TS成り代わり殴りヒーラー家入硝子さん~幽遊白書好きが呪術廻戦の世界に転生して仙水忍の『霊光裂蹴拳』を極めたら~ 作:MMOだと殴りヒーラーが好き
A.イイ感じの話になったので出番が消滅しました
夏油を医務室へ連行してから、数十分が経過していた。
医務室の机には、五条が面白半分で食堂からかき集めてきた「味覚をぶっ壊すための劇物」がズラリと並べられている。超絶激辛のハバネロソース、得体の知れない外国産の激苦調味料、そして歯が溶けそうなほどの激甘シロップ。
「よし、傑! まずはこの『超特大ハバネロソース』を一気飲みしてから、呪霊の玉を飲み込んでみてくれ!」
「……悟、それは呪霊の味を消す以前に、私の胃粘膜が死ぬと思うんだが」
「平気平気、硝子が治してくれるって!」
「お前ら、私の反転術式を便利使いすんなよ。……まぁいい、ほら夏油、食ってみろ」
私は呆れながらも、夏油の背中をバンッと叩いた。夏油は呪霊玉を飲み込む事とは別の意味で深い絶望の表情を浮かべながらも、意を決して激辛ソースを呷り――むせ返りながら、呪霊の玉を口に放り込んだ。
「……ぐ、がっ……!」
「おっ、どうだ傑!?」
「辛味と……ゲロの味が、最悪のハーモニーを奏でている……。ダメだ、余計に気持ち悪い……っ」
夏油が口を押さえて青ざめる。その後も、私たちは様々な実験を繰り返した。
――激甘シロップ作戦。
「うおぇ……ゲロに大量の砂糖をぶち込んだような、形容しがたい悍ましさが……」
尚、激苦調味料は余計に呪霊玉の味が酷くなっただけなので割愛。
――オブラートで何十重にも包む作戦。
「……オブラートの量が多すぎて、喉に詰まった。死ぬかと思ったぞ」
なんとか飲み込もうと水を大量に飲みつつ呪霊玉を飲み込んだ夏油の言葉。ちなみに味は変わらなかったようだ。
「うーん、物理作戦は全滅か。あ、そうだ!」
ふと、五条がポンと手を打った。
「硝子の『反転術式』で呪霊玉を浄化してマイルドにしたら、味が美味くなるんじゃね?」
「おお、なるほど。悪くないアイデアだ」
私もそれに同意し、夏油が取り出したソフトボール大の呪霊の玉に、反転術式の正のエネルギーをシュウゥゥと纏わせた。
――シュワァァァァァン……。
私の手が触れた瞬間。呪霊の玉は、ドライアイスのように激しい白煙を上げ、一瞬にして跡形もなく浄化され、消滅してしまった。
「「「あっ」」」
三人の間抜けな声が、医務室に虚しく響き渡る。数秒の沈黙の後、夏油がこめかみを押さえて深いため息をついた。
「私の呪霊のストックが、一つ無駄に消滅したんだが」
「……あー、ほら、正のエネルギーは呪霊にとって猛毒だからな。当たり前っちゃ当たり前だわ」
「ははっ、傑ドンマイ!」
私と五条がスッと視線を逸らすと、夏油は「君たちなぁ……」と呆れ返っていた。その後、気を取り直して、最終手段である私が処方した『局所麻酔スプレー作戦』を実行した。
「……どうだ、夏油。喉の感覚は消えただろ?」
「ああ、確かに喉を通る感覚はない。だが……飲み込んだ直後、胃の奥から込み上げてくる『風味』と『匂い』までは消せないらしい。……ゲホッ」
結局、何をやっても呪霊の『吐瀉物を処理した雑巾のような味』を根本的に消すことはできなかった。
「あーあ。結局、ゲロ味はゲロ味のままかよ。何か手段無いのかね」
五条がパイプ椅子にふんぞり返りながら、不満げにぼやく。私は机に散乱した調味料やオブラートの残骸を片付けながら、腕を組んで真面目に考察した。
「喉の麻酔が一番マシだったみたいだが……飲み込んだ後は身体に、もしくは『魂』に直接吸収されるプロセスを経るみたいだな。だから、物理的に喉の味覚を消しても、飲み込んだ後の不快感は変わらないってことか」
「なるほどね。そうすると、調味料とかの直接的なアプローチじゃ限界があるってことだな」
五条は顎に手を当てて考え込むと、ふと夏油を見て尋ねた。
「そういえば傑。お前、味を改善するための『縛り』とか結ぼうとは思わなかったのか?」
「縛り……?」
「そ。例えば『取り込む手順を一つ増やす代わりに、味覚への干渉を絶つ』とか。あるいは『特定の条件下でのみ味が甘くなる』とかさ。術式の解釈なんて、縛り次第でいくらでもズルできそうじゃん」
五条のその言葉に、夏油はハッとして目を見開いた。
「……考えたことも、なかった。呪霊を取り込むのは『そういうもの』だと、一人で勝手に諦めて……思考停止していたから」
クソ真面目な優等生ゆえの陥りやすい罠だ。与えられた苦痛を「自分の責任」として受け入れ、それを工夫で乗り越えようとする発想すら失われていたのだろう。
「バカだな、お前。……ま、これからは私たちも一緒に考えてやるから。色々試してみろよ」
「……ああ。そうさせてもらうよ」
夏油は、散々な実験のせいで少し顔色を悪くしながらも、どこか憑き物が落ちたような、清々しい顔で笑っていた。味が変わったわけでもないのに、彼の顔にもう悲壮感はない。
「味は全く何も変わってないのに……何故だか劇的に楽になった気がするよ」
そう言って、夏油が心底可笑しそうに笑う。それにつられて、私と五条も自然と吹き出していた。
「じゃあ傑、喉の麻酔が切れたら、口直しに何か美味いもんでも食いに行こうぜ」
「いいね。……ついでに、七海と灰原への差し入れも買っていこう。五条の奢りで」
「はぁ!? なんで俺が奢るんだよ! てかアイツら今、俺の代わりに雑魚呪霊の祓除任務に行ってる最中っしょ?」
「だからだよ。私たちがサボった任務を、反転で治したばかりの後輩に押し付けたんだ。死にかけた直後の初仕事だぞ? 慰労の特上メロンくらい当然だろ」
私のド正論に、悟が「うっ」と口ごもる。それを聞いていた夏油は、憑き物が落ちたような穏やかな顔で頷いた。
「……そうだね。あんな危険な目に遭ったばかりなのに、申し訳ないことをした。彼らにはキッチリ労いをしてあげないと。……悟、一番金を持ってる君が特上フルーツ盛り合わせを買ってあげなさい」
「傑まで!? マジ理不尽!」
ギャーギャーと文句を言いながらも、結局は気前よく財布を出してくれるのが、この男の身内に対する甘いところだ。そんな私たちを見て、夏油は心底楽しそうに目を細めた。
「……まさか、またこうして笑えるなんてね」
「ん? 傑、なんか言った?」
「いや、なんでもないさ。行こうか、二人とも。三人でね」
◇ ◇ ◇
【Side:夏油 傑】
――数時間後、高専の学生寮、談話室。
「おら、後輩どもー! ほーら、お前ら絶対食べたことないような超・高級特上メロン買ってきてやったぞー!」
悟が足でバンッと扉を開け、桐箱に入ったバカでかいメロンを掲げながらズカズカと踏み込んでいく。私と硝子も、その後ろから談話室へと入った。
ソファで報告書を書いていた七海が、これ以上ないほど露骨に嫌そうな顔をしてこめかみを押さえた。その隣では、灰原が「わぁっ! 五条先輩、ありがとうございます!」と犬のように尻尾を振って喜んでいる。
「……またあなた達ですか。自分たちの任務を私たちに押し付けて、随分と楽しそうですね。服からかすかに焼肉の匂いがしますが」
「気のせい気のせい! 硝子が特上メロン食いてーって言うから、わざわざ銀座まで買いに行ってやったんだよ」
「私がいつ言った、バカ。お前が勝手にカゴに入れたんだろうが」
相変わらず悟にだけは当たりが強い七海を横目に、硝子が呆れながらツッコミを入れた。七海は深いため息をつき、ペンを置いて私たち――特に、私の方をジッと見つめた。
「あなた達が任務を押し付けてサボるのはいつものことですが……今日はまた随分と唐突でしたね。何かあったんですか?」
七海の鋭い観察眼に、私は一瞬だけ目を丸くした。確かに、今日私たちが急に任務を投げ出したのは、私がシャワー室で一人、闇に飲まれかけていたからだ。
だが、今の私の顔には、数時間前までのあの悲壮感はないはずだった。
「夏油先輩、なんか顔色スッキリしてますね! 良いことでもあったんですか?」
「ははは! 傑はさっきまで死にそうな顔してゲ――もがっ!?」
余計なことを言いかけた悟の腹に、硝子が無言で重い肘打ちを叩き込んだ。「ゲフッ」と沈む悟を放置し、私は静かに、目の前の後輩たちを見つめた。
ザコ呪霊の祓除とはいえ、任務帰りだ。少し服は汚れているが、怪我一つない。理不尽に命を奪われることもなく、ただこうして「先輩の無茶ぶり」に呆れ、文句を言いながらも笑っている、当たり前の日常。
(……ああ。そうか)
私の中で、絡まっていた糸がスルスルと解けていくような感覚があった。
非術師を守るという大義。誰にも理解されない孤独。吐瀉物を拭いた雑巾の味。そんなものに押しつぶされそうになっていた自分が、今はひどく滑稽に思えた。
(大義なんて、もうどうでもいい。私はただ……この騒がしい親友たちと、この素直で馬鹿な後輩たちが、ずっとこうして『平和な愚痴』をこぼせるように。彼らの当たり前の日常を守るために、泥を呑み込めばいい。……それだけの事だったんだ)
彼らのこの笑顔を守るための力になるのなら。あの忌まわしい呪霊の味すらも、決して無意味ではない。もう、一人で暗闇に沈む必要はないのだ。
「……夏油先輩?」
「いや。なんでもないよ、七海、灰原。無茶ぶりをして悪かったね。お詫びに、メロンは二人に一番いいところを切り分けてあげよう」
私は、この一年で一番の、心の底からの爽やかな笑顔を咲かせた。
「ほーら傑! 硝子! 食おうぜ!」
うずくまっていた悟が復活し、備え付けのキッチンで雑に切り分けたメロンを紙皿に乗せて運んでくる。
「お、サンキュー。……って五条、お前ちゃっかり自分が一番デカいとこ取ってんじゃねぇよ!」
「俺が金出したんだから当然っしょ! 七海も灰原も早く食えー!」
「……いただきます。甘っ……なにこれ、こんな美味しいメロン食べたことないです!」
騒がしい悪友たちと、美味しそうにメロンを頬張る後輩たち。私は手渡されたメロンを一口かじった。瑞々しい果汁と、悟が買ったという馬鹿みたいな甘さが、口いっぱいに広がる。
「……どうだ夏油。少しはゲロ味の口直しになったか?」
隣でメロンをかじりながら、硝子が小声で聞いてくる。私は少しだけ目を丸くした後、フッと息を吐いて笑った。
「……ああ。最高に美味しいよ、硝子」
私の答えを聞いて、硝子は「世話の焼ける野郎だ」と小さく呟き、満足げに口の端を歪めて笑った。
こうして、最強と準最強となった二人に置いていかれそうになっていた一人の特級呪術師の心は、決して手放してはいけない大切なものを見つめ直し、静かに、そして力強く前を向いたのだった。
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