私は年上組が大好きなので、どんどん登場させます。
自由行動日も終わり21日。第一回実技テストである。
「でも、実技テストっていっても、何するんだろうね?」
首を傾げるエリオットに、ユースティアじは武器を持ち上げながら答える。
「何にせよ、態々武器持参だなんて言うくらいだから、体操とかではないことは確かだな」
「あったりまえでしょ? みんないるみたいね」
すると、サラがやってくる。そのまま指を鳴らすと、虚空から謎の機械人形があらわれた。突然のことに、リィン達は驚く。
「そ、それは?」
「とある連中から押しつけられたものでね。まぁ、細かい設定とかも出来て便利だから、こうして使おうと思って」
そのままリィン・エリオット・ガイウスが初の実技テストを始める。
最初の三人は、連携も上手くいき、次のラウラ・アリサ・エマ組も危なげなく上手くいく。
しかし、アキアス・ユーシス・フィー組は、結果自体は良いものの、連携という点については全くであった。
「さてと、最後は一人だけど、ユースティア、大丈夫かしら?」
一人残ったユースティアは、剣を抜きながら頷く。
「もちろんですよ。怪物みたいな師匠に比べれば、まだまだです」
「まぁ、それもそうかもね。じゃあ、行くわよ」
サラの合図と共に機械人形――戦術殻が動き出す。先にテストを終えたリィン達は、今まであまり実力を見せてこなかったユースティアの動きを見逃すまいと注目する。
「それじゃあ、いきましょうかっと」
まさしく一瞬。戦術殻の打撃をスレスレで躱すと、その返しで剣を目にもとまらぬ速さで振るい、戦術殻の中心に剣を当てる。すると、戦術殻はピタリと動きを止め、そのまま倒れ込んでしまった。
「ふうっ、終わりましたよ教官」
「全く、少しくらい本気を出しなさいよ。合格よ合格」
サラは呆れつつも合格を言い渡す。ユースティアはリィン達の所に戻るが、皆ポカンとしていた。
「委員長、口があいてるぞ?」
「へっ? あわわ……」
顔を赤くさせて、慌てて口を閉じるエマ。
「それにしても、凄いな。あんなに軽そうな一撃なのに、それだけで倒すなんて」
「一番弱そうな所を狙ったからな。剛剣もあるけど、今回は技の面を出したって所だ」
説明をしていると、サラが全員に紙を配る。
「それじゃ、今度の特別実習の班分けのプリントよ」
見ればユースティアはA班。実習地はケルディック。
前途多難が予想されるB班はともかく、マキアスとユーシスの反論も却下され、この場は解散となる。
放課後となり、ラウラと一手合わせようという話になっていたのだが、ノアから戻ってくるよう連絡が入る。手合わせは中止となり、ラウラと共に寮に向かう。
「悪いな。いきなり中止になっちゃって」
「急用ならば仕方あるまい。実習が終わった後に頼むぞ?」
二人で寮に入ると、そこにはノアと、彼女と話す一人の女性が紅茶を飲んでいた。その人物にラウラは絶句し、ユースティアはため息をついた。
「何をしてるんですか、師匠」
「ん? おぉ、待っていたぞ、ユースティア」
呆れる二人をよそに、呑気に二人を出迎えた人物は、ユースティアの師であるオーレリア・ルグィン将軍であった。
色々言いたいことはあるもののユースティアとラウラはオーレリアとともに紅茶を飲んでいた。
「うむ、やはりノアの淹れたお茶は最高だ。どうだ、今からでも来ないか?」
「申しわけございません。私はユースティア様に着いていくと決めておりますので」
「ふむ、ならば、ユースティアを婿にするしかないか」
「はい、それでしたら」
「まてまてまて。ノアは悪乗りしない。師匠もそんなふざけた理由で求婚しないで下さい」
オーレリアと意外に仲が良いノアを止めつつ、本題に入らせる。
「で、今日は何しに来たんですか? こんなに遠いところまで」
「なんだ、せっかく久しぶりの休暇を使って来たんだ。師匠を無碍にするな」
そう言いつつも、一つのケースを取り出す。
「……わざわざ師匠が持ってきてくれたんですか?」
「言っただろう? 休暇だと。お前の顔を見に来たんだ。それに、久しぶりにお嬢様の顔も見られたしな」
オーレリアはそこでラウラに声をかける。
「私もお会いできるとは思っていませんでした。お久しぶりです、オーレリア殿」
「最後にあったのが、まだ小さい頃だったか。いや、随分美しくなられたな。子爵殿もお喜びであろうな」
オーレリアの言葉に照れるラウラ。相変わらずだと思いつつ、ケースを開ける。そこには、白銀に輝く鞘に収められた剣が納められていた。
「それは? ユースティアの剣と同じ意匠のようだが」
「俺の剣は師匠のを元に作ってもらったからな。お返ししますね」
そう言ってオーレリアに剣を返すユースティア。
「その剣はオーレリア将軍のものだったのだな。道理で素晴らしい剣だと思った。でも、どうして剣を交換していたんだ?」
「師匠の気まぐれだよ。たまには俺の剣を使ってみたいとか何とか。しかも、入学式直前に。そのまま任務で遠出までしてくれましたけどね」
ジト目で見つめるユースティアに、オーレリアは眉を下げる。
「はは、いきなりキミの父上に命令されたんだ。それに、こうして遠方に出向いた弟子に会うことも出来たんだ。ゆるせ」
全く悪びれていない様子に、諦めるユースティア。
「どうだ、久しぶりに手合わせでも」
「そうですね。剣の癖も思い出したいですし。たしか、今日はフェンシング部が休みだから、ギムナジウムでやりましょうか。あ、ラウラも来るか?」
「も、もちろんだ! オーレリア将軍の剣技、中々見られるものではないからな」
ラウラも相当乗り気であった。その後、制服に着替え、学院に向かう。しかし、相変わらずというか、見知らぬ美女と歩いているユースティアには注目が集まっていた。
受付で許可をとり、そのままギムナジウムに向かう。フェンシング部は休みのはずだったが、そこでは二年生のフリーデルが練習をしていた。
「あら、ユースティアくん。それにラウラさんも。何か用かしら?」
「いや、今日は休みだと聞いてたので、すこしこの場をお借りしようと思っていたのですが」
「手合わせか何か? そちらのオーレリア将軍とかしら?」
貴族生徒であるフリーデルは、オーレリアのことを知っていたようだった。
「ふむ、君がフリーデル君か。評判はかねがね聞いているよ。いきなり来て済まないが、この場を少しお借りできないかな?」
「もちろんですわ。音に聞こえる黄金の羅刹の師弟の戦い、楽しみですもの」
フリーデルはレイピアを鞘に収めると場を二人に譲った。ラウラと共に壁際と移動し、ユースティアとオーレリアは中央に移動する。
「久しぶりだが、遠慮はしないぞ。まぁ、アーツを使うのは止めておこうか。純粋に剣技だけだ」
「えぇ。室内ですしね。じゃあ、行きましょうか」
ユースティアが剣を振るう仕草をすると、その瞬間、オーレリアの剣戟がユースティアを襲った。それをユースティアは受止めるのではなく、顔を逸らして避けた。そのままオーレリアに突きを繰り出すが、それを首を逸らしただけで避けたオーレリアは、蹴りでユースティアの手首を蹴り飛ばそうとする。しかし、手元を蹴られようとも剣を離さなかったユースティアは、そのまま宙返りをしてオーレリアの剣を避ける。
僅か数秒の間に、猛烈な速さで繰り広げられる剣の応酬に、観戦するラウラとフリーデルは息を飲む。
「衰えてはいないようだな!」
「衰えでもしたら怒り狂う師匠がいるもので!」
軽口を交わし合いつつも激しく剣を打ち合う二人。縦横無尽に動き回り、紙一重の所に刃が迫りつつも、共に笑顔で剣を振るい続けていた。
「……楽しそうだな」
思わずラウラが呟く。
「えぇ。二人とも子どもみたい」
フリーデルの言うとおり、二人は無邪気な子どものようであった。
互いにあえてギリギリの所で避けあい、紙一重の攻防を繰り広げる。
いつまでも続くかのようにも思える二人の手合わせは、二人の剣が落ちたことで終わりをつげた。
「ふむ、久しぶりだから、ペース配分を間違えたかな」
「確かにやり過ぎましたね。手が痺れてます」
お互いに笑いながら、剣を拾う。疲れていると言う割には、二人ともほんの僅かしか汗を垂らしていない。間違いなく本気の打ち合いだったはずなのに、である。
「お疲れ様です」
「おぉ、ありがとう」
「助かります」
フリーデルに礼を言いながら、タオルと水を受け取る。
「それにしても、少し見ない内に太刀筋が随分鋭くなったな。男子三日合わざればなんとやらだ」
「それを言うなら師匠だって。何ですかあれ。一太刀受けることに手元が響きましたよ。あと、蹴りが殺しにきてました」
先程の手合わせの感想を言い合う二人。そんな二人の間に入りたいのか、ラウラがウズウズしていた。
「さて、小腹が空いたな。ユースティア、どこか軽くつまめるものを出してくれる所に案内してくれ。君たちもよければ一緒にどうだ? 奢らせてもらうよ」
「は、はいっ。ぜひ!」
「ふふふ、是非ご一緒させてもらいますわ」
練習場を片付け、四人は《キルシェ》に向かう。先程のメンツにフリーデルが加わり、ユースティアが何をしたのかと注目していた。
「お、いらっしゃい……って、随分羨ましい限りだな。奥の席空いてるぜ」
「ありがと。じゃあ座りましょうか」
勧められてた通りに奥の席に座る。メンツがメンツなため、奥の席はありがたかった。
「ふむ、ピザでも何枚か頼もうか。あと、コーヒーを頼む」
「じゃあ俺も。二人は何にします?」
「では紅茶を頂こうかしら」
「で、では私も紅茶を……」
飲み物を受け取ると、話はユースティア達の話へと移る。
「それにしても、オーレリア将軍は、いつもあのような訓練をしているのですか?」
ラウラの問いかけにオーレリアは苦笑する。
「今日は非番だ。こんな所でまで将軍はよしてくれ」
「で、では、オーレリア殿と」
「ふふっ。それで、訓練のことだったな。領邦軍ではあんなことはしないよ。こいつとは普段は外で訓練をしている」
「外でですか?」
ラウラが首を傾げる。ラウラのアルゼイド流では、修練場の中で剣の訓練をしていた。外で行うこともあるが、それはいつもというわけではない。
「いつもは今日とは違って、アーツとかも使うからな。一度屋内でそれをやったら、ボロボロにしてしまってな」
「その時は父さんの顔がぴくぴくしてたな。それ以来、外の演習場でやることが多いな」
スケールの大きい話に、ラウラとフリーデルは苦笑いするしかなかった。
「ほい、お待ちどさん。しかし、今まで言ってたこと、本当だったのか。歩く戦略兵器め」
「こんなにいたいけな女性に戦略兵器だなんて、男らしくないですよ」
「お前だお前」
「ほう、私がいたいけか。そんなことを言われたのは初めてだ」
オーレリアも参加してきそうな気配に、マスターは退散した。
「それでユースティア。私はいたいけな女性か?」
「えぇ。師匠以上にいたいけな女性はいませんよ。な、ラウラ?」
「え、えぇと……」
凜々しい女性であるオーレリアに対して「いたいけ」とは言いにくいラウラ。フリーデルも紅茶を飲んで我関せずと横を向いていた。
「ははは、すまんな。さ、ピザでも食べよう。お、美味いな」
オーレリアがピザを口にすると、ラウラ達も安心したように、ピザを口にし出す。その後もそれぞれの剣の話について離したりと、美女三人が集まっている割には色気のない話で盛り上がった。
「さて、そろそろ学生を連れ回すのは良くないか。今日の所は解散としよう。近いが、送ろう」
《キルシェ》から第三学生寮は目と鼻の先であるが、オーレリアはまずラウラを第三学生寮に、フリーデルを第一学生寮に送る。
二人を送った後、オーレリアはトリスタを流れる川を眺めていた。
「師匠、風邪引き……ないか」
「ふふっ、言うようになったな。いや、前からか。しかし、ここには久しぶりに来たが……、やはり良い街だな」
嬉しそうに星空と川を見つめるオーレリア。そんな師匠を、気持ち悪そうに見つめるユースティア。
「何だ、その目は。こういうときは、不安げな目で見るか、愛おしげに見るのが定石だろう」
「師匠が有り得ない表情をしてると、何というか、……気持ち悪い」
「全く……可愛い弟子を持ったよ。それでこそ、私の弟子だ」
気持ち悪いと言われながらも、ケラケラと笑っていた。
「件の特別実習が始まる前に、会いに来てみたが……、問題ないみたいだな。その剣、何時までも輝かせろ。例え血に塗れても、血に取り込まれても、その輝き、絶やすなよ」
「もちろんです。あなたから《羅刹》の名前をもらったんです。血になんか負けたりしませんよ」
二人は見つめ合い、互いに笑い合う。
「さて、今夜は付き合え。久しぶりに酌でもしろ」
「承知しましたよ、お師匠様」
その日、ユースティアは、徹夜でオーレリアの我が儘に付き合ったのであった。