私の好きな順は
シャロン≧アルフィン>ヴィータ>エマ>クレア>ロジーヌ
この六人が登場頻度が高くなるかと。
特別実習一日目。ユースティア達は、実習先であるケルディック行きの列車に乗る。
「でもケルディックか。……あそこは地ビールが美味しくてなぁ……」
「なんであなたが知ってるのよ……」
「ははは……流石に実習中は駄目だぞ」
何とか仲直りしたリィンとアリサが、ユースティアにつっこむ。
「お、随分仲直り出来たみたいだな。良かった良かった。もしお互いに意識しっぱなしだったら、実習中背中が痒くなって仕方なかったよ。な、エリオット?」
「え、えぇ? 僕に振らないでよ」
「エ~リ~オ~ッ~ト~」
ユースティアのからかいにエリオットが巻き込まれる。エリオットが慌てているのを、元凶であるユースティアはニヤニヤとしており、それをラウラは呆れた顔で見ていた。
そんな風に楽しくやっている内に、ケルディックに到着する。
「やっぱりここは賑やかで楽しくなるな。時間があれば大市巡りもしたかったけど、まぁ、それは今回は見送らないとな」
「まずは宿に行きましょう。あそこは私の行きつけなのよねー」
サラはスキップしそうな足取りで宿に向かっていった。
「おばさーん、久しぶり!」
「おや、サラちゃん。やっと来たのかい」
「えぇ。とりあえずおばさん、ビールちょうだーい」
リィンたちをほっぽり出して、酒を注文するサラ。それに慣れつつあったリィン達はとがめることはしなかった。
「ともかく、あんたたちの部屋はこっちだよ」
女主人マゴットに案内され、部屋に向かう。案内された部屋には五つのベッドが置かれていた。
「……って、もしかして全員同じ部屋なの!?」
アリサが叫ぶと、マゴットは苦笑いをしていた。
「サラちゃんがこうしろって言うからね。ま、一応ベッドは離してあるから」
それだけ言うと、マゴットは下へ戻っていった。
「……本当に同じ部屋なの?」
「ははは……」
「んじゃ、俺は窓際で」
困惑するアリサ達を余所に、ユースティアはベッドを決め、荷物を置く。
「ちょ、ちょっと!?」
「今更ここで文句いっても仕方ないだろう。それに、士官学院の生徒なのだから、男女とか言ってられないしな」
ユースティアの言葉に、アリサ達は言い返せなかった。すると、ラウラがユースティアと同じように荷物を置いた。
「確かにユースティアの言うとおりだ。私達は実習を受けさせてもらっている身。なれば、このようなことを言ってはいられないだろう」
ラウラのこともあり、アリサ達も観念したのか、荷物を置いた。
「じゃあ、下に行こうか」
荷物も置き、リィン達は下に行く。
「おぅ、来たね。それじゃあ、これが課題だよ。頑張りな」
封筒を渡すと、マゴットは接客に戻っていった。
「課題か。リィン、開けてみろよ」
「あぁ。えーっと……」
封筒の中には課題の内容が書かれた課題には、薬の材料の調達や、魔獣の討伐などが書かれていた。
「ふーん、これはまた……じゃあ壊れた街道灯をやるわ」
ユースティアは依頼をみると、さっさと外に出ようとする。
「ちょ、ちょっと待った。いきなり進めようとするなって」
「とはいっても、魔獣と薬のは皆に任せたいんだけどな。それに、交換の依頼は時間がかかりそうだし」
ユースティアの説明に、リィン達は何か言いたそうな顔をしていたが、取り敢えず了承することにした。
リィン達と別れたユースティアは、依頼人である工房のサムスの元を訪れ、交換用の魔獣灯を受け取ると、西ケルディック街道に出た。途中途中で出てくる魔獣を倒しつつ、最後の魔獣灯を交換する。
魔獣灯の交換を終え、後は報告するだけとなった。すると、ユースティアは急にため息を吐き、木の陰に向かって声を掛けた。
「……そろそろ見られるのも恥ずかしいのですが」
ユースティアが声を掛けると、それまで何の気配も無かった所から、メイド服を着た女性が姿を現わした。
「あら、ユースティア様が恥ずかしがるだなんて、珍しいですわね」
「シャロンさん相手じゃ、私も太刀打ち出来ませんから」
シャロン・クルーガー。ラインフォルト社社長イリーナ・ラインフォルトのメイドであり、《身喰らう蛇》執行者No.Ⅸである。
「それで、今日はどうしたんですか? アリサなら、東側ですよ?」
「お嬢様にはまだ会うわけにはいきませんので。それに、ユースティア様にお会いするのも、とても楽しみにしていたんですよ?」
「それは私もですよ。それで、何か報告ですか?」
笑顔で近寄ってくるシャロンをそのままにしつつ、ユースティアは話を促す。シャロンはユースティアに更に近寄ると、本題を切り出した。
「アルバレア公爵家、カイエン公爵家が、軍備を大幅に増強しております。ラインフォルト社への発注も前期の3倍ほど増加いたしました。特にカイエン公に関しては、例の兵器の発注もございます」
「……やっぱり、近いうちに何か起こるか」
シャロンの報告に、ユースティアは苦い顔をする。
「はい。しかし、何か起爆剤となる出来事がない限り、爆発させることは難しいかと」
「反対に、何か起これば、一気に加速する、ということか。全く……父さんも色々抱え込みすぎだ。それまでして過去の栄光を掴みたいのかね」
「ユースティア様……」
ユースティアの呆れたような言葉に、シャロンは心配そうな表情を浮かべる。
「全く、姫様達にも要らぬ心配を掛けてしまうな。ともかく、ありがとう。今は無理ですけど、ルーレに行ったときには何かご馳走しますよ」
「あら、素敵なお誘いですわね。では、その時を楽しみにしていますわ。では」
シャロンは不意にユースティアに顔を近づけると、頬に口づけをし、その場から去って行った。
「……さてと、私も戻るとしましょうか」
頬を掻きながらケルディックに向かっていると、途中の民家の前にリィン達がいた。
「お、お疲れ。どうしたんだ?」
「あぁ、ユースティアか。ここの農家さんに、薬の材料を分けてもらったんだ。ユースティアの方は終わったのか?」
「あぁ。こっちは終わったよ。一緒に戻るか」
リィン達と合流して一緒にケルディックに戻ると、何やら町が騒がしい。何事かと通りがかった人に尋ねると、どうやら大市の方で騒動が起きているようだった。
「ふむ、行ってみるか」
ラウラが騒動と聞いて、何か出来ることはないかと言ったため、大市に向かうことにした。
大市に入り口に到着すると、聞いたとおりに二人の商人が、大きな声で言い争いをしていた。今にも殴り合いに発展しそうな剣幕で言い合っている。
「ふざけんな! ここは俺の場所だって言ってんだろうが!」
「だから何度も言っているだろう! 私は正式に許可証を受け取っているのだ!」
議論は収まるどころか更に悪化していき、片方の商人がついに手を振り上げた。
「こ、このやろう!!」
「危ない!」
リィン達が慌てて止めようとすると、それよりも早くユースティアが二人の間に入り、二人の動きを止めてしまった。
「まぁまぁその辺で。これ以上はただの喧嘩ではすまなくなりますよ」
ユースティアの気迫に、これまでヒートアップしていた二人の商人は急速に熱を冷ました。
「ともあれ、何か問題が起きたのは間違いないでしょうし、許可証を確認するのが一番手っ取り早いでしょう。申し訳ないですが、お二人とも許可証を見せてくれませんか?」
「な、なにを……」
「これでもこのようなことは父の言いつけで慣れていますので。もしも許可証を偽造しているのならば、判断できますので」
ユースティアの言葉から、目の前の学生が貴族であることに気が付いた二人は慌てて許可証をユースティアに渡す。
ユースティアは二つの許可証を見聞すると、それを二人に返す。
「結論だけ申せば、二つとも本物です」
「なっ!? それでは」
「はい。領主から同じ場所に二つの許可証が出された、ということですね。ですので、お二人の主張はどちらも正しく、正直言うと、お二人だけではどうしようもない、ということになります」
ユースティアの言葉に、二人の商人は項垂れる。
「じゃあ、どうすれば……」
「それならば話し合いをするしかないじゃろうな」
項垂れる二人の元に訪れたのは一人の老人。彼はこのケルディックの大市をまとめ上げているオットー元締めであった。
「お久しぶりです、オットー元締め」
「こちらこそ。ようこそケルディックにお越し下さいましたユースティア卿。そして、ご迷惑をおかけしてしまい、申しわけございません」
「今の私は学生の身です。そのような態度は不要です。まぁ、学生故、晩酌にお付き合いすることは出来ませんので、そちらの方は勘弁していただきたいですが」
ユースティアの苦笑交じりの言葉に、オットー元締めも表情を緩めた。
「では、ユースティア君、と。この場はワシが預かろう。君たちは課題を続けてくれたまえ。願わくば、何かを掴んでもらえることを祈っておるよ」
オットー元締めにこの場を譲ると、リィン達は大市から出た。
「何というか、ユースティアが別人に見えたわ」
「失礼な。私だって、オルディスの経済に貢献してるんだぞ? 税収に関する施策は私の進言だ」
カイエン公爵領の税収の高さは帝国でも有名である。それにも拘わらず、領民の不満が少ないのだ。同じ公爵家でありながら、評価は天と地の差である。
「噂には聞いていたが……本当に凄かったのだな」
「まぁ、オルディスもだけど、師匠の所でも色々やらされたから。お陰でトラブル処理ばっかり上手になったよ」
ユースティアの言葉に、リィン達は苦笑いするしかなかった。
時間も遅くなってきており、リィン達は宿屋に戻ることにした。時間も遅くなり、宿屋の一階は酒を飲む客で一杯になっていた。その中には、先程争っていた商人達もいた。席は離れているが、オットー元締めに言われているのか、言い争うようなことはしていなかった。お互いに相手に愚痴っていたがそれくらいはいいだろう。ユースティアはそれを見つけると、マゴットの元に向かう。そして、何かを渡し二、三何かを話していた。マゴットは渡された物を覗くとひどく驚いていたが、ユースティアの言葉を聞くと、ため息を吐きつつも苦笑いを浮かべながら頷いていた。
戻ってきたユースティアに、アリサが何をしたのか尋ねる。
「ユースティア、何を渡してたの?」
「レポート書き終わったら、軽くジュースでも飲もうと思ってな。あぁ、心配しなくてもお酒は飲まないよ」
「あ・た・り・ま・え・よ・っ!!」
アリサの注意も何とやら。ユースティアはさっさと部屋に入ってしまった。
「もぅっ! まったくもぅっ!」
アリサもプリプリしながら部屋に入る。そんなアリサを見て呆れつつ、リィン達も部屋に入る。
すると、部屋の中では既にレポートを書き始めているユースティアの姿が。それだけならば、然程変なことではないのだが、ペンの進むスピードが普通ではなかった。如何せん、異常なほど速いのである。手が何重にも見えるくらいに。
「ユ、ユースティア?」
その姿に思わずリィンが声を掛ける。ユースティアは手を止めずに顔を上げた。
「ん? あぁ、リィン達もさっさと書いちゃえよ。寝る時間がなくなっちゃうぞ?」
そう言いつつ、ユースティアはどんどん書き進めていく。リィン達もその姿に圧倒されつつも、レポートを書き始める。
そして、十分ほど経ったとき、ユースティアは手を止めた。
「よし、終わり。んじゃ、私は失礼するよ」
ユースティアはさっさとレポートを仕舞うと、席を立とうとした。
「えっ!? もう終わったの!?」
「あぁ。良かったら参考にするか? はい」
ユースティアは仕舞ったレポートを取り出して、エリオットに渡す。そしてそのまま部屋を出て行った。
「……本当に終わってる。しかも、凄くわかりやすい」
エリオットはユースティアのレポートを見て驚愕していた。猛スピードで書いていたとは思えないような綺麗な字。要点を絞った分かりやすい文章。そして、それに対する考察は的確に的を得たものである。
リィン達もそのレポートを見せてもらうと、改めてユースティアの非凡っぷりに驚愕したのだった。
一方部屋を出たユースティアは、酒場ではなく、外に出ていた。その手にはビールの瓶とジュースの瓶、そして二つのカップを持っていた。そのまま人目につかぬよう、宿屋の屋根に飛び乗った。
普通なら誰もいないはずの屋根の上。そこには先客がいた。
「お待ちしておりました。簡単につまめる料理を用意しておきました」
昼に姿を見せたシャロンである。彼女の手にはバスケットがあり、そこからは良い香りが漂っていた。
「それは楽しみです。さ、シャロンさんもどうぞ」
ユースティアは片方のカップをシャロンに渡すと、ビールをそこに注ぐ。自分もジュースの方を継ごうとすると、シャロンに取り上げられてしまう。
「駄目ですわ。女性にだけお酒を飲ませて、何をさせるおつもりですか?」
「シャロンさんに言われたら断れないじゃないですか。じゃあ、ありがたく」
アリサに言ったことをあっさりと反故にして、ビールをシャロンに注いでもらうユースティア。
「では……何に乾杯いたしましょうか?」
「そうですね。思いかけずシャロンさんに会えた幸運に」
いつも以上に芝居がかった口調で、シャロンとカップを打ち鳴らす。そして、二人ともビールを一気に飲み干した。
「いい飲みっぷりです」
「ユースティア様こそ。ささ、どうぞ」
シャロンはすかさずユースティアにお替わりを注ぐ。ユースティアもシャロンのカップにビールを注ぎ返す。今度は一気に飲まず、一口口にしただけである。
「今夜はトマトソースのバゲットと、チーズの小さなピザですわ。自分で言うのもアレですが、自信作ですわ」
「シャロンさんの料理は全部美味しいですからね。いただきます」
ユースティアはバゲットを口にして、ビールと一緒に食す。その美味しさに目を細めた。それを見て、シャロンも嬉しそうに微笑む。
「あぁ、やっぱり美味しい。しかも、シャロンさんみたいな絶世の美女がいるだなんて、最高の贅沢ですよ」
「うふふ、それは私も嬉しいですわ。……ふふっ、それでしたら」
シャロンは何か思いついたのか、ピザを手に取ると、そのピザをユースティアの口元に持っていった。
「あ~ん、ですわ♡」
「シャロンさん……分かりましたよ」
流石に恥ずかしいのか、それでも素直に口を開けるユースティア。シャロンはとても楽しそうにユースティアの口にピザを運んだ。シャロンは、黙ったままピザを咀嚼するユースティアの顔をニコニコしながらジッと見ていた。
「美味しかったですか?」
「えぇ。シャロンさんに食べさせてもらったんです。いつもより美味しいです」
「それなら良かったです」
その後も会話を楽しみながら、ビールとつまみを食べていった。時々シャロンに口を開けるよう言われたが、ユースティアも慣れていったため、嬉しそうに口を開けていた。
やがて、つまみも食べ終え、ビールもなくなったため、ジュースを静かに飲んでいた。
「……良い夜ですわね」
「えぇ。静かだけど下は賑やかで、星空は眩いほど煌めいている。まるでお伽噺のようですね」
「本当に……。しかし、無粋な方々もいらっしゃるようで」
シャロンは大市の方向を睨み付けていた。ユースティアも気付いていたが、そこから動く様子はなかった。それはシャロンも同様である。
「しかし、これでは明日は一騒動ありそうですわね」
「そうですね。だからこそ、今夜くらいは楽しませてもらわないとね」
ユースティアは表情を崩さずに、ジュースを口にしていた。そんなユースティアの様子に、シャロンも症状を緩める。
「では今宵はその助けになりますよう、最後までご一緒いたしますわ。実は、私の方でも果実酒を何本か持ってきているのですよ」
イタズラっぽい表情を浮かべたシャロンはバスケットの中から果実酒の瓶を取り出した。一緒に綺麗なグラスを取り出すと、中に酒を注いでユースティアに渡す。
「ではお付き合い、お願いします」
その後も静かに飲み続け、二人が屋根から降りたのは東の空が明らみ始めた頃であった。
「では、私はこれで」
「はい。こんな時間まで付き合ってもらってありがとうございました」
「……………………」
ユースティアがお礼を言うと、どうしてかシャロンが少し寂しそうな表情になる。
「シャロンさん?」
「……このように心躍る時間を過ごしてしまうと、いつも姫様が羨ましくなってしまいます。ですのでせめて……」
シャロンは自然な動きでユースティアに触れると、そのまま頬にキスをした。
「いつか、こちらにさせていただきたいですが、こちらは姫様のものですから」
シャロンはそう言うと、ユースティアから離れる。すると、今度はユースティアがシャロンに近付き、頬ではなく、唇にキスをした。
「ユースティア様?」
「シャロンさんが望むなら、私はそれを叶えるだけです。だからシャロンさんには笑顔でいて欲しいです」
ユースティアの言葉に、シャロンは珍しく顔を赤らめ、嬉しそうに微笑んだ。
「……私も少し我が儘になりましょう。良いのですね?」
「はい。もちろんです」
「では……早速」
シャロンは微笑みながらユースティアに抱きつき、首に手を回すと、そのままキスをした。
今度のキスは長く、微かに照らされる中、身動ぎしながらキスを続けていた。
やがて二人が口を離すと、二人の口の間に橋が架かり、プツリと切れる。
「んっ……。ありがとうございました。それでは今度こそ、これで」
「えぇ。必ず近いうちに」
最後にも軽く口づけを交わすと、シャロンはフッと姿を消した。
顔を赤くさせるシャロンさん、至高である。