TS成り代わり殴りヒーラー家入硝子さん~幽遊白書好きが呪術廻戦の世界に転生して仙水忍の『霊光裂蹴拳』を極めたら~ 作:MMOだと殴りヒーラーが好き
1位「夏油」 2位「ナナミン」 3位「フィジギフおじさん」 4位「東堂」 5位「宿儺」です。
【Side:夏油 傑】
「――『闇より出でて闇より黒く。その穢れを禊ぎ祓え』」
私の詠唱と共に、ドス黒い帳が夜の高専を包み込んでいく。
「さて」
五条袈裟の袖を夜風に揺らしながら、私は静かに石畳へと降り立った。背後では、私を運んできた巨大な怪鳥の呪霊が翼を畳み、その巨体を静かに闇の中へと溶かしていく。
遠く離れた新宿では、今頃悟たちが『百鬼夜行への対処』という名目で大騒ぎしている――ことになっているはずだ。
もちろん、実際に非術師を危険に晒すつもりなど毛頭ない。呪霊は一体たりとも放っていないし、七海や灰原たちにも事情は伝えてある。
悟と硝子も、そろそろこちらへトンボ返りしてきている頃だろう。生徒たちには決して見つからない上空の特等席から、この『実地試験』を観察するために。
(……もっとも)
私は眼前に広がる静まり返った校舎を見上げ、口元に薄い笑みを浮かべた。
(彼らにとっては、紛れもない『死線』だ)
相手は特級呪詛師・夏油傑。目的は特級過呪怨霊を従える乙骨憂太の強奪。高専側の主戦力は私の陽動によって新宿へ出払っており、援軍がいつ戻ってくるかも分からない。……そういう『設定』の舞台劇だ。
当然、生徒たちにはこれが試験だなどとは知らされていない。私は決して殺さない。だが――彼らには、本気で殺されると思ってもらわなければ意味がないのだ。
「さあ。君たちなら、どう動く?」
私が石畳をゆっくりと踏み出した、その時だった。
「――止まれッ!!」
鋭い怒声と共に、正面に六つの影が躍り出た。薙刀を構える禪院真希。両拳を固めるパンダ。襟元を下げて呪言に備える狗巻棘。刀を握りしめ、青ざめながらも前に出る乙骨憂太。そして――その後ろでおろおろとしている、美々子と菜々子。
(――初動は悪くない)
私は内心だけで小さく頷いた。帳が降りてから、ここへ迎撃に現れるまで一分とかかっていない。異常の早期察知、即座の武装、そして単独突出を避けた集団行動。少なくとも、パニックに陥って無策に突っ込んでくるような愚か者はいなかったようだ。
「来やがったな……夏油傑」
「先日の宣言通り、というわけか」
「しゃけ」
敵意を剥き出しにする生徒たちを見渡し、私は極上の、胡散臭い教祖の笑みを浮かべてみせた。
「これはこれは。わざわざ全員で出迎えてくれるとは光栄だね」
「……白々しい口利いてんじゃねぇよ。用件は分かってんだ、憂太が目的なんだろ」
「話が早くて助かるよ。ならば彼をこちらへ渡してくれないか? 君たちまで痛い思いをする必要はない」
私の言葉に、真希は臆することなく、背後の双子へと鋭く視線を飛ばした。
「美々子、菜々子! 憂太を連れて校舎の裏から逃げろ!」
「えっ!?」
「ちょ、ちょっと待って真希さん! 僕も戦――」
「バカ言ってんじゃねぇ! 狙いはてめぇなんだよ! 標的がここに突っ立っててどうすんだ!」
真希の一喝が、夜の空気をピシャリと叩く。
「ミミナナ! 呪詛師に堕ちたとは言え、実の親父と戦うのはお前らにはキツいだろ! コイツは先生たち曰く『特級』だ! アタシらが束になって挑んだところで、勝てる相手じゃねぇ!」
「ツナ……」
「勝つ必要なんざねぇんだよ! 憂太を逃がして、目隠しバカや硝子先生が新宿から戻ってくるまでアタシらが時間を稼げば、こっちの勝ちだ!!」
「…………」
私は、心の中で感嘆の息を漏らしていた。
(……素晴らしい。百点満点の正解だ)
己の力量を正確に弁え、敵の目的を看破し、最も勝率の高い『遅延工作と標的の離脱』を選択する。
もしここで、若さゆえの蛮勇で真正面から特級に突撃してくるようなら、教師として状況判断を減点二点……いや、三点くらい引いてネタバラシした後に説教してやろうかと思っていたのだが。どうやら私の心配は、完全に杞憂だったらしい。
(真希、本当にいい判断だ。後で絶対に叙々苑の特上カルビをご馳走してあげよう……)
内心で教え子の急成長に涙しそうになるのを必死に堪え、私はスッと顔から温度を消した。
(だがね、真希。……君たちにはここで、憂太くんの怒りを引き出すための舞台装置になってもらわなければならないんだよ)
「――行かせるとでも思うかい?」
私が静かに指を鳴らした瞬間。校舎の周囲の地面がボコボコと蠢き、退路を完全に塞ぐように数十体の呪霊の壁が立ち塞がった。
「チッ……! 逃がす気はねぇってか!」
真希が忌々しそうに舌打ちをする。その背後で、美々子と菜々子がチラリと私に視線を向けてきた。
(パパ、私たちどうすればいいの?)
(適当に逃げなさい。君たちに怪我をさせる気はないよ)
親子の極めて日常的なアイコンタクト。しかし、私に睨まれた二人が怯えてフリーズしたのだと見事に勘違いした真希は、薙刀をクルリと回して切っ先を私へ向けた。
「ミミナナ! ビビってんじゃねぇ! アタシらが道を開ける、その瞬間に憂太を連れて走れ!」
「……えっ? あ、うんっ! わ、わかったー」
「行くぞパンダ、棘! 敵は特級だ、出し惜しみはすんな!!」
真希の号令と共に、パンダが地を蹴り、棘くんが呪言の構えをとる。ドサクサに紛れて、美々子と菜々子が「う、うわー、こっちから逃げるぞー」と乙骨くんの腕を引っ張って、私が意図的に薄くしておいた呪霊の壁の方へと駆け出していった。
(よし、分断は成功だ。あとは彼らに少しばかり痛い思いをしてもらい、憂太くんの導火線に火をつけるだけだね)
「させないよ」
私はあくまで冷徹な悪役として、乙骨くんたちを追おうと一歩踏み出す――フリをする。
「よそ見してんじゃねぇよ!!」
私の死角に回り込んでいた真希の薙刀が、鋭い風切り音と共に私の首筋を狙って薙ぎ払われた。私はそれを身を屈めて躱し、首に巻いていた格納呪霊から流れるような動作で『遊雲』を引き抜き、彼女の追撃を弾き返す。
(――速い。それに、無駄な力みがない。悟や硝子から聞いていた通り……いや、それ以上の仕上がりだ!)
初めて直接刃を交える教え子の実力に、私は内心で歓喜の声を上げそうになるのを必死に堪えていた。
「――!」
真希の連撃を凌いだ直後、後方で棘くんが襟元を完全に下ろした。
(呪言――!)
反射的に脳から耳へ呪力を巡らせる。
「『捻じれろ』!」
空気が歪むような強制力が全身へ食い込んだが、術式は私の肉体を捻じ切るところまでは届かなかった。
「ガハッ……! ゲホッ、ゴホッ……!」
私に呪言を発動させた反動で、棘くんが口元を押さえて喀血し、その場に膝をついた。
(出し惜しみは出来ないとはいえ、格上とわかっている相手に強力な呪言を試すのは頂けないな。喉は大丈夫だろうか)
内心で教え子の喉の心配をして冷や汗を流した、その刹那。視界の端から、大木のような極太の黒い腕が、砲弾のような勢いで私の側頭部へ迫る。ゴリラモードへ変形したパンダの奇襲。
「
(――しまっ、ガードは不味い!)
パンダのあの打撃は、呪力防御を透過して体内に直接衝撃波を響かせる内部破壊の技だ。悟や硝子から聞いていなければ、不用意にガードして吹き飛ばされる所だった。私は咄嗟に首を脱力させ、頭部を後方へ滑らせるようにスウェーして回避をする。
「チッ、避けられた――」
「隙ありィッ!!」
少し急いで回避した影響で体勢が崩れた私の死角から、真希が飛び出してくる。手にした薙刀の切っ先が、私の心臓を正確に貫かんと突き出される。ドラミングビートを囮にした、見事な時間差の連携攻撃。
「惜しいね」
私は口元だけで冷ややかに笑い、握っていた三節棍――『遊雲』で真希の薙刀の刃先を受け止める。
甲高い金属音が夜空に響く。刃を受け止めた衝撃を逃さず、私は手首のスナップを利かせ、鎖で連結されたもう一節の棍を、円運動の遠心力を乗せて鞭のようにしならせた。
「なっ……!?」
「ハッ!」
閃光のような速度で振り抜かれた遊雲の先端が、がら空きになった真希の胴体へ正確無比に叩き込まれる。骨を折らないよう、インパクトの瞬間に力を殺し、胴体全体へ面で衝撃を散らす精密な手加減。それでも並大抵の術師なら吹き飛ぶ一撃を受け、真希の華奢な身体が校庭の植え込みへと激しく吹き飛ばされた。
「真希ッ!!」
パンダが思わず悲鳴のような声を上げ、吹き飛んだ真希の方へと首を巡らせる。――その、完全に意識が逸れた一瞬の空白。
「――よそ見」
私は当然その隙を見逃すはずもなく、パンダへ飛び蹴りを放ち、着地と同時にそのまま崩れ落ちるその巨体を回し蹴りで吹き飛ばす。
「ガハァッ!」
ゴリラモードの巨体が石畳を何十メートルも削りながら吹き飛び、校舎の壁をぶち抜いて瓦礫の山へと沈んでいく。
(……仲間を心配するその心根は美しい。だがね、パンダくん。目の前の強敵から視線を外すなど、実戦なら即座に首が飛んでいるところだよ。……状況判断、大幅に減点三点だね)
内心で厳格な教官のようにダメ出しをしつつ、私は息を整えて五条袈裟を払う。
「ほう、まだ動けたのか」
私が息を整える間もなく、植え込みから飛び出した真希と、瓦礫を弾き飛ばしたパンダが、示し合わせたように左右から同時に肉薄してくる。二人とも打撲と裂傷で全身血まみれだ。それでも、その瞳の闘志は1ミリも衰えていない。
(素晴らしい気迫だ。だがね――)
私は遊雲を旋回させ、真希の薙刀の軌道を外側へ弾き飛ばすと同時に、パンダの顎先へ鋭い前蹴りを突き刺す。
「ぐっ……!」「がはっ……!」
再び地面へ転がる二人。しかし、パンダは倒れ込みながらも私の足首を両手で力任せに掴み、真希は手放した薙刀の代わりに短刀を抜き放って私の袖口を石畳へ縫い留めようとした。
(……捨て身の拘束!? まさか――!)
「――『堕ちろ』ォォッ!!」
鼓膜を直接揺さぶるような、魂の絶叫。見れば、後方で膝をついていた狗巻棘が、首元のジッパーを完全に引き裂き、喉の血管を浮き上がらせて叫んでいた。
ドズゥゥゥゥゥンッッ!!!
見えない巨大な質量が、私の頭上から叩きつけられる。石畳が円形に陥没し、凄まじい地響きと共に直径十数メートルの大クレーターが生まれた。私は土煙と共にその深淵へと叩き落とされる。
「ゴホッ! ゲホッ……オエッ……!!」
特級を強制的に押し潰した反動は凄まじく、棘くんは喉から大量の鮮血を吐き出し、力なく前のめりに倒れ込んだ。
「棘ッ!!」
「おい、しっかりしろ!」
拘束を解いた真希とパンダが、這うようにして棘くんの元へ駆け寄る。肩を貸し、荒い息を吐きながらクレーターを見下ろす三人。やがて、瓦礫が静止し、静寂が訪れたことで――彼らは、勝った、あるいは時間を稼げたと、ほんの一瞬だけ安堵の息を漏らした。
――その、背後から。
「やるね。少し……本気を出させてもらうとしようか」
「「「……ッ!?」」」
凍りつくような声と共に、巨大な異形の呪霊たちが、漆黒の瘴気を立ち上らせながら彼らの背後に音もなく顕現した。振り返った三人の視界に映ったのは、煤一つついていない五条袈裟をなびかせ、底知れぬ笑みを浮かべて立つ私の姿。
(……見事な連携だったよ、三人とも。だがね)
私は心の中で、厳格な教官の顔で深いため息をついた。
(敵の生死も確認せず、背中を向けて緊張を解くなど言語道断だ。実戦なら全員首が飛んでいるよ。……状況判断、大幅に減点五点。いや、命に関わるから十点だね)
絶望に目を見開く三人に、私は無慈悲に呪霊の群れを差し向けた。
「おやすみ。痛いのは一瞬だよ」
呪霊たちが三人へ殺到する。だが、その牙も爪も、急所だけは寸分違わず外していた。
◇ ◇ ◇
数分後。
校舎の裏手、結界の端付近。
私が歩み寄ると、物陰から飛び出してきた乙骨くんが、白刃を抜いて私を睨み据えた。その背後には、オロオロと立ち尽くす美々子と菜々子の姿がある。
「やぁ、乙骨くん」
私の穏やかな呼びかけに、乙骨くんは激しく肩を上下させ、血走った目で叫んだ。
「なんで……なんでお前がここにいるんだ……! みんなは……真希さんや狗巻くん、パンダくんはどうした!?」
「ああ、彼らなら少し離れた場所で倒れているよ」
私はさも何でもないことのように、優雅に袖を払ってみせた。
「安心してくれ、まだ死んではいない。……だが、あの出血量だ。君が私の下に来て、素直に里香ちゃんを渡してくれるなら手当もしてあげるけれど。……このまま放っておけば、じきに死ぬだろうね」
「…………っ!」
乙骨くんの全身から、ドス黒い呪力が音を立てて噴き上がった。怒り。そして、自分を助けるために命を懸けてくれた仲間を傷つけられたことへの、理性を焼き切るほどの激情。
(……いいぞ、憂太くん。その怒りだ。大切な人を守るための、その爆発力を待っていたんだ)
内心で満点を出しながら、私は冷酷な笑みを張り付け続ける。対する背後の美々子と菜々子は、完全に青ざめて冷や汗をダラダラと流していた。
(パ、パパ……! いくらなんでも煽りすぎだよ……!)
(憂太、完全に目がイッちゃってる……! パパ、殺されるってば……!)
娘たちの必死の視線など露知らず、乙骨くんは刀を握り締め、震える声で告げた。
「美々子ちゃん、菜々子ちゃん……ちょっと、離れてて」
「え、憂太……?」
「僕は…………こいつを、ブッ殺す!!」
大気を震わせる咆哮。少年の左手の薬指に嵌められた指輪が、狂気的な輝きを放ち、空間そのものを歪ませていく。
「――来いッ!! 『里香』ァァッッ!!!」
その瞬間、私の頭から『採点』という文字が完全に消え去った。
大地が割れ、校舎を揺るがすほどの暴風が吹き荒れる――純白の異形――完全顕現を果たした特級過呪怨霊が、少年の背後に、禍々しくも美しい姿を現した。
「……お前を、殺す」
『ユータを泣かせるヤツは……ブッ殺してやるぅぅぅッ!!』
(……ちょっと煽りすぎたかな?)