TS成り代わり殴りヒーラー家入硝子さん~幽遊白書好きが呪術廻戦の世界に転生して仙水忍の『霊光裂蹴拳』を極めたら~ 作:MMOだと殴りヒーラーが好き
今回の幕間では、『例のあの人』の動向について、作者独自の解釈と捏造が含まれています。「もし、あの事件が偶然ではなかったとしたら?」という捏造設定になります。
時は少し遡る。
薄暗い一室で、頭部に不気味な『縫い目』を持つ一人の女が、集められた裏社会の資料を眺めて艶やかに嗤っていた。
現在、彼女は、自身の結界術のネットワークと縛りを結んだ呪霊たちを総動員し、ある特級呪物――『獄門疆』を血眼になって探している最中だった。
理由は単純である。
天元と同化する『星漿体』、そしてそれを護る『六眼』の暗殺は、過去に二度試みて「無意味だ」と悟ったからだ。
彼らは『因果』という強固な運命の鎖で結ばれている。赤子のうちに殺そうとも、同化の当日には必ず代わりが現れ、同化を果たしてしまう。だからこそ、六眼は殺害ではなく『封印』という手段をとるしかないと結論付け、あの呪物を求めていた。
――だが。
情報収集の過程で裏社会の噂を探っていた彼女の目に、とある『異端』の存在が留まった。
真に完成されたフィジカルギフテッド。天与の暴君、禪院甚爾。呪力から完全に脱却した、因果の枠組みに一切縛られない『唯一のイレギュラー』。金を積めばどんな呪術師でも暗殺する、プロの殺し屋。
「……面白い」
女の整った顔に、底知れぬ知的好奇心と、おぞましい歓喜の色が浮かぶ。
(あの男が星漿体や六眼とぶつかれば、一体どうなる? 呪力を持たない彼ならば、強固な運命の鎖すらも物理的に破壊できるのではないか?)
千年に及ぶ途方もない計画を、コツコツと気の遠くなるような積み重ねで進めてきた彼女にとって、この程度の寄り道と出費など安いものだ。
湧き上がった好奇心を満たすため、彼女は即座に行動を開始した。
天元と星漿体の同化阻止を目論む宗教団体『盤星教』に接触し、莫大な資金を提供する大口スポンサーの座に収まる。そして、盤星教が星漿体暗殺を依頼する先として、たった一人の男を指名したのだ。
「せいぜい楽しませておくれよ、禪院甚爾」
暗闇の中、縫い目を持つ女の口元が、三日月の形に歪んだ。
◇ ◇ ◇
それから時は少し進み。
禪院甚爾が高専の結界を破り、五条悟の背後から刃を突き立てた時から、少し経った時刻。
東京都内、某所。
宗教団体『盤星教』の本部にある薄暗い奥室で、頭部に縫い目を持つ一人の女が、空中に映し出された映像を見つめて艶やかに嗤っていた。
「……素晴らしい。本当にやり遂げるとはね」
映像は、彼女が事前に高専へ放っていた『視覚を共有する微小な呪霊』が映し出しているものだ。
そこには、六眼を持つ呪術師・五条悟が血を吐いて倒れ伏す姿から始まり、禪院甚爾が星漿体を殺し、護衛の術師たちも血だまりに倒れ伏すまでの光景が鮮明に映し出されていた。
「六眼と星漿体、そして天元。それらを繋ぐ強固な『因果』の鎖が、たった一人の呪力を持たないイレギュラーによって、こうも呆気なく物理的に破壊されるとは」
数百年もの間、他者の肉体を渡り歩きながら呪術界の暗部に潜み続けてきた女は、己の仕掛けた実験の完璧な結果に、ゾクゾクとした歓喜を覚えていた。
映像の中で、禪院甚爾は星漿体の死体を持って地下の薨星宮から地上へと戻って行く姿が見える。それを確認した女は、映像の隅――薨星宮の入り口の扉の前で、甚爾に殺され倒れ伏している世話係の女へと視線を向けた。
「星漿体の世話係……。星漿体の近くに居た者にも何かしらの因果が発生しているかもしれないな。念のため、あの遺体から血液や髪を採取しておくか。……後々、何かの役に立つかもしれないからね」
これで六眼は消え、星漿体の同化は阻止される。天元はいずれ人間としての形を保てなくなり、高次へと進化する。
◇ ◇ ◇
――そして。
時は進み、現在。
伏黒甚爾が星漿体の死体を盤星教へ納品し、多額の報酬を得て立ち去った直後。
「あなたには感謝してもしきれません! これで、天元様は純粋なまま――」
ズチュッ。
歓喜に満ちた盤星教代表・園田の言葉は、目前に立っていた女の手から放たれた呪霊によって、頭ごと噛みちぎられていた。頭部から大量の血を溢れさせ、そのまま床に崩れ落ちる園田。
「純粋、ねぇ。お前たちのような頭の悪い非術師の信仰など、私にはどうでもいいことだよ」
女はひどくつまらなそうにため息をつくと、血を避けるように園田の死体を跨ぎ、白い布に包まれた天内理子の遺体へと歩み寄った。
「星漿体の同化は防いだ。いずれ進化し理性を失った天元を掌握する際……この『器』の肉体情報が鍵として役に立つかもしれない。遺体は私が保管しておこう」
星漿の遺体を自身の呪霊へと収納しようとした、その時だった。
――ビリッ。
「……ん?」
盤星教の外。つまり、今自分がいるこの建物のすぐ外から、空間そのものを軋ませるような、異常極まる呪力の高まりが肌を撫でた。
(なんだ、この異常な気配は……? 禪院甚爾は今しがた建物の外へ出たはずだが、あいつは呪力を持たない。なら、この気配は誰だ?)
女は即座に気配を完全に殺し、再び空中に『外部の映像』を映し出した。
「なっ……!?」
映像を見た瞬間、数百年の時を生きる女の顔から、余裕の笑みが完全に剥がれ落ちた。
そこに映っていたのは、建物のすぐ外の敷地内で対峙する二人の男。一人は、先ほど多額の報酬を受け取って帰ったはずの天与の暴君。
そしてもう一人は――頭から大量の血を流し、ハイにでもなったかのように虚空にフワリと浮遊している、六眼の少年。
「五条……悟……!? なぜ生きている!」
女の額に、タラリと嫌な汗が伝う。
「監視していた映像では確かに、急所を突かれて死に絶える寸前だった。……まさか、あの死の淵で呪力の核心を掴んだというのか!?」
己が散々苦しめられてきた『六眼』という理不尽な因果。それを破壊してくれたはずの男が、今まさに、覚醒した六眼と再戦を始めている。
映像の中で、禪院甚爾が万里ノ鎖と併用した天逆鉾の攻撃を、五条悟がまるで意に介していないように躱し、圧倒していく。五条が指先で奇妙な印を結んだ。
『――虚式「
ズゴォォォォォンッ!!!
映像は、そこで途絶えた。
直後、女のいる盤星教の建物の外壁が轟音と共に吹き飛び、凄まじい衝撃波が室内を蹂躙した。規格外の呪力の奔流が、建物を掠め、その背後にあった景色を音もなく削り取って消失させたのだ。
「…………ッ!!」
もし今の射線が数メートルずれて、自分に向かっていたら。
その出鱈目な威力を肌で感じ取った女は、無意識のうちに理子の遺体を抱えて後ずさりしていた。
「……あれは、マズいな。今は引くべきだ。これ以上、あのバケモノと同じ空間に居る理由はない」
この星漿体の死体を自分が持っている姿が見つかれば、まず間違いなく自分を消し炭にしようと襲い掛かってくるだろう。そう判断した女は、極限まで呪力と気配を押し殺したまま、盤星教の裏口から、早急に撤退を開始したのだった。