入学式当日。ユースティアは少し早めに学院に来て、旧校舎を訪れていた。
「ユースティア様、ここは?」
「ドライケルス帝縁の建物でな。何かがあるらしい。出入りの魔女さんから教えてもらったんだ」
ユースティアの言葉にノアは首を傾げたが、ユースティアはそれ以上何かを語ることなく、戻ろうかと言う。
講堂に入ると新入生が集まっていた。空いている席、そして少ない紅い制服を着た女子生徒のとなりに向かう。
「隣いいかな?」
「む? もちろんだ。同じ紅い制服ということだし、これも縁ということだろうしな」
「ありがとう。君はアルゼイド家の人だったかな。間違っていたら申し訳ないけど」
ユースティアが言うと、その女子生徒は驚いたように目を見開く。
「たしかにその通りだが、その、すまないが初対面ではなかったか?」
「あぁ。でも、話には聞いていたから。俺はユースティア・カイエン。師匠がそちらにお世話になっていたようで、師匠から話を聞いてたの」
ユースティアの家名を聞き驚いたようだったが、同時に得心したようであった。
「なるほど。つまり、師匠、オーレリア将軍か」
「そういうこと。家のことは気にしないでいてくれると嬉しいかな」
「分かった。私はラウラ・アルゼイドだ。よろしく頼む、ユースティア」
座りながら握手を躱す二人。
やがて式も終わり、各員クラスに行くよう指示されるが、ラウラ同様ユースティアもそのような指示は受けていない。何事かと待機していると、一人の女性教官が紅い制服の生徒達に集合をかける。
「オリエンテーション?」
事前に伝えられていないオリエンテーション。首を傾げつつも、ラウラと共にその女性教官に着いていくと、連れられた場所は朝に来た旧校舎。思いがけず入ることが出来たことに、内心驚いたユースティアであった。
旧校舎の中に入り、先導していた教官がステージ上に登る。
「さて、サラ・ヴァレスタインよ。今日から貴女たちⅦ組の担任を務めるわ。よろしくね」
愛嬌な挨拶をするサラ。ユースティアは年上の女性の愛嬌ある仕草に眼福と思っていたが、他の生徒達はそうではないようで。
「な、Ⅶ組!?」
緑髪の少年は存在しないはずのクラスに、声を上げていた。それは他の性とも同様で、駄眼鏡の三つ編み少女が恐る恐る手をあげる。
「あ、あの、この学院は五つしかクラスはないかと思いますが。それに、各自の身分や出身に応じたクラス分けで……」
「お、流石入学主席。よく調べているわね。そう、この学院には一学年五クラスのクラス分けがあって、貴族と平民で分けられているわ。でも、それはあくまで去年までの話」
「え……?」
サラのもったいぶるような言葉に、困惑の言葉をあげる一同。
「今年からもう一つ新たなクラスが立ち上げられたわ。すなわち、君たち身分に関係なく選ばれた特化クラスⅦ組がね」
事前に聞いていたユースティアはともかく、他の面々はその言葉に驚愕していた。
そして、それに納得しないものもいるわけで。
「冗談じゃない!」
緑髪の少年がサラの説明に大声で抗議した。
「身分に関係ない!? そんな話は聞いていません!」
「えっと、君は……」
「マキアス・レーグニッツです! サラ教官、自分はそれについて納得しかねます! まさか、貴族風情と一緒のクラスで授業を受けろと言うのですか!」
「(おやおや、随分と貴族嫌いみたいだな。知事の息子さんは)」
ユースティアは貴族。それも、帝国で多大な影響力をもつ四大名門カイエン公爵家である。本人は気にした様子もないが、一般ではそうではない。
「フン……」
鼻を鳴らしたのはユースティアではない。マキアスの隣にいた金髪の少年である。
「……君、何か文句でもあるのか?」
「何、平民風情が随分と騒がしいことだと思ってな」
「はっ! どうやら大貴族のご子息殿が紛れ込んでいたようだな。その尊大な態度、さぞ名のある家だとお見受けするが?」
そう挑発するマキアスに、顔を向ける。
「ユーシス・アルバレア。なに、初戦は貴族風情だ。特に名を覚えてもらえなくとも結構」
「ア、アルバレア!?」
四大名門が一つアルバレア公爵家。予想以上の超名門の名に鼻白んだマキアスだったが、すぐに眉をつり上げる。
「だ、だからどうした! 誰もが、その名に跪くと思ったら大間違いだぞ!」
「はいはい、落ち着く落ち着く。話が進まないじゃない」
サラの呆れたような言葉に何か言いたげなマキアスであったが、その通りでもあるため、葉を食いしばりながらも踏みとどまる。
「されて、それじゃ、オリエンテーション、開始よ♪」
いつの間にか後ろに下がっていたサラがスイッチを押すと、ガコンとユースティアたちの足下の床が消え、二人を除いて、なすすべもなく落ちていってしまった。
「って、あんたたちも素直に落ちなさいよ」
「や、つい」
「落ちると分かってるのに落ちるのは、こう、師匠の教えに反するというか」
「……いいから、行きなさい。始まらないでしょうか」
サラが投げたナイフによってロープが切られ、フィーは面倒くさそうに落ちていった。
「で、あんたも行きなさいよ」
「はいはい。それにしても、面白いメンツばかり集めましたね」
「あんたがその筆頭格よ」
「それは光栄ですっと」
ピョンと穴に飛び込むユースティアに、サラはため息をつく。
「全く……殿下にも困ったものだわ。それを許可する陛下達もだけど」
取り敢えず後のことをこなすために、サラも諸々の準備を始めるのだった。
ユースティアが落下した先には、片頬に立派なモミジを作った少年と、顔を真っ赤にしながらそっぽを向く少女がいた。
「痴話げんか?」
「、ま、まあそんなところ、か?」
尋ねられたラウラも困っているようだった。ユースティアも何となく分かったので、それ以上突っ込むのは止めた。
『全く、これで全員集合ね』
突然サラからの《ARCUS》に通信が入り、説明を受ける。サラの指示通りにクォーツなどを準備し、部屋の中央に集合する。
『その先はダンジョンになってるけど、その先にいけば一回にたどり着くわ。魔物も徘徊してるけど、まぁ、君たちなら大丈夫でしょ。じゃ、これより《Ⅶ組》オリエンテーションを開始するわ。文句は一回にたどり着いてからにしてね。何ならご褒美にホッペにチューしてあげてもいいわよ』
「おや、それじゃさっさとクリアしましょうかね。ラウラ、一緒に行くか?」
「ふむ、それも込みで話し合った方がいいだろう」
ラウラは戦力分担しようとするが、ここでもめるのはマキアスとユーシス。あれよあれよと言い争いを始め、それぞれ一人で奥に進んでしまった。ついでにフィーもいつのまにかいなくなっていた。
「全く、困ったものだな」
「ごもっともで。で、どうする? 男女に分かれるのもいいけど、それだと四、三になるな」
「とりあえず、戦力を把握しよう。自己紹介も兼ねてな」
ラウラから提案があり、互いに自己紹介をする。
「女子三人はバランスがいいし、俺とリィンがかぶるか。ふむ、では役得ないし小回りがきくし、女子グループに参加してもいいかな?」
ユースティアの家名に驚愕していたが、当人が全く気にする必要がないというので、その通りにしていた。
「ふむ……、確かに私の大剣だと大振りになってしまうか。ではそれで行こう。そなた達もそれでよいか?」
特に異論はないようで、ユースティア達は一足先に奥に入った。
「それにしても、かのオーレリア将軍の弟子とは。これが終わったら手合わせ願いたいな」
「光の剣匠の娘さんとあれば喜んで。師匠に羨ましがられるな」
師匠の性格をよく知っているユースティアは、苦笑をしつつもラウラの要望を受け入れる。
「そ、それにしてもカイエン家の方がいるとは思ってませんでした」
「随分無理言ったからね。というか、パトリック……ハイアームズ侯爵のとこの息子もⅠ組に入学してるし、ログナー侯爵の娘さんも二年生にいるぞ。四大名門勢揃いだな」
その言葉を聞いて、エマとアリサは少し顔を引きつらせる。ユースティアはその権威をひけらかさないし、ユーシスもそういうタイプではなさそうだが、色々と大変になりそうな気がしてならなかった。
「それにしてもエマのアーツの腕は見事なものだな。威力・速度も素晴らしい。師匠に及ぶほどだ」
「師匠って、オーレリア将軍のこと?」
アリサの質問に、いいやと首を振る。
「アーツの師匠。あの人のアーツは大陸でも随一なんじゃないかな?」
「ほぅ、アーツの訓練もしていたのか」
「どっちの師匠もスパルタでね。傷が絶えないから、回復アーツばかり上達したよ。ミスティって人なんだけどね」
途中魔物に遭遇しつつも、新入生の中でもトップクラスの実力を持つユースティアとラウラがいるのである。戦闘に不慣れなアリサやエマも何とか魔物を倒していった。
「上手くなってきたじゃないか、二人とも」
「ユースティアとラウラのお陰よ。上手くフォローしてくれて、本当に助かるわ」
「そう言って貰えるならよかった。こっちに着いてきた甲斐があった」
順調に魔物を倒していき、最奥に近づくと、激しい剣戟や銃声が聞こえる。
「戦闘中のようだな」
「あぁ! 急ぐぞ!」
ラウラが先頭になって扉をくぐると、リィン達が巨大な魔物と戦っていた。
「助太刀するぞ!」
リィン達に合流し、その後、ユーシスとフィーも合流したが、いくら傷つけても回復してしまう。
「これではキリがないぞ!」
「集中だ。闇雲にいくのではなく、呼吸を合わせるんだ」
ユースティアhそう言うが、初めて会った者同士、そこまで上手な連携が出来るわけないが、《ARCUS》が光り輝き、ラインが繋がると、お互いの考えを手に取るように感じることが出来た。
「こ、これは!?」
「リィン! 驚く前に動くぞ! みんなも考えていることは分かるな?」
「「「応ッ!!」」」
謎の現象に驚きつつ、ユースティアの号令に一斉に動き出す。先程までのようなばらばらな動きではなく、熟練の兵士のような連携の取れた動きであった。
「ラウラ! とどめはお前がやれ!」
「分かった!」
ラウラは、連携の最後に、魔物の首に向けて渾身の一撃をたたき込む。その威力には耐えきれなかったのか、魔物の首はバッサリと切断され、その魔物は一瞬で石像と化してしまった。
「ふう……やったが……何だったのだ、今の光は?」
「それが《ARCUS》の真価ってことよ」
突然の声に顔を上げると、階段の上にサラが笑顔で起っていた。疑惑の表情を受けべるリィン達を尻目に、サラは笑顔を浮べながら全員の前に立つ。
「お見事だったわ。特に最後の連携」
「教えて下さいサラ教官。俺たちが最後に感じた不思議な感覚は何なのですか?」
リィンの真剣な問いに、サラも笑みから真剣な表情へと変え、その質問に答える。《ARCUS》の真価である〈戦術リンク〉についての説明をする。
「それは……戦場では凄い有利」
「そうよフィー。そして、《Ⅶ組》は、《ARCUS》の適合レベルが高い君たちを選出したのよ。でも、強制ではないわ。通常クラスよりもハードなカリキュラムもあるし、身分に関係なく集めてる。色々なしがらみを抱えている子もいるみたいだしね。それに、途中下車は許されないわ」
そこまで言って一息つく。
「だから、改めて聞くわ。《Ⅶ組》でやっていくか、それとも通常クラスに行くか。あなたたち自身で決めなさい」
説明を終えると、メンバーを見つめるサラ。皆、自分自身どうすべきか考える中、誰よりも早く一歩前にでる。
「リィン=シュバルツァー、参加します」
「あら。何やら訳ありみたいだけど……」
「元より我が儘を言って来た身です。それに、修行中の身である以上、またとない機会ですから」
リィンを皮切りに、他の皆も次々と参加を表明する。マキアスとユーシスも悪態をつきつつも参加を表明する。
「で、最後よ。あなたは?」
最後に残ったユースティアは、迷うことなく前に出る。
「もちろん参加です。私の我が儘に尽力してくれた陛下や殿下、そしてこの制服を褒めて下さった姫様のためにも、ユースティア=カイエン。《Ⅶ組》に参加します」
ユースティアは、まさしく四大名門の名にふさわしい優雅な仕草で礼をする。その洗練された動きは、カイエンの名に驚愕する三人でさえも見惚れるほどであった。
そんな中、ユースティアは何かを思い出したかのようで、サラに質問をする。
「そう言えばサラ教官。ご褒美のキスは?」
素っ頓狂な質問に、一同肩を落とす。
「それは、愛しの姫様にしてもらいなさいな」
「では今度手紙でお願いしてみますよ」
色々気になる発言があったが、《Ⅶ組》初の活動は終わりを迎えたのであった。