光纏え、閃光の騎士   作:犬吉

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長らくおまたせしました。(待ってる方がいらっしゃれば)
今回は前後編ぐらいの半オリジナルぐらいな話です。


ツインテール・クライシス・アフター


 アラクネギルディの撃破。ダークグラスパーとの決闘以降、多少の小競り合いはあったものの、鏡也らはそれなりに平和な時間を過ごしていた。

 現在進行系ではなく、過去形なのには当然、意味がある。

 その日。鏡也は学校の帰りにたまたま、とあるアミューズメント施設へと立ち寄った。近くにあった店に用があって、その帰り際に立ち寄っただけだったのだ。

「油断してた……完璧に油断してた」

 エントランスの柱の後ろに隠れ、頭を抱える鏡也。チラッと影から覗くと、猫型エレメリアンが、猫耳を付けたスタッフの女性をしきりに追いかけ回してた。

 

 そこでは動物との触れ合いをコンセプトとしている施設で、アニマルセラピーよろしく、心を癒やされる場所だった。かくいう鏡也が立ち寄ったのも、ささくれてしまいそうな心を癒やすためだった。

 部室で教室で基地で、凄惨な光景を見続ければ心の一つぐらい、ささくれるものだ。暴力は心に良くない。

 鏡也はゴールデンレトリバーのような大型犬と触れ合い、その体を十分にモフり、やはりペットを飼うのも良いかも知れない。昔、一度ねだりそうになったが、果たして責任を持って飼えるだろうかと思い直したことがあった。

 しかし、やはりペットはいい。こうやって可愛がるのも、従順になるよう、しっかりと調教して、首輪もしっかりとした物を付けて――。

「………」

 一瞬、犬じゃない誰かが見えたような気がしたので、癒やしもそこそこに帰宅することにした。

 そして遭遇したのが、この状況である。癒やされた心も速攻で枯れ果てた。

「さて、いずれはレッド達が駆けつけるだろうが……見過ごすわけにも行かないな」

 見たところ、幹部級ではないエレメリアンだ。ならばナイトグラスター一人でも十分だろう。

 そうと決まれば、人気のない場所へ移動しなければ。なにせここはアミューズメント施設のエントランス。広い上に人目も多い。この場で変身はできない。トイレ辺りにでも行こうと、行動を開始した時だった。

「おい、あそこにいるのって……あいつじゃないか? ほら、いつもテイルレッドたんと一緒にいる」

「あ、本当だ。てことはテイルレッドたんが近くに!?」

 いきなり、見知らぬ誰かに指をさされた。その言葉が伝播するのに時間はかからなかった。ざわめきが広がり、周囲の視線はエレメリアンから鏡也へ、その後ろに見えるテイルレッドへと注がれた。

 そんな事になれば、エレメリアンが気付かない訳がない。

「お前は御雅神鏡也! おのれ、何故ここに!?」

「そのセリフ、そっくりそのままお前に返すわ。……で、何だ? その、見たことのある、ふざけたスタイルは?」

 エレメリアンは床に転がり、腹を出していた。でっぷりとした腹が実に踏み甲斐がありそうだ。ゴムボールのように盛大に踏みつけてやるたくなる。

「知れたことよ。この腹を、思う存分に愛でて貰うためよ!!」

「めでたいのはお前の頭の中身だ」

「ぐほぁ!?」

 気付けば、エレメリアンの腹をゴムボールのように盛大に踏みつけていた。

「そこまでですわ、エレメリアン! ツインテイルズ、参上ですわ!」

 ヒーロー然とした名乗りが、エントランスに響いた。声の方を見やれば、ツインテイルズが臨戦態勢……にはちょっと足りないぐらいの状態で、駆けつけていた。

「おお、やっと来てくれたか」

「鏡也……あんたまた、遭遇したの?」

 またしてもな状況に、ブルーは呆れ気味だ。そしてイエローは、未だ踏みつけられているエレメリアンを、若干羨ましそうに見ている。

「とにかく、ここは俺たちに任せて早く避難しろ!」

 変身した姿は一番マトモじゃないが、思考は一番マトモなレッドの言葉に、鏡也は頷いた。

「ああ、そうさせてもらう。そっちの人達も、今のうちに」

 ついでと、女性スタッフにも声を掛けるが、戸惑ってる。仕方なく、その手を引いて一緒にその場から離れる。

「……むっ

 通り過ぎざま、レッドが不愉快そうな顔を見せた――ような気がした。

「ぐぬ……テイルレッド。やはり実物を見るに、これ程に猫耳が似合う幼女がいようとは! テイルレッドよ、我が名は 猫耳属性(キャット)のキャットギルディだ!」

「その見た目で違ってたら、その方がビックリだよ」

「さ、こっちにおいで。素敵な猫耳を付けてあげようじゃないか」

 キャットギルディは猫耳を片手に、招き猫のように手を動かしている。なんてイヤな招き猫だ。

「いや、何言って」

「みたーい!」

「付けて付けて!」

「いや、避難してって」

 避難途中だった女性フタッフが鏡也の手を振り切って、レッドに迫る。困惑するレッドの目線が鏡也に届いた。

 このままでは、レッドが戦えない。戦えなくとも他二人で大丈夫な気がするが、流れ弾や流れパンチやキックが届くかも知れないので、改めて避難を――。

「……鏡也は、付けて欲しいか?」

「………」

「………」

「………」

「………おまえはなにをいってるんだ?」

 レッドが鏡也に振り返ったかと思った途端、上目遣いで途方もない爆弾を放り投げてきた。その破壊力に、施設が静まり返った。

「………え? あ、あれ? 何言ってるんだ俺!?」

 レッドも自分が意味の分らないことを口走ったと、顔を赤らめてビックリしていた。言われた方もビックリだ。

「と、とにかく今はエレメリアンを!」

 

 カツーン。

 

 響き渡った音。それはまたたく間に施設内を満たし、肌が泡雑ほどの鬼気がそれを呑み込んでいった。カラカラカラ。と、槍を床に擦らせながら、羅刹がそこに歩いていた。テイルブルーと呼ばれた羅刹は、鏡也とテイルレッドの間に槍の刃先を突き入れる。

「下がって。半径50メートル以内に入らないで」

「お、おう」

 有無を言わせぬその圧力。スタッフさんはもちろん、周りの野次馬も一斉に逃げ出した。鏡也もゆっくり、刺激をしないように下がる。猛獣と対峙したときの基本だ。

 今のブルーならば、アラクネギルディすら圧倒できるかも知れない。

「て、テイルブルー! タイガギルディ隊長の仇……! ぐう、我が本能が逃走を宣告している!」

 キャットギルディだけではなく、ケージの中の猫たちも逃亡しようとガッチャンガッチャン大暴れ中だ。中には、気を失っているのまでいる。トラウマにならないことを心から祈る。

「タイガギルディ? ああ、あのスク水のやつね」

 

「「『ブルーが相手のことを覚えてる!?』」」

 

 有り得ない事態に、戦々恐々とするレッド達。通信越しのトゥアールも戦慄している。もしかしたら、尋常ならざる様子が、普段とはありえないブルーを生み出しているのだろうか。

 アルティメギルから怪物と称されるテイルブルーであるが、今回は映画に出てくる不死身の殺人鬼と並んでも遜色ない迫力だ。

「悪いけど、こっちも色々と立て込んでるから。前座はさっさと終わらせるわよ」

「うぐぐ……この迫力、本当に人間なのか? 仕方ない、キャット空中三回転ジャンプ!!」

 キャットギルディは、猫のしなやかさを使って、ジャンプ。エントランス二階に跳び上がった。

「ここは仕切り直しだ! さらばだニャ!!」

 せめてもの猫アピールを残し、キャットギルディが逃走する。

「属性玉〈スクール水着〉!」

 しかし、スク水属性を使ったブルーが、床を突き抜けてキャットギルディの前に立ち塞がった。

「ぎにゃあああ!!」

「オーラピラー! 完全解放、エグゼイキュートウェイブ!」

 哀れ。キャットギルディは部隊長であったタイガギルディの属性によって退路を断たれ、新たなる被害者として名を刻んでしまった。

「さ、とっとと帰りましょ」

「あ、うん」

 戻ってきたブルーに、レッドは何とも言えない表情だった。大魔王からは逃げられない、みたいな状況というのはああいうのを言うんじゃないだろうかと、真剣に考えてしまったのだ。

 すっかりラスボスとしての貫禄を抱きつつあるブルーはともかく、最初の名乗り以来、すっかり影の薄いイエローはといえば。

「じ~~~~~~っ」

 何故か、ペット用品コーナーをガン見していた。正確に言えば首輪とリードだ、それを一体どうしたいのか。神堂家ではペットは飼っていないというのに。イエローの視線がどうして、チラッチラッと鏡也の方に向いたりするのか。

 諸々の問題はそのままに、鏡也も帰ろうと踵を返した。

「ちょっと待った」

「ぐえっ」

 突然、鏡也の体が浮いた。そして頸が締まった。背後でブルーが槍で鏡也の襟を釣り上げているのだ。

「あんたもこのまま来なさい」

「いや、俺自転車が」

「後から取りに戻って」

 答えなぞ求めていないとばかりに、ブルーは鏡也を吊し上げたままエントランスを出ると、髪紐属性(リボン)を発動。空へと飛び上がった。

「ごめん。二人は自力でお願い」

「待て待て待て! こっち生身! 落ちたら死ぬぅうううううう!!」

 悲鳴が風に流されて消えていく。残されたレッドとイエローはお互いに顔を見合わせた。

「では、レッド。私に掴まってくださいまし」

 イエローが髪紐属性(リボン)を発動。レッドと共に空へと上がっていった。

「それにしても、どうしてブルーはあんなに怒っていたんでしょう?」

「………さあ?」

 二人は揃って首を傾げながら、ブルーの後を追いかけるのだった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

「さて、事態はいよいよ深刻化しています」

 基地に帰還したツインテイルズはトゥアールにブレスを預けた。定期的メンテナンスを行うためだ。それぞれのブレスが機械によって細かいパーツレベルで厳重なチェックが行われてる。

 特にブルーのギアは本人の戦い方にもよるのだろう、摩耗が著しい。ウェイブランスなど亀裂が走っていて、次に使えば粉々になってただろうほどに深刻だった。

 それよりも遥かに深刻だと言わんばかりに、トゥアールは重い口を開いた。

「鏡也さん、何か言うことはありませんか?」

「あるか、そんなもの」

「そうですか。では、こちらをご覧ください」

 トゥアールがモニターにある映像を映し出した。どこかの大食い系イベントか、一心不乱に参加者が何かを食べている。

 

 ペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロ――。

 ペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロ――。

 ペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロ――。

 ペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロ――。

 ペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロ――。

 ペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロ――。

 

「………改めて見なくてもひどい光景だな、これ」

 これは先日、教室で行われたテイルレッドペロペロキャンディ(非公認商品。税込価格396円)早ペロ競争の様子だ。

 ストロベリーとミルクをあわせてデザインされたそれは、見た目だけでなく味でもしっかりとしている。かのダークグラスパーも、部下への土産物として購入した逸品である。ただ、アルティメギル基地にてこのキャンディが悲劇を生んでしまったのだが、今回は全く関係ないので割愛する。

 それを、男子高校生が揃ってペロペロし続けてる光景は、アウトを通り越してアウトだった。

 この頭痛が痛い光景に総二ならずとも、さっさと教室を後にしたものだった。そんな物を今更見せてどうしたいのか。トゥアールの意図がわからず鏡也は首をかしげる。

「総二様。これをご覧になってどう思われますか?」

「どうって……容赦ねえなとしか」

 総二もどう答えたら良いのか分からず、困惑するばかりだ。そんな反応を分かっているとばかりに、トゥアールは続けた。

「では、総二様。テイルレッドに変身して頂けますか?」

「え、なんで?」

 戸惑う総二であったが、言われるままテイルレッドへ変身する。

「では鏡也さん。これをどうぞ」

 鏡也に差し出されたのは、テイルレッドペロペロキャンディであった。間近で見るキャンディの造形は見事であり

「……これを食えと?」

「ええ。存分に。あ、みなさんもどうぞ」

 受け取ったは良いが、周囲の視線が痛い。しかし食べなければそもそも話が終わらない気配だ。仕方ない。と覚悟を決めて、鏡也がキャンディを舐める。

「……うん、普通に美味いなこれ」

 見た目を差し引けば、キャンディとしてちゃんとしているだけに、普通に美味しく食べられる。そうして数舐めしていると、途端に腕を掴まれた。

「ん?」

「……ろ」

 腕を押さえているのは小さな手だった。ただ、スピリティカフィンガーによって強化されたそのパワーは凄まじく、腕からミシミシという嫌な音が聞こえ始める。

「それ、舐めるの止めろよぉ……! 何だか良くわからないけど、すごく嫌だ……!!」

「そ、総二? どうした落ち着け? とりあえず手を離せ、な?」

 努めて冷静に、鏡也は総二に手を離すように促した。しかし、総二は大きくツインテールを振るばかりだ。見れば顔も真っ赤になっている。

「ほら見ろ。俺以外にも食ってるやつはいるぞ? トゥアールなんて、クラスメート顔負けの舐めっぷりじゃないか!? なあ!?」

「ペロペロペロペロペロペロペロペロペロ……」

 トゥアールのプロペラのように回転する舌を指さして言うが、総二は頑として首を縦に振らない。あくまでも、鏡也にだけ拘っている。

「良いからもう、俺を舐めるなよぉおおおおお!!」

「良くねえから、さっさと手を離せぇえええええ!!」

 総二の羞恥と共に、鏡也の腕もいよいよ限界を迎えていた。

 

「……さて、これで分かって頂けたと思います」

「ああ。生身の人間にテイルギアは危険極まりないということが、な」

 ギリギリのところで粉砕骨折を回避できた鏡也が、右腕をさすりながら返す。テイルレッドから戻った総二は、自己嫌悪に突っ伏している。

「違います。そんな事は愛香さんがテイルギアを持った時点で、身に沁みて分かっている事でしょう?」

「それもそうだが」

 二人が揃ってもう一回、身に沁みさせられたところで、トゥアールは核心を語った。

「間違いありません。総二様は、鏡也さんにフラグを建てられてしまっています!」

「……フラグ、とは何なのですか?」

 意味が分からないと、慧理那が首をかしげる。揺れたツインテールに、総二の目が反応した。

「その説明はおいおいするとして……鏡也さん、総二様と何かありましたね?」

「いや、何もないぞ?」

 ずい、と迫るトゥアールの顔を押しのけながら、鏡也は答えた。実際に思い当たることはない。

「なるほど。では、もっと限定しましょう」

 さながら、犯人を追い詰める名探偵の如く、トゥアールは語り始めた。

「そもそも、フラグっぽいことが起こるのは鏡也さんとテイルレッドとの間であって、鏡也さんと総二様の間では起こりえません。これを前提条件とした場合、どう考えてもおかしいのです。何故ならテイルレッドと鏡也さんが接触した回数はそれなりでも、接触時間は少ないのですから。

 であれば、総二様にフラグを? いえ、それはありえない。ですが一つだけ……この条件を外れていた時期がありましたね。ええ、そうです」

 ビシッ! と、鏡也を指差して言った。

「そう! 総二様がソーラ・ミートゥカになっていた頃です!! あの時だけは、この条件から外れるのです! さあ、いかがですか!!」

 まるで、名探偵が犯人を追いつける推理を披露するかのようなトゥアールの物言いに、鏡也は微妙な顔をした。

 なにせ、やはり思い当たることがなく、むしろ今まで通りにしていた筈だという印象しかない。それは総二も一緒で、やはり微妙な顔をしていた。

「いつも通りだったと思うけどなぁ。せいぜい、合宿先で相談に乗ってくれたくらいかな?」

「相談?」

「何ですかそれ? 私、そんなの知りませんよ?」

 その言葉に、愛香の眉がピクリと跳ねる。トゥアールもジト目で鏡也を見る。二人の圧に気付かずか、総二は続ける。

「学校の屋上と、シーラカンスギルディと戦った日の夜に、砂浜でさ。自分の異常は何となく感じてたし、シーラカンスギルディの時は顕著だったからな。鏡也は最初から気付いてたみたいでさ……」

 総二が言うと、二人の顔がますます険しくなる。

 よく考えてみよう。当人たちはその様なつもりがなくとも、屋上で美少女と二人きり。あるいは夜の砂浜で二人きり。どう考えても青春と恋愛の定番シチュエーションだ。

「いやいや、だって男同士だぞ? ありえないだろう? 一時的に女になってたからって、そんなバカな事……だって、ツインテールじゃないんだぞ?」

「総二、最後のは否定要素なのか?」

「総二様。恋心に理屈付など無意味なことです。私だって、そりゃあもう小さくて可愛い子を愛でたい気持ちで満載ですけれど、それはそれとして総二様に対して組んず解れつベッドの中で愛でて愛でられ」

「めでたいのは頭の中だけにしろぉおおお!!」

「た~まや~!?」

 愛香のアッパーによって、めでたい打ち上げ花火となったトゥアールが天井に突き刺さった。

「とにかく! そーじは鏡也と二人きりにならないこと! 鏡也は変身したそーじには近寄らないこと! 良いわね? 今はテイルレッドにだけだから良いけど、これがそーじにまで行ったら………っ!」

「「お、おう……」」

 言いたいことは山のようにあったが、愛香の有無を言わせない迫力に、二人は頷くしかなかった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 結局、会議(?)は有耶無耶に終わった。トゥアールは存外深く突き刺さったのか抜けずにもがき続けてるし、慧理那は話についていけず首を傾げるばかりだし、尊は婚姻届を生産し続けてるし、愛香は不機嫌だしでグダグダだったからだ。

「あ~、くそ。なんだって言うんだよ」

 風呂から上がった総二は、むしゃくしゃした感情を持て余していた。せっかく見失いかけたツインテールを取り戻したというのに、また新たな問題が起きてしまったのだ。

 確かに、テイルレッドになった時、まるで自分以外の何かが勝手に動いているかのような感じはしている。

 しかし、それが恋愛感情だと言われても――。

「はあ、考えても仕方ないし寝よう」

 

 ――もしも、そーじにまで行ったら――

 

(いやいや、ありえないだろう……)

 

 反芻する愛香の言葉を否定しつつ、ベッドに潜り込む総二。今日は久しぶりにゆっくり寝られそうだなと感じながら、まぶたを閉じるのだった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 どうやら俺は街を歩いているらしい。隣には誰かがいる。声に聞き覚えがあるが、思い出せない。

 何だか違和感がある。それがなにか、理解できない。やがて風景は海浜公園らしき場所に移った。人影は自分たち以外にない。

(……!?)

 不意に、肩を抱かれた。驚いて顔を上げると――そこには見知った眼鏡を掛けた顔があった。

(きょ、鏡也……!? なんで……!?)

 意味がわからない。なんでこんな……?

 混乱する俺を余所に、鏡也の手が俺の顎に伸びる。そのまま顔が軽く上を向かされ――って待てよ、おい!!

 おかしいだろ! これは夢だ! 夢だっておかしいだろ!! 鏡也も止まれよ!!

 だけど、鏡也の顔はゆっくりと、近づいてくる。それは奇しくもダークグラスパーにされたのと同じ流れだ。

 違う。違う、違う。これは俺じゃない。だって俺は――!

(っ――!?)

 ちらりと見えた街灯に映った自分の姿。それを認識した途端、顔に触れる赤いツインテール。

(テイルレッド……いや、ソーラ・ミートゥカ?)

 ぐい、と強い力に後ろへと引っ張られる。見えていた光景がぐんぐんと遠ざかっていく。その中で、鏡也とソーラはその唇を――。

 

「やめろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 ◇ ◇ ◇

 

「―――ぐあっ!?」

 ドスン!! と、背中に強い衝撃が走った。ぼやけた視界には見慣れた天井がある。

「あ……悪夢だ」

 冷や汗でシャツが張り付き気持ち悪い。ノソノソと体を起こした総二は、時計を見た。いつも起きる時間より早いが、二度寝する程ではない。なにより、目が覚めてしまっている。

「……起きるか」

 ひとまず用をたそうと、部屋を出て階段を降りる。その間、今日はトゥアールも愛香も来なかったなぁ。夜討ち朝駆けは寝不足になるからやめてもらいたいなぁ。などと考えたりした。

「――おう、もう起きてたのか」

「うげっ」

 トイレから出てくると、ちょうど鏡也がやって来ていた。夢のせいでつい、後退ってしまう。

「なんだよ、その『うげっ』てのは」

「いや、何でもない。ちょっと悪夢を見てな……そんだけだ」

「……ふうん。それより、何かあったか?」

「……? いや、何もないけど?」

「そうか。なら良いんだが」

「???」

 鏡也の思わせぶりな言葉を訝しがりながら、総二は部屋に戻る。その途中、部屋の方から何やらやかましい声が聞こえてきた。

「なんだ?」

「ああ、さっき愛香が上がっていったからな。トゥアールとでも鉢合わせたか?」

 それは一大事。せっかく修理された部屋がまた壊されてはたまらないと、階段を駆け上がる。続いて鏡也も上がってきた。

「……た、なんでそんな事に……!?」

 徐々にはっきりと聞こえてくる愛香の声。かなりエキサイトいているようだ。まだ惨劇は起こっていないようだが、それもすぐのことだろう。

「おい、愛香。暴れるなら外か基地でやってくれ」

「暴れること自体は止めないのか」

「え、そーじ……!?」

 ドアを開け、無駄だ思いつつも愛香を静止する総二。だが、絵部屋の中には愛香しかおらず、その愛香も総二の声に目を見開いて驚いている。

「え、なんで……どうして、そーじが……?」

 もとよりここは総二の部屋で、総二が来ることに何もおかしい事はない。なのに、愛香はまるで”それがありえない光景”であるかのように、顔を強張らせて困惑の色を浮かべている。

一体どうしたのかと、部屋の中を見やると愛香の向こう――総二のベッドの上に動く影が見えた。何だろうかと、総二らが覗き込むと、不意に赤いツインテールが揺れた。

 

「「………は?」」

 

 そこには果たして、一糸まとわぬツインテールの美少女――つまり、ソーラの姿があった。


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