TS成り代わり殴りヒーラー家入硝子さん~幽遊白書好きが呪術廻戦の世界に転生して仙水忍の『霊光裂蹴拳』を極めたら~ 作:MMOだと殴りヒーラーが好き
・また、夜蛾先生がサングラスをかけていたのは学長になってからでしたのでサングラス周りを修正しました。本筋に変化はありません。
呪術高専東京校へ向かう道中。東京駅のロータリーから乗り込んだ、高専の補助監督が運転する黒塗りのセダン。その後部座席で、私――家入硝子は窓の外を流れる景色をぼんやりと眺めていた。
道行くサラリーマンは分厚い折りたたみ式の
(……やっぱ、時代遡ってるよなぁ。2005年の東京ってこんなにレトロだったっけ)
前世(2026年)の記憶と目の前の景色のギャップに内心でツッコミを入れつつ、私は隣に座る夜蛾先生の話に耳を傾けていた。
「先日も話したが、我々が相手にするのは人間の負の感情から生まれる化け物――『
「……呪力、ですか」
「そうだ。そして君が独学で使っている治癒の力は、呪力とは真逆の正のエネルギー。我々呪術界ではそれを『反転術式』と呼んでいる」
夜蛾先生の真剣な言葉を聞きながら、私はコテンと首を傾げた。
(……呪力? 呪術界? 妖怪でも霊力でもない? ってことは、やっぱりここは幽白の世界じゃないのか。まあ、上京する道中の本屋で普通に『幽☆遊☆白書』が並んでいたし、その時点でほぼ諦めかけてはいたけども)*1
推しの若い幻海師範とかに会いたかったが、それが叶わなくなったのはとても残念である。*2
(……まあいい。気兼ねなくフルパワーで倒せる相手がいて、前世で鍛え上げた格闘技術が存分に振るえて、結果的に人助けにもなるなら一石二鳥だ)
前世からの生粋の格闘バカである私は、10秒でポジティブに切り替えた。
やがて車は西東京の山奥へと入り、鬱蒼とした森の中に続く長い石段と、古びた巨大な鳥居の前に到着した。
「ここが、呪術高専だ」
「…………」
見上げるような石段。歴史を感じさせる木造建築群。
(なんか、幻海師範の後継者選別試験の会場みたいな風景だな……)*3
『幽白』の世界ではないと完全に頭では理解しつつも、オタク特有の往生際の悪いこじつけが、私の胸の奥でうっすらと燻り続けていた。
◇ ◇ ◇
高専の敷地内。無数の蝋燭(ろうそく)が灯された、薄暗く広い本堂のような大部屋。
夜蛾先生は腕を組み、私の正面に立って鋭い眼光を向けてきた。
「面接を始める。家入硝子、君はなぜ呪術高専に来た?」
その重圧のある声に、私は首を傾げた。
「面接……ですか。呪霊と戦う理由とかを聞いてるんでしょうか。えっと、『スカウトされたから』っていうのは……ダメですよね? 私、一応特待生ですし」
「学長や上層部に対する建前ならそれでいい」
夜蛾先生の言葉が低く響く。
「君の『反転術式のアウトプット』は使える者が限られている、呪術界の至宝だ。上の連中はそれだけで君の入学を許可した。だが、これから君の担任になるこの俺が、お前の覚悟を認めていない」
(……なるほど。上の連中はOK出してるけど、現場の担任としては納得してないってことか)
「呪術師は不条理な死と隣り合わせだ。反転術式が使えるからといって、他人に言われた程度の覚悟で務まる仕事ではない。君自身の、腹の底にある理由を聞いている」
(なるほど。本音で答えろってことか)
私はスゥッと息を吸い込み、清楚な令嬢の微笑みを深めた。
「私が作り上げた格闘術が、呪霊というバケモノ相手にどこまで通用するのか試したいからですわ」
「……作り上げた、だと?」
「ええ、『
漫画の中の架空の武術を、己の肉体で現実に成立させたのだ。単なるパクりではない、現実世界において私が完全な創始者だ。堂々と名乗らせてもらう。
……目の前の夜蛾先生は、名前を聞いても反応しなかったからジャンプは読んでいないのだろう。他の新入生や上級生に突っ込まれない事を祈るばかりだ。*4
「……人助けは?」
「強敵と戦うついでに、人助けもできればいいですね」
私の答えを聞いた瞬間、夜蛾先生が微かに頭痛を堪えるようにこめかみを押さえた。
「……今年の1年は、問題児が三人に増えそうだな……」
夜蛾先生の疲労感たっぷりのボヤキを、私はしっかりと聞き咎めた。
(……三人? ってことは、私以外にも厄介な新入生が二人もいるってことか? 勘弁してくれ、見た目は美少女でも中身は面倒くさいガキの相手が一番苦手なおっさんなんだ)
――なお、二年に上がる頃には、私がその『厄介な新入生二人』とアホみたいな男子高校生ノリでつるんでバカ騒ぎするようになるのだが、この時の私はまだ知る由もなかった。
内心で盛大に顔をしかめる私を余所に、夜蛾先生は低く言い放つ。
「……合格だ。だが、その言葉が虚勢でないか、実力で示してもらおう」
夜蛾先生が呪力を込めると、部屋の隅に置かれていた不気味なフェルトのぬいぐるみ(呪骸)が、ギリッ、と異様な音を立てて立ち上がった。
床板が爆ぜるような鋭い破裂音と共に、フェルトのぬいぐるみが弾丸のようなスピードで私へと肉薄してくる。
(……さっき言っていた呪霊か? いや、このタイミングなら夜蛾先生が操っていると見るべきだな。初見の相手だし、まずは様子見に徹するか)
空気を叩く乾いた音と、肉に沈むような重い衝撃音が連続して響く。顔面や胴体を狙う目にも留まらぬ打撃の雨。私はその場から一歩も動かず、両腕の最小限の動きだけでそれを捌き始めた。
手首で軌道を逸らし、肘で威力を殺す。まるで柳のように敵の打撃を受け流し、いなし、完璧にガードする。
「あの、夜蛾先生」
私はひらひらと纏わりつくスカートの裾を鬱陶しく思いながら、敵の猛ラッシュを涼しい顔で捌き、不満げに声を上げた。
「入学試験とは聞いていましたが、戦闘があるなんて聞いていないので、私、今日ワンピースなんですけど。布が突っ張って足が開かないんですが」
「……そういえば言ってなかったな、すまなかった。だが、呪霊との不慮の遭遇戦もあるだろうから、今度からはそういった場合にも動ける服装にしておくのがいいだろう」
夜蛾先生は生真面目に謝罪しつつも、戦闘に特化した呪骸の連撃をノーダメージで受け流しながら服の心配をする私の余裕に、明らかな戦慄を覚えていた。
全弾をガードされ、呪骸の体勢が大きく前に崩れる。
(ガラ空きだぜ)
私は軸足をずらし、ワンピースの裾から下着が見えないよう、コンパクトで鋭いローキックを呪骸の軸足に打ち込んだ。あくまで服に配慮して威力を抑えた、ただの様子見の軽い蹴りだ。
「ふっ……!」
鞭のようにしなった脚がめり込み、くぐもった衝撃音が響く。呪骸は道場の端まで吹き飛び、太い柱に深々とめり込んだ。
(チッ……やっぱりこの服じゃ威力が出ないな。これ以上強く蹴ると下着が見えそうだし、どうするか。いっそ離れて『
私が内心でボヤいていた、その時。
ガラッ、と無作法に大部屋の襖が開け放たれた。
「――だからお前さぁ、いちいち説教くさいんだよ。弱い奴に気を使うなんて疲れるだけっしょ」
「悟、言葉を慎め。呪術は非術師を守るためにある。強者としての責任を果たせないなら――」
口喧嘩をしながら入ってきたのは、揃って黒い詰め襟――高専の制服を着た二人の少年。制服を着崩して丸いサングラスをかけた白髪の少年と、ダボダボのズボンを穿き、奇妙な前髪をした黒髪の少年だった。
「ん?」
白髪の少年がサングラスを少しずらし、蒼い瞳で私をジッと見つめてきた。そして、露骨に顔をしかめる。
「……なんだコイツ? 呪力量はやたら多いのに、術式が真っ黒に塗りつぶされたみたいでよく見えねぇ。キモっ」
「悟、レディに向かってキモいとは失礼なことを言うな。夜蛾先生、そちらの彼女が私たちと同じ新入生の最後の一人ですか?」
黒髪の少年が呆れたように白髪をたしなめ、夜蛾先生に問う。
「ああ、そうだ。反転術式のアウトプットが使える、稀有な人材だ」
「ふーん。反転持ちね」
白髪の少年は鼻で笑い、私を頭の先からつま先まで見下ろした。彼は柱にめり込んでいる呪骸には気づいていないようで、完全に舐めきった態度で言い放った。
「反転が使えるだけのお嬢様か。ザコは前線に出んなよ、邪魔だから。俺たちの後ろで震えてな」
「言い方はアレだが、悟の言う通りだ。君のようなレディが矢面に立つ必要はない。私たちが守ってあげよう」
悪気もなく見下してくる白髪と、優しさの皮を被ってマウントをとってくる黒髪。
ニコリ、と。私の顔に張り付いていたお嬢様スマイルの額に、ピキッと青筋が浮かんだ。
メキメキと木材が軋む嫌な音が響いた。柱にめり込んでいた呪骸が自ら瓦礫を弾き飛ばし、背後から私に向かって猛スピードで飛びかかってきた。まだ完全には破壊されていなかったらしい。
「あっ、危な――!」
黒髪が助けようと手を伸ばした、その瞬間。
(……もういい。パンツ見えてもいいや。ブッ飛ばす)
イラつきが頂点に達した私は、振り返りもせず軸足を深く沈め、ワンピースの裾が限界までめくれ上がるのも構わずに、向かってくる呪骸へと全力で回し蹴りを放った。
パンッ、と空気を弾くような布の音と共に、清楚なワンピースから飛び出した私の脚が、白刃のように一閃する。
内部の骨組みがへし折れる生々しい破壊音。今度は様子見ではない、呪力を全力で纏った本気の蹴りの直撃だ。――ズガァァァァァァンッ!!
続いて、弾け飛んだ呪骸が本堂の壁をぶち抜き、部屋全体を揺るがすほどの激しい轟音が響き渡った。完全に粉砕された呪骸の綿が、衝撃波に乗って雪のように舞い散る。
「……は?」
「……なっ」
白髪の口が半開きになり、黒髪の目が限界まで見開かれた。突風に揺れる髪を押さえながら、私はスカートの裾を優雅に払い、完璧な令嬢の微笑みを二人に向けた。
「……で? どなたがザコですって?」
静まり返る大広間。数秒の沈黙の後、黒髪の少年の口元が歓喜に歪んだ。
「素晴らしい……! 今の蹴り、ただの呪力任せじゃない、完璧な武術の理合だ! ぜひ、私と手合わせを――」
「馬鹿者どもがァ!!」
夜蛾先生の怒声が、大広間にビリビリと響き渡った。
「悟! 初対面の、しかもこれから同期になる女子に向かってなんだその口の利き方は! 傑、お前もだ! 庇っているつもりだろうが、無自覚に人を見下す癖を直せと何度言ったら分かる!!」
「……げっ。センセーの説教始まったよ。うっざ」
「……私まで怒られるとは心外ですね」
白髪の少年――悟は耳をほじりながら面倒くさそうにそっぽを向き、黒髪の少年――傑はまったく納得がいっていない様子で肩をすくめた。
(なるほど。こいつら、揃いも揃って性格が終わっているタイプのイキりクソガキか。……なんだろう、前世の高校時代に無駄に尖っていた自分を思い出して、少し心が痛む)
私が冷静に二人の振る舞い――と己の黒歴史――を分析していると、夜蛾先生はさらに青筋を立てて吠えた。
「そもそも貴様ら、勝手に入ってくるな! 今は面接の最中だ! それに、硝子はこの後も制服の採寸や手続きで予定が詰まっている! 貴様らと遊んでいる暇はない、とっとと出て行けェ!」
夜蛾先生の特大の雷が落ち、最強の問題児二人組と、令嬢の皮を被った狂犬による最悪のファーストコンタクトを終え、波乱に満ちた彼らの高専生活の幕が、こうして開けたのだった。
※今話の捏造・独自解釈設定について
・原作の家入硝子は術式を持っていませんが、今作のTS硝子には前世の魂の影響により、特異な術式が存在している設定です。また、高専時代の五条の「六眼」を通しても、前世の魂を基に構築された術式であるため、エラーを起こして読み取れない(真っ黒に塗りつぶされて見える)という独自解釈を加えています。
・原作の硝子さんは呪力量が明言されていませんが、本作では「消費が激しい反転術式をメインでガンガン使えるってことは、基礎の呪力量もめちゃくちゃ多いのでは?」という独自解釈を採用しています。