TS成り代わり殴りヒーラー家入硝子さん~幽遊白書好きが呪術廻戦の世界に転生して仙水忍の『霊光裂蹴拳』を極めたら~ 作:MMOだと殴りヒーラーが好き
教室を木っ端微塵にした騒動の後。私たちはグラウンドへと移動し、新入生の乙骨憂太に一本の日本刀を持たせていた。
「里香ちゃんの呪いは、君からその刀に少しずつ注ぐんだ。――というわけで! 真希、憂太に刀の振り方教えといて!」
「はぁ!? なんで私が!」
「僕たちはちょっとこの後、大事なお仕事があるから! じゃ、五人でしばらく自習しといてねー!」
五条がひらひらと手を振りながら背を向ける。私も「適当に走って体力でもつけとけ」と言い残し、文句を言う真希たちを置いて五条と共にグラウンドを後にした。
「えっ……五条先生も家入先生も、どっか行っちゃいましたけど……」
「アイツはあれでも『最強』だからな。へらへらしてても忙しいんだろ」
不安そうに日本刀を抱える乙骨に、真希が呆れたようにため息をつく。パンダも「硝子先生も、本来は医務室で急患の対応とかあるからな」とフォローを入れつつ、五人だけの自習が始まった。
――そんな一年生たちの様子を。
私たちは、グラウンドから少し離れた本堂の裏手。大きな木々の陰になり、五人からは完全に死角となる場所から見守りながら、ある人物を待っていた。
「やぁ、久しぶりだね、二人とも」
ふわり、と。
私たちの背後の空から、結界をすり抜けるようにして、巨大なエイの呪霊に乗った男が音もなく降り立った。五条柄の袈裟を身に纏い、胡散臭い教祖のような笑みを浮かべた親友――夏油傑だ。
「おっ、お疲れ、傑ー」
「おい夏油。お前、高専の敷地内に入るのに何でそんな胡散臭いコスプレのままなんだよ」
私がジト目を向けると、夏油はスッと指先を動かした。すると、彼を乗せていた巨大なエイの呪霊がシュルリと黒い煙のように形を崩し、夏油の広い袖口の中へと滑らかに吸い込まれて消えていく。
「さっきまで、呪霊に憑かれている悪徳政治家から『お布施』という名の寄付金を数千万ほど巻き上げて……もとい、浄財していただいてきた帰りでね。着替える暇がなかったんだ」
「相変わらずエグいシノギしてんな、教祖様」
私が笑って煙草を取り出すと、夏油はスッと表情を真面目なものに切り替えた。
「で? わざわざ私を呼び出したってことは……聞いた話だと、何か厄介な事になっているとか?」
「そうそう! 今年のウチの1年、ちょーっと面白くてさ」
五条が木々の隙間から、グラウンドで真希に木刀でしごかれている乙骨を見ながら口角を上げる。
「『特級過呪怨霊・祈本里香』。あの新入生、憂太くんに、里香ちゃんが憑りついてる状態だね」
「特級……。普通の呪霊憑きなら、硝子が反転術式を流し込むか、祓って終わりだろう?」
「無理ではないだろうけどな。強すぎて効くかどうか怪しいだろうし、それに無理矢理外から祓ったら、呪われている乙骨の魂や肉体に何か重篤な副作用が出るかもしれない」
私の補足に、夏油が「なるほど」と顎に手を当てた。
「あの憂太って子、呪いに関しては全くの素人でさ。里香ちゃんの力を全然コントロールできてないのよ」
五条がサングラスを少しずらし、蒼い瞳で乙骨をじっと見つめる。
「……いや。もしかしたら『呪われてる』んじゃなくて、『呪ってる』のはあの子の方かもしれないけどね。だから余計に、僕たちが無理やり祓うのはダメかな。暴走したら止めるくらいはしないとダメだろうけどね」
「へぇ?」
五条の推測に、夏油が面白そうに目を細めた。
「で、悟。私を呼んだ本題はなんだい?」
「今日の午後、憂太の初任務として、真希とペアを組ませて近所の小学校に行かせる」
五条はへらへらとした顔を、冷徹な『最強の術師』の顔に戻してから言う。
「任務対象の野良呪霊はただのザコだけど、子供が失踪してたから、さっき僕と硝子で速攻で祓って救出してきたよ。で、傑の役割だけど。手持ちの呪霊の中で、3級か4級の呪霊を数体、それに2級〜準1級くらいの呪霊1体を、その小学校に放ってくれないかなって」
「……荒療治の極みだな。里香ちゃんとやらを、自発的に引っ張り出して制御の練習をさせる、とかかい」
「そういうこと。真希も巻き込んで、絶対に殺さないギリギリのラインまで追い詰めてやってよ」
五条の悪魔のような発注に、私はため息をつきつつ口を挟む。
「まぁ、本人たちが知ったら怒りそうだが。今は特にこれといった事件も起こってないから『本人たちは知らないが安全を確保した実地試験』っていう名目で夜蛾学長とかには周知してあるよ」
「で、二人がザコの呪霊を祓った後は本命の呪霊で二人を追い込んで、ピンチ時の対応と、憂太が里香ちゃんをコントロールできるかの確認。もし完全顕現して暴走したら、硝子に里香ちゃんを止めるのを任せてもいいかい?」
事も無げに言う五条に対し、私は煙草の煙をふぅと吐き出して睨みつけた。
「おい。相手は底なしの呪力を持った特級だぞ。私に丸投げか? お前でさえ、勝てるかどうかは死力を尽くさないと分からないって言ってなかったか?」
「硝子の『アレ』使えば、止めるくらいは出来るんじゃないかな。タイマン特化だしさ」
五条はニシシと笑い、私をビシッと指差した。
「僕が戦うと周辺被害が酷いことになるだろうし。まあ、もし硝子でも危なかったら僕も入るし、マッチポンプがばれるけど傑も入って三人で止めようか」
「……チッ、人使いの荒い野郎だ。わかった、じゃあそんな感じで、小学校には『もしもの時のため』という名目で私が引率としてついていく。夏油はこっそりと呪霊を出して二人を襲わせて追い込む。……って感じでいいか?」
「りょーかーい! それじゃ、教祖様もよろしくね!」
「ああ、任せておけ」
こうして、何も知らない一年生たちの背後で。大人三人による、緊急時のテストという名目での『荒療治、もしくは狂言劇』の幕が切って落とされたのだった。
◇ ◇ ◇
その後。
午後からの実地訓練として、私、五条、乙骨、真希の四人は、都内にあるとある小学校の正門前に立っていた。
「ここは……?」
不安そうに首を巡らせる乙骨に、五条が事も無げに答える。
「ただの小学校だよ。……ただの、校内で児童が失踪する小学校」
「失踪!?」
乙骨が素っ頓狂な声を上げて肩を跳ねさせる。五条はサングラスの奥の瞳で、不気味に静まり返った校舎を見つめながら続けた。
「場所が場所だからね。おそらく自然発生した呪いによるものだろう」
(……まぁ、救出対象はもう居ないが呪霊は居るのは本当だな。夏油のだけど。すまん二人とも)
私は白衣のポケットに両手を突っ込み、内心で二人に謝る。失踪した子供たちも、すでに今日の午前中のうちに私と五条でサクッと救出し、安全な場所に保護してある。
「子供が呪いに攫われたってことですか?」
「そっ。今の所、二人」
「大勢の思い出になる場所にはな。呪いが吹き溜まるんだよ」
乙骨の問いに、薙刀を肩に担いだ真希が、先輩としての顔つきで解説を引き継ぐ。
「学校、病院。何度も思い出され、その度に負の感情の受け皿となる。それが積み重なると、今回みたいに呪いが発生するんだ」
「呪いを祓い、子供を救出。死んでたら回収だ」
「えっ……死……っ?」
五条の口から極めて事務的に放たれた『死』という言葉に、乙骨の顔からサァッと血の気が引いた。初めて突きつけられた、呪術師という職業の過酷な現実。
そんな彼の恐怖など意に介さず、五条は右手の指でスッと印を結んだ。
「『闇より出でて闇より黒く その穢れを禊ぎ祓え』」
五条の詠唱と共に、空からドス黒いインクを流したような結界が降り注ぎ、小学校の敷地全体をドーム状に包み込んでいく。
「あっ……夜になってく」
「『
私は、印を結んだままの五条の代わりに、転校生へ向けてそう解説してやった。すると、五条が私の方へチラリと視線を向け、ニヤニヤと腹の立つ笑みを浮かべた。
「ちなみに、そこの白衣のお姉さんは1級術師のくせに、未だに自分で帳を張れないけどねー!」
「うっせぇ、結界術は根本的に相性が悪いんだよ。でも領域展開はお前より先に覚えただろ」
私は青筋を立てて五条に昔のマウントを取る。
「僕だってもうとっくに使えるもんねー!」
即座に負け惜しみを返してくる五条。
そんな大人たちの緊張感の欠片もないやり取りに、真希が心底呆れたようなため息をつく。五条はわざとらしくコホンと咳払いをして真面目な顔を取り繕うと、二人に告げた。
「じゃあ、僕たちはここで待ってるから」
「死んでなければ治してやるからなー」
五条がひらひらと手を振り、私がぶっきらぼうに言葉を投げかけると、真希は「チッ」と舌打ちをして、怯える乙骨の首根っこを掴んで校舎の中へと足を踏み入れていった。
◇ ◇ ◇
帳が降りた小学校を、少し離れたビルの屋上から見下ろしている影があった。五条柄の袈裟を風に揺らしながら、夏油傑が眼下のドス黒い結界を見つめている。
「……さて。憂太くんと真希が、校舎の中へ入ったな」
夏油は独り言のように呟くと、スッと指先を動かした。
彼の術式『呪霊操術』によって放たれた、数体の監視用の蠅頭と、そして――小学校の内部に仕込ませておいた『試験用』の呪霊たちの視覚が、夏油の脳内で完全にリンクする。
「あまりやりすぎると夜蛾学長や硝子に怒られるからね。……絶対に殺さない、だが絶望的な『死の淵』まで。しっかりとエスコートさせてもらおうか」
夏油は、親友から頼まれた『実地試験』の盤面を操作するため、静かに、そして楽しげに口角を吊り上げた。
「まずは、小手調べだ。行け」
夏油の意思に呼応し、小学校の暗い廊下で、3級から4級程度の低級呪霊が数体、真希と乙骨の前に姿を現した。
『キ……キキ……ッ!!』
不気味な声で這い寄る呪霊たち。
「ひっ……!」
乙骨が顔を青ざめさせ、後ずさる。だが、その横を通り抜けるようにして、真希が一瞬で間合いを詰めた。手にした薙刀が、鋭い風切り音と共に閃く。
瞬きする間に、襲い掛かってきた低級呪霊たちは真希の刃によって切り裂かれ、ドロドロと溶け落ちて消滅した。
「チッ。なんだ、ただの雑魚かよ」
真希が面白くなさそうに薙刀の血を払いながら、立ち尽くしている乙骨を睨みつける。
「おい、足引っ張んじゃねぇぞ。……てめぇ、さっきから刀握ってるだけで何一つ動けてねぇじゃねぇか」
「ご、ごめんなさい……っ」
「謝る暇があるなら、敵の位置くらい把握しろ! アタシに全部やらせる気か!」
真希の厳しい怒声が廊下に響く。乙骨は肩をビクッと震わせ、冷や汗を拭いながら必死に刀を構え直した。
――その様子を、蠅頭の視覚を通して見ていた夏油は、屋上で小さく息を吐いた。
「真希の動きは相変わらず良いね。迷いがない。……だが、憂太くんはまだ『覚悟』が決まっていないようだ」
夏油は、結界の外で待機しているだろう五条と硝子の顔を思い浮かべる。
「彼に自発的に里香ちゃんを呼び出させるには……ただの恐怖ではなく、『自分が動かなければ誰かが死ぬ』という状況が必要だ。……本命を当てよう」
夏油が、再び指先をスッと動かす。
その瞬間。
ズゴォォォォォンッ!!!
「なっ……!?」
真希と乙骨が歩いていた廊下の床が、突然、下から突き上げるような凄まじい衝撃と共に爆発した。粉砕された木材とコンクリートの破片が吹き飛び、その穴の奥底から――先程までの雑魚とは比べ物にならない、悍ましく巨大な呪力を持った『化け物』が、大口を開けて姿を現した。
真希が咄嗟に乙骨を突き飛ばし、自らは薙刀を構えて巨大呪霊の牙を防ごうとする。
だが、夏油の精密なコントロールによって放たれたその巨大呪霊は、防御の隙を突くようにして、真希と乙骨の二人を――その巨大な腹の中へと、一呑みに呑み下してしまった。
夏油が闇堕ちしていない世界線の弊害として、小学校の任務が大人たちによる壮大な実地試験になってしまいました。
原作映画の純度100%のシリアスを味わいたい方は、ぜひ劇場版を見返してください。