TS成り代わり殴りヒーラー家入硝子さん~幽遊白書好きが呪術廻戦の世界に転生して仙水忍の『霊光裂蹴拳』を極めたら~ 作:MMOだと殴りヒーラーが好き
戦闘描写難しい。
※今話の捏造設定※
呪霊操術で操っている呪霊に天逆鉾で斬ったらどうなるの?というのが不明だったので、『呪霊玉』へ戻ってしまう、という事にしました。
理子の頭部を貫くはずだった凶弾は、彼女の前に覆い被さった私の右胸から肩口にかけての肉を、情け容赦なく粉砕して貫き通した。
「硝子、お姉様……?」
私の腕の中で、理子が呆然と私を見上げる。私の傷口から吹き出した赤い血が、理子の頬にポツリと跳ねた。
「気付かれたか。今ので星漿体を殺せれば楽だったんだがな」
背後から響いた、気怠げな声。負傷した私と理子を庇うように一歩前に出た夏油が、信じられないものを見るような声で呟いた。
「なんで、オマエがここにいる」
「なんでって……あぁ、そういう意味ね」
夏油の問いに。男――伏黒甚爾は、口の端を凶悪に歪め、当たり前のような顔で言い放った。
「五条悟は、俺が殺した」
ピキィィン、と。
夏油の中で、何かが決定的に壊れる音がした。
「――そうか。死ね!!」
普段の冷静な優等生の面影は、そこには微塵もなかった。夏油の全身から、どす黒く、禍々しい怒りの呪力が爆発的に膨れ上がる。夏油が手をかざした瞬間、足元や背後の空間が歪み、巨大な呪霊たちが次々と顕現した。
一つは、夏油の手持ちの中で巨大な龍の呪霊である『
「硝子! 理子ちゃんを巻き込まない位置に遠ざけてくれ!」
夏油がそう怒鳴ると同時、呪霊たちが一斉に甚爾へと襲いかかる。
「おいおい、焦るなよ」
飛来する呪力の砲弾や呪霊の猛攻を、最小限の動きで躱しながら、甚爾が呆れたように肩をすくめる。夏油と甚爾が戦闘を開始したその後方で、私の腕の中にいる理子がパニックに陥り、ボロボロと大粒の涙をこぼしていた。
「硝子お姉様っ! 血が、血がいっぱい……っ! 妾を庇って……っ!」
「泣くな、理子。……痛ぇな、クソが」
私は悪態をつきながら、自身の右肩へ『反転術式』のエネルギーを流し込んだ。シュウゥゥッ!と激しい白煙が上がり、粉砕された肉と骨が一瞬にして再生していく。
「ほら、すぐ治るから大丈夫だ。それより、夏油が言ったように巻き込んじまうから、離れて物陰に隠れてろ」
「で、でも……!」
「いいから行け!」
理子の背中を押して遠くの安全な物陰へと下がったのを確認し、私は夏油のもとへと向かいながら叫ぶ。
「おい夏油! 怒りで先走るな、私が前に出る! お前はそこから呪霊で弾幕を張れ! 前衛は私が引き受ける!」
「っ、すまない。わかった、援護に回る!」
私が前線へと飛び出したのと同時。
上空からの呪力の雨を避けた甚爾の眼前に、夏油の操る巨大な呪霊『
だが、甚爾は迫り来る巨大な牙を前にしても、歩みすら止めなかった。
「邪魔だ」
無造作な一閃。
刃がぶつかるような鈍い音すらしなかった。
ただ、甚爾が手にした幅広の刀『
「馬鹿な……っ! 最高硬度の虹龍だぞ!?」
夏油が驚愕に目を見開く。だが、私はその驚愕に構うことなく、虹龍を両断して刃を振り抜いた直後の甚爾の隙を狙い、死角から一気に踏み込んだ。
「シィッ!」
大気を叩き割るような鋭い呼気と共に、右の上段回し蹴りを甚爾の側頭部めがけて放つ。
「……ほう」
当たる。そう確信した一撃を、甚爾はわずかに首を傾けただけで、紙一重で躱してみせた。
そして甚爾は、蹴りを放って体勢が伸びきった私の隙を見逃さない。躱した反動をそのまま殺意へと変換し、私の胴体を真っ二つにしようと『釈魂刀』を横薙ぎに振るってきた。
蹴りを振り抜いた足を即座に地に着けて体勢を安定させた私は、迫り来る刃から逃げるのではなく、あえて自ら踏み込んだ。そして、釈魂刀の刃の腹部分を、素手の手のひらで正確に叩く。
「っ!?」
ガキンッ! と乾いた音が響く。甚爾の凶刃の軌道が、私の受け流しによって強引に外側へと逸らされた。
「今だ、夏油!!」
体勢を崩した甚爾めがけ、夏油がすかさず複数の飛行呪霊による遠距離からの呪力砲を一斉掃射する。
「チッ……!」
甚爾は舌打ちをし、追撃を避けるために一気に後方へと跳躍した。常人には目視すら不可能な高速のバックステップ。
だが、その着地の瞬間。
「……っ」
甚爾の顔が、微かに苦悶に歪んだ。彼の手が、自身の脇腹――五条悟の渾身の一撃によって砕かれた肋骨の辺りを押さえている。
(……なんだ? 五条との戦闘で負った傷か?)
「ふぅ……」
だが、甚爾はすぐに荒い息を整え、再び静かな殺気を放ち始めた。
「さっきの刀の弾き……ただの呪力強化のゴリ押しじゃなく、技術か。本当に最近のガキはどうなってんだか」
甚爾が感心したように呟き、再び地を蹴った。先ほどと同じ、あるいはそれ以上のスピード。私は再び迫る釈魂刀に対し、同じように刀の腹を叩いて弾いて受け流し、受け流すと同時にカウンターで蹴りを放つ。
普通ならそこで体勢を崩し、隙を晒す場面だ。だが、天与呪縛の肉体はその慣性すら嘲笑う。弾かれたはずの刀身が、甚爾の純粋な力だけで無理やり軌道を変え、カウンターの蹴りを放とうとしていた私の右脚めがけて吸い込まれるように迫ってきた。
「しまっ――!?」
――スパンッ。
「ぐっ……!」
どうにか途中で脚の軌道を変えた私の右脚が、深く斬り裂かれた。肉が断たれる嫌な感触と共に、赤い血が空中に舞う。
(クソ、なんて奴だ! 強引に脚を引いて斬り落とされるのだけは免れたが……! まあいい、この程度の傷なら反転で一瞬で――)
私はバックステップで距離を取りながら、斬られた脚へ瞬時に反転術式を回した。しかし。
「……は?」
傷が、治らない。
いや、治ろうとはしている。しかし、まるでパズルのピースが足りないかのように、肉体の修復が途中でストップしてしまうのだ。ただの斬り傷ではない。魂そのものを削られたような、根本的な『欠落』の感覚。
「こいつは『釈魂刀』。あらゆる物質の硬度を無視して、その『魂』を直接切り裂く呪具だ。魂の輪郭がわかってねぇ奴の反転術式じゃ、この刀の傷は治せねぇよ。――大人しく刻まれとけ」
驚愕して足が止まった私を見据え、甚爾がトドメの追撃をしてくる。
「――『ねぇ。わた、わタ、わたし、きれい?』」
その時。
甚爾の背後に、巨大な鋏を持った仮想怨霊『口裂け女』が音もなく出現した。と同時に、口裂け女を中心とした『簡易領域』が展開される。
「仮想怨霊……質問に答えるまで、お互いに不可侵を強制する簡易領域か」
甚爾の動きが、口裂け女の簡易領域のルールによってピタリと静止する。
「今だ、硝子! 下がれ!!」
「すまん、助かった!」
私は甚爾の追撃から逃してくれた夏油に礼を言いつつ、脚から大量の血を流しながらもバックステップで後退した。
『わたし、きれい?』
血塗られた巨大な鋏を打ち鳴らしながら、口裂け女が甚爾へ向けて不気味に首を傾げる。だが、甚爾はその異形の問いに対し、軽く笑みを見せつつ答える。
「あー、そうだな。ここはあえて――趣味じゃねぇ」
甚爾がそう吐き捨てると同時。彼の周囲に巨大な鋏が幾つも出現し、甚爾を切り刻もうとする。
「そういう感じね」
甚爾は慌てる素振りも見せず、格納呪霊の中に潜ませていた特級呪具――あらゆる術式を強制解除する『天逆鉾』を抜き放ち、目にも留まらない速度で振り抜く。
ガシャァァァンッ!!
耳障りな破砕音と共に甚爾を取り囲んで切り刻もうとしていた鋏が砕け散る。同時に、口裂け女の身体も一瞬にして切り裂かれ、霧散した。
甚爾は遠くへ下がった私と夏油を面倒くさそうに一瞥した。そして、刀の切っ先を私へ向けて、口の端をニヤリと歪める。
「どっちかというと、そっちの高専の嬢ちゃんの方が、顔は極上だし綺麗だな。……まぁ、可愛げが全くねぇから、俺のパトロンには向かねぇタイプだ」
「顔だけで生きてるヒモ男を養う趣味はねぇよ。クソが」
私が中指を立てて吐き捨てると、甚爾は「確かにオマエはヒモ男とはタイプが合わなさそうだ」と喉の奥で笑った。直後、口からゴフっと吐血する甚爾。
「……ちっ。五条の坊主にやられた脇腹のせいか。ここからは少し攻撃を変えさせてもらうぞ」
甚爾が格納呪霊からズルリと引きずり出したのは、無骨な鎖――特級呪具『
「夏油、何かやらせる前に弾幕を張れ!」
「ああ、わかっている!」
上空に待機していた飛行呪霊たちが、甚爾めがけて一斉に呪力の砲弾を降らせた。
だが。
「遅ぇな」
甚爾が手首をスナップさせると、万里ノ鎖が生き物のように空へと伸びた。この呪具の能力は、片方の端を観測されなければ、際限なく伸び縮みが可能というもの。伸ばした後に縮ませる事で空中での軌道変更すら可能となる。
天逆鉾を先端に付けた鎖は、空中で鋭角に軌道を変え、降り注ぐ呪力の砲弾を次々と相殺していく。そればかりか、瞬時に長さを伸ばしつつ振る事で上空にいた飛行呪霊たちをハエでも叩き落とすように次々と撃ち落としていった。そして、天逆鉾に貫かれた呪霊たちは夏油が取り込む前の玉へと戻って行く。
「クソッ、なら私が近付いて止める!」
私は、反転で治らないため血が流れっぱなしの脚の痛みを気合でねじ伏せ、地を蹴ろうとした。
先ほどの釈魂刀の一撃は、骨にこそ達しなかったものの、私の太ももの筋肉を深く抉っていた。踏み込むたびに痛みが走り、本来のスピードが出ない。
私がもたついたその一瞬。私よりも早く、甚爾の口元が凶悪に歪んだ。
「目障りなハエはあらかた落とした。……なら、そろそろ終わりにしようぜ」
甚爾が格納呪霊の口を叩く。すると、中から無数の低級呪霊――『
「チッ、目眩ましか!」
「気を付けろ硝子! あの鎖付きの武器が、死角から飛んでくるかもしれないぞ!」
蠅頭の群れが、私と夏油の視界を真っ黒に覆い尽くす。
私は神経を研ぎ澄まし、鎖が飛んでくる音を探る。だが、右、左、上。無数の蠅頭の羽音に紛れて、どこから攻撃が来るのか全く予測できない。
(どこだ……!? 私か、それとも夏油か……!)
極限の集中の中。
蠅頭の壁の向こうから、甚爾のひどく冷たい、事務的な声が響いた。
「……元々、俺は別にオマエたちを殺すのが目的じゃあ無いんだよ」
その言葉の意味を理解した瞬間。私の全身の血の気が、一気に引き裂かれたように冷え切った。
「しまっ――!!」
天与呪縛によって極限まで強化された五感。
彼は激しい戦闘の最中も、常に私たちの背後――遠くの物陰に隠れていた理子の微かな呼吸音と心音を探り続け、完全にその位置を特定していたのだ。
――ドスッ!!
生々しい、肉を貫く音が薨星宮に響いた。
「が、はっ……」
ごく短い、掠れた声。
私と夏油が、弾かれたように背後を振り返る。
視界の先。暗い物陰の奥から、セーラー服の胸を真っ赤に染め上げた理子の小さな身体が、糸の切れた操り人形のように力なく倒れ込むのが見えてしまった。その華奢な身体から、明らかに致命傷とわかる大量の血が流れる。
「理子ォォッ!!」「理子ちゃんっ!」
私と夏油の思考が、絶望によって完全に白く染まった。あの武器での傷なら治せる、すぐに行けば間に合う。眼前の敵がまだ健在にも関わらず、意識を完全にそちらに向けてしまったことで生じる、本来なら絶対に生んではいけない『意識の空白』。プロの殺し屋が、その隙を見逃すはずがなかった。
「……よそ見してんじゃねぇよ」
鎖から手を離し身軽になった甚爾が、すでに私たちの背後へと肉薄していた。振り上げられたのは、魂を切り裂く特級呪具『釈魂刀』。理子の方へ意識を向けてしまっていた私たちには、もう回避はおろか、防御すら間に合わない。
「……がっ、は……!」
「ご、ふっ……」
無慈悲な刃が、私と夏油の身体を情け容赦なく切り裂いた。
私の右胸から腹にかけて、そして夏油の肩口から胸へ斜めに、致命傷とも言える深い裂傷が刻まれる。鮮血が宙を舞い、私たちはそのまま血溜まりの広がる冷たい床へと崩れ落ちた。
(……あ、あァ……)
床に倒れ伏し、薄れゆく意識の中。私は、甚爾が自身の脇腹を強く押さえ、忌々しそうに顔をしかめているのを見た。
「……呪霊操術のガキは、主を殺すと取り込んだ呪霊がどうなるか分からねぇから、元から殺さねぇように斬った。だが……反転使いの嬢ちゃん、オマエは確実に殺す気だったんだがな」
甚爾が、ひどく忌々しそうに自身の脇腹を叩く。
「……チッ。あの白髪のガキの置き土産が、また痛みやがった。……おかげで、踏み込みと軌道がずれちまったじゃねぇか」
五条が渾身の力で砕いた肋骨。
その痛みが、甚爾が私を斬り裂いた瞬間の動きを狂わせていたのだ。あのイキり白髪の残した意地がなければ、私は確実にこの場で即死していたのだろう。
「……ま、いい。その出血量だ。放っておいてもすぐ死ぬだろ」
甚爾が、ゆっくりと歩き出す。
私は動かない腕を必死に動かそうとするが、もう指一本まともに動かせない。夏油も、大量の血を流して完全に意識を手放している。
「じゃあな。星漿体の死体は貰っていく」
甚爾が、倒れ伏す理子の遺体を無造作に抱え上げた。そして、私たちにはもう目もくれず、そのまま薨星宮の暗闇の中へと姿を消していく。
五条の死、そして守れなかった少女の死。圧倒的な敗北感と、ドス黒い絶望。私はただ、自分の血が広がる冷たい床の上で、意識が今にも沈みそうになるのを耐えながら、ヤツが自分から言っていた『魂の輪郭』を掴もうとしていた。