TS成り代わり殴りヒーラー家入硝子さん~幽遊白書好きが呪術廻戦の世界に転生して仙水忍の『霊光裂蹴拳』を極めたら~ 作:MMOだと殴りヒーラーが好き
※注意※
捏造・独自解釈マシマシで少しずつ原作から展開が変わって行きます。
【Side:夏油傑】
カチャリ、と。
静寂に包まれた空間に、ティーカップをソーサーに置く上品な磁器の音が響いた。
東京都内、某所の高級高層マンション最上階。
つい数分前まで護衛対象である星漿体・天内理子が滞在していたその部屋は、凄まじい爆発によって外壁と窓ガラスの半分以上が吹き飛び、無惨な半壊状態となっていた。
壁が消え去った巨大な開口部からは、地上の喧騒を遠くに置き去りにした高層階特有の強い風が吹き込み、カーテンの残骸をバタバタと煽っている。
粉塵と硝煙の匂いが立ち込めるその瓦礫の山の中で、私――夏油傑は、無傷で残っていた革張りの高級ソファに深く腰掛け、ゆっくりと紅茶の香りを嗜んでいた。
「……うん。爆発の衝撃で少し焦げ臭い匂いがするが、悪くない味だ」
備え付けのキッチンで湯を沸かし、戸棚にあったティーバッグで淹れただけの簡易的なものだが、戦闘後の乾いた喉を潤すには十分すぎる。
向かいの無事だった長椅子には、おそらくこの男に気絶させられたのだろう女性を寝かせている。スヤスヤと安らかな寝息を立てており、怪我はないようだ。
(服装からして、事前資料にあった世話係の『黒井』だろうな。後で無事な事を連絡しないとな)
私は内心でそんなことを考えながら、もう一口だけ紅茶を口に含み、ゆっくりと息を吐き出した。
「……ふぅ」
「ごめんて! マジごめん! この件から手を引く! 呪詛師も辞める! 勿論『Q』もだ! そうだ、田舎に帰って米を作ろう!」
背後から、ひどく情けない叫び声が響く。
声の主は、私が呼び出した巨大な唇を持つ呪霊に絡め取られ、身動き一つ取れなくなっている『Q』の戦闘員――コークンと名乗っていた男――からだった。
『チューしようよ、ねぇチュー』
呪霊が気色悪い声で擦り寄る中、私はあえて視線を向けず無視して、優雅なティータイムを続行した。
「…………」
「聞こえてるだろ!」
あからさまな無視を決め込む私に、涙目のコークンがツッコミを入れる。私はティーカップをソーサーに置き、クスリと意地悪な笑みをこぼしつつ言葉を放つ。
「呪詛師なんかに農家が務まるかよ」
「聞こえてんじゃん!」
私の煽りに、コークンが顔を真っ赤にして吠える。だが、彼のその威勢の良さも、ただの強がりに過ぎないことは明白だった。
「学生風情が舐めやがって……! だが、ここにはエッセンさんとバイエルさんが来ている! 『Q』最強の二人だ! お前らの仲間も、あのお二人にかかれば――」
「おーい傑。下で襲ってきたやつら捕まえて硝子と一緒に持ってきたんだけど、そっちはどうだ?」
唐突に、崩壊した部屋の入り口から、聞き慣れた声が聞こえた。
「……あ?」
間抜けな声を出したコークンと共に私が振り返ると、そこには、街中を歩いていれば職務質問待ったなしの奇抜な戦闘服を着た『Q』の戦闘員二人が、気絶して簀巻きにされた状態で、悟と硝子に襟首を掴まれて引きずられていた。
そんな二人を見ながら、私はコークンに問いかける。
「ねぇ。そのエッセンとバイエルって、こいつら?」
「……この人たちですね」
絶望するコークンを尻目に、私は立ち上がりながら悟に声をかける。
「悟! こちらも終わった。どうやら襲ってきたのはこの3人で終わりのようだ。……ん?」
ふと、私は硝子の背中から、ひょっこりと顔を出した小柄な影に気づいた。護衛対象である星漿体・天内理子だ。彼女は部屋に入るなり、ソファで気絶している女性を見つけて、ハッと顔を輝かせた。
「黒井っ!!」
天内は小走りでソファに駆け寄り、スヤスヤと眠る世話係の無事を確認して、ホッと胸を撫で下ろしている。やはり、事前資料にあった世話係本人で間違いないようだ。
私は彼女を安心させるために、極めて紳士的な、優しい笑みを浮かべて歩み寄った。
「安心してくれ。彼女は気絶しているだけで、外傷はないよ。私が――」
「妾に気安く話しかけるな、変な前髪の男!」
シャアアッ!!
私の優しい声掛けは、親の仇でも見るかのような鋭い威嚇によって見事に遮られた。天内はそのままダッシュで硝子の元へ戻ると、彼女の腕にギュッと抱きつき、私のことを睨みつけてくる。
「……えっ? 私、何か嫌われるようなことしたかな?」
「あーハッハッハ! ウケる! 傑、完全に不審者扱いされてんじゃん!」
私が理不尽な敵対心に固まっていると、五条が腹を抱えて笑い出した。硝子は呆れたようにため息をつくと、しゃがみ込んで天内と目線を合わせ、その頭にポンと優しく手を置いた。
「こら、理子ちゃん。夏油は確かに前髪は変だが、一応頼れる仲間だ。そっちの黒井さん?を助けてくれたのも夏油だしな。……悪いと思ったら、ちゃんと謝れるか?」
「ちょっと硝子?」
「うっ……。硝子お姉様がそう言うなら……少しだけ、感謝してやらんでもないぞ、前髪の男」
「前髪……」
私はそっとこめかみを揉みほぐし、彼女が落ち着くまでは、まともな会話を諦めることにした。
【呪詛師集団『Q』、壊滅】
◇ ◇ ◇
【Side:伏黒甚爾】
ドワァァァッ! という耳障りな歓声と怒号が、スピーカーから流れる実況の声を掻き消す。
水面を切り裂くボートのモーター音をBGMに、俺は手元のハズレ舟券をくしゃりと丸め、無造作に足元へ捨てた。
「……チッ。また外れか」
気怠く首を鳴らし、次のレースの出走表に目を落とそうとした、その時だった。
「居た居た。おい禪院、連絡した場所から動くなよ。いちいち探しちまったじゃねぇか」
背後から、聞き慣れたスーツの男の声がした。
裏の仕事を斡旋している仲介人、
「もう禪院じゃねぇ。婿に入ったんでな。今は伏黒だ」
「……そうか。わかった、伏黒な」
時雨は少しだけ意外そうな顔をした後、すぐに仕事の顔に戻って俺の隣に並んだ。
「で、盤星教『時の器の会』から、お前宛に指名の依頼があるんだが」
「盤星教? ああ、天元とかいうジジイかババアどっちかわからんやつを崇めてる非術師の集まりか。そんな奴らが俺みたいな殺し屋に何の用だ?」
「『星漿体』の暗殺だ。……受けるか?」
「パスだ。天元のお膝元だぞ? 当然、護衛には優秀な術師がついてるはずだ。わざわざ火中の栗を拾う趣味はねぇよ」
「それが、今回は少し様子がおかしい。盤星教の代表の裏に、得体の知れない『デカいスポンサー』がついたらしくてな。……提示された条件が破格だ」
「ほう?」
「前金で1億。暗殺の成功報酬は――9億。計10億だ」
ピタリ、と。
俺は出走表を追っていた目を止め、時雨の方へゆっくりと視線を向けた。
「……おい。ただの宗教法人がポンと出せる額じゃねぇな。俺を嵌めるための罠か?」
俺の放った鋭い殺気に、時雨は動じることなく煙草を取り出し、火をつけた。
「俺を誰だと思ってる。盤星教の代表にも会って確認してきたし、依頼の真贋についても裏はきっちり取ってある。本物の10億だ」
「……なるほどな」
俺は殺気を引っ込め、時雨が差し出してきた茶封筒を受け取った。中には、ターゲットである星漿体の少女の写真と、数人の高専生の資料が入っている。
「護衛は3人。一人は呪霊操術を使う夏油傑。もう一人は反転術式と体術を操る術式不明の女、家入硝子。そして――」
「……へぇ」
俺は、3枚目の写真――生意気そうな丸サングラスをかけた白髪のガキの写真を見て、自然と口角を歪めた。
「五条家の坊主、『六眼』のガキか」
昔、一度だけ見に行ったことがある。背後から完全に気配を絶って近づいた俺に、唯一気づいて凄んできた、あの不気味なガキ。呪術界の頂点。
俺をゴミのように見下した『禪院家』が束になっても敵わない、才能のバケモノ。虫でも見るような、あの冷たくて見透かすような目。あれは確かに、気分のいいもんじゃなかった。
(六眼、呪霊操術、それに反転使い。それらの護衛ごと星漿体を潰すために、スポンサーは10億なんてイカれた額を用意したってわけか)
俺は再び、写真の中の『六眼』のガキに目を落とす。ただのビジネスだ。ただ、この呪術界の
「……悪くねぇ。受けてやる」
俺が封筒を懐にしまうと、時雨はフッと煙を吐き出した。
「そう言うと思ったよ。手付金はお前の口座に振り込んでおく」
「あぁ、時雨。その前金の1億のうち、3000万を闇サイトに回してくれ。星漿体に懸賞金をかける」
俺の提案に、時雨が眉をひそめる。
「いいのか? もし『星漿体』がやられたら、手付金の3000万はパー。それに、成功報酬も出るかわからんぞ」
「あっちには五条悟がいるんだぞ? ウン百年ぶりの六眼と、無下限呪術の抱き合わせだ。あいつが近くに居る限り、『星漿体』はまず殺せねぇ。だから賞金のかかっている間、連中の神経と体力を削ってもらう。金に群がってくるバカどもは、そのためのただの目眩ましだ」
俺は丸めた舟券を無造作に足元へ弾き捨て、獰猛な笑みを浮かべた。
「ジワジワと削って……一番気が抜けたところで、俺が殺す」
「頼むぜ、『術師殺し』。……あぁ、そうだ。恵は元気か?」
「………………? ……誰だっけ」