嫌いな女を守って死んだと思ったら息子に転生してて気まずい   作:とくめ

2 / 2
第二話

「お帰りなさいませ、ご主人様、お坊ちゃま」

 

 屋敷に戻るとメイドたちが一斉に頭を下げてくる。

 何だかむず痒い光景だ。

 前世を思い出してから数ヶ月経つが、未だにこの対応には慣れない。

 

 俺の前世はただの一介の冒険者に過ぎなかった。

 能力もそこまであるわけでもなく、ただの凡冒険者として生活していた。

 

 それが気がついたら大量のメイドたちにお坊ちゃまと言われ頭を下げられる生活だ。

 意味が分からないよ。

 そんなすぐに慣れるはずもない。

 染みついた庶民感覚はそう簡単になくならないのだ。

 

「ただいま」

 

 しかしエリカはなんてことないようにそう言って屋敷に入っていく。

 どうやら彼女はもうこの生活に慣れてしまったようだ。

 何だよ、ついこの前まで俺と一緒に場末の居酒屋でエールを頼むか迷うような生活を送っていたじゃまいか。

 完全に貴族の風格が出てきていて何かむかつく。

 

 しかし俺はそんな感情はおくびにも出さずにスンとした表情でエリカの後に続いた。

 

「ユークリウス」

 

 踊り場の階段を上がっていく最中。

 ふと、エリカは振り返って俺に声を掛けてきた。

 

「なぁに?」

 

 子供っぽい口調を心掛けて尋ねる。

 あざとくキョトンとした首傾げの仕草付きだ。

 

「明日から、剣術と魔術の講師をつけるわ」

「…………え?」

 

 俺は本当にキョトンとしてしまう。

 コウシ……?

 え、あ、そっか。

 確かに俺は今では貴族の子女。

 貴族のたしなみとして剣術やら魔術やらを極めるのは当たり前なのか……?

 

 しかし俺、まだ五歳やぞ。

 英才教育にもほどがあるのでは?

 いや、貴族ってそんなもんなのだろうか?

 普通の貴族を知らんから比較のしようも無いな。

 

 だがなぁ……。

 訓練やら勉学やらが始まるって事かぁ……。

 

 正直嫌じゃ。

 そういった真面目なコツコツ積み重ねが出来ないから冒険者になったわけで。

 これから勉学が始まることを考えると頭が痛くなってくる。

 

 くそぉ……逃げ出したい。

 しかし五歳の身体じゃあ逃げ出すこともできんしなぁ。

 受け入れるしかないか。

 

 そんなことを考えていたら、エリカの真剣な眼差しが視界に映った。

 エリカは真剣な表情でこちらを見つめてきている。

 

「……どうしたの?」

 

 俺は思わず訊ねた。

 エリカは少し考えた後、言った。

 

「強くなりなさい」

「…………え?」

「誰よりも、どんな相手にも負けないくらい、強くなりなさい」

 

 それは命令口調だった。

 前世の罵倒の言葉とも、今世の優しげな言葉とも違う、真面目な命令だった。

 

 困惑する。

 コイツがこんな強い命令口調をすることは今までなかった。

 何か心情の変化があったのだろうか……?

 

 もしかしたら俺の記憶が欠落している間に、何かしらそう思う出来事があったのかもしれない。

 

 う~ん、よく分からないが、何だか真に迫る感じがするぞ……?

 これはちゃんと真面目に訓練した方が良さそうな気がする。

 俺の直感がそう言っていた。

 

 

   ***

 

 

 それから更に10年ほどが経過した。

 俺はある程度は貴族の生活に慣れ、ある程度真面目に訓練や勉学に取り組んでいた。

 どうやらこの身体は才能に溢れていたみたいで、頑張れば頑張るほど身になっていった。

 それが案外楽しくて続けられたというのもある。

 成長を実感するっていうのはやってみると思ったより楽しいものだった。

 

「坊ちゃま」

「ああ」

「試験、ですぞ」

 

 中庭。

 俺たちがいつも剣術の訓練に使っている場所だ。

 

 相対するのは品の良い老紳士。

 しかしその実体は元王立騎士団長であり、大陸最強と名高かった男だ。

 名前はダン。

 今では大陸最強の座は他の男に受け渡してしまっているが、それでもその実力は折り紙付き。

 そして俺の剣術の指南役でもある。

 この10年間、みっちりこの老人から鍛えられてきた。

 

「勝つ」

「勝ってもらわなければ困りますな」

「それはそうだな」

「卒業試験なのですからな」

「…………」

「これ以上老体を働かせるのは虐待になりますぞ」

「俺より体力あるくせに」

「ほほほ、坊ちゃまの体力がなさすぎるのですよ」

「いや、お前の体力が多すぎるんだ」

「何と。こちとら既に70のジジイですぞ」

「平然とした顔で50キロを全速力で走るやつが何を言っているんだか」

「70のジジイなのは変わりますまい」

「……チッ。俺だって、これでも毎日30キロは走っているんだがな」

 

 俺は木剣を構えた。

 ダンは自然体だ。

 

 俺はフッと息を吐いた。

 

 変化。

 

 ピン、と空気が張り詰める。

 

 腰を落とす。

 右足を少し引く。

 

 駆けた。

 振る。

 

「ほう」

 

 ダンは半身で俺の攻撃を軽々と躱した。

 想定済みだ。

 

「はっ」

 

 ズン。

 

 突く。

 避けられた。

 しかしこれも想定済み。

 

「ふっ」

 

 回転。

 木剣を横に薙ぐ。

 

 空を切る音が中庭に響く。

 

 突く。

 薙ぐ。

 突く。

 

 ダンは余裕顔だ。

 

「……チッ」

 

 俺は舌打ちをするとさらにテンポを上げた。

 

 タンッ。

 タンッ。

 タンッ。

 

 静かな足音と風切り音だけが中庭に響いていた。

 

 剣術は熟練されればされるほど、静かに、シンプルになっていく。

 

 タイミングをずらす。

 リズムを変える。

 

 高位の剣術は、そういった単純な戦略と、後は速さが勝負の世界となる。

 

 速く。

 速く。

 もっと速く。

 

 思考が引き延ばされ、時間がゆっくりに感じてくる。

 頭が冴え、視界がクリアになっていく。

 

 ――――。

 ――――。

 

 ここだ。

 

 触れた。

 木剣が、ダンの肩に触れた。

 

「ふぅ」

 

 ダンが息を吐いた。

 緊張していた空気が弛緩する。

 

「卒業だ」

 

 その一言は単純に発せられた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

今さら嫌われていることに気がついたので、黙って消えたらなぜかパーティーが壊れた(作者:どうも)(オリジナル:ファンタジー/冒険・バトル)

今さら陰口を言われていたことに気がついたので、嫌われ者は黙って消えようと思います。▼と思ったら、なぜかパーティーメンバーたちが病み始めたんだが……。▼なんで?


総合評価:831/評価:8/連載:3話/更新日時:2026年09月09日(水) 18:44 小説情報

救えなかったら時が戻る人、やり遂げたら何故か周りが病み始める。(作者:ゲーミング千手観音)(オリジナル:現代/日常)

▼ 普通に日常を過ごしていただけなのに、何故か突然「その日毎に救助対象が変わって、しかも助けられずに死なせてしまうと一日の最初に戻る」という状態に陥ってしまう主人公。▼ 絶望して、心を壊しながらも一年間やり遂げた主人公はその呪いから開放される。▼ ────そしたらなんか今まで助けた人全員病んだ。なんで?▼ そう言ったお話。▼ 尚、助けられた人達は呪いが無くな…


総合評価:1200/評価:8.17/連載:8話/更新日時:2026年07月25日(土) 20:00 小説情報

上位存在のクソデカ師匠に生まれ直しを迫られてる(作者:上位存在って総じてエッチだよね)(オリジナル:現代/冒険・バトル)

全部がでかい上位存在に、胎内回帰(おかえりなさい)!を迫られるがしない話。▼ひょんなことから上位存在の弟子となった主人公は、いつの間にかにどちゃくそ執着されていた。▼「私の胎で生み直しましょう?」▼こんなことを素面で言うくらいには執着されてしまったのだ。▼もっとも、赤ちゃんプレイみたいな趣味は無い主人公は拒否するものの、上位存在である師匠は頑なに生み直すと聞…


総合評価:1020/評価:8.12/連載:4話/更新日時:2026年09月17日(木) 08:05 小説情報

貞操逆転世界に転生した俺は目のクマが濃いボサボサ頭ジト目研究バカの二人称少女系性癖破壊お兄さんらしい。(作者:くっきーたべたい)(オリジナル:ファンタジー/冒険・バトル)

▼自分の好きなソシャゲの世界に転生したと思っていたら、その世界の貞操観念が逆転していた。▼まあそんなことは関係なく、色々あって世界が崩壊することを防ぐため、治癒魔法の研究を死に物狂いでした。▼結果…▼うら若き少女の性癖を破壊し尽くす男が生まれたのだ。


総合評価:532/評価:8.79/連載:1話/更新日時:2026年08月26日(水) 23:33 小説情報

主人公に全てを託して死ぬタイプのヒロインにTS転生したっぽいし、きっちり役割を果たすぞ!(作者:匿名退場予定)(オリジナル:現代/冒険・バトル)

いい感じのところで主人公に未来を託して死ぬヒロインにTSしちゃった▼でも、原作再現とかできるなら楽しくね?▼だから死ぬまでの余生を楽しむぞ!▼……なんかいきなり主人公くんと仲がいい状態から物語がスタートしちゃったけど、まあいっか▼そんな話


総合評価:811/評価:8.7/連載:10話/更新日時:2026年09月26日(土) 12:03 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>