TS成り代わり殴りヒーラー家入硝子さん~幽遊白書好きが呪術廻戦の世界に転生して仙水忍の『霊光裂蹴拳』を極めたら~   作:MMOだと殴りヒーラーが好き

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夏油傑の公式設定『趣味:格闘技』を活用してみたかった。


第3話:『無手共鳴』

「うーん、素晴らしいですね! 中学生なのにすっごいプロポーション!」

 

「……はぁ」

 

 あの問題児二人組との出会いから数十分後。

 

 私――家入硝子は高専の医務室で、女性の補助監督の前で、着ていたワンピースを脱いで下着姿になり、メジャーで身体のあちこちを測られていた。

 

「うわぁ、細いのに胸はEカップもあるんですね! しかもお尻と太ももはパーンッて張ってて、すっごく魅力的!」

 

(正直、ステップを踏むたびに揺れるし、格闘の動きをするのに邪魔なんだよなぁ……。前世でやってた時みたいに、ハードな訓練して肉食って寝てを繰り返してたら、筋肉もついたが胸や尻に『女らしい肉』まで過剰についてしまった……)

 

 中身がピー歳のおっさんである私にとって、女性にここまで無防備に身体を触られ、発育を絶賛されるのは拷問に近い羞恥プレイだ。私は生返事を返しつつ、別の事をせっせと考えていた。

 

 これ以上育ったら、マジで胸の重りのせいで蹴りに支障が出てくる。……ふと、私の脳裏にある画期的なアイデアが閃いた。

 

「……あの、少しお聞きしたいんですが。反転術式というのは、欠損した部位も元通りになりますか?」

 

「え? あ、はい。反転術式は欠損した手足も治せる、使い手が限られているとても貴重な才能だとお聞きしていますね……?」

 

「でしたら……自分の胸の肉をナイフか何かで物理的に削ぎ落とした直後に反転術式を使えば、胸の質量を減らせると思います?」

 

「……はい?」

 

 何を言っているのか本気で理解できない顔で、メジャーを持ってスリーサイズを測っている姿勢のままフリーズしてしまう補助監督。

 

「私、攻撃方法が今のところ体術……とくに蹴りが主ですので、胸が大きいと重心がブレてやりづらくなるかな、と思いまして。そうやって胸やお尻の質量を減らすことって出来るんでしょうか? それとも、こういった術式の話は夜蛾先生の方がお詳しいでしょうから、後で直接お聞きしてみようかと――」

 

「ストップ! ストップです家入さん!!」

 

 補助監督の女性が顔面を蒼白にさせ、持っていたメジャーを投げ捨てながら私の両肩をガシッと掴んで猛烈に首を振った。

 

「ななな、なんて猟奇的で物騒なこと考えてるんですか!? こんな綺麗で、女性なら誰もが羨むような素晴らしいスタイルをしているのに、削ぎ落とすだなんて絶対にダメです!」

 

「えっ。ですが、実戦では邪魔に――」

 

「それに、夜蛾先生にそんなこと聞いちゃダメですよ! いくら女性からであっても、自分の胸について男性教師に詳しく聞くなんて立派なセクハラになりますからね!?」

 

「……チッ。ダメか」

 

 絶対死ぬほど痛いだろうが、それで今後のステップが軽くなるなら安い代償だと思ったのに。私は聞こえないように小声で舌打ちしつつ、いつもの令嬢スマイルを貼り付けて話題を切り替えた。

 

「冗談です。……それより、制服のスカートについてですが」

 

 私は、ハンガーに掛けられていたタイトスカート*1のサンプルを指差した。

 

「このタイトスカートみたいなのではなく、他にありませんか? 先程言ったように足技をメインにしてますので、これだと開脚したらすぐに破れてしまいそうで」

 

「あっ、高専の制服はある程度カスタム可能なので大丈夫ですよ! では、ヒダがあって足が開きやすいプリーツスカート*2になさいますか?」

 

「ええ。それと、脚を高く上げても下着が見えないように、下に履くスパッツもお願いします」

 

「わかりました、それで発注しておきますね」

 

 そう返答して医務室を出ていく女性補助監督。

 

 それを見送りながら、私は支給されたジャージに着替える。このあとは、お互いの実力がどの程度か測るために新入生三人で組手を行うと夜蛾先生から伝えられていたからだ。

 

(というか新入生三人しかいないのか。わざわざ熊本までスカウトに来るほど人手不足なんだな……)

 

「よし、動きやすい。これなら十分に動けそうだ」

 

 私は軽くシャドーをして身体の動きを確かめると、医務室を後にして組手を行うという校庭へと向かった。

 

◇ ◇ ◇

 

 医務室を出て、初夏の風が吹き抜ける高専のグラウンドへと足を踏み入れる。

 

 誰もいない開けた空間。私は早速、ジャージの伸縮性を確かめるべく、大きく踏み込んでハイキックを空中に放った。

 

 空気を切り裂く、鋭利な破擦音。

 

 一切の無駄を削ぎ落としたモーションから繰り出された私の右脚は、一切の抵抗なく頭上の空間を薙ぎ払い、吸い込まれるように元の構えへと戻る。

 

 私が満足げに足をおろし、ふくらはぎの筋肉をほぐしていた、その時だった。

 

「……驚いたな。一応、私は格闘技を趣味でやっている身なんだが、私のそれとは先ほどの蹴りと今のを見ただけで別物とわかるほどの練度だ」

 

「――!」

 

 背後からかけられた声に、私はスッと目を細めた。

 

 振り返ると、そこには私と同じように高専指定のジャージに着替えた二人の少年と、その後ろを歩くスーツ姿の夜蛾先生が立っていた。

 

 奇妙な前髪をした黒髪の少年――夏油傑と、その隣で自販機で買ったらしい缶ジュースを飲みながら、ひどく面倒くさそうにこちらを見ているサングラスの白髪――五条悟だ。

 

「これで全員揃ったな」

 

 夜蛾先生が重々しい声で告げる。

 

「これより、新入生三人による実力測定を兼ねた組手を行う。まずは――」

 

「夜蛾先生」

 

 夜蛾先生の言葉を遮り、夏油が一歩前に出た。

 

 その口元には、先ほどの本堂で見せたような『優等生』の笑みはない。強敵を前にした肉食獣のような、熱を帯びた笑みが浮かんでいた。

 

「彼女の相手、まずは私にやらせてください。……最初は、術式も呪力強化も使わない、純粋な徒手空拳で戦ってみたいです」

 

「あーあ。傑、お前ホントそういうの好きだよねぇ。俺はパス。汗かくのダルいし」

 

 興味なさそうにジュースを啜る五条を放置し、夏油は私に向かって真っ直ぐに歩み寄ってくる。

 

「家入さん、だったね。私は趣味で色々な格闘技をしているんだが……君の動きはまるで、テレビで見るプロの――いや、それ以上に洗練されたものを感じた。是非、手合わせしてほしい」

 

 夏油のその言葉に、私は思わず目を見張った。

 

(一目見ただけで私の練度を正確に見抜いたか。まあ、前世の修行期間も合わせりゃ格闘歴は四十年くらいにはなるから、練度には自信があるが……って、前世と今世合わせた私の精神年齢、もしかしてアラフィフか? 急にひどく憂鬱な気分になってきた……)

 

 突如突きつけられた『魂の実年齢』という事実に内心で絶望しつつも、私はゆっくりと構える。腕を防御に回し、足にすべてを懸ける異端の構え。

 

「……ええ、相手になっていただけるなら光栄ですわ。遠慮はいりません。怪我をしても、私が反転術式で治してさしあげますから」

 

「ははっ、それは頼もしい。なら……後腐れなく、安心して全力でいかせてもらうよ!」

 

 面倒くさい若者は嫌いだ。だが、拳で語り合える『格闘バカ』なら話は別だ。

 

 青空の下。のちに最強の一人と呼ばれる呪術師と、中身がアラフィフの格闘バカによる純粋な殴り合いが幕を開けた。

 

「始めッ!」

 

 夜蛾先生の鋭い号令がグラウンドに響き渡る。

 

 その瞬間、先手を取ったのは夏油だった。

 

 無駄な力みのない滑らかなステップで一気に間合いを詰め、基本に忠実な左の牽制(ジャブ)が放たれる。しかし、その踏み込みの深さと拳の初速は、素人のそれとは完全に一線を画していた。

 

(……速い。それに、打撃の軌道に迷いがない。こいつ、本当にかなりやり込んでるな)

 

 私は内心で賞賛しつつも、後ろへは下がらない。顔面を狙ったその拳に対して、最小限の動きで右の掌を合わせ、軌道を外側へと弾き逸らす。

 

「っ……!」

 

 打撃を受け流された夏油が、微かに目を見張る。だが、彼の身体は反射的に次の動作へと移っていた。流された左腕を囮にし、死角から渾身の右ストレートを私の胴体へと叩き込もうとする。

 

 体格差のある男子高校生のフルパワー。まともに受ければ女子高生の身体では骨もへし折られそうな一撃だ。

 

 しかし、私の『裂蹴拳(れっしゅうけん)』は、腕を攻撃に使わない。両腕はすべて、防御と受け流しのために存在している。この武術は、まともに『ガード』するのではなく、相手の力を『いなして体勢を崩す』ことに特化しているのだ。

 

 私は引いていた左の前腕を斜めに差し込み、夏油の右ストレートの威力を滑らせるように殺しながら、同時に軸足を鋭く踏み込んで、空いている右手で顔面へ殴りかかる……ように見せかける。

 

 夏油の意識が私の右拳に向いた瞬間こそが、最大の死角。

 

 私は即座に右腕を引くと同時に、フェイントで捻った腰の回転をそのまま利用し、左脚を放った。

 

 狙いは下半身――と見せかけて、膝の関節をムチのようにしならせ、地面スレスレから跳ね上がるような軌道で夏油の顎先へと迫る。下段蹴りの軌道から急激に変化する、遠心力を乗せた至近距離からの変則上段蹴り。

 

「――危なッ!」

 

 直撃のコンマ数秒前。夏油は本能的な危機感を察知し、咄嗟に両腕を顔の横で交差させた。

 

 直後、肉と骨が激しく軋む重鈍な衝撃音がグラウンドに響き渡る。

 

 私の蹴りを両腕のガードで受け止めた夏油の身体が、土埃を巻き上げながら後方へと数メートル滑らされた。

 

「……へぇ」

 

 土を抉った足元を確認し、ガードした両腕を軽く振りながら、夏油が楽しげに息を吐く。

 

 厚手のジャージ越しでは見えないが、打撃を受けた夏油の腕は、骨の髄まで響くような痺れに襲われているはずだ。彼はぷらぷらと痺れを取るように腕を振りながら話しかけてくる。

 

「驚いた。細身の女の子だからガードの上からなら耐えられると思ったんだが……まるで鉄パイプで殴られたかのように重い。ガードした腕が痺れているよ。本当に見事としか言いようがない」

 

「……あら、お見事ですわ。今の変則蹴りを初見で防いだ人は、今まで誰もいませんでしたのに」

 

 私の内心の驚きは、夏油以上だった。

 

 プロでも体勢を崩されている状態からの私の変則蹴りは、ガードが間に合う人物などほとんどいなかったというのに、こいつは初見で完全に防ぎきったのだ。

 

(……最高じゃねぇか。前世のプロの試合でも、ここまで手応えのある奴はそうそういなかったぞ)

 

 私は、令嬢の仮面を被り続けることも忘れ、獰猛な笑みを浮かべていた。

 

 夏油もまた、自分より格闘術が上手い相手が今まで居なかったのか、肉食獣のように瞳を輝かせて楽しそうにしている。

 

「面白い……! 今度は私から行かせてもらうよ、家入さん!」

 

「上等だ! 全部いなして、顎ブチ抜いてやるよ!」

 

「…………ん?」

 

 グラウンドに、一瞬だけ間の抜けた沈黙が落ちた。夏油が目をパチクリと瞬かせ、不思議そうに首を傾げる。

 

「……おや。優雅なお嬢様口調はもうやめかい?」

 

「あ」

 

 しまった。あまりにも良い手応えにテンションが上がりすぎて、中身のおっさんが完全に表に出てしまっていた。

 

「……ゴホン。い、いえ。全部いなして、蹴り飛ばして差し上げますわ!」

 

「ははっ! 無理に取り繕わなくていいさ。そっちの素の口調の方が、君の蹴りと同じで鋭くて君らしい。……さあ来い、家入!」

 

「……チッ。ならお言葉に甘えて、遠慮なくボコボコにしてやるよ、夏油!」

 

 お嬢様の猫かぶりを完全に投げ捨てた私と、優等生の皮を脱ぎ捨てた夏油。

 

 私たちは、お互いの技術を喰らい尽くすかのように、再びノーガードの距離へと踏み込んだ。

 

 ――なお、本人は知る由もなかったが。

 

 この日、『自分より遥かに格闘技術が上のスパーリングパートナー』を得たことにより、夏油傑の近接戦闘力は、原作のそれを遥かに凌駕するレベルへと引き上げられていくことになる。

 

「……なぁ、センセー」

 

 再び始まった二人の凄まじい攻防を少し離れた場所から見ていた白髪の少年――五条悟が、サングラスをずらしながら呆れたように口を開いた。

 

「アイツら、いつになったら『呪力』使うの? ただの殴り合いじゃん。それに、あんな攻撃いくら洗練されてたって、俺の『無下限』の前じゃ届きもしないっしょ。見ててすげー退屈なんだけど」

 

 あくびを噛み殺す五条に対し、夜蛾は腕を組んだまま厳しく言い放った。

 

「……悟、邪魔をするな。あれはただの殴り合いではない。極限まで洗練された『武術』の応酬だ」

 

「ふーん。で?」

 

「お前は己の規格外な才能と術式に頼りすぎている。もしも呪力が枯渇した時、あるいは『術式が通じない相手』と対峙した時……最後に生死を分けるのは、あの二人のような純粋な技術だ。力任せのお前も、あの立ち回りからは目を逸らすな」

 

 夜蛾のその言葉に、五条は「へえへえ」と適当な返事をしつつも、サングラスの奥の『六眼』で、砂埃を上げて殴り合う二人の姿を静かに追っていた。

*1
※原作の高専家入さんが履いていたアレ

*2
真希とか野薔薇とかが履いていたアレ

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