TS成り代わり殴りヒーラー家入硝子さん~幽遊白書好きが呪術廻戦の世界に転生して仙水忍の『霊光裂蹴拳』を極めたら~ 作:MMOだと殴りヒーラーが好き
オリジナル呪霊が登場し、【大量の虫の描写】が含まれます。虫や集団系、ホラー描写が苦手な方はブラウザバックを推奨いたします。ご注意ください。
ここから少しシリアスタグが仕事します。
それから月日は流れ、呪術高専に入学してから早くも一年近くが経った冬。
呪術界の独特なルールや通常の勉学、それに医師免許取得に必要な解剖学などの知識もある程度修めた私は、現場での任務に駆り出されることが多くなっていた。
最初は五条や夏油と共に二級術師として同行していたのだが、数回も任務をこなすと、彼らからの私への評価は『呆れ』へと変わっていった。
「……お前、呪霊祓うスピードだけなら俺らより早くね?」
ある日の廃ビルでの任務。反転術式の光に包まれ、塵となって消滅していく二級呪霊を前に、五条がサングラス越しにボヤいた。
「まあ、硝子の攻撃は全て反転術式が付加されているからね。当たりさえすれば呪霊には猛毒だ。祓うのが速いのはある意味当然というべきか」
夏油が顎に手を当てて冷静に分析する横で、五条がニヤッと生意気な笑みを浮かべる。
「まあ、俺には硝子の攻撃当たらねぇけど」
「あ? 言ったなこの無下限チート野郎。いつか絶対にその生意気な顔面に私の右ストレートぶち込んでやるから、首洗って待ってろ」
「ははっ! やれるもんならやってみろっての」
「はいはい二人とも、呪霊祓ったんだから帰るよ」
いつの間にか二人からは『硝子』呼びが定着していた。性別なんて関係ない、中学生の悪友同士みたいなくだらない口喧嘩。前世では味わえなかったそんな騒がしい時間も、今ではすっかり私の日常の風景になっていた。
ある日の高専の談話室。
「――ってわけで冥さん。俺らがコイツの力量は保証するから、1級に推薦するっていうハンコ押してくんない? 俺らのどっちかが推薦してもいいんだけどさ、同期が推薦したら夜蛾センや上層部から難癖つけられそうだしさ」
「……ふふっ。私は誰の味方でもない、強いて言うなら金の味方だよ。五条家の坊ちゃん、君はいくら出せるのかな?」
五条がソファーでふんぞり返りながら取引を持ちかけた相手は、長い銀髪の女性――1級術師である冥冥だった。
彼女の守銭奴っぷりを熟知している五条は、ニヤリと笑うと、迷うことなく札束を複数個、テーブルに滑らせた。
それを見た瞬間、冥冥は極上の、本当に嬉しそうな笑顔を浮かべた。
「交渉成立だ。彼女の報告書を楽しみに待つとしよう」
「悟……それはルール違反ではないが、モラル的にどうなんだい?」
「堅いこと言うなよ傑。あいつがまだ2級の方がおかしい強さなんだし、手っ取り早く短縮してるだけさ」
呆れて額を押さえる夏油を他所に、五条の財力と権力を悪用した昇級プロセスにより、あっという間に『準一級』となった私は、そのまま一気に最終試験である【単独での一級任務】へと向かうことになったのだった。
◇ ◇ ◇
――そして、単独任務当日。
高専の正門前では、見送りに来た五条と夏油が暇そうに手を振っていた。
「ま、一人で泣きそうになったら大声で俺らの名前呼びなよ。気が向いたら助けに行ってやるからさ」
「五条、帰ってきたらお前のコーラ全部炭酸抜くからな」
「ははっ、まぁ硝子なら1級呪霊相手なら心配無いでしょ。油断だけはしないようにね」
夏油のまともなエールにだけ手を挙げて応え、私は待機していた黒塗りのセダンの後部座席に乗り込んだ。
「家入さん、本日はよろしくお願いします。資料には既に目を通されていますね?」
運転席から声をかけてきたのは、スーツを隙なく着こなした中堅の補助監督だ。
相手が学生であり、なおかつ危険な一級呪霊の討伐任務。そんな不安要素しかない状況だというのに、彼は余計な緊張を見せることもなく、淡々とプロとして業務をこなしている。
「ええ。目的地は県境の廃鉱山。肝試しに入った大学生や、一部の廃墟マニアが行方不明になる事件が多発してて、観測された呪力残滓から一級呪霊と断定……ですよね」
「はい。ただ、現場の山林は少し『奇妙な現象』が起きておりまして」
「奇妙な現象?」
「ええ。本来ならあの辺りの山は野生動物や虫の声で騒がしいはずなのですが……ターゲットが潜伏しているとされる廃鉱山の周辺だけ、異様なほど『無音』なのです。鳥一羽、虫一匹の音すらしません」
補助監督の言葉に、私は窓の外へ視線を向ける。……なるほど。そいつの放つ呪力を察知して、周囲の野生生物たちが本能で逃げ出した強力な個体、ということか。
「ま、相手が何だろうとやる事は変わらないですよ。直接乗り込んで、サクッと祓って終わらせてきます。パパッと片付けて帰りましょう」
「頼もしいですね。では、帳の準備と退路の確保はこちらで完璧に済ませておきます」
車を降りた瞬間、私は補助監督の言っていた意味を肌で理解した。
(……気持ち悪。なんだこの静けさは)
木々が鬱蒼と茂る廃鉱山の入り口。風の音以外、本当に何も聞こえない。いや、それだけではない。坑道の奥から、微かに生臭い土の匂いと……『ゾワゾワ、カサカサ』という、耳障りな微振動のような音が響いてくるのだ。
「『闇より出でて闇より黒く その穢れを禊ぎ祓え』」
補助監督の詠唱と共に、空からドス黒い結界――『
昼間の太陽は完全に遮断され、周囲の山林はあっという間に疑似的な『夜』へと変貌した。ひんやりと薄暗くなった隔離空間の中、私は気を引き締め直し、ぽっかりと口を開けた真っ暗な坑道へと単身で足を踏み入れた。
暗闇に目を凝らしながら数十メートルほど進んだ、その時だった。
『キ……キキ……ッ!!』
岩肌を蹴り渡り、大型犬ほどの大きさの異形の獣が姿を現した。
よく見ればそれは獣ではなく、グロテスクに肥大化した『蟻』の姿をしていた。天井に張り付いたまま、重力など無いかのような異常なスピードで私に肉薄してくる。
「速いな……なら、これでどうだ!」
私は手に反転術式付きのバスケットボール大の呪力の玉を出現させ、その正のエネルギーの塊を空中にフワリと放り投げ――軸足を深く踏み込み、ボレーシュートの如く渾身の回し蹴りを叩き込んだ。
「『
ドゴォッ! という爆音と共に、光弾が恐ろしい速度で呪霊へと殺到する。当たれば塵も残さず消し飛ぶ一撃必殺。だが――。
『ギシャァッ!』
「チッ、避けやがった!」
呪霊は空中で身を捻り、紙一重で光弾を躱した。そのまま岩壁を蹴り、ピンボールのように不規則な軌道で跳ねながら迫ってくる。
(速いし動きが変則的すぎる。しかし近付いてきてくれるなら、直接そのドタマをカチ割るまでだ)
私は深い前傾姿勢をとり、呪霊の軌道を予測して一気に間合いへと踏み込み、反転術式付きの回し蹴りを放つ。
「オラァッ!!」
バァンッ! と、空気を叩き割るような破裂音。
私の足の甲が呪霊の頭部を正確に捉え、正のエネルギーを直接脳髄に流し込む。悲鳴を上げる間もなく、一級呪霊だった『それ』は空中でボロボロと崩れ去り、塵となって消滅した。
「……一級にしては弱かった気がするが、こんなものかな?」
私はジャージの埃を払いながら、小さく息を吐いた。これなら五条や夏油と組んでいた時に相手をした呪霊の方が、よっぽど手強かったくらいだ。
「さて、帰ってアニメでも……」
踵を返し、来た道を戻ろうとした、その時だった。
「……は?」
思わず、間の抜けた声が出た。
つい数十秒前まで、そこにあったはずの『坑道の入り口』が、ない。土砂崩れで塞がったわけではないはずだ。周囲の物は何も壊していないし、そういった音は何もしていなかった。
――ズズズズズズッ……!!
途端、足元の地面と、周囲の岩壁すべてが『真っ黒に蠢き出した』。
「なんだ……これ……!?」
壁だと思っていたものは、岩ではなかった。黒と赤の甲殻を持った、何万、何十万という『蟻の群れ』。それが坑道の壁一面にびっしりと張り付いていたのだ。消滅した退路も含め、全てだ。先ほど私が倒した大型の蟻は、こいつらが生み出した単なる囮に過ぎなかったと理解させられる。
五条や夏油と共に祓ってきたどの一級呪霊とも違う、明らかに次元を逸脱した異常な呪力。もしや――特級?
私がその言葉を脳裏に浮かべたのと同時。
『リョ……ゥ……イ……キ……』
声ではない。周囲を埋め尽くす何十万匹という虫たちの、顎(アゴ)を鳴らす音、這い回る音が不気味に重なり合い、無理やり人間の『言葉』を形成して坑道に響き渡る。足元から這い上がってきた無数の蟻の群れが、私の視界を真っ暗に覆い尽くした。
『――テン……カイ』
直後、坑道の景色が、赤黒い土と蠢く無数の虫で構築された空間へと完全に塗り替えられる。
【 領域展開――『
「ガァッ……!?」
回避不能。防御不可。必中効果によって、領域内の無数の蟻すべてが呪力防御をすり抜け、私の皮膚を噛みちぎり、肉を削り取っていく。
「気色悪ィんだよ、クソ虫共がぁッ!!」
全身に群がる蟻へ向けて反転術式を放つ。触れた蟻たちは一瞬で灰のように消滅したが、地面から無限に湧き出す蟻が即座に隙間を埋め、文字通り『波』となって私を飲み込もうとする。
食い荒らされる端から肉体を再生させる。激痛に奥歯を噛み砕きそうになりながら、私は血と泥の混じった唾を吐き捨てた。
(チッ……! 倒しても倒しても無限に補充されやがる。治す端から削られちゃ、呪力が持たない。このままじゃジリ貧だ……!)
呪力の底が見え始めた、極限の死の淵。
必中の捕食をその身で受け、相手の領域の構造を肌で感じた私の脳内に、これまでの座学と、五条の部屋で見たアニメ、そして――解読できなかった『自分の生得術式』が、ガチッ!と音を立てて繋がった。
同時に、私の意識は深く沈み込み、あやふやだった『呪力の核心』へと触れる。
全身の肉を削られ、何万という蟲に食い荒らされているというのに、不思議と痛みすら感じなくなっていた。ただ、頭の中が恐ろしいほどクリアに澄み渡っていく。
理解した瞬間。
私の両手に集束した呪力が、見慣れた黒い革とクッション材の形――前世で愛用していた『オープンフィンガーグローブ』へと変貌を遂げた。
指先が出るそのグローブを、私はゆっくりと、確かめるように握り込む。
肉を齧り取られながらも、私は一切の言葉を発さず、前世のリングに上がる前のように首の骨を鳴らし、深く、長く息を吐いた。
そして、血まみれの顔のまま無音で両手のグローブを打ち合わせ、腰を落として顔の前に両拳を構える。
――ファイティングポーズ。
それは、『前世の日本の魂』を基にした術式を持つ、私にのみ許された異端の掌印だった。
極限の集中の中、私はただ静かにその言葉を紡いだ。
「――領域展開」
言葉と共に、私の魂の風景が、土と虫の壁を、内側からまばゆい光で塗り潰していく。
「『
遅くなりました。オリジナル呪霊やオリジナル領域展開の名前や効果を考えるのに時間かかった……。
TS硝子の術式は、日車や秤のように『領域展開がデフォルトでセットになっているタイプ』です。
日車のガベル(木槌)のように、彼女の場合は両手に具現化した『オープンフィンガーグローブ』が術式の象徴(トリガー)となっています。
※オリジナル呪霊設定※
軍隊蟻の特級呪霊
「小さな虫に群らがられ、生きたまま食い殺される恐怖から生まれた呪霊。 無数の黒と赤の蟻が密集して形作った、巨大な歪んだ人型。動くたびに「ゾワゾワ」「カサカサ」と何万匹もの虫が這い回る悍ましい音がする。
・領域展開:『貪食蟻塚(どんしょくありづか)』
光の届かない、土と無数の蟻でできた閉鎖空間(巨大な蟻の巣の中)。
必中効果: 領域内にいる無数の蟻すべてが「必中」となり、呪力防御をすり抜けて皮膚を噛みちぎり喰い荒らす。