梅雨が明けると、グラウンドの空気が、それまでとは少し違って感じられるようになった。
夏の大会が近づいている——誰かに言われたわけではなかったが、悠朗にもそれは自然と伝わってきた。練習メニューは実戦形式のものが増え、ノックの声も、いつもより張りつめていた。
「今日から、紅白戦の回数増やすからな。気合い入れていけ」
Aチームのコーチがそう告げると、六年生たちの間に、目に見えて緊張感が走った。
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進藤は、普段と変わらないように見えて、練習中の動きが明らかに変わっていた。素振りの本数も、ノックへの反応も、これまで以上に鋭くなっている。
「進藤さん、なんか、いつもと違う」
悠朗がそう呟くと、隣にいたAチームの別の選手が、苦笑しながら答えた。
「そりゃそうだろ。あの人にとって、これが最後の夏だからな」
その言葉に、悠朗は先日、進藤自身の口から聞いた言葉を思い出した。
——俺さ、今年で、この少年団最後なんだよな。
短い言葉だったが、それが今、目の前の景色と重なって見えた。
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真夏の日差しの中、練習は日に日に厳しさを増していった。汗だくになりながらのノック、繰り返される素振り、水分補給もそこそこに続く実戦形式の紅白戦。
悠朗自身、この夏の大会でベンチ入りできるかどうかは、まだ分からなかった。それでも、悠朗にできることは、これまでと変わらなかった。
道具の手入れを、誰よりも丁寧に。
朝は、誰よりも早くグラウンドへ。
素振りは、家に帰ってからも、欠かさずに。
「悠朗、今日も残るのか」
練習後、進藤が声をかけてきた。
「うん。……進藤さんは?」
「俺も、もう少し打っていく」
二人は、それぞれ違う場所で、それぞれのバットを振り続けた。言葉を交わすことは少なかったが、同じグラウンドで、同じ時間を過ごしているという事実だけで、悠朗の中には、不思議な充実感があった。
◆
ある日の帰り道、悠朗は珍しく、進藤と同じ方向に帰ることになった。
「なあ、悠朗」
「うん?」
「お前、この夏の大会、出られるかどうかまだ分かんねえだろ」
「……うん」
「でも、もし出られたら——チームの、力になってくれよ」
進藤らしくない、まっすぐな言葉だった。悠朗は少し驚いた顔をしてから、小さく頷いた。
「うん。……ちゃんと、頑張る」
「ちゃんと、じゃなくて、思いっきりだよ」
進藤はそう言うと、いつものように、少し照れくさそうに笑った。
夕暮れの道を歩きながら、悠朗の頭の中には、これまで積み重ねてきた練習の一つ一つが、静かに浮かんでは消えていった。まだ結果は分からない。それでも、この夏に向けて、自分にできることを、一つずつ積み重ねていく——それだけは、はっきりしていた。
(つづく)