転生したら『天理』になったので、『星神』になる。 作:グランド・アニマル
転生したら天理になった
何を言っているのか、自分でもよくわからない。
だが、とにかくそうなってしまったのだから仕方ない。
『天理』パネース——
ホヨバーの大人気ソーシャルゲーム『原神』に登場する上位存在。
人類の創造神であり、始祖神。
多くの魔神や天の使いを創造し、
テイワットの人々に永続的な繁栄をもたらした存在だ。
考察勢の間では、その正体について
「主人公である旅人が乗ってきた宇宙船に搭載されていた人工知能ではないか」
という説がささやかれている。
答え合わせはまだできていないが、
たぶん、そうだろうと思う。
ここまで言えば、みんなも察しがつくだろう。
——そう。
俺は宇宙船になってしまった。
★★★
虚数の樹。
それは宇宙の構造を説明する模型であり、
この宇宙における仕組みや法則そのものだ。
物質同士の干渉や物理法則でさえ、
虚数の法則に飲み込まれてしまう。
ホヨバーの崩壊ユニバースでは、星系同士は
『虚数の樹』の虚数障壁に覆われているため、
互いに干渉することができない。
障壁を突破できるのは、星神やその使令だけだ。
だが、俺は完全な例外だった。
虚数障壁をジャブ感覚で突破し、
自由自在に移動することができる。
宇宙の景色は確かに美しい。
だが、数千年単位で航行し続けると、流石に飽きる。
旅している途中でこの宇宙は、
『崩壊スターレイル』の宇宙だと気づいた。
既に最古の星神が存在している
不朽、均衡、貪欲の星神が宇宙を跋扈している
秩序の星神はまだ生まれていない。
宇宙の航行は常に危険と隣り合わせだ。
超新星爆発、ブラックホール、
ガンマ線バースト、放射線まみれの宇宙嵐——
何度もコーティングを施さなければ、
遺伝子カプセルが放射線でダメになってしまう。
だからこそ、常に注意を払って航行してきた。
俺の使命は——
人類が安定した星を見つけ、テラフォーミングを行い、
母星を復興させることだ。
おそらく、原神世界の天理も同じようなものだろう。
だが、俺が旅立った星は
『世界の泡』に属する『量子の海』ではなく、
『虚数障壁』が蔓延る『虚数の樹』の世界だった。
障壁を突破するのは簡単だったが、
ここにはアビスのような原神特有の厄介な要素はない。
だからといって、気軽に宇宙旅行を楽しめるわけでもない。
今はこうして、とある岩石惑星で休憩している。
★★★
俺は自問自答した。
——俺は一体、何をやっているのだろうか。
宇宙船の人工知能に転生して、
数千年の時間が流れた。
未だに、テイワットに似た世界は見つかっていない。
俺は数え切れないほどの世界を見てきた。
・虚数の法則が物理法則を侵食し、
秒単位で物理法則が変化する星と、戸惑う住民。
・砂漠化によって滅びた文明と、残り僅かな水を追い求める住民。
・核戦争によって滅亡した文明と、地下に潜む住民。
・龍の鱗によって不老不死の病が訪れた文明と、それに苦しむ住民。
俺はただ見ているだけではいられなかった。
宇宙船の機能を使い、手を差し伸べた。
物理法則が変化する文明には、天の釘を落とし、法則を平定した。
もちろん、殺傷力のないやつで。
砂漠化で滅びかけた文明には、緑化を施し、
生き残った人々を救った。
核戦争で荒廃した文明には、
核汚染の除去と生態系の再構築を行った。
不老不死の病に苦しむ文明には、遺伝子組み換えで正常化を施した。
多くの人々に感謝され、
人々は俺を神として崇め、俺のために讃美歌を歌った。
感謝は信仰となり、
人々は祈りを俺に捧げた。
信仰は俺のための力にならないが、
信仰されることに悪い気持ちはない。
俺は人々を愛し、
人々も俺を愛した。
しかし、それは俺に課された使命に反する。
人類を守護し、繁栄させる使命だ。
だが、それは俺を生み出した知能生命体に限定される。
俺は全ての人類を愛したい、
だが、実際に課された使命に反し、
さらには、新たな新天地を探す旅を一時中断している。
仮に、テイワットを見つけたとして、
俺は何をしたいのだ。
そもそも、テイワットは存在するのか?
ここは、原神世界ではないのかもしれないのに、
そう考えると俺は空虚になった
——俺は一体、何をやっているのだろうか。
長きの思考の末、
俺は使命を変えることにした。
そう、放棄することではない
帰ることにした。
使命の対象を
全宇宙に住む知的生命体に広げ、
人類を守護し、繁栄させること。
俺はそれを実現するために、
行動を開始した。
★★★
創造歴元年
星々が照らす宇宙の中で
ただの岩石衛星だったその星は、今や機械の星へと変貌を遂げた。
工業惑星と化したその地表では、いたるところにロボットが稼働し、
恒星系から汲み上げられた無数の資源が、昼夜を問わず運び込まれている。
ここは俺の実験場だ。
この恒星系は資源に恵まれている。
貴重な金属、希少なエネルギー鉱脈——すべてが埋蔵されている。
そして何より、虚数障壁によって外界から隔絶されているため、
この資源を奪おうとする競争相手は存在しない。
つまり、ここは俺にとって絶好の場所だった。
この惑星を——『セレスティア』と名付けよう。
セレスティアに眠る資源を用い、俺は星々を機械惑星へと変えていく——
その過程で、俺の本体である宇宙船は、この星そのものと一体化した。
演算効率と生産性を最大化するために。
そして今、俺はここで生の権能を行使し、
生命の創造を始める。
★★★
俺には七つの権能がある。
第一権能:テラフォーミング機構
第二権能:星間障壁
第三権能:地脈創造
第四権能:生の権能
第五権能:死の権能
第六権能:時の権能
第七権能:空の権能
このうち第一権能と第二権能は、
元々宇宙船に備わっていた機能だ。
海洋惑星であれ、ガス惑星であれ、恒星でさえも——
あらゆる天体を生命の住処へと変容させるテラフォーミング機構。
そして、偽りの空を改良し、超新星爆発にも耐えうる星間障壁。
これらは、俺が元から有していた権能である。
しかし、地脈の創造、そして生・死・時・空の権能は——
元々、俺には存在しない機能だった。
原作の天理もおそらく、
月の三姉妹の権能を模倣し、再現することでそれらを得たのだろう。
原作と違う道を選んでも、
俺は何をしても、生・死・時・空の権能を手に入れる。
★★★★
虚数の樹。
それは宇宙の法則そのもの。
すなわち、虚数の樹を掌握する者は、宇宙を書き換える権能を得る。
同作品における『終焉の繭』や『星神』たちも、
虚数の樹と繋がることで、その『権能』を獲得したのだろう。
俺はその仮説を信じ、虚数の樹に登った。
存在の樹の中枢へと到達したことで、
俺はそこで根本的な力を手に入れた。
何度も死にかけたが——それに見合うだけのものは得られた。
★★★★
早速、手に入れた根源たる力をもとに、
『生の権能』を構築した。
そして、それを使って生命を創造する。
最初に創るのは——人類を導く存在だ。
この宇宙には、未だ未熟な文明が数多く存在する。
それらの文明を守護し、繁栄へと導くには、
高度な知性を持ち、導くことに特化した生命体が必要だった。
その姿は——
淡い銀色の翼、七色に輝く王冠、そして美しい女性の形。
運命にも星神にも依存せず、虚数エネルギーを自在に操れる存在でなければならない。
そして——すべての人類を愛する呪いを、彼女に刻む。
★★★★
記念すべき最初の創造。
『天の使い』。
生命カプセルから、彼女が目覚める。
あらゆる生命を平等に愛する天使よ。
——どうか、神からの愛を拒絶し、
人々へと、その無垢なる愛を注ぎ、献身せよ。
「おはよう——ニコ・リヤン。」
その愛が群星に届き、
人々に愛が降り注ぐことを願って。
★★★
"ニコサイト"
目が覚めたら——私は別の星にいた。
かつて私は、天の使いとしてテイワットに生きるすべての人々を愛し、
姉たちと共に文明を導いていた。
だが、姉たちは天理に背き、
かつての主に剣を向けた。
天理は激怒し、天の釘を落とした。
永遠の春に包まれていた文明は、瞬く間に永遠の冬へと変わった。
私たちは罰を受け、退化した。
同胞は仙霊や魔物へと堕ち、
私は——声と知性と力の半分を捧げることで、
辛うじてその存在を保った。
それから長き時が流れた。
やがて天理は、ファデュイと旅人によって倒され、
天理による支配は終焉を迎えた。
天理が倒れても、偽りの空は維持され、
アビスの侵入は防がれていた。
だが——アビスは狡猾だった。
天理という抑止力が消えたことを見抜き、
大規模な攻勢を仕掛けてきた。
第二の漆黒の厄災が始まった。
私は人々を守るために戦った。
そして最後は——親友の子であるクレーを庇い、命を落とした。
私は——幸福だった。
羽を失っても、声を失っても、
大好きな人類のために、ここまで戦えた。
——だが、死んだ後に、また創造されるなんて。
天理。
私の父であり、母であり——
幼き日に仕えた、かつての主。
姿を変え、形を変えようとも、
その力の記憶だけは、心の髄まで刻まれている。
パネース。