いつか地獄に堕ちるとしても   作: 燃える空の色

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第一話 もうひとつの現実

□■ 2043年8月10日 ???

 

 桜と共に剣戟が舞い、命の花を咲かせ、羅刹蔓延る修羅の国。

 刃を振るえば必ず返され、終わることのない蠱毒の中に繰り返される血の歴史を悔いることなく誇り、繰り返す異端の地。

 世界から切り離され、隔絶され、独自に栄え続けた不可侵地域。

 

 桜に刃に血が舞う国家―――天地。

 

 ……そう評される場所。

 天地という国は、そう言われて然るべき、血塗られた国だった。

 しかし、そんな場所にも当然、穏やかな平穏と呼ばれるものはあった。

 

 

「……はっ!ふっ!」

 

 天地唯一の中立地帯にして安全圏。

 天守閣の座すその都――刀都の一角。

 各地の大名たちにそれぞれ与えられた、刀都の別邸そのひとつ、羽宮家という大名家に与えられた屋敷の中庭にて。

 刀を振るう、影がひとつ。

 そしてその傍らには、それを見守る影が、三つ四つ…七つ。

 総じて見守る影は小さく、その光景は、傍から見れば異様にも見えた。

 

 ―――刀を握る。振りかぶる。教わった形を繰り返す。何度も、何度も。

 

 

「お、やってるやってる。今日も精が出るのう!」

 

 影らに近づく人影がまた増えた。

 軽い口調に反して気持ちがいいほどに高い声を耳にして、影たちは一斉にそちらに視線を向けた。

 

「信姫さまだ!」「信姫さまーー!」「兄ちゃんの修行を見に来てくださったんだ!」「あ、こら!またお父様たちに叱られるぞ!!」「信姫様は許してくれるもんねー!!」「わーい!!」「……姫様…」「こんにちはー!!」

 

 小さな影たち――羽宮に仕える武家の子らや、羽宮家に拾われ育てられてきた子供たちが騒ぎ立て、信姫と呼ばれたその女性を囲んだ。

 地に届きそうな程に長く、夜空に似た艶めかしい黒髪を携え、しかし鋭い眼光を宿した、10代後半程度に見えるその女性は、集まってきた子供たちに腕を広げて大きく笑った。

 

「くはははは!童共、今日も今日とて元気でよろしい!!その調子で鍛え、育ち、我が家に仕え忠義を尽くすといい!!わっはっは!!」

 

 豪胆に笑い声を木霊させるその女性は、一通り子供たちに目を通したあと、次に剣を振るっていた影に目を向けた。

 

「お前を拾ってはや一月弱。剣術もある程度形になってきたな。レベルもそこそこ……うむ、うむ。実に良い拾い物をしたものだ!やはり儂の目に狂いはなかった!!」

「ありがとうございます、信姫様。お陰様で、様になる程度には刀を振るえるようになりました。」

 

 影は振るう刀を止め、信女に向かって頭を下げた。

 ――信姫はその影……青年をじぃっと見つめた。

 淡い紫を孕んだ銀色の癖毛、海のような深い蒼を宿した瞳。自身とさほど変わらないであろう齢をした、天地では少し見ない顔立ちをした青年。

 彼の容姿に目を向けてから、少し視線を下ろす。刀を握る手の甲に浮かぶ卵形の宝石のようなものを見て、信姫はまた笑顔を浮かべた。

 

「うむ!うむ!やはり万能の才を持つ<ますたぁ>なだけはある!<えんぶりお>とやらは未だ出てこんようだが、他の大名より先にお主を引き込めたのはまさに僥倖というものよ!」

 

 上機嫌に笑い声を飛ばして、信姫はバシバシと青年の背中を叩いた。

 

「刀が扱えるようになったのであれば、次は鉄砲などどうだ?」

「そうですね。刀以外の武器も、一通り慣れておきたいですし…御指南頂けますか?」

「勿論だとも!なぁに、今暫くは急ぎの争い事もなかろうし、この儂に見合う相手もおらんでな!暇をしておったところだ!!童らとともにきっちりしごいてやろう!!」

 

 言うやいなや、信姫は張り切った様子で装備を整え始めた。

 

「えー!」「ちょっと兄ちゃん!巻き込まないでよーー」「なんでさ!信姫様に指南してもらえるんだぞ!!」「そうだそうだー!喜べー!」「よぉし、今日こそは一発叩き込んでやるー!!」「……頑張る」「やったらー!!!」

 

「ほぉう!吠えたな童ども!ならばまずは模擬試合だ!鍛錬の成果を見せてみよ!鉄砲を指南するのはまた後じゃ!!…ほれ、お主も呆けておらずに構えよ!主ら全員がかりでも、儂は負ける気などせぬぞ!」

 

「え、あ、はい!お願いします!!」

 

 言われるがまま、青年は刀を握った。

 子供たちも各々の武器を取り出した。

 そのどれもが真剣。

 傷つけないという意思もない。

 というか、必要がない。

 

「さぁさぁ始めようぞ!死ぬなよ小童共!無論、手加減くらいはしてやるが、うっかりせぬとも限らぬからなぁ!!!」

 

 宣言とともに空中に展開された、空を埋めつくさんばかりの火縄銃を見て、青年は―――<マスター>であるその人間は、「やっぱりゲームなんだなぁ」と再実感したのだと言う。

 

 

 

 

 

 

 

□2043年7月15日 刀都 ???

 

 

「……いったぁ…く、ない。……あの白猫、可愛い顔して酷いことするなぁ……」

 

 

 たった今、空から落ちてきたその青年は、地面に倒れ込みながら、何処ぞに向けて文句を垂れた。

 いてててて、と痛くはないはずの頭をさすりながら、青年はつい先程自分がいたその"空”を見あげ、その空高くから見えた光景が目に浮かんだ。

 視界いっぱいに広がった人々の営み、雄大な山々や木々などの大自然、海の先に見えた大陸、遠く海の上に浮かんでいた大きな船団、モンスターと戦う誰かたち―――

 

「すごいな、ほんとうに……ほんとうに、ゲームとは思えない」

 

 視線を下ろして、手のひらをなんども開閉した。

 握りしめた手は痛く、開いた手は空気の重みを感じさせる。

 肌を這う風の温度も、草木の混じる匂いも、太陽の光の温かさも。

 画面越しでは味わえない、まさに現実そのままの五感。

 それら全てが、世に謳われた夢と、ルイス・キャロルが青年に伝えた言葉が真実であるのだと伝えていた。

 

 青年が胸を衝くような感動に一人浸り、地べたから起き上がろうとして、――辺りのざわめきに気づいた。

 周囲を見渡せば、青年だけでなく何人か、同じように落ちてきたのだろう人影…マスターが見え、通行人たちが青年を含めた彼らを遠巻きに眺めていた。

 青年がいまいち状況を掴めずに未だ座り込んでいると、他の<マスター>たちは興奮した様子で天守閣の元に広がる城下町に向かっていき、気づけば雑踏の中で青年だけが取り残されていた。

 

「なんと!空から人が降ってきおったと思ったら、しかも無傷とな!!」

 

 どうしたものかと青年が座り込んでいると、背後から快活な声が届き、青年は振り返った。

 そこにいたのは、豪勢な着物を纏い、地につきそうなほどに伸びた黒髪を携えた女性だ。

 

「儂は信姫!羽宮家の長女にして、たった今、お主に興味関心を寄せる一人の武芸者である!!……して、お主!!ちょいと茶でもしばこうぞ!!」

 

 豪胆に笑うその女性は、好奇心となんらかの確信めいた感情を視線に宿し、地べたに座る青年に手を伸ばした。

 青年はポリポリと頬を掻きながら、その手を掴み引き寄せられると、思いの外強い力と硬い手の平に驚かされた。

 

 

 

 

 

「ほう!であればお主が噂に聞く<ますたー>とやらというわけか!」

「はい、噂がどのようなものかは存じ上げませんが、そうだと思います。…それと、まだ卵ですが、これが僕の<エンブリオ>です」

 

 信姫と名乗った女に言われるがまま、青年は街の中にある団子屋へと連れられ、信姫が注文した山のような三色団子と湯気立つ茶を味わっていた。

 キャラクリ時に与えられた第0形態の<エンブリオ>を見せると、信姫は面白そうに眺め始めた。

 

(あの白猫…チェシャが言ってた通りなら、この人はティアン…NPC、なんだよな。……全然そうは見えないけど……)

 

 人間味がありすぎるその姿を尻目に、三色に輝く団子を食べた。

 あ、美味しい。味も食感もしっかりあるんだ。

 

「あれ、なんか着いた…バフ?…そういうとこはちゃんとゲームなんだ」

「む?なんだ?口に合わんかったか?」

「あ、いえ。そんなことは…とても美味しいです」

 

 ステータスのHPバー下に表示されたバフを見て、青年は初めてこのゲームのゲームらしさを実感した。

 信姫は<エンブリオ>を触って遊ぶのにも飽きたらしく、これまた男らしく団子を一気に口に含み、茶で喉の奥に流し込むと、湯呑みを卓へ叩きつけた。

 

「ぷはぁ!相変わらず美味じゃのう!美味い美味い!!……して、お主。えーと、なんと申す?」

「あぁ、ええと……僕は、ハズレ――()()()()()()()()()()と申します。ハズレとお呼びください。……お団子、ありがとうございました。羽宮信姫様、で宜しかったでしょうか?」

 

 青年は問われて、自らをハズレと……()()()()()()()()()()であると名乗った。

 それを聞いて、信姫は新しい団子を口に運びながら破顔した。

 

「そう畏まらんでも、儂のことは信姫様と呼ぶがいい!!遠慮はいらんぞ!!儂も主をハズレと呼ぶからのう!!」

「あはは…わかりました、信姫さま。……えぇと、それでお聞きしたいのですが……」

「む?なんだ?団子が足らんか?言ってみい」

 

 遠慮しがちに尋ねたハズレに、信姫は団子を差し出すが、ハズレは苦笑しながら返却した。

 

「あ、いえ……団子は充分いただきました。そうではなくて…えっと、なんで僕は団子屋まで連れて来られたのかを聞きたいのですが、よろしいでしょうか」

「む?そんなことか。そんなもの、面白そうだったんで話を聞きたかったからに決まっておろう!!」

 

 団子を全て平げて立ち上がり、自信満々に胸を張る信姫に、ハズレは呆然と目を見開いた。

 

「面白そう、ですか?」

「うむ!何せ、主らは急に空から降ってきたかと思いきや、どいつもこいつもはしゃいだように街へと参っておったからのう!!主は呑気に座っておったから、思わず声をかけたというわけじゃ!!」

「……はぁ、なるほど……」

 

 納得したような、腑に落ちないような表情をして、ズズ、と残った茶を飲み干した。

 

「ま、それだけじゃないがの……ふむ。してお主、この後時間は空いておるか?」

「予定と呼べるものはありませんが…何せ、僕も始めたばかり…じゃなくて、この世界に来たばかりのもので」

「そうか!であれば、儂がお主に刀都を案内してやろう!!」

 

 団子屋に代金を払い、信姫は再びハズレの腕を引っ張って走り出した。

 

「まずはどこから行くとしようか!鍛冶場を見て回るのも良いし、闘技場で決闘を観戦するか、あるいは野良試合の見物も良いな!!」

 

 楽しそうに笑う信姫に引きずられ、しかしその口から出た血腥いワードに顔をひきつらせた。

 

「鍛冶場に決闘ですか…どれも物騒ですね。天地ではそれが普通なんですか?」

「くはは!!当たり前だ!!ここは天地、悪鬼羅刹蔓延る修羅の地ぞ!!!刃を交え、血を滾らせ、戦の中で絶えることこそがこの地の流儀!!なぁに、心配するでない!!主のような異邦人も、すぐさま血の味に馴染むだろうさ!!」

 

 信姫は自慢げに腕を広げながら、活気の溢れる刀都の大通りを走り抜ける。 

 行き交う人々はみな笑顔に満ち溢れ、子供たちも楽しげに遊んでいた。

 威勢のいい掛け声や美味しそうな食べ物の匂い、生き生きとした人々の活気が刀都全体を満たしていた。

 長閑で平和な光景に、ハズレは柔らかく笑みを浮かべた―――が、道行く人々は、皆刀や槍、鎖鎌などの武具を携えており、その佇まいは明らかに戦い慣れしていることが分かる。

 

「……ほんとに、みんな生きてるみたいだ」

 

 ハズレは、周囲の景観や人々の息遣いを肌で感じながら、ふと自分の手の甲に視線を落とした。 そこに刻まれた、未だ静かに眠る卵形の宝石。

 

「……えっと、信姫様」

「む? なんじゃハズレ」

「案内してくれるのはありがたいんですが……僕、まだ武器の扱いも、戦い方も、……というか、何をすべきなのかとかも、何も知らなくて。できれば、そういったことについて教えていただきたいのですが……」

 

 ハズレの言葉に、信姫はふと足を止め、振り向いた。 その鋭い眼光がハズレの顔を、そしてその手の甲の宝石を、射抜くように見つめる。

 

「……ふむ。」

「えっと、どうかされましたか?」

「お主、ジョブは何に就いておる?」

 

 純粋な疑問を込めた眼差しが向けられ、ハズレは一瞬返事に詰まった。

 ジョブ――、というと、RPGによくあるあれだろうか?戦士とか、僧侶とかの……。

 

「うむ? お主、リソースの欠けらも無いと思えば、まさかジョブについておらんのか?」

「は、はい。実は…そもそも、ジョブが何かもわからないしまいでして」

「なんと!!<ますたぁ>は異界からの来訪者と言うが、まさかそこまで無知であるとは!!」

 

 愚弄している様子もなく、純粋な驚愕が浮かぶ信姫の姿に、ハズレは苦笑いを返した。

 

「あはは…すみません。勉強不足なもので」

「ううむ…のう、ハズレ。聞きたいのだが、お主は何故にこの地に舞い降りたのだ?聞くかぎり、<ますたぁ>はみな自分の意思でこちらへ来ておるのだろう?であれば、お主はジョブも知らずに、何を目的として来たのだ?」

 

 信姫から投げかけられた質問の内容に、ハズレは答えを見失った。

 「ルイス・キャロルという謎の男に誘われたから」、というのは、彼女から求められている答えではないだろう。

 かと言って、それ以外に大それた理由がある訳では無い。

 強いてあげるとするならば――、

 

「……新しい体験がしたかったから、でしょうか。」

 

 間を置いてから、ハズレが真面目な顔をして出した答えを聞いて、信姫は耐えきれんとばかりに吹き出し、腹を抱えて笑いだした。

 

「くはははは!!それはいい、実にいい!!異界からの来訪者でありながら、下らん大義名分も、浅ましい欲でもなく、ただ興味と未知を求めてきただけと申すか!!」

「すみません、面白みの無い答えで…」

「くは!なぁに、理由なんぞ後からいくらでもつければよい!」

 

 信姫はしばらくケラケラと笑ってから、途端に落ち着いた様子で、ハズレの目を見た。

 

「のう、ハズレ。お主は今、自分が何をすべきかわかっておらんのであろう?……であれば一時、我が家に客分として身を置く気はないか?」

 

「客分、ですか」

 

 これまた突拍子もない話が出てきたな、とハズレは困惑の声を上げた。

 

「うむ。儂の客分として、主には我が羽宮家に来てもらいたい。無論ただで遊ばせてやるわけではないが、悪い用にはせんぞ?」

「……こちらとしては、願ったり叶ったりの申し出ですが…良いんですか?」

「よいよい!何せ、我が家で最も強いのは儂じゃからな!誰も大声で文句は言えぬさ」

 

 つまり、小声でなら文句を言われるかもしれないらしい。……とはいえ、今のハズレは右も左も分からない放浪人な以上、いきなり後ろ盾と知識を得られるのは、正直言ってありがたい話だった。

 

「では、そうさな。…取引、ということにしようか。儂はお主を援助し、武具の扱いやジョブ、この世界の知識などを教えてやろう。……代わりに、主には客分として儂の元でたまに働いて貰うこととして……普段は童共の相手でもしてもらおうかのう。良いか?」

「――はい。それでは、よろしくお願いします、信姫様」

 

 信姫がハズレに手を差し出した。

 今度は手を引くためのものではないそれを、固く握り返す。

 見た目にそぐわない硬い感触と力強さに、ハズレは思わず頬を緩めた。

 

【クエスト【羽宮家の客分――羽宮信姫 難易度:五】が発生しました】

【クエスト詳細はクエスト画面をご確認ください】

 

「あ、これちゃんとクエスト扱いになるんですね」

「難易度無駄に高いのがなんか癪じゃな。つーか、これ"くえすとくりあ”とかあるんかのう」

 

 ――とまぁ、そんな奇妙な成り行きを経て、僕は客分として羽宮家に身を置くこととなった。そこで子供たちと出会い、仲を深め、彼らと共に鍛錬を積み、今に至るというわけだ。

 

 

 

 

 

 

「くははははは!!!脆い脆い!!多少は見違えたようだが、儂には未だ遠く及ばずよぉ!!」

 

「ぐえー」「くそーまた負けたー!」「姫さま大人気なーい」「特典武具は反則でよくなーい?」「一撃も与えられなかった……くっ……」「あー!!やってらんねぇよやっぱ」「……つよい」「くやしいーー!!」

 

「……ふっ……ぅ……」

 

 模擬試合を初めて、数分後。

 屋敷の庭で子供たちは傷だらけの疲れきった様子でその場に座り込み、男――ハズレも膝を着いていた。

 対照的に信姫は傷どころか汚れ一つない姿で腕を組み、自らの勝利を誇っていた。

 

「……ま、童らはともかく、お主はまだレベルも死ぬほど低いし、むしろよく頑張った方じゃろう。どうやら、刀の扱いは"ばっちし”のようじゃな。無論、極めたとは言うまいが…それこそ亜竜以下のモンスターにやられるようなことはないじゃろ」

 

 相も変わらず座り込んでいるハズレに近寄って、信姫は手を差し伸べた。

 ハズレはその手を掴んで立ち上がりながら、恥ずかしげに頬をかいた。

 

「ありがとうございます、信姫様。みんなが指導してくれたおかげです」

「そうだそうだー!」「感謝しろー!」「あ、こら。…ま、兄ちゃんもいっぱい頑張ってたしな」「感謝されて嫌な気持ちにはならないけどね」「私たちにとっても割といい経験だったしねー」「……うん。面白かったし」「結構たのしかったよー!」

 

「うむうむ!ここ数日で、童共とも随分と仲良くなったもんじゃのう。彼奴等にも良い経験になったようで何より何より。これなら、兄上や父上も悪いようには言うまい」

 

 騒ぎ立てる子供たちを撫でながら、信姫は満足気に頷いた。

 

「……お二人にはご迷惑をおかけしています」

「ふん。迷惑など…あの二人は警戒心が無駄に高すぎる。武家の長であるというなら、もっと器をデカくだな……いや、これ以上は過ぎた発言か。忘れよ」

 

 短く話を切り上げ、信姫は返答を待たずに背を向けた。

 

「この後、ちと用事があったことを思い出した。……儂は行く。鉄砲の指南はまた後日な」

「姫様帰っちゃうの?」「さよなら!」「勝ち逃げなんてずるいぞー!」「お気を付けてー!」「じゃあなー」「……さよなら」「ばいばーい!!」

 

 ヒラヒラと手のひらを動かしながら去っていく背中を、子供たちが手を振って見送る。

 その背を見送ってから、ハズレが息を整えて立ち上がり、再び刀を握った。

 

「……さて。じゃあ、僕らは鍛錬を続けようか」 

「お、兄ちゃん元気ー」「私たちはもうヘロヘロだけどねー!」「そうか?俺は付き合うぞ!鉄砲の代わりに弓を教えてやる!」「いーや!それなら俺が銃教えてやんぞ!」「なに?」「やんのか?」「喧嘩しないでよー」「……つかれた」「おれもー!」

 

「それじゃあ、折角だから二人に付き合ってもらおうかな。みんなは中で見てて」

 

「えー動けないよー」「抱っこしてー」「甘えんじゃねぇ」「うるせー」

「はいはい」

 

 座り込んだまま腕を広げる子供たちを一斉にに抱き抱えて縁側まで運ぶ。

 現実ならたとえ子供だろうと何人も抱えるなんて到底無理だが、<Infinite Dendrogram>(ここ)ではまるで羽のように軽く感じた。

 楽しそうに笑う子達を下ろして、鍛錬に付き合ってくれるという二人の元に向かった。

 

 これが、ハズレの送る<Infinite Dendrogram>内での日常。

 彼にとっての、もう一つの現実(リアル)だった。

 

 

To be continued.

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