嫌いな女を守って死んだと思ったら息子に転生してて気まずい 作:とくめ
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
目の前で女が泣きながら謝っている。
街の外れの共同墓地。
女の前には雨に晒されて冷たくなっている小さなお墓があった。
そこに彫られている名前は『ユークリウス』。
俺の
そう。
俺は転生した。
理由は単純だ。
身を挺してコイツを守った結果、そのまま助からずに死んでしまったというわけだ。
俺はコイツが嫌いだったし、コイツも俺が嫌いだっただろう。
徹底的に馬が合わなかったというか、顔を合わせれば毎度毎度喧嘩ばかりしていた。
のに、コイツは俺の墓の前で泣いている。
数奇なものだ。
で、俺はコイツの息子に転生した、というわけだ。
記憶を取り戻したのが数ヶ月前。
俺が5歳になった誕生日だった。
記憶を取り戻した当初は混乱したものだが、しばらくすれば人間適応するもの。
俺は現状の環境には慣れてきたが、まだこの女の息子になった気まずさだけは解消できていない。
しかし転生して、色々な謎があることに俺は気がついていた。
まず、俺に父親がいないという点だ。
俺がコイツの息子であることは間違いなさそうだが、その父親がいないのである。
失踪したか、はたまた死んだか分からないが、コイツの口からその説明を受けてもいない。
俺が、誰との間の子供なのかも、分かっていないのだ。
コイツの周りに男がいたという気配はなかった。
それは同じパーティーメンバーであり、毎日顔を合わせていたのだからよく分かっている。
し、コイツのじゃじゃ馬な性格を受け入れられる男がそうそう現れるわけがないこともよく分かっている。
美人ではあるものの、男受けするタイプの女では決してなかったはずだ。
それに、コイツは俺のことが嫌いだったはずだが、何でこんなに後悔しているのだろうか、という点も謎だ。
確かに俺はコイツを身を挺して守った。
それは間違いない。
が、その事実をコイツはまだ
それは俺がコイツを守った時、バレないように少し細工をしたからというのがある。
身を挺して守ったことが知られるのは恥ずかしかったし、負けた気がしたからだ。
だからコイツは俺のおかげで今も生きていられていることは、知らないはずだった。
なのに俺の死を後悔している。
それはなぜか。
よく分からない。
更には、俺の前世の記憶も少し曖昧なのだ。
コイツと嫌い合っていたことや、俺がバレずに守ったことは間違いないと思うのだが。
コイツとの細かい会話ややり取りなどがところどころ抜け落ちてしまっている。
その抜け落ちた記憶に重大なものがあるかと聞かれると、多分ないと思うのだが……思い出せそうで思い出せないというのは何だか少し気持ちが悪い。
「そんなつもりじゃ……そんなつもりじゃなかったの……私、貴方の事を……」
母――エリカは泣きながらブツブツと呟き続けている。
俺はそんなエリカの背中をぼんやりと眺めていた。
俺がユークリウスであることは今後一生明かさないつもりだ。
それを明かしてしまったらエリカは混乱しそうだし、また犬猿の仲に戻ってしまう気がしたからだ。
だから俺はそれを一生隠しながら生きていくつもりだった。
エリカはひとしきり泣き終えると、立ち上がってこちらに振り返った。
「ごめんね。お待たせ」
「ううん、大丈夫だよ」
優しい声で謝ってくるエリカに俺は子供っぽい笑顔を向けて答える。
エリカのこんな口調は前世なら絶対に向けられなかったものだ。
いつも俺に向けられるものは、ツンケンしていて、冷たい声音だった。
優しく、包み込むようなエリカの声音を聞いて、思わず気まずくなる。
「ねえ、ユークリウス」
俺は声を掛けられ、エリカの顔を見る。
――そう。
俺の名前は今世でもユークリウスだった。
「どうしたの、お母さん」
エリカをお母さんと呼ぶのにいまだ慣れないまま、俺は訊ねた。
「ユークリウスの名前、ここにも書いてあることに気がついた?」
「……うん、気がついてるよ」
「貴方の名前、この人から取ったのよ」
「あっ、そうなんだ」
俺はそれしか返せなかった。
気まずすぎる。
視線を逸らしたくなるのを我慢して、俺はジッとエリカを見つめた。
すると彼女はどこか遠い目をして言った。
「私の大切な人だったの。大切な……」
……ん?
大切な……?
どゆこと?
俺の脳内ははてなマークで埋め尽くされる。
俺とエリカの間柄は犬猿の仲ではなかったか?
そんな大切な人と呼べるような間柄ではなかったはずだが……?
よく分からん。
「でも、この話はまだユークリウスには早いわよね。いつかまた、彼のことについて話してあげるわ」
そう言ってエリカはにっこりと微笑んだ。
俺は少しそのことに言及してみようと思っていたが、その言葉でそれは出来なくなってしまった。
結局エリカの言葉の意味を聞くことは叶わず、俺たちは馬車で家に帰った。
元々冒険者だったエリカは、どういうわけか
俺たちはその屋敷に帰ってきたというわけだった。
……何で貴族なんかになってんだ、この女?