てて二人に待っているように言うと奥に下がる。すぐに奥から老人の従業員が出てきて、落ち着いた様子で二人を部屋へと案内した。
場所は最上階のVIP専用エリア。その中でも最もランクの高い部屋である。
その2に続かせます。
次回が本番。
因みにシャロンとクレアとのイチャイチャの仕方の違いは以下の通り。
シャロン→ひたすらねっとりと。「愛」と「献身」が意味深……。
クレア →普段はクールに。最後は……なギャップ。
早くシャロンのシーンを書きたい……。ノクターン行きになりそうですが。
ルーレまで待つか、それとも早めに帝都に召喚するか……。
皆さんはどちらがいいですか?