TS成り代わり殴りヒーラー家入硝子さん~幽遊白書好きが呪術廻戦の世界に転生して仙水忍の『霊光裂蹴拳』を極めたら~ 作:MMOだと殴りヒーラーが好き
【Side:夏油 傑】
2007年の9月。
私は単独で山奥にある村に来ていた。内容は『村落内での神隠し、変死。その原因と思われる呪霊の祓除』という任務だ。しかし、そこで見た光景に私はひどく冷たい怒りを村人たちに感じていた。
「これは一体どういう事ですか?」
「この二人は頭がおかしい! 不思議な力で村人を度々襲うのです!」
「事件の原因はもう私が取り除いています」
「私の孫もこの二人に殺されかけた事があります!」
醜悪に歪んだ顔でわめき散らす村人たち。
彼らが指差す先――不衛生な木造の座敷牢の中には、ボロボロの服を着て身を寄せ合い、身体中に虐待の痕であろう傷をつけたままガタガタと震えている双子の幼い少女がいた。呪力を持った、ただの幼い子供だ。
(……少し前の私なら、村人たちのした事に堪忍袋の緒が切れて何かをしでかしていただろうな)
私は静かに息を吐いた。
非術師は醜悪だ。それは事実として目の前の光景にある。しかし、全ての非術師がこうではない。理子ちゃんや黒井さん、それに私の家族。良い人間と悪い人間が居るという、当たり前の事。だが、少し前の私ならこんな当たり前の事も思いつかなかっただろう。
私は、わめく村人たちを冷ややかに見下ろしながら、無言でポケットから携帯電話を取り出した。そして、短縮ダイヤルで一人の男を呼び出す。
『んー? なに傑。今、硝子と一緒にクレープ食ってんだけど』
電話の向こうから、口に何かを含んだ悟の気の抜けた声が聞こえた。どうやら硝子も横にいるらしい。
「悟。一つ、相談がある」
『なに?』
「五条家当主としての『権力』と『財力』を使って……この村を一つ、社会的に抹殺できるかい?」
私の言葉に、村人たちがピタリと口を閉ざした。「……は?」と、彼らの間抜けな声が漏れる。
『あー。……なんか、胸糞悪いモンでも見つけたわけ?』
悟の声から、一瞬で「遊び」のトーンが消え去った。
「ああ。呪力を持った幼い双子が、座敷牢で虐待されていた。……力で捻り潰すのは簡単だが、それじゃあ私たちが悪者になってしまうからね。大人のやり方で、徹底的に破滅させたい」
『りょーかい。
「助かるよ」
私が電話を切ると、静まり返っていた村人たちの中から、嘲笑と怒声が上がった。
「はっ! 何の冗談だ。警察でも何でも呼べばいい! 我々は被害者だぞ!」
「そうだ! その気味の悪い化け物を隔離していただけだ! お前みたいなガキの戯言など――」
喚き散らす彼らの言葉を、私は最後まで聞く気すら起きなかった。吐き出される言葉を無視して今までで一番の極上の作り笑顔を向けて言う。
「さて。あなたたちはこれから、一生をかけて自分の罪を償うことになる。……せいぜい、自分たちのやったことを後悔しながら生き地獄を味わうといい」
私は村人たちにはもう目もくれず、座敷牢の鍵を呪力で破壊し、中へと足を踏み入れた。怯えて身を縮こまらせる双子の少女たちの前にしゃがみ込み、視線を合わせて、できる限り優しい声で語りかける。
「もう大丈夫だよ。……君たち、名前は?」
「……美々子」
「……菜々子」
「そうか、美々子と菜々子だね。……私は夏油傑。さあ、こんな所からはもうお別れだ。一緒においで」
私は二人の小さな手を引き、その村を後にした。
――その後、悟の言葉通り、村の連中は大量のパトカーによって一斉に連行され、村そのものも五条家の圧倒的な資本によって土地ごと買い上げられ、文字通り『地図から消滅した』という報告を受けた。
◇ ◇ ◇
――数時間後、高専の医務室。
「……夏油。私、今からちょっとあの村に戻って、村人全員の骨を全部折ってから反転で治して、また折ってくるわ」
「やめなさい硝子。彼らはもう逮捕されて社会的に終わっている。そんなことをしたら君が呪詛師扱いになる」
「あんな小さい子たちをあんな目に遭わせた連中、私がこの手でボコボコにしてやらないと気が済まねぇ!」
「だから落ち着けってば! 傑、こいつ押さえるの手伝って!」
医務室のベッドで、持ってきた服に着替え、見違えるように綺麗になった美々子と菜々子。
その二人を診察し、身体に残っていた無数の生々しい傷跡を見た瞬間、硝子が私と悟でも押さえきれないほどのマジギレを見せていた。
「硝子お姉ちゃん……こわい」
「こら硝子、君が暴れるから二人が怯えているじゃないか」
私がため息をつきながらたしなめると、硝子はハッとして暴れるのをやめ、チッと舌打ちをして白衣のポケットに手を突っ込んだ。
「……悪かった。ついカッとなった」
硝子は深呼吸をして怒りを鎮めると、美々子と菜々子の頭をポンポンと不器用に撫でた。
「お前ら、よく頑張ったな。……この変な前髪の男も、うるさい白髪も、こう見えてメチャクチャ強いからな。もう誰もお前らをいじめたりしねぇよ。安心しろ」
硝子のぶっきらぼうだが温かい言葉に、美々子と菜々子は顔を見合わせ、やがて私の服の裾をギュッと掴みながら、安心したようにポロポロと涙をこぼした。
「……さて」
私は、泣き疲れて眠ってしまった二人をベッドに寝かしつけると、悟と硝子に向き直った。
「この子たちは、私が責任を持って育てる。……それに、こういう風に、呪力を持って生まれてきて理不尽に苦しんでいる子供たちが、私たちがまだ知らないだけで大勢いるはずだ」
私は、泣き腫らした目をして眠る幼い双子の寝顔を見つめながら、静かに、だが確かな決意を込めて言葉を紡いだ。
「理子ちゃんの遺体を持ち去った『黒幕』も、何処かに隠れ潜んでいるだろうからね」
「傑……?」
私が何を言おうとしているのか察したのか、悟がサングラスの奥の目を細める。
「少し前から、高専を卒業したら何をするかを考えていたんだ。私は、高専で教師として生徒を育てつつ……同時に、そういった呪力を持って生まれたせいで理不尽な扱いをされている子供たちを保護する『組織』を作るつもりだ」
「組織って、お前……」
硝子が呆気にとられたような顔をする。私は苦笑しつつも、言葉を続けた。
「それに、『黒幕』は随分と隠れるのが上手いみたいだし、まだ手がかりが残ってるかは怪しいが……解体されかかっている『盤星教』を裏から乗っ取って、保護する場所を確保しつつ手がかりを探すのもいいんじゃないかと思ってね」
私の口から出た提案に硝子が目を剥く。だが、それ以上に予想外だったのは、パイプ椅子に座っていた悟の反応だった。
「そっか。そういや俺らも、もうそろそろ高専卒業か。……俺も特にやる事思いついてなかったから、傑と一緒に教師になるのもいいかもな。単に五条家に戻るより、親友の手伝いをする方が面白そうだしな」
「お前が教師? 五条に教師なんて出来るのか?」
硝子が本気で疑わしそうな目を向ける。私も同感だったが、悟のその言葉は心底嬉しかった。
「悟。それはとても嬉しいが……せめて教師になるなら、一人称の『俺』は直した方がいいんじゃないか?」
「んー? 別に問題ないだろ」
「特に目上の人間の前ではね。『私』か、せめて『僕』にした方がいい。年下に無駄な恐怖を与えないためにもね」
私の忠告を聞いた悟は、少し考えるように顎に手を当てた後、わざとらしく胸を張ってニカッと笑った。
「生徒諸君。僕が担任の五条だ!」
「……似合ってねぇー」
硝子が心底嫌そうな顔で吐き捨てる。その率直すぎるツッコミに、私と悟は顔を見合わせ、声を上げて吹き出した。
◇ ◇ ◇
――それからの日々は、本当にあっという間だった。
誤解しないでほしいが、私は決して『最強』の座を諦めたわけではない。ただ、悟や硝子と同じベクトルで個人の武力を競うのをやめただけだ。
彼らにはできない、呪霊操術を持つ私にしか辿り着けない『もう一つの最強』の形。
それは、手持ちの呪霊の特性を完璧に把握し、盤面全体を支配する『司令塔』としての役割だ。
例えば、悟や硝子は何故か当たり前のように空中機動ができるが、普通の術師にはそんな芸当は不可能だ。だから、私は飛行型呪霊を他の術師の足として提供し、三次元的な移動支援と戦闘補助を行う。
また、近接戦闘に特化した術師には呪力砲が撃てる遠距離型の呪霊をサポートにつけ、逆に遠距離型の術師には、防御力の高い呪霊を『盾』として護衛させる。
適材適所。手駒の組み合わせ次第で、戦術は無限に広がる。
味方の弱点を完全にカバーし、敵の長所を徹底的に潰す。たとえ相手が単体で規格外のバケモノであろうと、戦場すべてを掌の上でコントロールできれば、最終的に勝つのは私だ。
そう思考を切り替えたことで、私は今まで見えていなかった呪術戦の『深淵』に触れた気がした。
過酷な任務の合間には、七海や灰原にしごきという名の稽古をつけ、新しく入学してきた真面目な後輩――伊地知を三人でパシリに使っては、夜蛾先生から特大の雷を落とされた。
美々子と菜々子も、高専の結界内で硝子たちにも可愛がられ、少しずつだが子供らしい笑顔を見せるようになってきていた。
理不尽に命を奪われることもなく、ただ馬鹿みたいに笑って、喧嘩して、くだらないことで息をするように時間を浪費する。そんな、どこにでもあるような『青い春』。
もし。あの日、暗闇に沈みかけていた私を、あの二人が強引に引きずり出してくれなかったら。私は今頃、あの醜悪な村で村人たちを皆殺しにし、一人で修羅の道を歩んでいたのだろうか――。
時折、そんなゾッとするような
◇ ◇ ◇
【Side:家入 硝子】
――2009年、春。
「おい、お前ら。写真撮るぞ、早く並べ」
卒業式を終えた、高専の正門前。
歴史を感じさせる古びた木造校舎と、満開の桜の木をバックにして、夜蛾先生が少し古びた一眼レフカメラを構えてこちらを呼んでいた。
「はーい! ほら傑、硝子、早く早く!」
「悟、引っ張るな。制服が乱れるだろうが」
悟が私と夏油の首根っこを強引に引き寄せ、桜の木の下へと陣取る。私たちは卒業証書の入った丸い筒を手に、横一列に並んだ。真ん中に私。右に悟、左に夏油。
ふと、桜の風が吹き抜ける中、隣に立つ二人の横顔を見上げる。前世で死んで、何の因果かこの世界に生まれ落ちた私だったが……この二人の、騒がしくてバカみたいな親友の笑顔を隣で見られているのだから、悪くない人生二周目だ。
「おい五条、夏油。もし怪我したら高専の医務室へ来いよ、何度でも治してやるからさ」
「ははっ、言われなくても! まぁ、怪我してなくても『僕』もヒマな時は医務室に遊びに行くからなんか甘い物とか常備しといてよ」
「ああ。ずっと頼りにしているよ、硝子」
「五条は医務室の事をカフェか何かと勘違いしてないか?」
五条の言葉に思わずツッコミを入れたが、あっさりと無視された。そろそろ、カメラを構えたまま待たされている夜蛾先生が、記念すべき卒業式の日だというのにキレそうな気配を漂わせ始めている。
その殺気に気づいたのか、すぐに雑談をやめた二人が私の肩にグッと腕を回してくる。私も負けじと、高身長な二人の背中に腕を回し、力いっぱい引き寄せた。
「よし、撮るぞ。……笑えよ、お前ら」
夜蛾先生の不器用で、けれど温かい声。私たちは卒業証書をカメラに向かって高く掲げた。
「「「イェーイ!!」」」
カシャッ。
シャッター音が、初春の青空に響き渡る。
現像されたその写真には、生意気な笑みを浮かべる白髪のバカと、優等生らしくも心底楽しそうに笑う前髪のバカ。そして、二人に肩を組まれ、呆れたように、けれど誰よりも幸せそうに笑う私が写っていた。
誰一人欠けることのなかった、私たちの青い春。
その眩しい季節は、この一枚の写真と共に永遠に切り取られ――私たちは、新しい戦いの舞台へと歩き出したのだった。
完
いやすいませんまだ続きます。