「それで、今日はどうしていらしたのですか?」
先に宮殿に来ていたノアに紅茶を淹れてもらい席についた四人。ノアが後ろに下がると、アルフィンは早速と言わんばかりにユースティアを問いただした。
「どうして、と言われても……お仕事、としか」
「リズライヒ様との逢瀬もお仕事なのですかっ!」
この程度の説明では納得するはずもなく、アルフィンは眉尻をキッとつり上げていた。
「ですから、お仕事……、あ、来ました来ました」
どう説明しようか困っているうちに、待ち人がこっちにやってくる。その待ち人とは、他ならぬアルフィンの母、プリシラ王妃であった。
「待たせてしまったようね」
「いえ、ちょうどよいタイミングです。ほら、姫様。しっかりとお仕事でしょう?」
ユースティアはそう言うが、アルフィンはそれでも納得していない。
「お母様聞いてください! お兄様ったら、リズライヒ様と腕を組んで歩いていたのですよ?」
「あら……。あまり、娘をからかわないで下さいね?」
「……失礼いたしました」
元凶たるリズライヒはクスクスと笑うばかりで、ユースティアは諦めて頭を下げた。
「愛されているわね、ユースティア。」
「貴女に言われると困ります」
「お・に・い・さ・ま・?」
これ以上からかい続けると爆発してしまいそうだったので、ユースティアとリズライヒは本題に入った。
「ふふふ、姫様。ユースティアは姫様の為に今日いらしたのですよ」
「私の為、ですか?」
まさか自分の為だとは思っていなかったのか、アルフィンは首を傾げた。
「皇妃様、今お出ししても宜しいでしょうか?」
「そうね。これ以上アルフィンを虐めても可哀想ですし、お願いするわ」
プリシラに許可をもらい、リズライヒは小さな箱を取り出した。
「ユースティア。お願いされていた品です」
「ありがとうリズ。姫様、少し目を閉じていてくださいますか?」
「? は、はい」
何をされるのか想像も出来ないアルフィンだったが、素直にユースティアの言う通り目を閉じるアルフィン。ユースティアはリズライヒから受け取った箱から取り出したものをアルフィンの首にかけてあげた。
アルフィンはその感触に驚いて目を開き、それを見ると慌てて後ろのユースティアを見る。
「お兄様、これは」
「今度の夏至祭の時の為のネックレスです。リズにはこのネックレスの製作をお願いしていたんです」
アルフィンの胸元で輝くのは緋色のルビー。アルノール家を象徴する宝石はアルノールにとても良く似合っていた。
「なんて綺麗なんてしょう……」
これにはエリゼもうっとりとしていた。
「私がユースティアにお願いして、ネックレスを作っていただいたのですよ。アルフィン、大好きなお兄様が素敵な女性と一緒にいて落ち着かないのは分かりますが、あまり嫉妬をしていては愛想を尽かされてしまいますよ」
「お、お母様!」
プリシラのからかうような言葉に、アルフィンは顔を真っ赤にしてしまう。そして、その真っ赤な顔のままリズライヒの方を向いた。
「コ、コホン……その、リズライヒ様。先ほどは失礼なことを言ってしまい、申し訳ありませんでした」
「ふふふ、謝らないで下さいませ。私が姫様をからかってしまったことは事実なのですから。私の方こそ失礼いたしました」
お互いに頭を下げる様子をプリシラは満足そうに眺めていた。が、急にユースティアのことを睨む。
「それにしても、ユースティアは随分と愛を振り撒いているようですね」
「プ、プリシラ様?」
「貴方がアルフィンのことを愛してくれていることは分かっていますが、あまり娘を心配させないように。……そうですね。リズライヒ殿、このあとユースティアをお借りします」
「ちょっ!? プリシラ様!?」
プリシラは立ち上がると、ユースティアの腕をぐいと引っ張る。その気迫に、アルフィン達はもちろん、ユースティア自身も逆らうことも出来なかった。
プリシラとユースティアが去り、アルフィン達だけとなる。ノアが新たにお茶を淹れると、リズライヒが口を開く。
「でも、姫様がとても羨ましいですわ」
「私が、ですか?」
「はい。姫様は皆様に愛されていらっしゃいます。あのユースティアが一途に想うようになるとは思ってもいませんでしたから」
しみじみと語るリズライヒに、アルフィンは気になっていたことを尋ねる。
「その、リズライヒ様は、お兄様が修行に行っていた頃のことを知っているのですよね?」
ユースティアは、幼少のころ修行の旅に出ている。その頃の話は、アルフィンだけではなく、プリシラやオリヴァルト達も把握していない。そして、リズライヒこそ、その頃のことを知っている数少ない当事者であった。
「はい。私は家の反対を無視して彼のことを追いかけましたから。今思うと、お転婆だったものです」
「お兄様に聞いても、その頃のことはほとんど話してくれないんです。リズライヒ様は何かご存知なのですか?」
「そうですね……一応ですが、共に旅をしていましたから知ってはいます。ですが、彼が言おうとしないのにも理由があるのでしょう」
つまりは、リズライヒも話すつもりはないということだ。アルフィンもそれは分かってはいたが、やはり残念そうにしていた。
「ですが、帰ってきた後のユースティアはとても楽しそうです。そうだ、先日、トリスタに行ってきたのですが、ユースティアの学生生活についてお話しましょう。寮にも顔をだしたので、エリゼ様のお兄様ともお話したのですよ」
「「是非」」
お互いの想い人についての話である。楽しそうに微笑むリズライヒの後ろで、ノアが内心で溜め息をついていた。
プリシラからのお説教を受けたあと、ユースティアはトリスタ行きの列車に乗っていた。アルフィンにもお礼とお説教を受けており、エリゼの苦笑いが印象に残っていた。
「ふふふ、お疲れ様」
そして、列車にはノアの他にリズライヒも同席していた。
「どうして、貴女まで来ているのですか?」
「あら、貴方と一緒にいたいから、ではダメかしら」
「ではそれで。ともかく、今日はありがとうございました。向こうへはいつ頃帰るのですか?」
「さしたる仕事もないし、しばらくは帝都にいるつもりよ。こちらにも屋敷はあるから、不自由しないし、色々お会いしたい方もいるしね」
「そうですか。それは色々と助かります。なんだかんだ言っても、近くにいてもらった方が助かります」
一見すれば普通の会話である。しかし、個室にいる三人にはまた別の意味を理解していた。
帝都とトリスタは近い。あっという間にトリスタ駅に到着した。駅を出ると、既に暗くなっていた。
「それで、今日はどこに泊まるのですか?」
「勿論、ユースティアの部屋のつもりよ?」
「……笑いながら言わないで下さい」
「冗談よ。《キルシェ》に部屋をとってるから、そこに泊まるわ。じゃあ、おやすみなさい」
リズライヒは自然な仕草でユースティアにキスすると、手を振りながら《キルシェ》に向かった。
「さて、帰ろうか」
「はい。……あら」
クルリと寮に向かおうとすると、ノアが人影に気が付く。そこには、ノートを持ったアリサ。
「今日も遅いんだな」
「え、えぇ。ノートが切れちゃって……」
「せっかくだから一緒に帰ろう」
「……って、また同じ展開なの!? というか、今の女の人って、昨日寮に来たリズライヒさんでしょ!!」
そういえば、リズライヒが先日寮を訪れていたのを思い出す。
「そうだが?」
しかし、ユースティアは言い訳をしなかった。そうくるとは思っていなかったアリサは言い返せない。
「~~~~っ、ともかく、帰ったら説明してもらうわよ!」
ビシッと指を指し、アリサはズンズンと先に帰ってしまった。そんなアリサにユースティアは溜め息をつき、ノアはクスクスと笑っていた。
「これは、今日も遅くなりそうだ」
「リズライヒ様も仰っていたではないですか。これも自業自得、です」
「やれやれ。ノア、皆にデザートを作ってもらえるかな?」
「かしこまりました」
次回からは原作添いになるかと