TS成り代わり殴りヒーラー家入硝子さん~幽遊白書好きが呪術廻戦の世界に転生して仙水忍の『霊光裂蹴拳』を極めたら~ 作:MMOだと殴りヒーラーが好き
「「「めんそーれー!!」」」
突き抜けるような青空。エメラルドグリーンに輝く海。そして、肌を刺すような強烈な太陽の光。
私たち一行は、息の詰まるような東京のアスファルトジャングルを抜け出し、日本の最南端――沖縄のビーチへと降り立っていた。
「うおおおおおっ! 海じゃ! 海じゃぞ黒井!!」
「ああっ、理子様! 走ると転びますよ!」
白い砂浜を駆け出す理子と、それを慌てて追いかける黒井さん。
黒井さんの誘拐騒ぎがあったのも早数時間前。
犯人が指定した人質交換の取引場所が何故か沖縄だったため、五条のポケットマネーでプライベートジェットを手配し、そのまま高飛びするという暴挙に出た。通常の定期便では、機内に何か仕掛けか刺客が潜んでいるリスクが高いと考えたためだ。
そして沖縄に到着してすぐに黒井さんを救出し、理子が天元様の所に行くまでの時間を遊び倒そうという話になり、沖縄のビーチに水着やアロハシャツに着替えて立っているのだった。
「ふぅ……。とりあえず、東京のジメジメした空気よりはマシだな」
私は首を鳴らしながら、着ていたラッシュガードのジッパーを下ろし、バサリと砂浜へ脱ぎ捨てた。普段胸をガチガチに縛り付けている『さらし』も今は外している。
「おおお……っ!」
波打ち際で遊んでいたはずの理子が、私の姿を見て感嘆の声を漏らし、マジマジとこちらを見つめてきた。
私が選んだ水着は、装飾の一切ない
前世はむさ苦しい男だった私が、今世ではなぜか身長も170センチを超え、バストは90の半ばに達している。尻も育ってしまっているが、日々の過酷な格闘トレーニングのおかげか、柔らかそうな胸や尻の肉感に対し、腹部には
「硝子お姉様……すっ、すごいプロポーションじゃ……! 腹筋割れておるのに、お胸はそんなに……くっ、完璧に負けた気がする……!」
「アホか。こんな脂肪の塊、戦う時には重心がブレるだけで邪魔なんだよ。お前もいっぱい食ってよく寝りゃ嫌でもデカくなる」
「そういう問題じゃない気がするのじゃが……」
理子が自分の胸元と私を交互に見比べて謎の敗北感を味わっていると、背後からザクッ、ザクッと砂を踏む足音が近づいてきた。
「おー。黙ってれば脳筋ゴリラ女とは思えないよなー。スタイル『だけ』は無駄に良いし」
「馬子にも衣装というやつだね。まあ、口を開くか動くかすれば、三秒でメッキが剥がれるだろうが」
振り返ると、派手なアロハシャツに身を包み、冷たいジュースを啜っている五条と夏油が立っていた。二人とも、私を『女』として見る気など微塵もない、いつもつるんでいる悪友が珍しい恰好をしている、というからかいの目を向けていた。
「……テメェら、東京湾じゃなくて沖縄の海に沈めてやろうか?」
私は青筋を立てると、足元に転がっていたビーチバレーのボールを拾い上げ、軽くトスを上げ、軸足を砂に沈み込ませた。そして、普段は呪力玉でやっている
――ドバァンッ!!
砲弾のような音を立てて飛んだボールは、五条の顔面の数センチ手前――『無下限呪術』の壁に阻まれ、ピタリと静止して砂浜にボトリと落ちた。
「おい、無下限張ってなかったら直撃してるだろ。傑、後であいつの夕飯のソーキそばに
「ふふっ、名案だね」
ケラケラと笑う悪友二人。私は「チッ」と舌打ちしつつも、どこか心地よいこの『青い春』の喧騒に、思わず口角を上げていた。
◇ ◇ ◇
一方、その頃。
沖縄、那覇空港のロビーにて。
「……どう考えても、一年に務まる任務じゃないでしょう」
東京に残されたはずの1年、七海建人は、空港の喧騒の中で深く、本当に深いため息をついていた。
彼らは高専からの指示で、万が一に備えた護衛のバックアップとして急遽沖縄の空港へ派遣されていたのだ。
プライベートジェットとはいえ、離発着時の滑走路やターミナルは敵に狙われやすい最大の弱点になる。その周辺警戒と安全確保こそが、彼らに与えられた任務だった。
「そんなことないって、七海! 僕は燃えてるよ!」
対照的に、隣に立つ同期の灰原雄は目をキラキラと輝かせ、両手で拳を握り込んでいた。
「この大役、先輩たちにいいとこ見せたいからね! いたいけな少女のために、先輩達が今頃、身を粉にして頑張ってるんだ! 僕たちが頑張らないわけにはいかないよ!」
「……あなたのその純粋さは美徳ですが、時々眩しすぎます」
七海が胃の辺りを押さえながら、真っ直ぐすぎる同期に呆れ半分、感心半分の視線を向けていた。
彼は信じて疑っていなかったのだ。尊敬する先輩たちが今この瞬間も、星漿体という重い運命を背負った少女のために、血の滲むような死闘を繰り広げているのだと――。
◇ ◇ ◇
「ブハハハハハ! ナマコ! ナマコ!!」
「キモッ! キモなのじゃー!!」
白い砂浜の上で、五条が黒くてぬるぬるしたナマコを片手に爆笑し、理子もそれを見て笑っていた。身を粉にするどころか、120パーセント全力で沖縄の海を満喫している光景である。
「あははは! ほら、いくぞー!」
「お返しじゃー!」
五条が容赦なくナマコを投げつけ、理子がそれを砂ごと投げ返す。私はパラソルの下でトロピカルジュースを飲みながら、小学生レベルのじゃれ合いをしている二人を呆れた目で眺めていた。
隣のパラソルの下では、夏油と黒井さんが静かに話し込んでいる。
「本当に、申し訳ありません……。私が油断して、不意を突かれたばかりに……」
「気に病むことはないよ、黒井さん。相手は呪力を持たない非術師だった。呪力持ちがいなかったから大丈夫だと判断した、私と悟が甘かったんだ」
深く頭を下げる黒井さんを、夏油が優しく慰めている。それを横目で見つつ五条の周囲に違和感を覚える私。
(良く見たらナマコに直接触れずに持っている? 海水にも濡れていない、か……?)
一通りの会話を終えた夏油は、手元の携帯電話で時間を確認すると、パラソルから立ち上がって海辺の五条に声をかけた。
「悟。そろそろ手配していたフライトの予定時刻だ。パイロットも待機している頃だろう、空港へ向かおう」
「んー? ああ、それなんだけどさ」
五条はサングラスを押し上げ、理子と夏油、そして私を順番に見渡して、軽い調子で言い放った。
「フライトプラン、明日の朝に変更させといたわ」
「……え?」
理子が目を丸くする。夏油も少しだけ驚いたように目を見開いた。
「悟、いいのかい? タイムリミットは明日の満月だ。今から高専に戻れば、一番安全な結界内でゆっくりと――」
「いいじゃん、沖縄に入ってから追手は来ないから見失ったか諦めたんだろ。それに天内、まだ遊び足りないだろ?」
五条の言葉に、理子はパァッと顔を輝かせた後、慌てて「べ、別に妾はどっちでもいいのじゃがな!」と強がってみせた。だが、その表情は誰が見ても限界まで緩んでいた。
少し離れた場所からその様子を見ていた私は、ゆっくりと歩み寄り、五条の隣に立った。夏油も同じように近づいてくる。
理子と黒井さんが少し離れた場所にいるのを確認し、夏油が普段の優等生スマイルを消し、真剣なトーンで口を開いた。
「……悟。昨日からずっと『無下限』を解いていないね。大丈夫なのかい?」
夏油は素の、純粋な親友としての心配を口にする。私もさっき感じた違和感はそれか、と思いつつ夏油に続いた。
「さっき五条を見てたら、ナマコに直接触れないで持ち上げてたように見えたからな」
「あー、バレた?」
五条は悪びれもせず、首の後ろで手を組んだ。
「問題ねぇよ。お前らと名作アニメを2日徹夜で見てた方がむしろキツかったわ。……黒井さんの時みたいに、もう絶対見落としたくねーからさ」
その言葉の裏にあるのは、呪力を持たない刺客に隙を突かれたことへの強烈な後悔だ。五条はずっと、周囲のすべてを六眼と無下限でスキャンし続け、一睡もせずに神経をすり減らしているのだ。
「それに、傑と硝子も居るしな」
その言葉に夏油がふと、私の方へ視線を向けた。
「そういえば、硝子。君の『反転術式』で、悟の脳の疲労は治せないのかい? 肉体の傷が治せるなら、疲労物質の除去も――」
「ストップストップ。気持ちは嬉しいけどさ、傑」
私が答えるよりも早く、五条がひらひらと手を振って会話を遮った。
「自分自身で使うならともかく、他者への反転だと傷とかなら治せるけど、脳内とかは無理なはずだ」
「……っ」
五条の言葉に、私はギリッと奥歯を噛み締めた。
その通りだ。他者の肉体を修復することはできても、限界まで酷使された脳の疲労を取り除くことは、他者への反転術式では不可能だった。
(腕が斬られようが腹に風穴が空こうが、一瞬で治してやれるってのによ……!)
私が己の無力感に舌打ちし、奥歯を噛み締めていると、五条はニシシと笑って私の肩を軽く小突いた。
「そんな怖い顔すんなって脳筋ゴリラ。明日には高専の結界だ。それまでの辛抱だっつーの」
「……倒れたら、無理やり引きずって帰るからな」
「ははっ、その時はお手柔らかに頼むわ」
そう言って笑う五条を、私と夏油はただ黙って見つめることしかできなかった。
「あ、そうだ。硝子、後輩に滞在を1日遅らせるお詫び、みたいなの作らない?」
◇ ◇ ◇
一方、その頃。
沖縄にある空港のロビーにて。
「あの人たちは……一体何を考えているんですか!」
真面目な一年生、七海は、自身の携帯の画面を見つめながら、ギリッと眉間に深いシワを寄せていた。彼の横では、同期の灰原が「どうしたの七海?」と呑気にジュースを飲んでいる。
「五条先輩からメールです。当初の予定を変更し、『沖縄の滞在をもう一日伸ばす』と」
「あはは! まあまあ、先輩たちにも何か考えがあるんだよ、きっと!」
七海が頭痛を堪えるようにこめかみを押さえた、その時だった。
――ピロリン♪
再び、五条から追加のメールが届く。件名は『時間延長のお詫び』。
(『あの』五条先輩が『お詫び』……イヤな予感しかしませんがとりあえず開けてみますか)
七海がため息をつきながらメールを開くと、そこには一枚の写真が添付されていた。
青い海を背景に、『ネイビーのビキニ姿の家入硝子』が満面の笑みでピースをしつつ、更に胸元を強調したポーズを取ってカメラを向いている光景。
水滴が滴る白い肌。引き締まった腹筋。そして、さらしから解放されて暴力的なまでの存在感を放つ、豊かな胸元。
「……ッッ!?」
七海の顔が、ボッ!と瞬間沸騰したように真っ赤に染まった。
以前、ハンバーガーショップで彼女が放った『全部胸と尻の栄養になってるらしいからな』というデリカシー皆無の発言が、脳内でフラッシュバックする。
パタンッ!!
七海は弾かれたように携帯を閉じ、本体を裏返して膝の上に伏せた。
「えっ、何!? 七海、今の写真何!? 俺も見たい!」
「見ちゃダメです灰原!! 目が潰れます!!」
「ええー!? 家入先輩が写ってた気がするけど!?」
「幻覚です!! あの方たちは……本当に、悪ふざけにも限度というものがある……っ!」
顔を真っ赤にして息を荒くする七海と、不思議そうに首を傾げる灰原。真面目な後輩の胃粘膜は、沖縄の青い空の下でさらに削り取られることになったのだった。
◇ ◇ ◇
美ら海水族館で巨大なジンベエザメにはしゃぐ理子。
大盛りのソーキそばを三杯平らげる私と、それを笑って見ている黒井さんと夏油。
四人で二組に分かれ、カヤックでのんびり川下り。
賑やかな時間はあっという間に過ぎ去り、沖縄の空は、燃えるような夕暮れの色に染まっていた。
こうして、長いようで短かった沖縄でのバカンスは終わりを告げ、天元様との同化のため、高専へと戻る時間がやってくるのだった。
◇ ◇ ◇
帰りも五条のプライベートジェットで、私たちは何の問題も無く東京への帰路についた。
「これで終わりじゃな……楽しかったぞ! お主ら、本当にありがとう!」
飛行機の中で、理子が満面の笑みで私たちにお礼を言う。
やがて車を乗り継ぎ、私たちは見慣れた山の風景――東京都立呪術高等専門学校の参道へと足を踏み入れた。
「……ふぅ。着いたな」
鳥居をくぐり、高専の結界の内側へと入った瞬間。
夏油が安堵の息を漏らし、五条の肩から、数日間の呪縛のような緊張がフッと解け落ちるのを感じた。
「お疲れ、悟。これで安全だ」
「ふぅ……二度とガキのお守りはごめんだな」
誰もが「無事に帰還できた」と気を抜き――五条が『無下限』を解除した、まさにその刹那だった。
――トスッ。
どこから現れたのかすら分からない異常な速度で肉薄した男は、五条の背後から、その身体の中心を刀で深々と刺し貫いていた。
「……がっ、は」
五条の口から大量の鮮血が吐き出され、ドクドクと黒い制服を赤く染めていく。
突然の凶行。その光景のあまりの現実離れした異常さに、私と夏油――そして、背後にいた理子たちの思考すらもが、コンマ一秒だけ完全に停止した。
だが、胸を刃で貫かれた五条は、決して崩れ落ちることはなかった。
「……アンタ、どっかで会ったか?」
「気にすんな。俺も苦手だ、男の名前覚えんのは」
五条の身体に刃を突き立てたまま。
男――『術師殺し』伏黒甚爾は、ひどく面倒くさそうに、それでいて凶悪な笑みを浮かべて言い放った。