オリエンテーリングも無事終え、通常授業も始まる。
「それにしても、油断してただろリィン」
「ははは、予習していた所で助かったよ」
放課後に話している男子組。マキアスとユーシスは以内が。エリオットやガイウスは部活に向かうようで、リィンも生徒会室に用事がある。
「さて、俺は何をしようかな」
そうぼやきながら校内をうろうろするユースティア。そこで目に入るギムナジウムに入る。ひょこりと覗いたフェンシング部は色々込み入っていたのでソッと閉じ、奥のプールに向かう。
「お、ラウラ。練習に精がでるな」
「む、ユースティアか。あぁ、今はモニカに泳ぎ方を教えている所だ」
プールサイドで練習しているモニカは、大貴族であるユースティアの突然の登場に慌ててプールから上がってきていた。
「あぁ、俺の家のことは気にしないで。ラウラと同じような感じでお願い」
「で、でも、私平民ですから……」
「気にしないでくれ。ここは学院だし、身分は気にしないで欲しい。それに、公爵位を頂いているのは父だし、俺は爵位を継いでないただのユースティアだ。まぁ、他の貴族生徒はともかく、俺とは普通に接して欲しいな」
中々納得出来るものではないらしいが、取り敢えず不必要に怖がることは止めたらしいモニカ。再びプールに入った。
「そういえば、ユースティアは泳ぎは得意なのか?」
「そりゃ海の街出身だからな。父さんには怒られつつ、夏は一日中泳いでたよ」
「ならば、今度一緒に泳ごう。かく言う私も湖で泳いでいたんだ」
ラウラの故郷レグラムも湖の畔の街である。
「あぁ。剣の手合わせの後にでも泳ごうか。今日は辞退させてもらうけどね」
「楽しみにしている」
ラウラと別れ、街に出ていくつか可愛らしいアクセサリーを買うと第三寮に戻る。
「お帰りなさいませ、ユースティア様」
「ただいまノア。夕飯の用意は始めてたか?」
「いえ。材料を買ってきたので今から作ろうかと」
「じゃあ、俺も手伝おう。中々実家じゃ作らせてもらえないからな」
貴族ながら、ユースティアの趣味は料理である。実家ではシェフがいるため中々作れないが、帝都の別宅や他の別荘などでは、こうしてノアと共に料理を作っていた。
「では私は下ごしらえをいたしますので、他の作業をお願いします」
「分かった。リィン達を驚かせてやろうかな」
そういうと、二人は慣れた手つきで夕食を作っていく。やがて日も暮れ始め、Ⅶ組の面々も帰ってきた頃、料理は完成した。
夕飯が完成したと皆を呼び、料理を配る。
「美味しいわね、この魚料理。やっぱりオルディスの料理なの?」
「はい。オルディスの家庭料理となります。新鮮な魚でしたので」
「俺の得意料理でもあるな。父さんも身内だけの時なら喜んでくれるくらいだぞ」
「ふむ、あのカイエン公がか。たしかにこの美味しさなら納得だ」
「貴族趣味が強いカイエン公が好むとはな。にわかには信じがたいが、確かにこれは美味い」
ラウラとユーシスら貴族組も満足したらしく、みるみる皿が空いていく。
「最後はデザートです。こちらもオルディス発祥のスイーツとなります」
出されたスイーツはソルベとハーブティー。ほんのりと塩味が聞いたソルベである。
「美味しい……ハーブティーとピッタリの味です」
「美味しい。おかわりある?」
「はい。今お持ちしますね」
エマやフィーといった女性陣に大好評である。
「これに関しては客人にもお出ししててな。今でも帝都で作ってくれないかと誘われるくらいだ。ちなみに姫様の大好物だ」
そのための材料はバルフレイム宮にストックされているほどという。
「……というか、さっきから気になっていたのだけど、この料理ってノアさんが作ったんじゃないの?」
二皿目のデザートを食べ終え、ハーブティーのおかわりを飲みながらアリサが口を開く。
「俺とノア二人で作った。こう見えて料理は趣味なんだ」
ユースティアの言葉に皆絶句する。特に女性陣。
「もうあなた、名前といい、顔つきといい、この料理の腕といい、女じゃないの?」
「立派な男だよ。これでも社交界では女性に人気だぞ?」
それが嘘でないことは貴族でない者達も知っていたため、アリサも言い返せない。
「これじゃ女の立つ瀬がないわよ……」
「まぁ、日々の積み重ねということだ」
女子達の心に少しの傷を付けつつも、満足の夕食となり、片付けの後で自室に戻る。
予習を終え、読書をしていると扉がノックされる。
「お、リィンか。どうした、料理でも教わりに来たか?」
「ははは、それも悪くないけど、渡すものがあるんだ」
そう言って渡されたのは生徒手帳。どうやら、今日の用事はそれだったらしい。
「ありがとな。で、リィンは明日の自由行動日は何をするんだ?」
「おれは生徒会の手伝いをするつもりだ。そういうユースティアは何か予定でもあるのか?」
「俺は帝都に行くつもりだ。如何せん、お姫様が早く来ないと来るって脅迫してきたから」
ちらりと見た先の机にはやけに豪華な便箋。そこにはアルノール家の紋章が書かれていた。
「はは……頑張れよ」
「そういうリィンも。妹さんに会いに行ってやればいいのに。姫様の手紙の中にも書いてあったぞ?」
「そこまで知られてるのか。それは忘れないよ。忘れたら、それこそ恐ろしい」
何やら遠い目をしているリィン。何かやらかしたことがあるのだろう。
「じゃ、確かに渡したからな。じゃあ、お休み」
リィンと別れると、ちょうど良いということでラジオを付けるユースティア。すると、ちょうど番組が始まったらしく、軽快な音楽が流れる。
『はーい、リスナーの皆さんこんばんは。《アーベントタイム》の時間です。夜中のこの時間、私と一緒にお話ししましょう』
「……こんなことしてたのかミスティさん」
知り合いの声に多少げんなりしつつも、内容は面白いのでそのまま聞くことにする。ついでに今度は投稿してやろうと企む。
番組も終わり、本もキリが良いところだったので、眠りにつくことにした。