TS成り代わり殴りヒーラー家入硝子さん~幽遊白書好きが呪術廻戦の世界に転生して仙水忍の『霊光裂蹴拳』を極めたら~ 作:MMOだと殴りヒーラーが好き
【今話の捏造・独自解釈設定】
夏油傑の出身地:「夏油温泉」が岩手県にあるという事で岩手県出身に。
TS硝子のプロポーションについて: 原作であのプロポーションだったので、今作のTS硝子は『よく食べ、よく寝て、毎日超ハードな格闘訓練をしている』という設定のため、原作以上のボンキュッボンに育っています。(※作者の趣味です)
一般家庭へのスカウト方法: 呪術高専からのスカウトは『政府認可の宗教系エリート校への特待生枠』という表向きの口実を使っているという独自解釈をしています。
【Side:夜蛾正道】
東京都立呪術高等専門学校。
木造校舎の一室で、筋骨隆々の巨漢————夜蛾正道は、眉間に深い皺を刻みながら、無骨な太い指先で器用に小さな針と糸を動かしていた。手元にあるのは、愛らしいフェルト生地の呪骸(ぬいぐるみ)だ。
コンコン、と控えめなノックの音が響き、襖が開く。
「夜蛾先生。例の『地方で見つかった特異な呪力持ち』についての報告書が上がってきました」
「……ご苦労」
夜蛾は手を止め、差し出された二通の資料に目を通した。
「一人目は岩手県だな」
「はい。一般家庭出身の中学生ですが、『呪霊操術』の発現が確認されました。こちらは既に現地の補助監督がスカウトに向かっています」
「呪霊操術……確か、降伏した呪霊を黒い球体に変えて取り込み、自分の手駒として自由自在に召喚・操作する術式だったか。極めて珍しい術式だな。事実なら稀代の天才だ、丁重に迎え入れろ」
頷きながら、夜蛾はもう一通のファイルを開いた。
そこに貼られていたのは、熊本県にある名門女子中学校の制服を着た少女の写真だった。背中まで伸びた艶やかな茶髪のロングヘアに、少し気怠げな目元と泣き黒子が目を引く。厳格な家柄の令嬢らしく、どこか人を寄せ付けない気品があった。
「……二人目は、熊本の『家入家』か。確か、明治から続く華族の血筋だったはずだが」
「はい。家系に呪術師はおらず、完全な非術師の家系です。ですが……『窓』からの報告が不可解極まりないのです」
補助監督が困惑混じりに言葉を濁す。夜蛾は視線を資料の本文へと落とした。
『対象は、熊本市街地の廃ビルにて、推定1級呪霊と単独で交戦』
『卓越した体術、特に鋭利な蹴り技によって1級呪霊の巨体を壁外へ吹き飛ばすのを目撃』
『その後、手元に生成した未知のエネルギー球体をボレーキックの要領で呪霊へ直撃させ、一撃で完全消滅せしめた』
「…………」
夜蛾は思わずサングラスの位置を直し、写真を二度見した。
「……おい。この深窓の令嬢のような少女が、1級呪霊を蹴りで吹き飛ばしたと?」
「現場の窓の報告に間違いはありません。さらに不可解なのは、そのトドメの光球です。呪霊の肉片はおろか残穢すら残らず浄化されていたことから、単なる呪力による破壊ではなく……『反転術式による正のエネルギーのアウトプット』の可能性が極めて高いと推測されています」
「なっ……!?」
夜蛾の目が見開かれた。
反転術式のアウトプット。己を治すだけでなく他者を治癒し、呪霊に対しては一撃で致命傷を与える劇薬であり天敵。呪術界の長い歴史を見渡しても、数えるほどしか存在しない至宝の才能だ。
「……他者を癒せる稀有な力を持ちながら、戦い方は危険な接近戦だと? どういう育ち方をしたらそうなるんだ……」
頭痛を覚える夜蛾だったが、すぐに表情を引き締めた。これほどの原石を、非術師の社会で腐らせるわけにはいかない。
「……わかった。熊本へは俺が直接行く」
◇ ◇ ◇
熊本県、家入邸。
歴史を感じさせる豪壮な日本家屋の客間にて、夜蛾は重苦しい空気に包まれていた。
「……ですから、夜蛾様とやら。お引き取り願いましょうか」
着物をビシッと着こなした家入家の当主が、冷ややかな視線を突き刺す。
「我が家は由緒正しき華族の血筋でございます。政府認可の『特殊な宗教系一貫校』だか『特待生としての迎え入れ』だか知りませんが……娘にオカルトじみた真似をさせるつもりはありません。学費免除や国からの支援など、我が家には不要なものです」
「どうかご理解いただきたい。お嬢様の持つ力は、社会の裏側で人々を救うためにどうしても必要なのです」
非術師から見れば、呪術高専などいかに政府の認可があろうと怪しい新興宗教のようなものだ。夜蛾がどれほど誠心誠意説明しようと、平行線を辿るばかりだった。
(やはり、名家へのスカウトは一筋縄ではいかんか……)
夜蛾が内心でため息をついたその時、廊下からパタパタと軽やかな足音が聞こえてきた。
「ただいま戻りまし――」
襖が開き、お嬢様学校の制服を着た少女————家入硝子が姿を現した。
……が、夜蛾は目を丸くした。事前に目を通した資料では『茶髪のロングヘア』だったはずの髪が、肩のラインでバッサリと切り揃えられた無造作なショートボブになっていたのだ。
しかし、そんな些細な違いを吹き飛ばすほど、夜蛾の呪術師としての第六感は、彼女の全身から立ち上る凄まじい呪力の気配を捉えていた。
夜蛾がその呪力量に息を呑んだ瞬間、硝子と目が合った。少女はピタリと動きを止め、その大きな瞳を信じられないものを見るかのように見開いた。
「硝子、お帰りなさい。今、大切なお客様とお話し中ですよ。制服を脱いで、着替えてから挨拶にいらっしゃい」
「……あ、はい。失礼いたします」
硝子は淑やかに一礼し、スッと襖を閉めて立ち去った。その去り際、夜蛾には彼女の肩が微かに震えていたように見えた。
(……すまないな。こんなガタイのいいグラサン男が突然家に上がり込んでいれば、年頃の少女が怯えるのも無理はない……)
夜蛾は自分の強面を少しだけ呪った。
◇ ◇ ◇
【Side:TS家入硝子】
自室に入りドアを閉めた瞬間、私――家入硝子は、壁に背中を預けて額の冷や汗を拭った。
「な、なんかうちの客間に『戸愚呂(弟)』みたいなのが来てる……っ」
中身が格闘バカのアラサー男である私は、心の中で小さく悲鳴を上げた。
あの筋骨隆々の体躯、威圧感のあるスーツ、そして何よりトレードマークの真っ黒なサングラス! 漫画とは少し見た目が違う気もするけど、実写化したらあんな感じになるんだろうか?
「……いや、マジか。ここ最近、ちょっと疑ってたんだよな」
私はドクン、ドクンと鳴る心臓を押さえながら独りごちた。
私が夜な夜な倒している妖怪(仮)たち――こいつらがどうも『幽☆遊☆白書』の妖怪らしくないというか、人間の負の感情が具現化したようなドロドロしたバケモノばかりで、「もしかして幽白の世界じゃないのか?」と疑念を抱き始めていたのだ。
「だけど……あんなグラサンマッチョが実在するなら、やっぱり幽白の世界なのか?」
妖怪(仮)を倒し続けてたから、様子を見に来たのだろうか。それとも、今は戸愚呂がまだ人間だった頃の時代とかで、あの人についていけば若い頃の幻海師範とか見れるのかな?
思考がグルグルと回るが、とりあえず客を待たせるのもアレだし、さっさと着替えよう。私は制服のボタンを外し、母に言われた通りワンピースへと着替え始める。
だが、全身鏡に映った下着姿の自分の身体を見て、思わず盛大に舌打ちが出た。
「……チッ。またデカくなってやがる」
中学卒業間近の年齢にしては明らかに育ちすぎた胸の膨らみと、引き締まりつつも肉感的なヒップライン。前世の男脳からすれば『すげぇいい女』なんだろうが、接近戦をする身としては邪魔以外の何物でもない。毎日モリモリ飯を食って超高負荷のトレーニングをしているせいか、栄養が全部胸と尻に行きやがっている。
「ステップ踏むたびに胸が揺れて重心がブレんだよ……! 蹴りのキレが落ちるだろ!」
私はブツブツと文句を言いながら、豊満な胸を頑丈なスポーツブラとさらしでガチガチに締め上げた。これで少しは動きやすくなる。
鏡の前で髪を梳かす。元々は親の意向で背中まである茶髪のロングヘアにされていたのだが、「元は男の私に毎日のヘアケアなんざ面倒くさくてやってられるか!」と、数日前に自分で肩のラインでバッサリと切り落としてやったのだ。おかげで、激しく動く時に髪が邪魔にならなくなった。*1
ワンピースに袖を通し、見た目だけは『深窓の令嬢』を完璧に作り上げる。だが、その下には、バキバキに戦闘を意識した筋肉と、さらしで固めたファイターの肉体が隠されているのだ。
「よし。戸愚呂弟っぽいグラサンマッチョが何をしに来たのか、確かめに行ってみるか」
絶世の美少女は、期待と警戒の入り混じった目をギラつかせながら、再び客間へと歩き出した。
◇ ◇ ◇
【Side:再び夜蛾正道】
数分後、清楚なワンピースに着替えた硝子が再び客間へと戻ってくる。肩のラインで切り揃えられたボブヘアに両親は渋い顔をしたが、硝子は気にする素振りも見せず、夜蛾の正面に淑やかに座った。
「お待たせいたしました。家入硝子ですわ。……本日はどのようなご用件でしょうか?」
「あ、ああ。東京から来た、夜蛾正道だ。単刀直入に言おう。君には類稀なる才能がある。我々の宗教系一貫校に特待生として来てくれないか」
夜蛾は、非術師の両親への建前として『宗教校へのスカウト』という表向きの口上を述べた。だが、案の定、両親の顔には深い嫌悪感が浮かぶ。
「ですから、夜蛾様。我が家はそのようなオカルトめいたお話には――」
「お父様、お母様」
空気が険悪になりかけたその時、硝子が凛とした声で遮った。
「夜蛾様はるばる東京からお越しくださったのです。お茶もすっかり冷めておりますし、少し空気を変えましょう。……よろしければ夜蛾様、我が家の自慢の庭園をご案内いたしますわ」
「硝子? 何を言っている、このような胡散臭い――」
「お父様」
硝子がニコリと微笑むと、なぜか両親は気圧されたように口を噤んだ。
(……空気を読んで、両親から私を引き離してくれたのか。いや、あるいは彼女には『分かっている』のかもしれんな)
夜蛾は彼女の提案に乗り、立ち上がった。
◇ ◇ ◇
手入れの行き届いた、広大な日本庭園。
母屋から十分に離れ、両親の耳が届かない木陰まで歩いたところで、夜蛾は足を止めた。周囲に人がいないことを確認し、僅かに呪力を練って音を遮断する簡易的な結界を張る。
――スッ、と。
庭園の木々を揺らす風の音や、遠くで鳴っていた鳥の声が、不自然なほどに消え去った。
「……案内、感謝する。おかげで話しやすくなった」
「いいえ。それで? ここなら『本当のお話』ができますわよね?」
振り返った硝子は、完璧な令嬢の微笑みを浮かべていた。夜蛾はサングラスの位置を直し、低く凄みのある声で核心を突く。
「……猫かぶりはそこまででいい。君からは尋常ではない呪力を感じる。報告書の通り、君は『知っている』な? 人の世に蔓延る、異形の化け物たちの存在を」
その瞬間、硝子の肩が僅かにピクリと反応した。
(……やはり。非術師の家系ということは、独学であの1級呪霊を祓ったというのか)
「我々の本当の目的は、宗教などではない。東京都立呪術高等専門学校――人の世に蔓延る、一般人には見えない負の感情の化け物、『呪霊(じゅれい)』を祓い、人々を救うための機関だ」
「…………呪霊」
硝子は「呪霊」という単語をポツリと反芻すると、ふっと伏し目がちになった。心なしか、その小さな肩が微かに落ちたようにも見える。
夜蛾の目には、それが『未知の化け物に対する本能的な恐怖』に映った。無理もない、中学生の少女に背負わせるには過酷すぎる現実だ。夜蛾は少しだけ声を和らげ、言葉を続けた。
「……先日、熊本市街地の廃ビルで、1級呪霊と呼ばれる強力な化け物が祓われた。窓――我々の調査員の報告によれば、その場にいたのは君だという。しかも、卓越した体術と蹴り技で呪霊を吹き飛ばした、とな」
「ええ。確かに、あの夜あそこにいたのは私ですわ」
硝子はあっさりと肯定した。
だが、夜蛾の眉間の皺はさらに深くなる。目の前に立つ可憐な令嬢を見て、どうにも信じられなかったのだ。
「正直に言おう。君から底知れぬ力を感じるのは事実だが……とてもではないが、君のようなお嬢様が肉弾戦で蹴り飛ばしたとは俄かには信じ難い」
夜蛾のその言葉を聞いた瞬間。伏せられていた硝子の睫毛が上がり、その瞳からスッと『落胆』の色が消え失せた。
代わりに宿ったのは、到底中学生の少女が浮かべるべきではない、肉食獣のようなギラついた光。彼女はふわりと完璧な令嬢の笑みを浮かべ直し、コテンと首を傾げた。
「あら。信じられないとおっしゃるなら――ここで、試してみますか?」
ゾクッ、と。
夜蛾の背筋に、尋常ではない悪寒が走った。
空気が重くなり、呼吸が浅くなる。目の前にいるのは華奢な中学生の少女だというのに、まるで歴戦の呪術師と対峙したかのようなプレッシャーと殺気。
(な、なんだこの威圧感は……!? まさか、報告書は本当に……!)
夜蛾が思わず後方に跳び退き、戦闘態勢に入りかけた、その時だった。
「……あ。でも、ここで激しいことをして庭を壊したら、お父様とお母様に怒られてしまいますわね。面倒なのは御免ですわ」
硝子はフッと殺気を引っ込め、何事もなかったかのように両手をポンッと合わせた。先ほどまでのプレッシャーが嘘のように、その場にはただの可憐な少女が立っている。
「ですので、私の『実力テスト』は、そちらの学校で行っていただけますか? ちょうど中学も卒業間近ですし、そのまま入学ということでお願いいたしますわ」
「……なっ。ご両親の説得はどうするつもりだ。あそこまで強硬に反対されていたぞ」
「あら、お気になさらず。あの方たちは、私が『物理的』に……いえ、『論理的』に説得しておきますわ」
ニコリと、背筋が凍るような完璧な微笑みを浮かべる硝子。夜蛾は額に滲んだ冷や汗を拭いながら、呆然と頷くことしかできなかった。
(……人知れず人々を救う聖女かと思っていたが。とんでもない『バケモノ』を見つけてしまったのかもしれん)
こうして、底知れない戦闘狂の片鱗を見せた令嬢と、彼女の殺気に戦慄を覚えた呪術高専の教師による、奇妙な密談は幕を閉じた。
親をどう『説得』したのかは定かではないが――数週間後、彼女は東京の呪術高専にて、『最強の問題児二人組』と最悪の出会いを果たすことになる。