TS成り代わり殴りヒーラー家入硝子さん~幽遊白書好きが呪術廻戦の世界に転生して仙水忍の『霊光裂蹴拳』を極めたら~ 作:MMOだと殴りヒーラーが好き
・作者は呪術廻戦アニメ勢です。アニメ後の原作も少しだけ見ています。
・そのため解釈に違いなどがあったら感想とかで指摘下さい。
・調べたけど設定が無かった事については捏造しています。
・一部独自解釈による捏造設定があります。
⇒家入さんが熊本県出身
⇒家入さんがお嬢様出身。一般家庭としか情報が無かったのと、タバコ吸ってる理由が無かったので、家が堅苦しくて高専に入ってはっちゃけた?と思った為。
それでは、楽しんでいただけると幸いです。
意識が浮上した時、真っ先に感じたのは自らの身体が満足に動かないことだった。
意識を失う前の最後の記憶は、総合格闘技(MMA)の試合中、追い詰められた対戦相手の反則行為を食らったこと。そのせいで気絶し、今ここで目を覚ました……はずだった。
「あー、あー(嘘だろ、俺赤ん坊になってる!?)」
俺は、総合格闘技の世界に身を置く格闘バカだった。来る日も来る日も練習に明け暮れ、スパーリングで汗と血を流す毎日。その中でも、俺は自分でも自覚しているほどの異端だった。
好きだった漫画『幽☆遊☆白書』の仙水忍が使う『裂蹴拳(れっしゅうけん)』に憧れて格闘技を始めたものの、それが架空の武術だと知って絶望。ならば自分で作ってやると、自己流で『裂蹴拳』を体系化し、プロにまで上がってしまった正真正銘のバカである。
裂蹴拳とは、腕を攻撃には使わず防御や受け流しに特化させ、カウンターの強力な足技で相手を仕留める武術だ。俺はこれを現実の総合格闘技で通用する打撃特化スタイルとして成立させたが、業界からは当然のように異端者扱いされていた。
だが、プロとして戦いながらも、俺は常に不完全燃焼を抱えていた。
『裂蹴拳』は本来、幽遊白書において仙水という人物が妖怪を屠るために磨き上げた実戦武術だ。人間相手のスポーツルールでは、相手が死なないように威力をセーブし、急所を避けなければならず、技の本来の『美しさ』と『威力』を解放しきれなかったからだ。
意識を現在に戻して見上げれば、そこは見知らぬ天井とベビーベッドの柵。どうやら俺はあの反則攻撃で死亡し、前世の記憶を持ったまま赤ん坊に生まれ変わったらしい。
部屋の様子から幸い日本のように見えるが、周りにある家電などが、俺が生きていた時代と比べると随分と古く見える。壁のカレンダーを見ると『1989年』とあった。
というか、赤ん坊は視力がまだ発達していないと聞いた覚えがあるが、周囲の景色はやけにくっきりと見えているし、両親と思しき二人の顔もはっきりと認識できる。耳もよく聞こえており、ここが日本だと判断できたのも、彼らが流暢な日本語を喋っていたからだ。
両親の会話から察するに、ここは熊本県にある由緒正しき『家入家』であり、俺はそこの長女「硝子(しょうこ)」というらしい。
長女、ということはTS転生になるのだろうか。漫画やネットの小説で見たことはあるが、まさか自分が女になるとは思わなかった。格闘技のことを考えると、筋肉のポテンシャル的には圧倒的に男の方が有利なのに、神様というやつはつくづく意地が悪い。
まあ、男か女なんて確率的に言えば五十パーセントだろうし、前世は男だったのだから今世で女になったのはしょうがない。どちらかというと、男の記憶を持ったまま女になると、恋愛対象が女のままだから長女なのに子孫を残せなさそうなのが問題か。前世は格闘一筋で恋人も居なかったが。
赤ん坊だと碌に身体が動かせないので、脳内で色々とこれからの事を考えていると、視界に変なモノが映った。
「うー、あー(……ん? なんだあのキモい虫)」
空中にフワフワと飛ぶ、不気味な羽虫のようなモノが見えた。視界に完全に入っているのに、親や家の女中たちは全く気付いていないようだ。どうやら俺にだけ見えているソレは、羽が生えていて蠅みたいな見た目なのに、顔面には人のような模様が浮かぶグロテスクな姿をしていた。
俺の前世のオタク知識が、その虫の正体を瞬時に弾き出した。
「あーっ!?(間違いない。アレ、魔界の扉編で蟲寄市に出てきた『魔界虫』じゃねぇか!?)」*1
俺の身体が、ブルリと歓喜に震えた。つまり、ここはただの日本ではなく、俺が好きだった『幽☆遊☆白書』の世界という事だ。*2
「あーうー!(それなら霊力があるはず! 俺に霊力の素質があるかは分からんが、物真似でしかなかった俺の裂蹴拳を、原作と同じ『霊光裂蹴拳』という本物に出来るかもしれない! 盛り上がってきたー!)」
こうして、俺————家入硝子の、独学による霊力修行が始まったのだった。*3
◇ ◇ ◇
それから私は順調に成長して四歳になった。家入家、いえいりけ。漢字にすると見辛いなコレ。
それはともかく、この家は古くから続く華族の家らしく、平成とは思えない古臭い家屋に常識がまかり通っていた。一度思わず『俺』と言ったら、激しいお説教と共に口調を矯正された。なので今は、内心でも『私』にして口に出す際に間違えないようにしている。
日課のお嬢様教育が終わったあとの自由時間。
私が周囲にバレないよう、庭の隅で木の幹を仮想の妖怪に見立てて蹴り込みの型を練習していた時、それは前触れもなく訪れた。
「ッ……!?」
唐突に、脳の奥底が熱くなった。
頭痛ではない。例えるなら、『見たこともない新しい家電の分厚い取扱説明書』が、脳内に一瞬で無理やりダウンロードされたような、悍ましくも奇妙な感覚。あるいは、生まれつき無かったはずの『三本目の腕』が突然生えてきて、その動かし方を本能レベルで理解してしまったような、圧倒的な違和感。
「な、なんだこれ!? 頭の中に、文字というか……情報の塊が流れ込んでくる……!?」
私は頭を押さえて蹲った。感覚としては『思い出す』『知っている』に近い気がする。
私の前世のオタク知識が、再びフル回転で答えを弾き出した。『幽☆遊☆白書』魔界の扉編。魔界の穴が開く影響で、人間界に現れ始めた特殊な異能者たち。彼らが使う、自らが生み出した特殊なルールを強制する空間。
「……領域(テリトリー)かッ!」*4
私はガバッと顔を上げ、歓喜に震える声を上げた。間違いない。ゲームマスター(天沼)やスナイパー(刃霧)が使っていたあの能力だ。
「あれ? でも私って霊力っぽいの使えてるから霊能力者だと思うんだけど、霊能力者でも『領域(テリトリー)』って使えるのか。幽遊白書の原作だと、霊能力者がテリトリー使ってる描写は無かったが」*5
疑問はあったが、霊力*6に加えてテリトリー*7まで使えるなんて、転生特典のチートだろうか。私は満面の笑みで立ち上がり、再び木の幹に向かって強烈な蹴りを放った。
「いっつ……っ!」
強く蹴り過ぎたか、足の皮膚が裂けて血が滲んだ。しかし、私は休まない。霊力を練り、足先に極限まで集中させ、さらに蹴り込む。
その時だった。
「……あれ?」
足先に集めた霊気が、カッ!と熱を持ったかと思うと、ズル剥けになっていた足の甲の傷が、シュンッと音を立てて塞がったのだ。痛みも消え、まるで新品の皮膚のように生まれ変わっている。
「……マジか。霊力を高めると、自然治癒力まで上がるのか?」
私は感嘆の息を漏らした。
幽白の作中で、霊力で傷を治す描写はなかった気がする。怪我の治りが異常に速かったのは漫画的描写(ご都合主義)だと思っていたが、霊力が高まると自然治癒力も上がるという事だろう。*8
「最高じゃねぇか。これで怪我を恐れずに、無限に『裂蹴拳』の修行ができるぜ!」
かくして、無尽蔵の回復装置を手に入れた私は、前世以上の異常なペースで肉体と打撃技術を完成させていった。
◇ ◇ ◇
それから月日は経ち、私は中学生になった。
家入家における私の立ち位置は、『誰もが羨む深窓の令嬢』として確立していた。厳格な両親の教育により、茶道、華道、そしてマナーを徹底的に叩き込まれたのだ。
「硝子、今日も背筋が伸びて美しいわね」
「ありがとうございます、お母様」
ふんわりとした笑顔で言葉を返す。
内心では(クソ窮屈だぜ……こんな着物じゃハイキックも撃てねぇよ)と毒づいているが、表向きは完璧な猫かぶりだ。だが、そのフラストレーションは、夜の『パトロール』で発散されていた。
熊本市街地の外れにある廃ビル。そこには、明らかに魔界虫(蠅頭)とは格が違う、巨大で悍ましい妖怪が巣食っていた。ビルの壁面に張り付く、無数の目玉と触手を持った巨大な肉塊。*9
「ギッ……ギャァァァア!!」
鼓膜を破るような咆哮と共に、肉塊から伸びた無数の触手が私に向かって襲いかかってくる。
「ハッ。最近の妖怪はデカくて骨があるじゃねーか。B級妖怪ってとこか?」
何をやっているかというと、私は夜な夜な家族や女中たちが寝静まった頃に家を抜け出し、妖怪を倒して実戦修行をしていたのだ。
動きやすいジャージ姿に着替えた私は、低く腰を落として構え、全身へ霊力を循環させる。
「今日のサンドバッグはお前だ。せいぜい頑丈にできてることを祈るぜ」
迫り来る無数の触手。先端が刃のように鋭利になったそれらが、四方八方から私の全身を貫こうと殺到する。しかし、私は焦らない。前世で何万時間と磨き上げた『防御と受け流し』の極致。
「遅ぇよ」
パパパンッ! と、乾いた破裂音が連続して響く。
私は両腕のしなりと体捌きだけで、飛来するすべての触手の軌道を逸らし、弾き落とした。霊力で強化された私の腕にとって、触手の質量など枯れ枝も同然だ。一切のダメージを受けることなく、流れるようなステップで肉塊の懐へ潜り込む。
そしてそのまま、踏み込みの勢いを乗せた右足で渾身の回し蹴りを放った。
ドンッッッ!!!
凄まじい衝撃波が廃ビルを揺らし、肉塊の巨体が壁を突き破って屋外へと吹き飛んでいく。
「あ、やべ。気合い入れすぎて蹴り飛ばしちまった」
インファイトのままラッシュを叩き込む予定だった私は、大きく空いた距離に舌打ちをした。吹き飛んだ妖怪は、苦悶の声を上げながらも自己再生を始め、再びこちらへ触手を伸ばそうとしている。
「仕方ねぇ、距離が空いたならアレで仕留めるか」
私はスッと右手を前に出し、手のひらの上に霊力を集束させ、更に圧縮していく。すると、ソフトボール大の球体が出来上がった。
「食らいな……」
私はその出来上がった球体を、ふわりと空中にトスした。そして、球体が落ちてくるタイミングに合わせ、腰を大きく捻ってサッカーのボレーシュートのような強烈な回し蹴りを放つ。
「『裂蹴紅球波(れっしゅうこうきゅうは)』!」
ドンッ!という炸裂音と共に、私の足の甲が球体を弾き飛ばした。青白いエネルギー弾は、空気を切り裂くような速度で直進し、再生しかけていた肉塊の中心に深々と突き刺さる。
「ギ、ギィィィッ……!? ギャアアアアアッッ!!」
次の瞬間、妖怪の巨体が内側からまばゆい光に包まれ、塵となって消え去った。
「ふぅ……。やっぱりこの技、威力高すぎるな。一撃で終わっちまうから、訓練にならねぇんだよな」
私は不満げに首を鳴らしながら、ジャージの裾を払い、帰路に就こうとする。
なお、今の彼女は知らないが、特級呪霊ですら消し飛ぶ『反転術式のアウトプット』を1級呪霊にぶっ放しているのだから即死するのは当然である。
……その時だった。
「……ヒッ!」
廃ビルの入り口付近から、情けない悲鳴が聞こえた。振り返ると、スーツ姿の男が腰を抜かしてこちらを震える目で見つめていた。
「あ。やべ、一般人に見られたか?」
私は慌ててお嬢様の猫を被り直し、「お、お怪我はありませんか?」と上品に微笑んだが、男は「ひぃぃっ!」と怯えたまま逃げ出してしまった。
(……まぁいいや。妖怪退治のボランティアだし、警察に突き出されることはねぇだろ)
私は呑気に構え、その場を後にした。
このスーツの男が、呪術界において呪いを観測する『窓』と呼ばれる職員であり、私の今のデタラメな戦闘がすべて『東京の呪術高等専門学校』へと報告されることになるとは、この時の私には知る由もなかった。
プロローグを読んでいただき、ありがとうございます。
実を言うと、幽☆遊☆白書のアニメを久しぶりに見返した際、「仙水と夏油傑って、なんとなく重なるところがあるな……」と感じたのが、この作品を書くきっかけでした。その妄想のままに、完全に見切り発車で書き始めてしまった結果がこれです。
キャラ崩壊も甚だしい格闘バカな硝子さんですが、もし、「続きが読みたい」と思っていただけましたら、感想などで教えていただけると、続きを書く大きな活力になります。