TS成り代わり殴りヒーラー家入硝子さん~幽遊白書好きが呪術廻戦の世界に転生して仙水忍の『霊光裂蹴拳』を極めたら~ 作:MMOだと殴りヒーラーが好き
教室での『超・新入生歓迎会』を終えた後。
私たち最強の問題児三人組と、初々しい1年生二人は、春風が吹き抜けるグラウンドに移動していた。
「それでは七海君。怪我をしないように、軽く手合わせをしましょうか」
「はい、よろしくお願いします。家入先輩」
私は可憐な令嬢スマイルを顔に貼り付けたまま、七海建人と向かい合う。
グラウンドの端では、五条と夏油、そして灰原が座って見学している。真面目な七海は、私が先程の言葉通り『格闘術は嗜む程度』しか使えないと信じ込んでいるのか、少し手加減をしてくれそうな、柔らかな構えをとっていた。
五条と夏油はその様子をニヤニヤと見つめているのを横目で確認しながら、見学席の五条に視線で合図を送った。
「それじゃ、始めー!」
五条の気の抜けた合図が響いた、その瞬間。
「――さて、と」
「え?」
私は顔から令嬢の笑みをスッと消し去り、首の骨をバキバキと鳴らした。同時に、全身から殺気を解き放つ。
「ちょっとは楽しませてくれよな、後輩」
「……は?」
可憐な先輩の突然の豹変。ドスの効いた低い声。予想外すぎる事態に、七海の思考は完全にフリーズし、その体に明らかな『隙』が生まれた。
実戦において、その隙は致命傷だ。私は滑るように七海の懐へと踏み込み、彼の足元を刈るように鮮やかな足払いを放った。
「うわっ!?」
七海の身体は空中で綺麗に半回転し、見事に背中からグラウンドに叩きつけられた。
「はい、一旦ストーップ!」
見学席から五条が手を叩く。私は倒れて呆然としている七海を見下ろしながら、フゥと息を吐いた。
「ダメじゃないか七海。敵は急に予想外な手でこちらの虚をついてくる時もあるんだから。常に最悪の事態を想定して動かないと」
歩み寄ってきた夏油が、腕を組みながらいかにも真面目な先輩風を吹かせて説教を垂れる。それに続くように、五条が腹を抱えて吹き出した。
「ぷっ、あはははは! 傑の言う通りだけどさぁ! あー、笑うの我慢するのキツかったわ! 硝子のあの口調って初対面の時以外聞いたこと無かったしさぁ」
「……な、なんですか、これは……」
背中を打った痛みよりも、状況が理解できないという顔で七海が呻く。私は手を彼に差し出しながら、口の端をニヤリと吊り上げた。
「教室での歓迎会に続いて、サプライズその2、『私の本性大公開』だ。だまし討ちみたいになったのは悪かったけど、夏油の言う事も正しいから気を付けろよ」
私がそう種明かしをすると、七海は差し出された私の手を取り、砂まみれになりながら立ち上がった。彼は深く息を吐き、少しだけ胃の辺りを押さえた後、極めて真面目な顔で頷いた。
「……なるほど。確かに夏油先輩の言う通り、実戦では何が起こるか分かりませんし、私の油断です。非常に腹立たしいやり方ですが……理にはかなっていますね。……もう一回、お願いします」
「おっ。言うねえ、七海」
理不尽にキレるでもなく、すぐに反省して喰らいついてくる。その真面目さと根性は私の琴線を大いに刺激した。
「すげー! やっぱり家入先輩、ただものじゃないって思ってました! 七海が終わったら次は俺もお願いします!」
見学席から、なぜか目をキラキラさせた灰原がぶんぶんと手を振っている。彼も彼で、この狂った状況に対する順応力がずば抜けていた。
私は再び構えを取る七海に向き直り、獰猛な笑みを浮かべた。
「よし、来い。呪術界ってのはイカれた奴しかいないからな。その真面目すぎる性根、私が実戦形式で叩き直してやるよ」
◇ ◇ ◇
そのしばらく後。
「シィィッ……!!」
鋭い呼気と共に、目の前の灰原から猛烈な蒸気が噴き上がる。彼の生得術式『蒸気呪法』。体内で呪力を燃やし、そのエネルギーを蒸気機関のように変換して身体能力を爆発的に引き上げる、近接戦闘に特化した術式だ。
灰原が踏み込むと同時、グラウンドの土が大きく抉れた。目に見えるほどの推進力を得た灰原が、砲弾のようなスピードで私の懐へと突っ込んでくる。右の拳には、大木をへし折るほどの呪力が込められていた。
凄まじい速度と威力。普通の術師なら、反応すらできずに吹き飛ばされていただろう。だが、速いと言っても動きが単調すぎる。ある程度の強さの相手だと避けられてカウンターを入れられてしまうだろう。こんな感じに。
私は半歩だけ右へ踏み込み、灰原の直線的な右ストレートが私の頬の横を通過した瞬間、突進のベクトルをそのまま利用して、足を引っ掛けた。
「うわっ!?」
灰原の身体は空中で一回転し、背中からグラウンドに叩きつけられた。
「いっ、たた……」
砂まみれになって倒れ込む灰原を見下ろし、私はため息をついた。
「お前、自分の上がった身体能力に振り回されてるぞ。速く動こう、強く打とうとするあまり、全身が力みっぱなしだ。だから動きが直線的になって、フェイント一つ挟めない大振りになる」
「はいっ、それは自分でも思ってました!」
「『真っ直ぐ行ってぶっ飛ばす』みたいな動きは相手との実力差があるか、相手が視認できないほどの速さじゃない限り当たらないだろうから、その速さを維持しつつフェイント混ぜれたり出来れば私も普通に当たりそうだから訓練あるのみだな」
「は、はいッ!! 家入先輩、もう1回お願いしますッ!」
ボロボロになりながらも、灰原は目をキラキラと輝かせて立ち上がってくる。素直で飲み込みの早い、教え甲斐のある後輩だ。
ちなみに、もう一人の可愛い後輩である七海建人はといえば。
「…………」
グラウンドの端の方で、うつ伏せに倒れたままピクピクと痙攣していた。
先程のだまし討ちのあと、七海と再度組手を行ったのだが、基本に忠実すぎるが故に、私の変則的なフェイントと足技のラッシュに手も足も出ず、ものの数分で疲労からか私の蹴りの直撃を食らい、あんな感じになってしまった。
(ま、最初はあんなもんだろ。七海は筋がいいみたいだから、訓練すればもっと強くなるだろう)
そんな事を思いながらも私は再び突っ込んでくる灰原の攻撃をいなし、訓練を続けた。
――約十分後。
「はぁっ、はぁっ……!」
「よし、今日はこれくらいにしておくか。飲み込みは悪くないぞ、灰原」
大の字になって倒れ伏す灰原を見下ろし、私はジャージの埃を払いながら頷いた。純粋な格闘技術のみで圧倒してみせた私に対し、灰原は完全に『尊敬する師匠』を見る瞳を向けている。
キュルルルル……。
と、その時。灰原のお腹から、情けない虫の音が鳴り響いた。
「あ、すみません。やっぱりこの術式使うとお腹空いちゃって……」
「ははっ、よく頑張った。いっぱい食って筋肉つけろ」
私は灰原の頭をポンポンと撫でると笑顔で告げる。
「じゃあ頑張ったご褒美に今日は私が奢ってやる! そこに転がってる七海も起こして一緒に行くぞー!」
「本当ですか!? 家入先輩、俺、一生ついていきますッ!!」
灰原が犬のように尻尾を振って歓喜の声を上げた、その瞬間だった。
「おっ、マジ? じゃあ俺らもごちになりまーす!」
「悪いね硝子。たくさん食べるから覚悟しておいてくれよ」
いつの間にか立ち上がっていた五条と夏油が、さも当然のように便乗してくる。私は顔を引きつらせながら、二人の脛を軽く蹴り飛ばした。
「はぁ? 何でお前らまでちゃっかり奢られる気でいるんだよ。金持ってんだから自分らで払えバカ」
こうして、私たちは疲労困憊の七海を引きずり、電車を乗り継いで東京の山奥にある高専から賑やかな街へと繰り出していった。
◇ ◇ ◇
移動に一時間弱を要したため、その日の少し遅めとなった昼食は、街中のハンバーガーチェーンだった。
テーブルの半分を占拠しているのは、燃費の悪い灰原と、戦闘スタイル上カロリー消費が激しい私の前に築き上げられた、ハンバーガーの山である。
「お前ら、よくそんなに食えるね……。特に硝子。絶対太るぞー」
ポテトをつまみながら、五条がデリカシーの欠片もないドン引きしたような声を上げる。私はコーラを一口飲んでから、鼻で笑って五条を一瞥した。
「おい五条、私の代謝と運動量を舐めるなよ。それに、これだけ食っても腹にはつかないから平気平気。どうも全部、胸と尻の栄養になってるらしいからな」
「ぶぅっ!? げほっ、ごほっ!!」
私がシャツの上から自分の豊かな胸を張りながらあけすけに言い放つと、向かいの席でハンバーガーを囓っていた七海が盛大にむせ返った。
「な、七海!? 大丈夫!?」
「ごほっ……い、家入先輩、女性が公衆の面前でなんという……げほっ!」
顔を真っ赤にして咳き込む真面目な七海の背中を、灰原が慌ててさすっている。夏油がやれやれと首を振りながら、紙ナプキンを七海に差し出した。
「落ち着きなよ七海。硝子は見た目に反して、中身の図太さはおっさん並みだからね。いちいち反応していたら君の胃に穴が空くよ」
「……確かに、そうかもしれませんね」
七海は深くため息をつきながらも、どこか諦めたような、それでいて少しだけ肩の力が抜けたような顔を見せた。
それからというもの、私たちは休みが合う日に5人でゲームセンターへ繰り出して格ゲーをしたり、買い食いをしたりして過ごすようになった。そんな騒がしい日常を共有するにつれ、初対面の印象が最悪だったせいで警戒心剥き出しだった七海とも、だいぶ打ち解ける事ができるようになっていった。
……もっとも、五条とだけは根本的に性格が合わないようで、七海は彼に対してのみ、相変わらずだいぶ辛辣な態度を貫いていたが。
◇ ◇ ◇
そんな後輩たちとの親睦も深まり、心地よい初夏の風が吹き始めた頃。
グラウンドで今日も自身の自主練を終えたあと、可愛い後輩たちと組手をして汗を流していると、遠くから五条と夏油が歩いてくるのが見えた。
「おーい硝子ー。後輩とイチャついてるとこ悪いんだけど、ちょっと緊急事態ー」
五条がひらひらと手を振りながら、間延びした声で呼びかけてくる。私は灰原に向けていた拳を下ろし、額の汗を拭いながら二人を睨みつけて声を張り上げた。
「ん?何かあったのかー?」
「さっき夜蛾センセーから呼び出しがあってさ。昨日から『行方不明者が多発している洋館』へ調査に向かっていた歌姫先輩と冥さんの連絡が途絶えているって」
五条の口から出た言葉に、私はピタリと動きを止めた。
「連絡が途絶えているって……丸二日?」
「ああ。二人の実力ならそう簡単に後れを取るとは思えないが、万が一ということもある。夜蛾先生から、私たち2年の三人で至急救出に向かえとの指示だ」
「冥さんが一緒なら大丈夫とは思うけど、歌姫は泣いてんじゃない? 助けに行くついでに泣き顔見に行こうぜー」
夏油が真面目に状況を説明する横で、五条が相変わらずの余裕ぶった態度で軽口を叩いている。私たちの不穏なやり取りを見ていた七海と灰原が、「先輩方、お気をつけて」と言い頭を下げてくる。
「ああ。七海、灰原。今日の復習しっかりやっておけよ!」
かくして私たち最強の問題児三人組は、音信不通となった先輩二人がいるという曰く付きの洋館へと、全速力で車を走らせることになったのだった。
そろそろ懐玉編突入。