澄んだ空気。靡く風。
芝の生い茂る大地を一歩、また一歩と踏み締めながら、無我夢中に走る。鳥のように、風に逆らい己が道をこじ開けて、進む。それが気持ちいい。
〝走ること〟
ウマ娘の本能は、抑えられない。
「ーー私もあんなふうに、走れたら」
メイショウドトウーー広大なる大地を走るウマ娘……を見ていた1人の少女。彼女もまた、ウマ娘。
ネガティブな性格を持つメイショウドトウーーこれは、後に一時代を語るには欠かせない役者となる名ウマ娘になるまでの、彼女の物語。
◆◇◆◇
冬の12月。
日本のウマ娘の、ウマ娘のための学校ーー日本ウマ娘トレーニングセンター学園、通称〝トレセン学園〟に来年から入学するため、故郷を離れた。
大海原を超え、遠い日本へと向かう船の中、彼女は古臭いテレビの、とある番組に釘付けになっていた。
『さあ、サクラローレルか!マーベラスサンデーか! 内のほうから4番のマイネルブリッジ!』
『6番のサクラローレルが抜け出した! サクラローレルが抜け出した! サクラローレルだ!』
遠い地でのレース。遠いはずなのに、画面越しのはずなのにーーそれでも今まさに目の前で繰り広げられているかのような熱狂と歓声、そして聞き応えのある実況。
選ばれしウマ娘たちの死闘ーー有馬記念。全てのウマ娘が夢見る舞台を、彼女は離れた海の上で、テレビの前でしゃがみながら見ていた。
「す……すごい………!」
『サクラローレルです!! 』
『グランプリ史上、初めてサクラの名前が刻まれます!」
これまで見たレースの中で一番凄く、そして何より輝いていた。勝ちたい。その一心で、芝の上を駆け抜け、ゴールを目指す。
己の限界を超えた先に掴めるものを渇望し、走るその姿は、確かに苦しそうだ。
だがーーそれ以上に彼女たちは楽しんでいた。あの舞台を、あの歓声を、己が踏みしめる芝の匂いをーー。
〝彼女〟
そしてーーメイショウドトウも、画面越しで其れを感じた。歓喜に浸り、喜ぶサクラローレルが画面に映し出された時、彼女が感じた其れは何なのか。
刺激される本能。感動にうち震える足。自分もあのウマ娘のようになれたらーー自信を持てようになる。前向きになれるはずだ。垂れている耳も、今は微かに立っている。おそらく興奮したからだろうか。
「………私もあんな風に!!ってうわぁっ!」
「いてて……っ」
拳を握り締め、それを天に突き上げ、鼓舞しようとするも勢い余って尻餅をついてしまった。
また1人、夢を持ったウマ娘が今年も、トレセン学園に足を運ぶ。